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Chapter 9: The Endless War

勇児がてんびん座を眺めている。

空から、流れ星のような光が流れる。

星のかけらが、勇児の手のひらに落ちた。

「絶え間なく続くストーリーということか。」


里桜と敦子が歩いていると、戦艦紅が敦子を発見する。

「これより、回収する。」

祐右が敦子を出迎える。

「これはまた。谷山たにやま 里桜りおとは。」

里桜が祐右に頭を下げる。

「定められた道ということか。」

茂之が里桜にそう告げた。

「どういうことよ。」と、敦子が茂之を睨みつけた。


勇児が里桜を迎え入れると、混乱する里桜がいた。

「どうして、君がここにいるんだ?」

「驚くのも無理はないな。」

「けど、君はすでに消失した存在のはず。」

「私の願いは、いまだに成就してはいない。だから、ここに魂が残留している。」

勇児が里桜の手を握った。

「こうやって、今一度、君を他者として認識できる。」

勇児が里桜の体を抱き寄せた。

「僕は君と一つになることはできないよ。」

里桜が勇児の体をそっと離した。

「今は、それでいい。ゆっくりしていってほしい。時が来る時までは。」

勇児が里桜に最高級ホテルのルームキーを投げ渡した。

「時が来るまでって。」


示度が勇児の前に現れる。

「私は、これが最後の儀式となる。」

「ありがとう。三田 駿の再生に尽力してくれて、感謝している。」

示度が軽く笑った。

「私は、私の希望のために働いただけのこと。コントレーションの一人ひとりには、それぞれの希望がある。その希望を叶えるために、独立して動いただけのこと。」

「私が言うのも変だが、莉久も私も、過去の定めにとらわれ、呪われているだけだな。」

「そう思われるのであれば、自分の幸せだけのために、世界を破壊すればいい。」

勇児が示度の言葉に、大笑いして見せた。

「確かに、そのとおりだな。」と、勇児が示度に伝えた。

「では、本来の持ち主にフリースターは返還し、私は退場するとしよう。」

示度が勇児の前から姿を消した。

「ありがとう。示度博士。」


瀬田せだ 万偉人まいくの墓石の前にいる優子。

優子が花をささげ、手を合わせる。

「次こそ、私が勝利してみせる。」

敦子が優子の隣で、手を合わせる。

「万偉人は、ほんとに、無茶ばっかりして。そういうところが、優子に似てたよ。」

優子が「私はいつでも冷静です。」と、敦子を横目で見た。

「それならいいんだけど。」と、敦子の口元がにやけた。


戦艦グリーンからレッドスターが発進する。

「レッドスター。三田 駿。発進します。」

ヒト型兵器海風が、レッドスターを郊外で待ち構えていた。

学図が「仙台シン魔術国に行かれるのですか?」と、駿に問う。

「まあな。里桜を追いかけてみる。」

「では、それは阻止させていただきます。」

ヒト型兵器海風が、ブルーウェーブを詠唱する。

大きな波がレッドスターを襲うが、駿が唱えたファイアウォールが、それを蒸発させる。

「蒸発させてしまえば。」

「やはり、強い。」

「それはどうも。」

レッドスターが前に進もうとすると、超電磁ネットが足に引っかかる。

「さすが、莉久の直属といったところかな。」

ヒト型兵器海風が、レッドスターの頭上に乗りかかる。

「これならどうですか?」

学図が光の刃を、レッドスターに差し込む。

レッドスターは魔法の壁で、その刃を受け止める。

「はやく壊れてくれ。」と言うと、駿が魔法の壁を見て「こっちは壊れないでくれ。」と、作業を急いだ。

「さあ、どうしますか。」と、学図がさらに詰め寄る。

「どうもこうもないだろう。」

レッドスターがようやく超電磁ネットから解放されると、魔法の壁を消失させ、光の刃を頬の剣で受け止める。

「これなら、こっちが優勢だな。」

レッドスターの剣に魔力を集中させる。

ヒト型兵器海風が、光の刃に氷魔法を詠唱した。

「それはどうですかね。」

「本当に、いつも冷静なことで。」

炎と氷が融合し、互いを打ち消しあっていく。

しばらくすると、炎の力が打ち勝ち、光の刃を傷つけていく。

「やはり、マジックストーンの担い手。魔法では勝てないのか。」

ヒト型兵器海風が、レッドスターから機体を離れさせる。

「こちらからは深追いはしない。」

「では、里桜によろしく伝えてください。」

駿は学図の言葉に「え?」という言葉を発していた。

勇児が搭乗するヒト型兵器センダイグレーが、駿の前に現れる。

「またまた、冗談厳しいな。」

駿が初めて見るヒト型兵器に、戸惑っている。

「こちらは、仙台シン魔術国代表、遠藤えんどう 勇児ゆうじである。南部なんぶ 学図がくと。殿。ここは退いていただきたい。」

「どうして、貴方が・・・そういうことですか。仕組まれたシナリオということですか。こちらは、そちらを攻撃する意志はない。」

学図が勇児に返答をすると、駿は何が起きているのか、さらに困惑した。

ヒト型兵器海風が撤退すると、ヒト型兵器センダイグレーがレッドスターに銃口を向ける。

「手荒なことをして申し訳ない。君に仙台に来て頂きたい。」

「どういう展開か分からないが、丁度いい。」

「それなら、決まりだな。」


勇児の部屋に、駿が招かれる。

「どうして、俺を招き入れた。」

駿が勇児に問うと、勇児は軽く笑った。

「君はワイズストーンの担い手。皆が欲しいモノを保有している。誰もが君になりたいと思っている。」

「誰もがというのは、大げさだな。」

「では、こちらについてきてもらおう。」

勇児が近くの研究棟に、駿を連れていく。

シン東京連合にあったものと同じ水槽があった。

そこには、駿と同じ姿をしたモノが、たくさん浮かんでいた。

「これは?」と、駿が勇児に問う。

「これは君の模造品。シン東京連合にも同じモノがあっただろ?」

「映像では確認しているが。どうして、この国にも。」

「君の力が欲しいと考えるモノが、多く存在する証拠だよ。」

駿は近くにある隣の水槽を眺めた。

「これは、里桜。」

たくさんの里桜の模造品が、水槽に浮かんでいる。

「無人ヒト型兵器の魂の模造品は、君よりも彼の方が、適性が高かった。」

「何を言っているんだ?」

「無人ヒト型兵器の本当の役目は、レッドスター、スカイブルー、ベリーショートを代替させるために創造することだった。しかし、そのような神業は、簡単に実現することはできなかった。示度博士が、さまざまな犠牲を払い、その実現に近づこうと努力をした。」

