圏外の調査
学園からおよそ30分車を走らせるとみてくるのは白のバリケード、その奥には5年前の残骸が広がっている。圏外と呼ばれるその場所に俺は三人で乗り込んだ。俺とソーマ先輩、そして彼の部下である隊員だ。だがこの広い圏外をこの三人で探すなんて一週間あっても終わるかどうか分からない。もちろんなにか用意しているだろうからソーマ先輩に聞いてみることにした。
「それで、こっからどうやって乗り込むつもりなんだ?」
「ああ、それなら彼を頼ることにした。西川烈、オレの部下だ。今回のタレコミは信憑性のう薄さによってあまり人員を割くことができない。だから無理言ってついてきてもらった」
「先輩が奢ってくれるって言ったからですよ。そんなことしなくても先輩のためならいつでも手伝うって言っているのに....」
そう言ってメガネを掛け直す西川さん。初対面ではないがこうやって人のいない場所で話すのは初めてだ。年齢や異能力のことは知らないが今見た通りソーマ先輩を尊敬していることだけは分かった。だがこれでは根本的な解決にはなっていない。
「それで2人から3人になりましたが以前捜索には時間がかかってしまうのでは?」
「あー、だから烈に頼むんだ。こう見えてコイツは炎城隊の現場情報処理のエースだ。じゃあ、お願いできるか?」
「分かりました」
そう言って西川さんは持っていたメガネを外す。夕日が沈み暗くなったからこそわかったが彼の目が光り出した。間違いなく異能発動の合図だ。
「ソーマさん....この異能は?」
その発動時の独特性からか、大気ではないが好奇心を隠さず聞いてしまった。
「ああ、烈の異能は全てを見透かす目、名前からわかるように眼力強化の異能だ。だが彼のすごいところは遠方の偵察だけでなく熱源や有機物と無機物の区別、近くで見れば脈拍や一部の身体状況まで看破する」
その異能の応用性を聞いた時現場情報処理のエースという情報に納得できた。もし殺人などが起こったとしよう。その時に彼の異能を使えば部屋に残っているわずかな情報でも犯人に辿り着ける可能性が高い。いわば名探偵が持つに相応しい異能だと感じる。褒められた西川さんも嬉しそうに、しかしどこか困ったかのような表情を見せる。
「先輩、褒めてもなんも出ませんよ、それより見つけたんですが....」
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「いやぁ、参ったなぁ」
西川さんの報告を受け、ソーマ先輩は頭を掻く。彼の話だとこの圏外に熱源反応が出たらしい。しかも2箇所に.....。片方は動物の集まりなどで人間ではないんじゃないか?と言う説も出たがそもそもこの島にはそこまで動物がいないし西川さん自身が人間の体温、熱源と確信しているからこそ否定もしづらくなって行った。
「その2箇所の距離は直線でおよそ15キロ...この場合どっちかはハズレと考えた方が良さそうだな」
「そうだな。そして言い方は悪いけど今回はカケルがハズレを引いた方が都合がいい」
その通りだ。理由は単純に機動力、この場に車があるとはいえ機動力だったら俺が異能を使用したほうが何倍も早く移動できる。もし俺がハズレを引いたとしても全力もう一方の地点に行けば5分もかからないだろう。
「なら俺は右の方行くからソーマ先輩は左を頼んだ
第一に圏外に人がいる時点でこの島では立派な重罪、ただちに捉える必要がある。
「ああ、カケル待ってくれ。はいこれ」
ソーマ先輩は手に持っていた二つのうちの一つの物体を俺に向かって投げる。スピードはないため造作もなくキャッチし中を確認する。
「スイッチ?」
「当たりだったら押しちゃってくれ。その信号は俺と烈の端末に送信される。一回だけの場合は当たりかつ1人で対処可能、2回押したら増員要請で頼む」
ソーマ先輩の温かい声が少し場を和ませる。それはこの5年間、周りを信頼し信用された証だろう。そんな彼からしたら少し慎重が過ぎる気がする。
「情報部隊で戦闘がメインじゃない西川さんが苦戦ならまだしもソーマ先輩が苦戦するほどの相手なんてあのリストにいるのか?」
ソーマ先輩の異能『炎の主』は文字通り炎を操る。戦いが激しくなればなるほど周りの炎をも利用して有利に戦場を支配する。多対一の状況でも制圧可能なこの機能は、ある意味最強の異能の一つと言ってもいい。
「うーん、異能の威力だったらまだこっちに分があると思うんだけどなー。Sクラス候補に風間ってやついたじゃん?」
「はい」
資料には目を通してある。確か6人の中でも彼は一番成績に難ありだったはずだ。このSクラスに推薦されるのがおかしいほどに。
実力を隠しているのでは無いかと疑ってしまうほどに....
「実力が未知数ということか?」
「そ。あとは単純に異能的に相性が悪いから少し不安なだけ。かつ相手が実力を隠すなんて真似してたらどうなるか分からない」
この島でも指折りの実力者であるソーマ先輩でも勝てないかもしれない。その不確定な情報は3人を黙らすのに十分だった。そしてその空気を変えたのもソーマ先輩だった。
「ま、確率的には4分の1だし大丈夫。それに万が一ハズレ引いてもタダでやられるほど俺も無力じゃない」
先輩の声は不思議だ。聞いているだけで大丈夫だと思ってしまうほどに落ち着いた声。わずかに早くなっていた鼓動も治ったオレは2人に目配せだけして目的地に急ぐ。走りながら後ろを振り返ると2人もいくつか話した後、ソーマ先輩が出発した。西川さんはおそらく連絡係かつ待機班だろう。何かあればすぐ応援を呼んだりする役目だ。
オレはいつもより異能を強く使った。普段は時間加速を100分の1まで下げて動く。こうすると世界全ての時の動きが100倍遅くなる。オレはその中で常人の100倍の速さで動くことができるが、もちろんデメリットも出現した。身体が痛くなることだ。時間を遅くして筋肉を動かすと肉体は考えられないほどに疲労してしまう。慣れた頃には筋肉痛もなくなったが今でも出力を上げれば筋肉が痛くなる。だからこそ、普段異能は最低限しか使っていなかった。
「全く、めんどくさい体になってしまったな」
オレの独り言はスピードに乗ったオレ自身にかき消された。胸の奥からする嫌な予感というものを消すために、この嫌な予感が外れることを、外れたという安心感を求めて瓦礫の間を駆け抜けた。




