移動
俺は自席に着いて、ふと考えていた。
さっきの課長に詰め寄った千葉に何か違和感があった。一体何が…?
そう思いながら、千葉の動きを注意深く観察していた。
「五十嵐ぃ、ちょっと来いや。」
くそっ、課長に呼ばれてしまった。
「これ、もう一回提出し直せ。」
あれ?いつもなら、ここで暴言の一つや二つ吐かれてもおかしくないのに。
「返事は?」
「あ、はい。」
余計な一言がない。さては、さっきの千葉の注意が効いているのか?
俺は自席に戻り、再び千葉を観察し始めた。1cm浮いてるくらいで、あとは別に変った様子はないな。まあ、1cm浮いてる段階ですでに変わっているけど。
俺の視線に気付いた千葉が近付いてきた。
「ねえ、五十嵐君。ちょっと話せる?」
クッソ爽やかにそう声を掛けられたらシカトは出来ねえ。
千葉と連れ立って出て行く俺のことをクソ課長が睨んでいた。
「五十嵐君さー、浮いてるよね。」
唐突に千葉に言われ俺は焦った。
「何でそれを?」
「しかもまだ、浮いたばかりだよね?」
俺は黙って千葉から視線を外した。
「歩きにくいでしょ。俺も結構慣れるの苦労したよ。」
千葉は爽やかな笑顔でこう続けた。
「瞬間移動はまだ出来ないの?」
そうか!千葉に違和感を感じたのはそこだ。
「俺は…」
と顔を伏せて答えなかった。答えずに試してみた。
瞬間移動、瞬間移動。
すると、頭の中で『ブーーーーッ』とブザー音がした。
あ、これ出来ない時のお知らせブザーなんだな。
「俺は出来ない。」
千葉はこれ以上ないさわやかな笑顔で俺に
「じゃあ、次は瞬間移動だね。」
と笑いながら行ってしまった。
この使えもしない変な超能力、まだ増えるのか…
俺はこの時、千葉の遠ざかっていく浮いてる姿を見ながらぼーっと考えていた。
翌朝、起き抜けにベッドから降りずに移動してみようと試みた。
瞬間移動、瞬間移動。
すると、俺の意思とは無関係にベッドから降り始めた。ただし、瞬間ではなく、エラくゆっくりだ。
「なんだよ。これじゃあ、自分で移動した方が早いじゃないか。」
まだ、移動し終わらない。俺はトイレに行きたいんだよ。
やっとベッドから1~2歩の所に到着した。到着といっても相変わらず5mm浮いているけど。
「トイレ、トイレ…。」
俺はこの使えない超能力とどう付き合っていくのが正しいのか考えていた。
次回の更新も未定です。すみません。




