浮遊
次の日の朝、俺は何だか不思議な気分で目が覚めた。
目覚ましが鳴る3分前だった。この不思議な感覚は何だろうと思いながらベッドから降りようと足を出す。
「あれ?なんか床の感覚がない。」
立ち上がろうとしても、足の裏が床につかない。
「なんだよ、これ?」
ふと気付くと、腰かけているベッドから尻も若干浮いている。
「俺、飛ぶことが出来るようになったのか?」
早速、ヒーローのように空を飛ぶ事を試してみようと立ち上がる。
が、初めてスケートをした人のように転び出てしまってすっ転んだ。
「立ち上がれねぇ。けど、転んでも痛くない。」
しばらくこの変な浮遊と格闘してやっと立ち上がり、ジャンプしてみた。
「上手く床を蹴れないな。」
10回ほどジャンプを試みて、空中で水平になるポーズが取れた。取れはしたが、床から5mmの高さだった。おまけに、その場からピクリとも動かない。スー〇-マンのように、水平をキープして移動できないのだ。
「なんだよ。クソだな。」
俺は諦めて、今日も会社に向かうことにした。
歩きにくい。いつもなら歩いて駅まで15分の所、倍はかかった。みんなが振り返って俺の変な歩き方を見てるし。
当然、遅刻だ。でも俺の中では正当な理由がある。これを理由として課長に言ったところで信じてはもらえないし、言っていい物かどうか分からない。とりあえず「すいません。具合が悪くて。」と言い訳した。
課長は俺の方を見もせずに「はぁん。給料泥棒が何か言ってやがる。」って言いやがった。
俺は自分のデスクについたが、椅子から尻が5mm浮いている。デスクに肘をつこうと思ったけど、肘もつけられない。書類を書くのにも苦労した。
でもなぜかペンは持てるし、キーボードも打てる。
そうか、重心をかけないものには触れるんだな。そう気づいて足に重心をかけてデスクに肘をついた。
「肘つけた。やっぱりそうか。」
こんなことを解明した所で、まだ何も解決していないんだが。
昼休憩の時間、俺はなんとか普通の歩き方を装い、外に出る。
「会社から一番近い立ち食い蕎麦屋に行くか。」
と、道路を挟んで斜向かいの蕎麦屋まで歩いた。
店で食券を買い、5mm浮いて立ったまま蕎麦をすする。
「あれ?奥にいるのは千葉か?」
千葉祐樹は同期入社で営業1課のエースでありながら、背の高いイケメンという嫌味なヤツだ。俺とは正反対の人種で、とにかく女にモテやがる。メンドくさいので、気付かない振りで引き続き蕎麦をすする。
「五十嵐君。」
やべ、気付かれた。
蕎麦を食べ終わった千葉が笑顔で話しかけてきた。
「おう、千葉君。元気?」
「今日、外回り多くてさ。あまり時間なくて。ここならすぐだし。」
同期のエース様は忙しいアピールしてやがる。立ち食い蕎麦屋をバカにしてんのか?
「俺は、ここで食う事多いよ。旨いし、安いし。」
「そうなんだ。じゃあまた。」
話がないなら話しかけるな。と思いながら店から出て行く千葉を見送った。
ん?あれ?千葉も浮いてね?
靴底が地面に付いてない。もしかして、あいつも…
不定期更新ですが、亀の歩みで更新します。すいません。




