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第6章 女王の脚が高く伸びて

 第4曲は、アナザーアメリカの詠唱曲をまとめたことで有名な詠唱師にして呪術師を称える歌を基にしていた。有名な曲だが、振付けられた踊りは前衛的廻り踊り、またトランス寸前舞踏と言われていた。特徴は微妙にずれていく拍子にあった。失格の要因だ。

 カレナードは年に4度、オルシニバレ市の例祭でこの曲を聴き、詠い、10歳から踊ってきた。夏至祭の振りは洗練された振りでも、拍子をずらすタイミングは気持ち良く体が覚え込んでいた。踊り手達は大きな円を描いて一列に並び、上体を前に倒して進む。拍が変わるところでパートナーと両手を繋いで円は二列になる。跳ぶように大きな歩で進んだかと思うと、また一列に戻り、さらに拍が変わる。これを繰り返すうちに恍惚となる失神者が出るのが地上の例祭で、ヴィザーツの踊り比べでは失格者を出すのだ。

 マリラとカレナードはこれを難なく踊った。特にマリラは二列に変化するさい、カレナードのさりげないリードに気持ち良く乗った。それが二人を力強く、かつ優雅に見せた。

 衣装の裾が揺れて舞う軌跡がそれを強調した。

 ヤルヴィの予想通り、この踊りで失格者が4組出た。変拍子に惑わされたパートナーにつまづいた男と、二列から一列に戻るタイミングを誤った組が舞台から消えた。

 アレクが5月の選抜練習を思い出していた。

「ここから先は真剣勝負になるなぁ」

ナサールは、束の間自分の仕事を忘れて楽しそうだ」

「それがいいのさ。手に汗握る瞬間がたまらないんだ」

「カレナードは大丈夫なんだろうな。お祭り男」

「アレク。あいつの度胸は筋金入りで、心臓には毛が生えている、たぶんな」

 舞台の脇では出場者が汗を拭き、次に備えた。キリアンは余計なことは言わずに、カレナードに塩レモン水の水筒を渡した。隣でマリラが髪留めを付け直していた。

「アライア、もう少ししっかり留めておくれ。ああ、それでいい。ありがとう」

 女王の額に汗が光った。カレナードはそれを美しい輝きと認めた。彼女の祭り衣装は形こそ他の女性と変わらないが、袖口と襟と裾には特別な刺繍があった。赤と銀糸で植物文様がうねり、浮き船ガーランドの船主にふさわしい荘厳があった。飾り帯は銀色でこれも幾何学模様に花が絡んでいた。

 時々マリラとカレナードは互いを見ていた。言葉はなかったが、4曲を踊り終えた達成感とこれからのエネルギーを交わしているのだ。キリアンはその邪魔をしないように、エールを込めた手の平でカレナードの背中を押した。

 カレナードは少し振り返り、マリラに向けるのと同じ信頼のまなざしをキリアンに送った。


 エーリフは団長席で自らレッスンをつけた代表者たちに満足していた。

「ふっふっふ、ハイレベルな戦いになるぞ。私の弟子以外にも猛者はいるようだが、マリラさまは絶好調であられるし、リンザは負ける気がしないだろう。あとは情報部のゆで卵に任せて、私は公平に審判を務めさせてもらおう。さて」

 審判員席にヨデラハンとマイヨールがいた。

「あなたの教え子は見ごたえがありますな、マイヨール教授」

「そうでしょう、女王より背が低いのにそれを感じさせないわ。10ヶ月訓練生の方もなかなかいいわ」

「ところで歴史学的に見て、ここ数年のアナザーアメリカは変動期にあると考えますか」

「参謀室長、あなたがこの席でそれを口にするとは、どういうこと」

「教授。私に欠けているものがあるとすれば、それは歴史的視野です。日頃あなたとゆっくりお話しする機会がありませんでしたからね」

 ヨデラハンの精悍な禿頭に似合わぬ柔和な物腰だった。マイヨールは一言「大きな変動期であることは間違いない」と言った。

「ヨデラハン、明日の後夜祭の前に時間があるなら私見を述べさせていただくわ」

「かたじけない。では審査に戻りましょう」

 ミンシャはマヤルカが舞台に向かって「集中力!集中力!」と念を送り続けているのに気づいた。

「私のカレナード!お役目を果たすのよ!」


 第5曲は中央ミセンキッタの荘重な宮廷舞踊を基にしていた。男女が体の前で両手を組み、互いに脚を大きく相手の前に出しては睨み合う。男と女が体を張って争うような振りが特徴だった。片脚を大きく振り上げるさい、相手の脚にぶつければ失格間違いなしの難曲だけに、見物のヴィザーツたちは審判の旗が揚がるたびに大騒ぎした。

 大騒ぎのもとは他にもあった。滅多にみることのない女王の脚が衣装の下から現れるのだ。脚は太腿まで見えるほど大きく上がり、高さはカレナードの肩まであった。薄いタイツに包まれているとはいえ、この大胆な踊りで、彼女の脚の形はヴィザーツたちの記憶に刻まれた。

 カレナードはすぐさまマリラに合わせた。脚を上げる方向とタイミングを寸分の間違いなくやってのけた。彼の脚先もまたマリラの肩まで上がった。それは観衆には男気の現れとして大歓迎された。

「いいぞ、もっとやれ!」

「新参のひよッコ!女王に負けるな!」

「おみ足!おみ足!マリラさまのおみ足!」

曲が終わり大きな拍手が鳴った。さらに組は減って、15組になった。

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