第6章 踊り比べ、第3曲
カレナードはキリアンに無言でうなずき、マリラと並んで立った。彼女は「さあ、行こう」と声をかけ、信頼のまなざしを向けた。
舞台の脇を緊張感が走った。
第1曲の出だしのスネアがタンタ・タンタ・タタタタンと鳴り響いた。薄暗い舞台に50人の白い祭り衣装が躍り出た。ファンファーレ替わりの地を這うような金管の重低音が崖を伝って広がった。
踊り手たちの白い影が舞台の奥で一列に並んでいた。行進曲が始まり、ライトが踊り手の背後から点いた。影は舞台に長く尾を引き、その形は白と黒とわずかにオレンジ色を含んで揺れ動いた。
中央の18名が奥から観客に向かってステップを踏みながら進み出た。ついで上手の16名、さらに下手から16名が進み出た。その間に次々とライトが点き、すべての踊り手が明らかになった。
リリィとウマルは少し高い斜面に座っていた。ウマルは感心していた。
「さすがエーリフ艦長は粋なことがお得意だ」
「凝った演出ね。女王を真ん中に置かないで、わざと下手の端っこで登場させるなんて。おかげでよく分かるわ。飾り帯が銀色だもの」
「寒くないか」
「私の気遣いしてないで、あなたも楽しみなさいよ」
「例の彼は堂々とやっているなぁ」
ウマルは彼女の視線が舞台の上の女王とそのパートナーに釘付けなのを承知していて、わざと言ったのだ。リリィはそっぽを向いた。
女子Y班は審査団のすぐ上の斜面にいた。オーレリがつぶやいた。
「リンザ・レクトーったら、くじ運がいいのね。お相手の情報部副長はタダモノじゃないわ。あの2人、最後まで残りそう。カレナードは大丈夫かしら」
マヤルカは余裕たっぷりだった。
「私のカレナードですもの。艦長のむちゃ振りに喰い付いていっただけのことはあるわ。リンザに負けやしません」
第2曲が演奏されていた。この愛らしい曲はアナザーアメリカ北部に広く伝わる民謡だ。舞台上では曲に負けないくらい愛らしく振付された踊りが続いていた。ヴィザーツたちは女王が頬に手を添えて体を傾け、首をかしげるポーズに大喜びした。可愛らしい女王などついぞ見たことがなかったからだ。
女性ダンサーがそのポーズを取っている時、男性ダンサーは左手を腰に当て、右腕を頭の後ろに曲げて相手と視線を交わす。
アライアは悪戯っぽい少女のようなマリラの瞳に驚いた。
「マリラさまったら、なんてノリがいいのかしら」
キリアンはそれがマリラの演技とは思えなかった。女王が隠している一面に違いないと若い彼は思った。
「あの2人、息がぴったりだ。それにどこか初々しい。どこなんだ?」
第3曲はとことん古風な旋律を持つミセンキッタ領国の古謡だ。踊りは素朴で大人しいだけに、踊り手の上手と下手がもろに現れる落とし穴を構えていた。
男子V班は多くの新参男子達と一群を作り、舞台のすぐ近くにいた。ミシコはシャルに訊いてみた。
「あの中の優勝候補が分かるか」
「そうだな、リンザ&トペンプーラ組はまず間違いない。我らがカレナードも。それから甲板材料部のヤンヤン嬢と管制部のジャン・バレの組、艦橋セクションのアカリ女史と機関技術部のラジアンさ。
あとは微妙だけど、10ヶ月訓練生のソカンリちゃんと警備隊航空セクションの美形。
女王区画のチャンダル女官と兵站セクションのヤオセル殿」
ミシコはシャルの判断基準を尋ねた。
「うふふ、俺の直感がそう言うのよ」
「お前はパッと見て分かるから、そう言うんだ。僕に分かるようにお前が踊り手の何に注目してるか、説明してくれ」
「俺はまず腕の遣い方を見るんだ。張りがあって柔らかくて確実に空間を作る腕を持っている奴は総じて上手い。それと指先までコントロールしてる強さだ。次に背中だな。上体をよく遣うなら背中の表情が美しいはずさ」
「お前、難しいところを見てるな」
「まだあるぜ。脚の運びが汚いと台なしだ。それでもって音楽に乗ってなきゃ。班長は一緒に練習していたくせに、どこを見てたんだい」
「それを言うなよ、シャル先生」
「簡単な振りの踊りにも間ってものがある。女王&紋章人組は膝を柔らかく使っていて、踊りの雰囲気が好いんだ。それにマリラさまはアクセントを入れるのが上手い。俺、ファンになりそう」
シャルは再びうっとり舞台に目を向けた。第3曲が終わった。審査団から失格の旗はまだ一度も上がっていない。
演奏席のヤルヴィは第4曲の譜面をめくった。
「失格者が出始める頃かな」
第1曲のイメージは建部知弘編曲「ケルト民謡による組曲」の冒頭からお借りしました。第2曲はスラブ系、第3曲は南仏の舞曲を元に振付しました。




