第1章 ガーランドを追って
シェナンディは唸った。
「どの領国も禁忌破りは容赦せん。私刑で殺すのを厭わぬ連中もいる。お前を許すつもりはないが、死ねとは言わん」
彼は椅子に腰を下ろし、首を振った。
「お前が死ぬと、マヤルカはこの世で唯一の同じ不幸を背負った者を失う。それはもっと辛かろう。お前は彼女に手紙を送り、支えになってくれ。私の願いはそれだけだ」
マヤルカが食堂に飛び込んだ。
「お父さま!私もガーランドへ行きます。カレナードと行くわ!止めないで!お姉さまも反対したって無駄よ。軌道列車の切符を手配して!カレナードの分もよ」
シェナンディとカレナードが同時に言った。
「完了祭のように招待されるのとは訳が違うぞ」
「駄目です、マヤルカさんは待ってて下さい」
マヤルカは仁王立ちになって叫んだ。
「このままの一生なんて死んでも嫌よ!男になって花婿になって嫁さん抱いて父親になるなんてっ。死んでも嫌あっ!」
「マヤルカったら人生設計を早まらないで」
「お姉さま!私は絶対にスカートを履き続けるわ!」
彼女は棚から野営用の道具を出しながら、荷物をリストアップした。
「カレナード、自転車が要るわ。最新式の折りたたみ型を二台用意して。お父さま、カレナードに冬服を出して。それから靴よ、彼はブーツを持ってないの。毛皮帽と手袋もお願い。お姉さま、私のお金を全部手形に換えて!どこの領国でも使えるように。そうだわ、銃も貸して」
「いけません、マヤルカお嬢さん!」
マヤルカは彼の頬を殴った。
「約束して、カレナード。私たちは元に戻るまで一緒よ!逃げたら見つけ出して殺すからね」
マヤルカの怒りがカレナードの胸を刺した。
シェナンディは「全くお前という娘は」と顔を両手で覆ったが、いきなり立ち上がって笑い出した。
「姉も妹も!全く、うちの娘ときたら!カレナードと行きたければ、行きなさい。ただし、期限は三ヶ月だ。目的を果たせなかったら諦めるんだ。いいな」
「あら、三ヶ月も!やってみせるわ、ガーランドに乗り込んでみせる!必ずね!」
フロリヤはかつて添い伏し前と同じ表情をしていた。
「お父さまはやるだけやらせる賭けに出たわ。命だけは守ってちょうだい、カレナード」
夜半、フロリヤの車が軌道列車の荷役駐車場に入った。
「郵便貨物の車両に入って。ガーランドは次の調停でカローニャ領国オーサ市に向かってるわ」
列車が動き出すとマヤルカは窓から手をふった。
「朗報を待ってて。お父さまをお願いね」
カレナードは列車の揺れに身を任せた。郵便袋に埋もれても、なかなか眠れなかった。無理やり目を閉じると、父の遺体を前にして女王が見せた厳しい眼が浮かんだ。
「マリラさま、どうかマヤルカ・シェナンディと僕に御慈悲を」
翌朝、二人は街道バスの発着駅で降りた。
「オーサ市の調停開始式は早くて新年の10日のようです。まだ3週間ある。その間にガーランドは山を越えます」
「もうすぐ冬至祭よ。ガーランドも冬至を祝うなら、どこかでカボチャ菓子をたくさん買うかも。どうしたの、カレナード」
「む、胸が痛くて」
「ここを発つ前に古着屋へ行くわ。胸を巻いた方がいい」
「え?」
「成長痛よ。薄手のコルセットがいいかも。女としてそういうのはきちんとしたいの」
冬至祭の翌日、パラマリヌ山麓の外れ屋敷から野菜搬入業者をガーランドに先導するトラックが出た。荷台のテント資材の隙間で、二人は息を殺していた。