見覚えのある初めまして
キリ悪かったんでやっぱ投稿します。
「キミの席ここだよ。どうかした?」
「え、ああごめんなさい」
扉の前で呆然と立ち尽くしていた私に彼は声をかける。慌てて自分の席まで歩くが彼の顔から目を離すことはできなかった。
「どうかした?オレの顔に何かついてるの?」
「え!いや、そういうことじゃなくて…」
何でだろう?彼とは初めて会うはずなのに、記憶を振り返っても会ったことがないのに、
なぜかこんなにも懐かしく思ってしまう。
そんな空気を破ったのは前の扉から入ってきた1人の女性だった。教師?見たことない人だけれどとても綺麗な人だ。
「それではホームルームを始める。早瀬、お前は今日からSクラスだったな」
「あ、はい!」
「そうか。私の名前は白川紗枝だ。3人と違って島外から来た者がSクラスに上がったのは初めてだった。さぞ優秀なんだろうな。これからも励むように。それではSクラスの概要を説明する」
担任の先生からの挨拶と激励をもらい遂に詳細の分からなかったSクラスの全貌を知る時が来た。概要の説明、ただそれだけなのに首から一筋の汗が流れ落ちる。
「主に四つある。一つ目はSクラスの詳細はクラスメイトである3人とSクラス専用教師である私含め4人以外には口外してはならない。この掟は絶対だ。破ってしまったら降格どころでは済まないからな」
ここで一つの発見。今までSクラスが謎に包まれていたのはこの為だったのか。逆に言えば口外してしまった場合どのようなデメリットがあるのだろうか。
「二つ目、これがSクラス唯一の特権だ。Sクラス在籍の生徒はこの異能都市全域で異能の使用が許可される。主な理由としては異能を駆使した犯罪から市民を守り、犯人を捕まえるということだ。強制ではないがその権限が与えられる。万が一犯罪に加担した場合は……分かっているな」
「は、はい」
威圧を含めたその声に恐怖を抱きながら私は姿勢を直す。最後の一つ、一体どんな規則が待っているのだろうか。
「なら三つ目だ。と言っても月曜日から金曜日までの時間割だけどな」
「じ、時間割?ああ、クラスが変わったから新しいものになるんですか?」
「そういうことだ。少しばかり特殊だが時間をかけて慣れてくれ」
そう言って白川先生から時間割が書かれているであろうプリントを配られる。一体どんな過酷な時間割なのだろうか?90分授業?それとも夜中いっぱいまで埋まった時間割だろうか?考えても仕方のないことなのでプリントを裏返して確認する。
月〜金曜日
一眼目 自由
二限目 自由
三限目 自由
四限目 自由
五限目 自由
六限目 自由
「…………………………は?」
思わず言葉を失った。月曜日から金曜日まで全ての時間で同じ科目とは流石に予想できなかった。いやそんなこと普通はあり得ないと思うんだけどなぁ。そう言いたい気持ちを抑えて一応先生に確認する。
「あの、この時間割って印刷ミスとかじゃないですよね?」
「勿論だ。ああ自由の意味はそのままだ。何をしてでもいい。寝ても起きてもいいし、ご飯を食べたりしゃべったり、学校を出て遊んだりしてもいいぞ?あとはこの学校の地下にある施設を使ってもいい。何もしなくても毎年皆勤賞の表彰が貰えるぞ?あ、でも当番制の仕事があるからそれだけは出てくれ」
「あ…………はい」
なんかもう私がおかしいみたいな雰囲気に少しばかり疲れてきた。さらにこの教室にはこの世界の象徴の石板がない。それが帰って私を狂わせているのかもしれない.....
「四つ目は見た通りわかるがこのクラスには創始者の石板がない通常のクラスは登校したあと創始者の石板に一礼するのが決まりだがSクラスではその行為は禁止、そして以降創始者を支持するアダム教を信仰することを高く禁ずる」
「な、何でですか?アダム教は全世界の始まりのお方であり我らの全員の父です。彼を信仰してない国などありません」
「これには深い理由があってな.....話すのは面倒だからまた今度にする」
「納得できません」
「できなくても禁ずる。これは絶対だ」
クラスが静まり返る。といっても今この教室には4人しかいないわけだが......
