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第6章 第9曲の番狂わせ

「艦長殿には義理を果たしましたから、許していただきましょう。それにワタクシ、極秘任務ですぐに発たねばなりません。ヒロのことだから、きっと新作のパイロットスーツを出してくるでしょうネ」


 いよいよ第9曲をわずか4組で挑むことになった。曲はワルツだが、ただのワルツでない。中間部でテンポが変調し、ワルツのステップからいきなり違う踊りに変わるのだ。そこには男性が跳躍した女性を受け止め、そのまま数回転する技があった。カレナードはリハーサルのあとマリラと練習したあの感覚を確かめた。エーリフから受けた注意を思い出していた。

「勝とうと思って勝てるものではないぞ。一曲一曲が勝負であり、集中力がすべてだ。雑念が入る余地を作るな。そして冷静に踊りたまえ。闘争心に満ちたワルツは醜いものだからね」

 カレナードは舞台中央を見て、呼吸を整えた。

「艦長、教えて下さったことはすべてやり遂げます」

よく伸びた彼の背中にマリラの声がした。

「広い舞台になったな」

「そうですね、ちょっと寂しい気がします」

「舞台を去った者の分も踊ろう、思い切り美しく」


 2人は他の組と並んだ。2人の重心は深く落ちすぎないよう細心のコントロールで支えられた。テンポが変わった後、カレナードは跳んだマリラを受け止めた。彼女の胸が彼の目の前にあり、右腕でマリラの左腋を、左手でマリラの太腿を支え、体全体で2人分の動きを支えた。夢中だった。

 練習でエーリフの巨体に押し潰されそうになった。キリアンを何度床に落としたか分からないほどだ。コツを掴んだのは、わずか1週間前だった。

 彼はマリラを抱いたまま、3回転してみせた。女王が着地した時、リンザが床に尻餅をついて呆然としていた。とんだ番狂わせが起きていた。


 トペンプーラは申し訳なさそうにリンザに手を差し伸べた。リンザとトペンプーラだけではなかった。連鎖反応のように、ベル・チャンダルとアカリ・セナーテもパートナーの手から滑り落ちていた。彼らは大急ぎで曲の途中から演舞を続行した。

 トペンプーラはわざとリンザを落としたのではなかった。彼は跳躍したリンザの美しいフォームを目にした一瞬、ヒロお薦めのスーツで飛ぶ夜空に思いを馳せた。それが2人のタイミングを狂わせた。

 リンザは周りの失敗に気をそがれずに踊り終えた女王組を哀しそうに見た。

「ワタクシ、踏ん張りが足りませんでした。心の踏ん張りが」

「ジルー、言い訳はよして下さいね。この落とし前、いつかつけていただくわ!」

「分かりました、いつか、ネ」

トペンプーラは自分でも予想外の結末に頭を掻いた。


 審査団の旗がひらめく中、道化がマイク片手に舞台中央を占領していた。

 彼は舞台を降りる前に整列した3組の男性陣を扇子で叩いて回った。

「なんということでしょう、皆さまッ!

 あれよあれよのドミノ倒し!まさに華麗なる転倒。どうした男たち!根性はどこ行ったんですか!中でも情報部副長殿は何ですかー、それでも特別招待ダンサーですかー」

 道化は嫌がるトペンプーラの顔に自分の頬を摺り寄せて、この時とばかりに晒し者にした。

「ゆで卵をパートナーにしたリンザ嬢はお気の毒!スミレの如きチャンダル嬢も、香り高き百合のようなセナーテ嬢ともここでお別れにございまする。ヴィザーツの皆さまッ!盛大な拍手をお贈りくだされ!」

 道化が得意の煽り文句を並べている間にマリラは衣装の裾を再びたくし上げた。アライアは「これでようございますよ」と微笑んだ。


 道化は最後の口上を述べたてた。

「まさかこのような展開になるとは、審査団の方々も想定外でございましょう。

 さてもルール通りに行くならば、最後は女王陛下と新参代表の一騎打ちとあいなります。この第10曲、ご周知のとおり女性のソロと男性のソロがございまして、競い合うにはまことにふさわしいラストダンス!

 栄えある優勝はどちらの手になるか。賞金の1000ドルガの行方は。そして、男性優勝者には女王のお手にキスするおまけが付いてくる。

 さあ、ヴィザーツの皆さまッ!泣いても笑っても最後の演舞でございます。とくとご覧あれ!最後の一番、大勝負にございまするッ!」

 観衆はどよめきながら、第10曲が始まるのを待った。道化が大仰にお辞儀して、舞台を明け渡すと、奥から女王とカレナードが走り出た。ヴィザーツが少々驚いたことに、2人は腕を広げながら出て来て、手を繋いだ。そのまま、観衆に向かって会釈した。


 マリラが言った。

「とうとう最後の曲になった。そなたとこのような形で競うことになるとは思わなかったが、踊り切ってみせよ」

彼女はやる気だった。しかもこの状況を楽しんでいた。カレナードは女王の心に添うた。

「手加減なしでまいります」

「そうしておくれ」

マリラは満足気に頷いた。カレナードが「では」と言って位置につこうとすると、マリラは彼に握手を求めた。2人は勝負を前に握手した。舞台前の斜面から手拍手が起こった。

「オンヴォーグ!マ・リ・ラ!

オンヴォーグ!カレナード!」

 軍楽団の指揮棒が上がると、会場は水を打ったように静かになった。

 エーリフは鷹のような目で舞台を眺めた。

「さて、マリラさまの真骨頂がでますかな」

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