駿が里桜に戸惑い、足音を立てて、後退する。

後退する駿を里桜が、微笑む。

「そして、君の魂の模造品を創造することはできなかったが、里桜の魂の模造品の創造には成功した。そして、その魂の模造品をもって、無人ヒト型兵器フリースターが完成する。」

「示度博士が、どうして技術供与をするんだ?」

「彼の目的は、もうすぐ完遂する。その置き土産を、私に託してくれた。」

里桜の模造品が駿を見て「駿は何を望むの?」と、聞く。

それらが駿の顔を触れようと、手を前に差し出す。

「寂しいのは、里桜だろ?」

里桜の模造品は険しい顔をして、手を遠ざける。

「フリースターについては、君が反対だということは理解している。しかし、今しばらく協力を願いたい。」

「ここで、代表に拒否することはできないだろ。」

駿が勇児を冷たい目で見た。

「すでに、里桜は回収してある。同じホテルを用意しておいた。使ってくれ。」

「準備がよろしいようで。」

ルームキーを受け取ると、駿は研究室を後にした。


「懐かしいな。」と、勇児が言葉を漏らした。


眺めの良い最上階の部屋に里桜が休んでいた。

隣の部屋のドアが開く音に、里桜は気が付く。

駿が部屋を確認すると、里桜の部屋のドアを叩いた。

「里桜。いるか?」と、駿が声をかける。

里桜が駿の声に驚いて、ドアを開ける。

「また、どうして、駿がここに?」

「戦艦グリーンと別行動するに至って、里桜を追いかけてみた。」

「いきなり飛び出したから、気になっちゃった感じですか?」

「まあ、そんなとこ。」

里桜が駿を部屋に招き入れた。

「最高級ホテルなのは、よかったけど。代表の思う壺になったかもしれないなって。」

「それはそうだな。代表は何を考えていることやら。」

駿が里桜のことを、舐めるように改めて見た。

「なんですか?」と、里桜が戸惑う。

「いや、そういえば、いろいろな高度な魔法を使えるけど、なんでだって思っただけ。」

「日々、鍛錬してますから。」

「努力は嫌いそうだけどな。」

里桜が軽く笑って「まあ、間違ってないね。」と、言った。


敦子と香奈が、駿の部屋を訪ねた。

「どうして、私が、こんなことをさせられないといけないの。」

敦子は納得していない様子だった。

「命令なんだから、イライラしないでください。」

「分かってはいるけど。」

駿が部屋の外が騒がしいので、ドアを開けた。

「あの、うるさいんですけど。」

香奈が「すいません。お休みのところ。」と、謝る。

「けっこう休ませて頂いて、暇疲れしそうですけどね。」

敦子が「私も暇疲れしてますよ。」と、苦笑いした。

「あの時のパイロットかな。」

「あの時のパイロットです。よろしくお願いします。」

敦子が駿の手を強く握った。

「大人げないですよ。」と、香奈が呆れている。

祐右が「先約がいるところ申し訳ないが。」と、敦子と香奈の話に割って入る。

敦子と香奈は、祐右を見て背筋を伸ばした。

「いえ、どうぞ。」と、敦子が祐右に譲る。

「魔術省大臣自ら登場して頂けるとは、どのようなご用件でしょうか。」

「そう、かしこまらないでほしい。レッドスターの整備も終わったところだから、私がわが軍を案内させて頂こう方。」

香奈が「その任は、我々に命じられておりましたが。」と、祐右に言う。

「時間に余裕ができたので、私が案内することにしようと思ったんだが。」

香奈が「お願いします。」と、敬礼をして、敦子を連れていなくなった。

「いろいろキャラが濃い方が多いんですね。」と、駿が言葉を漏らす。

「どこの軍も似たり寄ったりでは。」と、祐右が返すと「まあそうだな。」と、駿は納得した。


戦艦紅の中を、祐右が駿を案内している。

「戦艦グリーンとは、だいぶ、異なるんだな。」

「戦艦グリーンは、旧式タイプの戦艦です。こちらは、新型タイプの戦艦になっていて、効率性が高まっているのです。」

「そうだろうな。戦艦グリーンも骨董品の部類ではあるからな。」

最先端技術が駆使された戦艦紅の細部を案内されるが、駿は驚くことはなかった。

「こんな機密事項を、俺に見せて大丈夫なのか。」

「ええ。特に問題はないかと。」

「ずいぶんと信頼されているんだな。というよりかは、危険性が低いと思われているということなのかな。」

「レッドスターのパイロットに、隠し事をしても、あまり意味がありませんので。」

「嫌な予感がしてきた。」

駿は戦艦紅を案内されたということは、戦闘に巻き込まれるということなのかもしれないと察した。

「どうして、レッドスターのパイロットが、ここにいるのよ。」

優子が駿を嫌そうな目で見ていた。

真理が駿を見て、何か思いついた様子を見せた。

「次の出撃の時に、レッドスターに手伝ってもらったらいいじゃないですか。」

優子が「なに、言ってるの?」と、目線を真理に移す。

祐右が「それはいい考えです。」と、微笑む。

駿は「やっぱり、こうなるんですか。」と、ため息をついた。


「どうしたもんか。名古屋と戦うことになるとは。」

駿が自分の置かれている状況に、頭が痛かった。

レッドスターは積極的な交戦を避けていた。

「俺は何をしているんだか。」

レッドスターが、スカイブルーを確認する。

「また、どうして、スカイブルーがこっちに来るんだ。」

スカイブルーが、ブルーウェーブを唱えて、レッドスターを襲う。

「いきなり、攻撃してくるんですね。」と、駿が驚く。

「油断したら、こちらが堕とされます。」

レッドスターが大波に呑まれ、後方に押し流される。

「少しは時間稼ぎができるかな。」

駿が呪文を詠唱し始めると、スカイブルーが機動性を活かして、すでに近距離にいる。

「駿。すいません。ここはやられてください。」

「スマ。どういう事情か分からないが、こちらも墜ちるわけにはいかない。」

スカイブルーが氷の刃を創造すると、レッドスターに詰め寄る。

「こちらの方が、機動性は上です。」

「さて、それで上手くいくかな。マジックバリア。」

レッドスターから、6つのマジックバリアが展開され、スカイブルーの四方を囲む。

「攻撃魔法ではない?」と、スマが驚く。

6つのマジックバリアが、スカイブルーに近づき、機体を封鎖する。

「これで、しばらくは攻撃できないだろ?」

「逆にいえば、駿も攻撃ができないと思います。」

「まあ、そういうことになるけどな。」

駿が戦況を確認すると、今しばらく、時間がかかることを察する。

