第6章 仕事熱心なワイズ・フール
大騒ぎは続き、夏至祭のメインイベントは収集がつかなかった。マリラは自分が動くしかないと判断し、道化からマイクをひったくった。
「我がヴィザーツたちよ、静まれ。これは他愛ない事故である!」
女王の声にヴィザーツたちの騒ぎは次第に小さくなった。マリラは夏至祭であることを強調した。声はいつもの女王だ。
「ちょっとした事故だ。祭り中であれば、罪科は問わぬ。そうであろう、ヴィザーツたちよ。幸い、私は何ともない。長めの接吻で少々唇が痺れているがな」
忍び笑いと安堵の溜息が漏れた。
「優勝者の無礼にちなみ、今より早速無礼講とするがよい。賞金の1000ドルガはしばらく艦長殿にお預けだ、よいな、レブラント訓練生!」
カレナードは舞台の床に三つ指をついて、神妙に頭を下げた。マリラは彼を立たせ、道化に向かって大げさに言った。
「のう、ワイズ・フール。若い男はいいものよ!」
ヴィザーツたちはあちこちで噴き出した。
マリラは小首を傾げて、カレナードを道化の方へ押し出した。それは合図だ。
すかさず道化は新参代表を軽くいじめるために、彼と腕を組んで無理やり舞台の前に出た。
「確かに若い男はいいものです。途方もなくバカをやってくれますからね。馬鹿馬鹿、ウマシカでございますよ。それ、皆さん、手拍子を!バーカ、バーカ、ウマシカァ~!」
道化の音頭にのって、舞台脇に控えていた道化配下の女たちが賑やかに登場し、カレナードを囃し立てた。観衆もそれに乗った。
道化は実に仕事熱心だった。今ここでカレナードを皆で笑い飛ばしておけば、心置きなく無礼講を楽しめるというものだ。
「バーカ、バーカ、ウマッシカ~!」
カレナードは華やかな衣装を着けた女たちに追い立てられ、扇子で叩かれながら舞台中を逃げ回った。道化は彼に抱きついて「罰でございます!」と叫んでは、何度も頬にキスした。カレナードが必死で抵抗すればするほど、ワイズ・フールは彼に飛びついた。そのたびにヴィザーツたちは笑い転げた。
マイヨールさえ「可哀そうなカレナード」と言いつつ、笑っていた。
エーリフは羨ましそうだ。
「役得だな、ワイズ・フールめ」
マヤルカはひどく悲しくなってそれ以上見ていられず、さっさと裏方の持ち場へ行った。
カレナードはほうほうの体で軍楽団のボックス脇でひっくり返った。それをキリアンが起こし、舞台から助け出した。 道化は「退場!」と叫んだ。
「キリアン、君も笑っているんだな」
「そりゃそうさ、お前は落差が激しいぞ。やる時はやるのに失敗する時も派手だ」
「僕は我を忘れていたんだ」
「ま、お祭りだからな」
カレナードは自分の祝祭はすべて終わったと思った。艦長の激しいレッスンも踊り比べの熱い充実感も、小さな塊になって胸の奥へ消えていった。あとはテントの奥に引っ込んで、祭りの御馳走を提供する役目に徹しようと思った。しばらくマリラの顔をまともに見られそうになかった。
「僕はなぜ、あのようなことを」
軍楽団は休憩に入り、道化と配下の女たちは早速無礼講にふさわしい曲を演奏し始めた。
奇妙な太鼓の音と間の抜けた金管楽器が踊り比べの余韻を消していき、観衆は腹ごしらえのために移動する者と、舞台に上がって道化たちとふざけて踊る者、そこかしこで休憩する者に分かれていった。審査団の面々も、それぞれの楽しみの場へと散った。
テントでは新参男子一団がカレナードを胴上げした。
「ばーか、ばーか、カレナード!」
カレナードは叫んだ。
「皆、勘弁してくれよ!僕が悪かった、許してくれ!」
彼らはドッと笑い、彼を降ろした。ナサールが厭らしく訊いた。
「マリラさまの唇はどんな味だったか、教えてくれ!」
「柔らかかったこと以外は無我夢中で覚えてないッ。残念だッ」
周りは「こいつは本物のバカ男だ」「アホだ」「ぶっ飛び過ぎだ」と嬉しそうに騒いだ。
ミシコが口を滑らした。
「賞金はどうなるんだ、カレナード」
「ほとぼりが冷めたら、艦長に交渉してくる。皆にお礼をしなくちゃ、この1ヶ月半はとても気を遣ってもらった。最後まで踊れたのは、皆のおかげだ」
アレクが「よく言ったぞ、カレナード」と拍手した。彼らは優勝者に拍手を贈ると、それぞれの仕事に急いだ。
急ぎながら、カレナードを胴上げした時の彼の体の感触を思い出した。彼らはカレナードの軽く柔らかい女の体の奥のとんでもない底力を知り、新参の誇りとした。