「ではまずは自己紹介からだ。後一年とはいえこれから共に過ごす仲間として挨拶くらいはしないとな。じゃあまずは早瀬から、それから最上と時崎だ」
「はい。早瀬ひなのです。好きなものは卵料理で休みの日によくレストランを巡っています。Sクラスで分からないことが多いですがこれからよろしくお願いします」
「よろしくね、早瀬さん。次は僕だね。最上大気です。好きなことは異能の調査と遊ぶこと。仲良くしてください。ね、早瀬さん」
「よ、よろしくお願いします」
先程からの態度といいこの子はいい意味で子供っぽいのだろう。親しみやすそうなので私的にはありがたいのだが、問題は次だ。
「時崎カケル。趣味は特にない。よろしく」
だの自己紹介といい先ほどからの陰のオーラといい全く仲良くなれる気がしない。
「時崎、お前はもうちょっと愛想良くならないのか?それとも多くは語らない主義がかっこいいとでも?もしそうならやめておけ。ちょっとイタイぞ」
「先生も分かってるだろ?そんなんじゃないって」
そして教師にもこの態度だ。これはもしかしたら不良と呼ばれる分類の人かもしれない。自身へのリスク回避のためにもあまり近づきたくないのが本音だ。ちょっと待ってこれフラグ.......
「まぁいいか。なら時崎、早瀬に地下を案内してくれ」
過去最速でのフラグ回収にはなったがこれを機に仲良くなれるかもしれない。嫌な顔をしながら教室を後にする彼の背中を追いながら私はエレベーターに乗った。
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「‥‥そういえば時崎くん?」
「どうした?」
たった2人でのエレベーターで、まだ知り合い以上友人以下のオレ達はあまり喋ることがないだろうが彼女は積極的に喋りかけてきた。ただ仲良くなろうと思っている訳ではなさそうだ。何かもっと別の目的がありそうな………
「時崎くん?」
「…悪い。聞いてなかった。もう一度頼む」
「地味にひどい。まぁいいや。このエレベーターって地下室に向かっているんだよね?でも私この学校に地下室があるなんて知らなかったなぁって」
「Sクラス専用ってのが一番の理由だ。オレたちの訓練専用等に作られたものだから衝撃吸収に防音効果、その他諸々の機能がついている」
「なんか凄そうだな。それで広さはどれくらいあるの?」
「それは見てからのお楽しみだ。もう着いたからな」
その言葉と同時にエレベーターのドアが開く。その時の彼女の驚愕の顔は多分この人生で一番のものだろう。
「縦2キロ、横3キロ、高さ約100メートルの地下空間だ。この都市の最新技術によって障害物なども放出可能だ」
「すごい。学校の地下深くにこんな空間があったなんて。ここでどんなことをするの?」
「主には異能の特訓だな。これだけ広いスペースがあれば模擬戦もできる。だが使うのはオレや大気じゃなくてもう1人のやつだ」
もう一人?早瀬は誰のことを言っているのかわからないそうだ。そりゃあったことのない人だからな。
「........フフッ」
説明を省いたなか、ふと彼女は俺にギリギリ聞こえる声量で笑った。吹き出したものを見ると我慢していたのだろうか?
「どうかしたのか?」
「ごめんなさい。さっきの自己紹介の印象と違ってよく喋る方だなぁって。それに何でかな?とっても落ち着くの
まるで昔聞いたことのあるような........」
「…………そうか」
そう返答する彼の声は苦しそうだ。よく見るとボサボサな髪のうち右側が白に色落ちしている。
「!時崎くん?ちょっと大丈夫?」
「すまない。少し体調を崩した。」
彼はそれだけ言って私の前から消えた。辺りを見回しても何処にもいない。もしかしたら彼の能力を使ったのかもしれないけれど、速すぎる。
「もしかして私と......」
そういって止まった。
私と会ったことがあるのか?
答えは私が一番知っている。今まであったことがないのだから。
一人になってしまった私は教室に戻ることにした。