「まだ、時間がかかりそうだな。スマ、俺と戦うのか?」

「申し訳ありません。今は、守りたい人がいるので。」

駿がスマに笑って「幸せなら、それでいい。」と、言った。

スマの心が揺れると、それを拒否するように魔力があふれ出た。

「駿は、いつもズルいと思います。」

スカイブルーからピンク色の光があふれ出る。

マジックバリアが、ピンク色の光に染まると、溶けていった。

「さすがだな。あっという間に、崩壊させるとは。」

スカイブルーが、レッドスターにナイフを突き刺そうとする。

「あれ、間に合わないか。」

スカイブルーが、レッドスターに接近するとナイフが消失した。

「スカイブルーが、僕を裏切った?」

スカイブルーの手がレッドスターを触れると、二機が共鳴し始める。


「僕は、今の幸せを大事にします。」

「スマは、それでいいと思う。」

「どうして、僕のことを責めないんですか?」

「俺は、身勝手な兄貴だからな。」

「本当です。いつも自由で、思う通りに行動して。」

「どうして、スマは名古屋にいるんだ?」

「僕を受け入れてくれる人がいるからです。」

「僕を?」と、駿が聞き返した。

「僕だけを見てくれる人がいるからです。」

「それは、嘘だな。」

「どうして、そんなことを言うんですか?」と、スマが泣きそうになった。

「ヒトは一人では生きていけない。たくさんのヒトと関わらないと生きていけない。だから、その僕だけというのは、嘘だよ。」

「それでもいいんです。今だけでもいいんです。偽りでもいいんです。やっと見つけた、僕だけの幸せだから。もちろん、永遠に続くものでないことも分かっています。見ないようにしていることもあります。それでも、今は、この瞬間を大切にしたいんです。だから、駿とも戦っているんです。」

「俺は、スマのこと、大切な弟だと思う気持ちは変わらないから、その幸せが終わったら、戻って来いよ。」


スカイブルーが、起動を停止した。

「どうして、動いてくれないんですか。」

ホワイトスターが、スカイブルーを迎えに来る。

レッドスターがホワイトスターを確認する。

櫻木さくらぎ 光太こうた。レッドスターの件は、感謝している。」

駿が光太に礼を言った。

「また、会えましたね。」と、光太が駿に微笑む。

「迷惑ついでに、スマのことを頼む。」と、駿が光太に頼みごとをした。

「分かっています。それが僕の運命ですから。」

戦艦紅が撤退信号を出した。

「タイミングがよろしいようで。」と、駿が撤退していく。


戦艦紅に戻ると、駿が祐右のところに急いだ。

「あのさ。スマの現状は知っていたんだろ?」

「さて、どうでしょうか。」

「ごまかすな。」と、駿が祐右に詰め寄った。

「ホワイトスターとの再会も果たせたようですが。」

「あいつに、スマのことを任せておけば、間違えはないだろう。」

「その核心は、どこから生まれるものなのでしょうか。」

祐右が軽く笑った。

駿は光太のことを感覚的に信用していた。

その理由は、どうしてなのか、駿本人も分からずにいた。

「冴島。本当に邪魔よ。あいつ。」

優子がゴミ箱を蹴っ飛ばした。

「そんなにイライラしたんじゃ、勝てるものも勝てないだろ。」

「あなたみたいに、特殊能力がないんだから、仕方ないでしょ。」

優子が駿に突っかかった。

真理が「すいません。いろいろ事情があるので。」と、謝る。


茂之の研究所に、里桜がいた。

「僕を出撃させないところは、さすがですかね。」

「何を言ってるんですか?」と、茂之がとぼけた。

里桜が茂之の研究所にあるフリースターに搭乗する。

「隠しても無駄みたいだからね。」

フリースターが起動すると、機体が赤く染まった。

「フリースターを起動することができるということは、やはり魔法石の担い手ということか。」

「それはどうだろう。」

フリースターが、里桜の意識の中に入っていく。


学校の教室で、窓の外を見ている里桜。

学図と理恵子が、部活動をしているのを遠くから見守っていた。

里桜と学図がすれ違うが、話しかけることも挨拶を交わすこともない。

里桜は教室の隅の席で、昼休みにBLTサンドをかじっていた。


「僕の記憶とは違う。」


学校の教室で、里桜が騒いでいる。

学図と理恵子が、昼休みが始まると里桜に話しかける。

学食に急ぐ三人が、仲良くランチを楽しむ。

放課後は演劇部の練習をして、学生生活を充実させている。


「これが、僕の知っている事実です。」


勇児の研究室にいる、たくさんの里桜。

「これが僕。」と、里桜が戸惑っている。

里桜を形作るモノが、里桜を睨みつける。

「僕たちが、本当の里桜だ。」

それらが里桜に怒りを覚える。


莉久と勇児が、愛想のない里桜を見つめる。

感情をあまり持たない里桜が、水槽の中で傷んだ体を癒している。

「これが私たちの希望。」と、莉久が里桜に願いを込めている。

「そうだな。俺たちの希望だな。」

莉久と勇児が、魔力を水槽に注ぐと、強い光が発せられる。

水槽が爆発し、里桜に新しい魂が生まれた。

「私の最後の力をもって、完全体へと導こう。」

学図や理恵子に、透明な魔法の光が舞い降りると、里桜との記憶を書き換えていった。

たくさんの人たちの記憶を書き換えていくと、感情豊かな里桜が完成した。

「あれ、僕、どうしてたんだっけ?」と、里桜が目を覚ます。

「莉久、力を貸してくれてありがとう。」

勇児が莉久に礼を言うと、莉久は足早に、その場を去っていった。


「僕の記憶は創造されたモノだったのか。」


「その魔法の力が弱まり、人々との絆が弱まっている。」


里桜が我に返ると、フリースターを制御下に置く。

「まったく、みんな身勝手なことばかりする。」

里桜は、勇児に対して怒りの感情を覚えていた。

茂之はいきなり怒りだした里桜に、なにが起きているのかと思っていた。


勇児と祐右と茂之が、会議室に集まると、里桜がフリースターを起動したことを確認する。

「どうして、彼の模造品で、フリースターが起動したのか、教えて頂きたい。」

茂之は、里桜の模造品がフリースターを起動させたことに、戸惑っていた。

そして、茂之は自身が知らない真実があることを感じた。

「スターシリーズは、ワイズストーンの後継者が操る機体。つまり、櫻木 光太は名古屋共和国に与えられたワイズストーンの後継者の1人だということ。そして、シン東京連合が保護していた彼も、同じ存在だということです。」

祐右が、里桜の模造品の顔を優しく触れると、それが笑ってみせる。

谷山たにやま 里桜りおは創造された時点では、人と呼べるほどの感情を備えていなかった。そこで、シン東京連合の葉鳥はとり 莉久りくが、2人の級友を与えることで、人としての感情を育てることを試みた。しかし、結果は失敗に終わった。」

「それでは、なぜ、彼は今、感情豊かなのですか。」

勇児は茂之に背中を向けると「その答えは、後に分かる。」と、答えた。


疑似無限魔法炉搭載型フリースターが、基地に搬入されていく。

里桜がフリースターを見て、顔色が悪くなり、倒れ込む。

香奈が里桜に近づき「大丈夫ですか。」と、声をかけた。

「はい。大丈夫です。」

香奈が里桜の目線の先を確認する。

「気持ちの悪い兵器です。」と、香奈が言った。

「そうだね。本当に気持ちが悪い。」

フリースターが2人を見て、不気味に笑いかけているようにも見えた。

香奈が里桜を医務室に連れて行く。

「しばらく、ここで休んでください。」

敦子が香奈を探して、医務室に入ってきた。

「香奈。どこにいるの?」

「私はここにいますけど。これからのことなんだけど。」

敦子と里桜の目が合うと、敦子が驚いて体を後退させる。

「どうして、香奈と谷山 里桜が一緒に居るの?」

「僕が気分が悪くなって、助けてもらったんです。」

「へえ。シン東京連合のエースが来てるって聞いてたけど、本当だったんだ。」

敦子が里桜を睨み付ける。

「そう。頭ごなしに、いろいろ言わなくても。」と、香奈が敦子を止める。


コントレーションの会議。

キャンサーの西成が席に座る。

アクエリアスの示度が席に座る。

「D計画の最終段階。西成。おまえには悪いことをした。」

「悪夢を見られることを、私は願う。」

「本来のD計画とは、異なるようですが。」

「聖地である東京ではなく、大阪で起こそうというのか。」

ヴァルゴの席に座る莉久が、二人を哀れな目で見る。

「不完全な計画遂行の代償は大きい。それでも実行されるのですか。」

示度が莉久を見て「孤独で何年も待ち続けた気持ち。おぬしには分かるはずだが。」と、自分の胸の内を伝えた。

「ええ。分かります。私も22年もの間、待ち続けておりますから。」

「その件については、名古屋は不干渉とする。」

「では、僕もそれに従うしかありません。ただ、彼が黙っていられるのでしょうか。」

「我々もD計画については不干渉とする。」

「老人をいたわる気持ちに感謝する。私は先に旅立つことにする。後は頼む。」

示度と西成は席を立つと、姿を消した。

彼らと入れ替わりに席に座る者達がいた。

アリエスの祐右、タウラスの学図、レオの冴島、ライプラの勇児、カプリコーンの茂之、そして、ピスケスの理恵子が席に座る。

「疑似無限魔法炉搭載型フリースターの完成により、次なるステージとなった。」

勇児が中央の席を陣取り、司会を担う。

「しかし、本来は三田 駿の魂の模造品で完成させるべきものでは。」

理恵子が、勇児が中央の席に居ることが不満そうであった。

「示度博士が居なくなる今、計画のある程度の修正はやむを得ない。」

学図が理恵子に発言を慎むように、割って入った。

「名古屋共和国の終焉も近い。そうなれば、残るは仙台シン魔術国とシン東京連合となり、計画は最終局面に移ることだろう。時間があまりない。」と、冴島が付け加えた。

「フリースターの実戦配備を急ぐことには、異論はありませんな。」

勇児が全員に問うと、「異議なし」と答えがある。


学図と理恵子は、コントレーションの会議を終えると、学図の部屋にいた。

「フリースターの実戦配備に意義がないと皆が答えたが、すべてを理解している者は数名しかいないと思うが。」

学図がそう言うと、理恵子は頷いた。

「葉鳥様と勇児と冴島以外は、飾りのようにも思える状況。私たちも、数合わせと化しているのかもしれません。」

「名古屋共和国にいる櫻木さくらぎ 光太こうたが姿を現さない理由も見当たらずか。フリースターは、櫻木 光太の魂の模造品で完成させると思っていたが。」と、学図は何かがつじつまが合わないと思っている。

被検体が谷山 里桜となっていることに、2人は驚いていた。

「彼は失敗作として、幼い頃にシン東京連合が預かったモノです。それなのに、今更、その力が解放されるということは起きうるのか、疑問を抱かずにいられない。」

理恵子の疑問に「私たちの記憶が間違っていたら。」と、学図が言葉を漏らす。

しばらく、2人が考え込むと、里桜との記憶が曖昧なところがあった。

「以前なら、鮮明に思い出せた学生生活が、どうしても思い出せない部分があるんだ。」

学図の言葉に「私も同じです。」と、理恵子が答えた。

「なぜか、里桜との記憶には、感情が追いつかないことがないか。」

学図は里桜に対する感情が、あまりに淡泊であることに、違和感があった。

「私もそう思っていました。張りぼてのような記憶だと感じることがある。」


フリースターを見ている駿に、優子が近づいてきた。

「あなたが、ワイズストーンの担い手。」

駿が優子に振り返ると、優子に笑って見せた。

「ずいぶんといきなりな声がけだな。」

「まあね。ワイズストーンは、人々の願いを叶えてくれるのよね。」

優子が小ずるい顔をする。

「そういう伝説になっているのか、仙台シン魔術国では。」

「ということは、違うの?」と、優子がガッカリした顔をする。

「人々の願いは、人それぞれだろ。それをすべて叶えることは無理がある。」

「相反する願いがあるから、無理だってこと。納得。」

優子が駿の言葉に納得した。

「ちょっと来て。」


優子に連れて行かれると、敦子専用ヒト型兵器白松の前にいた。

「敦子、悪い。ちょっと借りるね。」

優子は敦子がいないのに、そう言うと勝手に搭乗した。

真理が「まだ完全に整備が終わっていませんが。」と、優子に告げる。

「いいのよ。お遊びだから。」

ヒト型兵器白松が起動すると、フリースターに向かう。


「ちょっと、どういう事なのよ。優子。」

ヒト型兵器白松を勝手に使われて、怒る優子。

「今から追いかけても、間に合わないと思います。」

優子が走り出そうとしている背中に、香奈が言う。

「だとしても、人の機体を使うなんて、どうしてくれるのよ。」

「自分の機体を使わない理由が分かりません。無茶でもするつもりなのでしょうか。」

「それなら、なおさら、自分の機体でやりなさいって。」

優子が香奈に言われて、さらに怒りを増した。

「もしかして、フリースターと戦うつもりかもしれない。」

里桜が立ち上がると、レッドスターに向かって歩き始めた。

「あんまり無理しないでください。」と、香奈が言うと「大丈夫。」と、里桜が答えた。


フリースターとヒト型兵器白松が戦闘を始める。

「おもちゃに負けるほど、人間は弱くない。」

ヒト型兵器白松がライフルを乱射する。

「フリースターは、以前、起動しません。」

「ヒト型兵器白松に強制停止信号を送りますか。」

祐右が「いや。その必要はない。」と、戦闘を続けさせる。

祐右がフリースターの制御システムを、自ら操作し始めた。

優子が勢いよく、フリースターに飛びかかる。

フリースターの目が赤く光ると、後ろに飛び避ける。

「早い。」と、優子が警戒をする。

フリースターが、ヒト型兵器白松に光化学サーベルを投げつける。

「こんな使い方ありなの。」

フリースターが剣を飛び道具のように使う。

「これぐらいなら、切り払える。」

ヒト型兵器白松が、様子を伺うために後退する。

しかし、フリースターは間合いを詰め、ヒト型兵器白松の頭上を取る。

「近づかないで。」

フリースターがヒト型兵器白松の腕を押さえると、腕を強引に引きちぎろうとする。

「何がしたいの?」


レッドスターに搭乗しようとする駿の前に、里桜が現れた。

「レッドスターを貸して欲しい。」

駿は、里桜が何を言っているのか、分からなかった。

「この機体は、俺でないと起動しない。」

里桜が駿の腕を取ると、首を横に振った。

「僕にも起動できる。」

里桜の目を見て、駿は里桜が嘘をついているとは思えなかった。

「しかし、また、どうして。」

「フリースターを止めるのは、僕の役目だから。」

里桜が服を脱ぐと、レッドスターのコクピットに飛び乗った。

「ごめん。後で、借りは返すから。」

駿は服を着ながら「本当に起動するんだろうな。」と、レッドスターに声をかけた。


レッドスターのコクピットを閉じる里桜。

懐かしい匂いがすると里桜は思った。

「さあ、僕のために、起動して。レッドスター。」

しかし、里桜の声に反応をしない。

里桜がしばらく我慢をしていると、目を閉じて魔力を手に集中させる。

「神に与えられし生命体。その生命体のエネルギーをもって、我の願いを叶えたまえ。」

里桜の体が赤く光ると、赤い泡が里桜を包む。

レッドスターが何かを思い出したかのように、じっくりと起動し始める。

「そう。僕のことも思い出して。」

レッドスターが、一歩一歩、前進する。

「これなら、大丈夫。」

里桜がレッドスターを完全に制御すると、フリースターに急いだ。


「これ以上は、機体がもたない。」

優子はヒト型兵器白松が破壊されるのを覚悟した。

「炎の神よ。力を貸したまえ。ファイアーアロー。」

里桜が、フリースターに炎の矢を放つ。

フリースターは炎の矢を素手で取ると、レッドスターを睨み付けた。

「野獣ですか。」

フリースターが、レッドスターに飛びかかる。

「春に舞う桜のごとく、今、儚く散りたまえ。ピンクスモーク!!」

フリースターに、ピンク色の魔法の花びらが放たれる。

フリースターの動きが、かなり遅くなった。

「これなら、やれます。」

里桜が今一度、ファイアーアローを放った。

フリースターの胸部に、炎の矢が刺さる。

祐右が「フリースターを強制停止させる。」と、兵士に命じる。

茂之が里桜と優子に「戦闘はここまでです。模擬戦闘のご協力、ありがとうございます。」と、礼を述べた。


レッドスターのない格納庫に勇児が現れる。

「里桜がレッドスターを起動できることは、計算通りということですか。」

駿は勇児が会われたのをみて、イヤになった。

「フリースターを起動できることは、伝えてあったが。」

「はい。その通りです。だからといって、レッドスターを起動できるとは。いや、理論上は当然なのか。」

「いずれにしても、これでフリースターは、ほぼ完成した。」

勇児が駿に頭を下げる。

「君にも御礼を言わなければならない。」

駿が気に入らなそうに、勇児を今一度、見た。

「ところで、里桜にレッドスターに搭乗させた理由を教えてもらいたい。」

「大した理由などないよ。」

レッドスターが帰還すると、勇児はいなくなった。


優子がヒト型兵器白松のコクピットから出るのを待つ敦子。

敦子が優子を見ると、近づいて頬を平手打ちした。

「私の機体に何してくれるのよ。」

「何って、フリースターの模擬戦に借りただけよ。」

「嘘をつかないで。」

真理と香奈が二人に近づく。

「今は、喧嘩している場合ではありません。」と、真理が言った。

「どうして、いつも冷静でいられるの。」と、優子が真理を睨んだ。

「フリースターが完成したら、私たちは用済みになるのよ。」

優子の声が響いて、駿の耳に入った。

駿が彼女たちに近づいていった。

優子が駿を見て「必要なのは、彼みたいな特殊な人間だけ・・・」と、泣きそうな声を出した。

「別に、俺は特殊な人間ではないが。」と、駿が小さく言った。

「レッドスターを操れるだけで、特殊な人間よ。」

レッドスターのコクピットから、里桜が現れる。

「僕が、特殊な人間だって。」

「そんな恰好で、出てこないでよ。」

優子が里桜を見て、赤面した。

「仕方ないじゃん。搭乗スタイルが裸なんだから。」

敦子がよく分からない状況にあり「もういいわよ。」と、呆れていなくなった。


あくる日。駿の部屋を訪ねる優子。

「ちょっと、付き合って。」

駿が断ることもできず、彼女の用意した車に乗る。

「尾行とは。やりますね。」と、里桜が敦子に言う。

「尾行じゃない。」と、敦子が里桜に返事をする。

敦子の車が、優子の車を追いかける。

「いきなり、連れ出して、どこに連れていくつもりだ。」

駿が窓から外を見ている。

「別に、大したところではないから。」

車が郊外に付くと、万偉人の墓地に着く。

墓には花が飾られていた。

優子が手を合わせて、万偉人のことを思う。

駿が線香を供えると、手を合わせた。

しばらくすると、駿が「彼氏か?」と優子に声をかけた。

「そう。けど、少し前の戦いで、名古屋共和国に殺された。」

「そっか。」と、駿が口を閉じた。

「ヒト型兵器天に搭乗する恵理に、私の彼は殺された。だから、私は。」

「憎しみにとらわれて戦っても、不幸になるだけだ。」

「分かってる。けど、私には、そうすることしかできないのよ。バカでしょ。」

優子が駿を見ると、駿は表情を変えなかった。

「バカではないけどな。」と、駿が答えた。

敦子と里桜が、万偉人の墓に現れる。

「私たちは、結局、彼に囚われている。」と、敦子が花を手向ける。

「思い出は心の中に残るか。」

里桜は言葉を漏らした。

里桜がふと隣の墓石に目を移した。

そこには「SYUN MITA」と記載されていた。

「どうかした?」

敦子が里桜の様子がおかしいことに気がつく。

「なんでもない。」

里桜は駿のことを見て、もう一度、墓石を見返した。

真理が「基地にいないと思ったら、いつもここですね。」と、優子を見る。

真理に続いて香奈が、車から降りてきた。

「万偉人が居ないって、私は実感がなくて、ここに来られていません。」

香奈が目に涙をためて、墓を見た。

「私だって、まだ実感ないわよ。」

敦子が下を向いた。

優子が「やめよやめよ。みんなが暗くなると、万偉人が悲しむから。」と言った。

「みんなに好かれてた訳ね。」と、駿が笑って言った。

「私たち、ふられてますから。」

「私はふられてないから。」と、優子が答えた。

里桜が大笑いして「すっごい。みんなで告白したんだ。」と、言った。

墓地に輸送機の音が響く。

「あれは、代表の。」

輸送機から勇児が降りると、里桜が見た墓石に花を手向ける。

優子達が、勇児に敬礼をする。

「君たちもここに来ていたのか。」

里桜が勇児と目が合う。

「私の戦友だよ。」

勇児が手を合わせる。

「さて、気持ちが落ち着いたところで、フリースターを使うこととする。」

駿が「俺たちが、ここにいるの知ってて、来ただろ?」と、勇児に言った。

「ええ。それは、知っていました。」

優子の顔色が曇る。

里桜が「フリースターを実戦で使うということですね。」と言った。

「ああ。そのとおりだ。」と、勇児が言うと、フリースターが名古屋に送られた。


「ホワイトスター、発信します。」

「スカイブルー、発信します。」

フリースターが、二人を待っていたかのように、声をあげる。

そして、魔力を増幅させていく。

「魂が残置されているヒトの創造したモノ。」

「すごく悲しい思いが伝わってきます。」

「浄化されることなく、あそこに留まらさせられているからかな。」

フリースターが、ホワイトスターにとびかかる。

ホワイトスターが地面に倒され、フリースターがのしかかる。

スマが「まるで、動物です。」と、フリースターに銃弾を打つ。

「悲しい魂の叫びか。」と、光太はフリースターの攻撃を受け止めた。

「どうして、反撃をしないんですか。」

「ヒトは何度も同じ過ちを繰り返す。だから、彼らが必要となった。」

ホワイトスターが、フリースターの手を受け止める。

スカイブルーが、フリースターに近づくと、スカイブルーが反応をする。

スマの目から、涙があふれだす。

「どうして、こんなに悲しい気持ちが流れ込むんだろう。」

フリースターの中にいる魂が、孤独を憎んでいる。

「僕は、この気持ちを知っている。そうか、この涙は、自分自身の。」

フリースターが、スカイブルーを侵食しようとする。


幼いころのスマが、スマの前に現れる。

「どうして、独りは嫌いなの?」

「一人は寂しくて、苦しいから、嫌いです。」

「けど、駿と触れ合って、また孤独を感じてる。」

「今は、光太がいるから大丈夫です。」

「じゃあ、光太がダメになったら、どうするの?」

幼いころのスマが、スマの頬に手をそえる。

「最初に戻るだけです。」

「喪失感がなければ、誰でも良いんだ?」

「そういうわけじゃない。」

「じゃあ、どうして、今は光太なの?」

「僕だけを見てくれるから。」

「それって、自分に都合のいいヒトをもとめてるだけじゃん。」

幼いころのスマが、等身大の自分となる。

等身大のスマが、スマの唇を奪う。

「僕は、君のことが好きだ。」

スマが「やめてください。」と、唇を離す。

「結局、僕は僕のことしか愛せない。だから、都合のよいヒトのところにいる。本当に、相手を好きだと思ったことが、ないんだよ。」

「そんなことはない。駿も光太も、みんな、好きです。」

等身大のスマが、駿に姿を変える。

「嘘つくな。」と、駿が言った。


ホワイトスターが、スカイブルーに近づき、フリースターとの共鳴を阻害する。

「フリースターの目的は、スマの魂ですか。」

ホワイトスターが、スカイブルーを白い光で覆う。


「さあ、スマ。僕のところに。」

光太がスマに手を指し伸ばす。

「また、僕は光太に助けられてる。」

「それじゃあ、今度は、スマが僕のことを助けてくれないかい。」

スマが光太を助けたいと思う気持ちを、ホワイトスターに集中させた。

「スマ。俺と一緒に来るんだ。」と、駿の声がした。

癒しの光が、光太を覆うと、駿の姿が消失していく。


フリースターに白い光を覆うと、疑似無限魔法炉が停止していった。

「この交戦は、ここまでだ。」

冴島のブラックナゴヤが、スカイブルーの前に立つ。

「やはり、そういうことですか。」

光太が冴島の行動に、納得をしていた。

「スマ。後退することにしよう。」と、光太がスマに言う。

「フリースターを撃破すべきです。」

「今は、やめておこう。疑似無限魔法炉を破壊するのは。」

「どうしてですか?」

「まだ、その時ではないということです。疑似無限魔法炉を破壊した場合の被害も、想像ができません。」

スマと光太が話し合っている間に、フリースターが仙台シン魔術国に帰っていく。


帰還したフリースターを眺める優子と敦子。

「新都市大阪国と、私たちは同じことをしてる。」

「女って、不幸になるのが運命なのかな。」と、敦子が笑う。

「もし、私が復讐に成功したら、笑ってね。」

「なにそれ。今だって、笑っちゃってる。」と、敦子がさらに笑う。


勇児の部屋に、里桜が訪ねる。

「私のことが気になって、来ると思ったよ。」

里桜が勇児を睨み付け「君は、幽霊なの?」と、聞く。

「一度は死んだ身だ。幽霊のようなものだ。」

「フリースターに捧げる魂の模造品は、遠藤えんどう 勇児ゆうじでも、その役目は果たせたのでは。」

「それも検討したが、出来なかった。私には、彼の魂の欠片も残っていないからな。」

里桜が勇児に銃口を向ける。

「僕の記憶と、僕のまわりの人たちの記憶を書き換えたのは、君だね。」

「その役割は、私にしか出来なかったからな。」

「君は、一度、役目を終えているのに、どうして、また苦しい道を選んだの。」

「彼女との約束を果たすためさ。彼女にも無理な役割を課してしまった。」

里桜が「ここも色恋沙汰ですか。」と、呆れて見せた。

「君だって、他人を拒絶することに疲れたから、今の記憶を受け入れている。私と同じさ。」

「以前の自分が、どうだったか、記憶が戻らないから分からないけど。そうなの。」

「そうさ。」と、勇児が笑った。

里桜が銃口を降ろした。

「にしても、学校で例えるならOBみたいなのがウヨウヨでてくると、頭が痛くなる。」

「今しばらく、時間をくれないか。里桜。」

「はいはい。分かりました。」

「ありがとう。共に、残りの時間を有効に使おう。」

勇児が里桜に手を差し出すと、2人は握手をした。


茂之が里桜と勇児が接近しているのを、監視していた。

「このままでは、私の立場が危ういかもしれないな。」

ヒト型兵器豆打に核兵器を搭載できるように、改良を指示する。

谷山たにやま 里桜りおを、消去するのもいいか。」


基地に集められると、名古屋共和国で暴走する無人ヒト型兵器の映像が流される。

優子は「これは、ひどい。」と、言葉を漏らす。

香奈は目のやり場に困っていた。

「これより、戦艦紅は名古屋共和国に向かう。状況を確認したい。」

祐右が出撃準備をするように告げる。

「我々は、待機させて頂く。」と、茂之が言った。

祐右が「無論だ。」と答えると、茂之が眉間にシワを寄せた。


「それで、どうして私たちまで、ヒト型兵器で待機しないとならないわけ。」

敦子が不満を漏らしていた。

「大嶋大臣の様子が、変です。」

香奈は、茂之の変化に気がついていた。

「ヒト型兵器豆打。本当に存在していたのね。」

茂之が搭乗するヒト型兵器を目視する2人。

「大臣自ら出撃するつもりなのでしょうか。」

香奈はあり得ないことを言って、自分で混乱をしていた。

駿が茂之の態度に違和感があり、レッドスターで待機する。

里桜もヒト型兵器櫻に搭乗して、待機をする。


「無理矢理に積んだ疑似無限魔法炉。これがあれば、ワイズストーンにだって勝てる。」

ヒト型兵器豆打が起動すると、聞いたことのない異音が響く。

「これは、どういうことなの?」

敦子がヒト型兵器豆打の異変に戸惑い、対応に困っている。

「私が負けるはずがないのだよ。」


「茂之が疑似無限魔法炉に身を委ねるか。しかし、勝敗は決している。これも必要な儀式なのかもしれない。」


ヒト型兵器豆打がバズーカを構える。

「こんなところで撃ったら、めちゃくちゃになる。」

敦子がヒト型兵器豆打を押さえ込もうと、前に出る。

「待ってください。核兵器搭載型バズーカです。」

敦子が機体を退き、戸惑う。

「厄介なものを使いやがる。」

駿のレッドスターが前方に、里桜のヒト型兵器櫻が後方に備える。

「核兵器を使われたら、めちゃくちゃです。」

里桜が戸惑いながら、どの魔法を唱えるか、迷っている。

「さあ、決死の戦いを始めるとしよう。」

ヒト型兵器豆打がバズーカを撃つ体制を取る。

「ねえ、どっちに付くのが吉。」

「レッドスターに付かないと、巻き込まれます。」

「そうよね。」

敦子がレッドスターの背後に移動する。

「協力してくれるのか。」と、駿が言った。

「協力するしかないでしょう。」と、敦子が駿に答えた。

レッドスターが六個のマジックバリアを創造する。

「これで、受け止めるしか素手がない。」

茂之が「散ってもらおう。」と、バズーカを撃つ。

バズーカの弾を囲むマジックバリア。

マジックバリア内で、大爆発を起こす。

「マジックバリアに魔力を注ぎ込むんだ。」

駿が声をかけると「やってるわよ。」と、優子が返事をした。

「僕の方も、やってるよ。」と、里桜が苦しそうな声を出す。

レッドスターの前に、宙に浮く勇児が現れる。

勇児が目を閉じ、マジックバリアに魔力を注ぐ。


駿と勇児の意識がつながる。

「君の魔力は、俺の魔力に似ている。どうして。」

勇児が駿に笑いかける。

「さあ、どうしてだろう。」

里桜の意識も2人につながっていく。

「僕の魔力も、協調させるのか。」

里桜が駿の手を握る。

「君は、特定のモノに助けをもとめようとはしないんだな。」

勇児が駿の強さに嫉妬していた。

「そういう感情は、よく分からないんだ。けど、スマ、隆、潤が、今は支えになってくれていると、俺は思っている。」

里桜が「彼らの幸せを願う存在なんだね。」と、悲しい目をした。

「自分の幸せを願えば、自分だけの幸せを得られるのに。」

駿は勇児の言葉に、首を横に振った。

「俺だけの幸せなんて、あり得ないさ。みんなのおかげで、俺は今、ここにいるから。」

駿の言葉に「強くなったんだな。ありがとう。」と、勇児が答えた。


優子と香奈がヒト型兵器豆打に、光化学サーベルで足をもぎ取った。

「どうして、おまえたちが。」

香奈が「私は、ここで死ぬわけにはいきません。」と、茂之に告げた。

「そうだな。」と、茂之が笑う。

「どうして、笑えるのよ。」

優子が茂之の笑顔に戸惑った。

優子がコクピットを機体から切り離した。

ヒト型兵器櫻が、ヒト型兵器白松の前に立つ。

「魔力が足らない。」と、里桜の息づかいが荒くなる。

次の瞬間、疑似無限魔法炉が爆発を起こした。


戦艦紅が、名古屋共和国で無人ヒト型兵器を観察していた。

優子は恵理を見つけると、出撃した。

ヒト型兵器笹蒲が、ヒト型兵器天を遠距離光化学ライフルで狙い撃つ。

「この射程なら。標準を合わせて、ロックオン。打ちます。」

優子が恵理に、万偉人の仇を込めて、一直線に光線を放った。

「たしかに。当たる可能性はあります。けど。」

ヒト型兵器天の機動性を活かして、攻撃を避ける。

「もう一発。」と、次の攻撃を打つ。

「この射程だと、こちらが不利か。」と、恵理がヒト型兵器笹蒲に近づく。

優子は待っていたかと、武器を持ち構える。

「そうでないと。」と、恵理がファイアーアローを放つ。

「攻撃の方法は、何でもありということですか。」

恵理が光化学シールドで、攻撃を受け止めた。

「簡単にはやらせてくれはしないよね。」

優子が超電磁ナイフに、氷系魔法を詠唱した。

ヒト型兵器笹蒲が、ヒト型兵器天に突進する。

氷のナイフが、ヒト型兵器天の左足を切り落とした。

そして、光化学サーベルが、ヒト型兵器笹蒲の左腕を切り落とす。

「どういうことなの。」と、優子が目の前の光景を疑った。

ヒト型兵器天の背後から胸部に、光化学サーベルを突き通す量産型ナゴヤ。

「ごめん。君の復讐は、ここでおしまいです。」

優子が、陽の言葉にイラっとした。

「なに、どういうことなの?」と、優子が陽に応える。

「陽。どうして、こんなことを。」

「恵理のことは、忘れません。」と、陽が恵理に応える。

「陽。私のこと、愛してくれてた?」

「二人の思い出は、嘘ではありません。」

恵理が「生まれ変わったら、今度は結婚してね。」と言うと、機体が爆発した。

「戦艦紅は、撤退しますか。」と、陽が問う。

「こういうことなのね。名古屋って、本当に嫌なところ。わかったわ。」

戦艦紅に、ヒト型兵器笹蒲が撤退していった。


勇児が茂之を連れて、莉久を訪ねる。

「しばらく、彼を頼む。」

莉久の頭を下げる莉久。

「それは問題ありませんが、彼の覚醒まで時間がありません。」

勇児が頷いて、莉久に近づく。

「ああ、分かっている。」

「彼女たちのことは、どのようにするつもりです。」

「彼女たちは彼女たちの幸せを見つけるだろう。」

「放置するということですか。」

勇児が「ああ。」とだけ、答えた。


優子が万偉人の墓石で手を合わせている。

「どうしたの。勝ったのに、嬉しくないの。」

敦子が優子に問う。

「私が仕留めたわけじゃないから。」

「一人を愛し続けられなかった、なりの果て。」と、敦子が言った。

「けど、私たちみたいに一人の男にとらわれているのも、幸せとは限らないわ。」

優子が万偉人の墓石を触ると、涙を流した。

「私はフラれたから、縛られてはないけどね。」

「嘘つき。」と、優子が敦子を見て言った。

敦子が優子を軽く抱きしめた。

「復讐を遂げても、幸せになれないのね。私たち。」

敦子も涙を流すと、二人と互いの悲しみを確認しあった。


里桜がレッドスターを見ていると、駿が背後から里桜を見る。

「レッドスターが、気になるのか?」と、駿が里桜に声をかけた。

「気になるというか。なんというか。」

しばらく、里桜は何も言わずにレッドスターを見続ける。

「里桜は、俺の知らないことをいろいろ知っているんだな。」

「おそらく、僕の記憶は調整されていて、本当なのかは分かりません。」

「そっか。まあ、記憶ってのは、あいまいだからな。」

駿が里桜に微笑んだ。

「ありがとう。駿。僕は。」

基地に襲撃を告げるサイレンが鳴る。

ヒト型兵器護摩と海風が、仙台に姿を現した。

「僕を殺しに来たのか。」と、里桜がヒト型兵器櫻に急いだ。


ヒト型兵器櫻がヒト型兵器護摩の前に現れる。

「里桜。久しぶりです。」

「そうだね。久しぶりだね。」

地上に巻かれた札が、魔力を帯びて光を放ち始める。

「文化祭での公演は、私にとって大切な思い出でした。」

「僕にとっても、忘れられない思い出だよ。」

ヒト型兵器櫻を囲む魔法の札。

魔法の札が、強力なライトニングボムを創造し、ヒト型兵器櫻に迫る。

「理恵子らしい攻撃だね。けどね。」

ヒト型兵器櫻が、無数の小型遠隔機を発射し、魔法の札に攻撃を仕掛ける。

「フリースターの装備を盗んでおいて、正解だったかな。ブラックアロー。」

光魔法を闇魔法で打ち消す里桜。

「さすが。里桜。本来の力が解放される前に、私が撃つ。」

里桜が瞑想をすると、無数の小型遠隔機がヒト型兵器護摩を囲む。

「すでに手はうってあります。」

理恵子が魔力を放出すると、魔法の札がビットに絡みつく。

「どれだけ魔法の札をばらまいたんだか。」

「私の交戦スタイルは、里桜は熟知しているでしょ。」

「僕が理恵子を迎撃しに向かったことは、失策だったって言いたいんだね。」

理恵子が「ええ。」と、笑った。

「確かに、理恵子のやりたい放題になるかもね。」

里桜が理恵子に笑い返すと、ヒト型兵器櫻をヒト型兵器護摩に突撃させた。

「どういうことですか?」

里桜はすでに機体を捨てて、コクピットから姿を消していた。

「こういうことです。」

ヒト型兵器櫻が大爆発すると、ヒト型兵器護摩が大破し、機体が爆発した。

「私としたことが、油断しました。」

「あとは、駿がなんとかしてくれるでしょう。」


レッドスターとヒト型兵器海風が、睨みあっていた。

「また、君と会うなんてね。」と、駿が苦笑いした。

「ええ。レッドスターが相手とは、光栄です。」

「そりゃ、どうも。」

レッドスターが上空を潜航すると、それを追うヒト型兵器海風。

「さすが、レッドスター。パイロットの能力が反映され、さらに機動性を上げてくるのですか。厄介な機体です。」

ヒト型兵器海風が機体を止めると、レッドスターを捕捉し始める。

「俺のビットたち、展開しろ。」

レッドスターから小型遠隔機が発射されると、星のように空に輝いた。

「あちらこちらに巻き散らかされると、対応に困るな。」

学図が攻撃に備えて、防御を固める。

「いけぇ。俺のビットたち。」

流れ星のように、ヒト型兵器海風にビットが走る。

「マジックバリア展開。マジックナイフ装備。切り払う。」

ヒト型兵器海風のマジックバリアが、いくつものビットを受け止める。

零れ落ちたビットが、ヒト型兵器海風に向かって走る。

「この数なら、切り払ってみせる。」

学図が冷静に、いくつかのビットを切り払い、破壊する。

「すべてを切り払えはしないか。ただ、この程度のダメージなら。」

学図がレッドスターと間合いを取る。

「凍てつく風となり、すべてを静止させたまえ。アイスウィンド。」

レッドスターに氷の刃が風とともに、襲い掛かる。

「近づくことができないか。」

レッドスターを微かに傷つける。

「避けることもできなかったか。」

学図が続けて、ライフルを構えて、レッドスターに撃つ。

「さて、避けられるかな。」

レッドスターが強風により、動きが取れない。

「そういうことか。直撃だけは避けるか。」

駿がマジックシールドを展開して、ライフルを受け止める。

「予想通りです。」

ライフルがマジックシールドに当たると、魔法にひびが入る。

「魔法に耐性があるのか。」

マジックシールドが粉々になり、ライフルが突き進む。

レッドスターの左肩を掠めると、機体にダメージを与えた。

「本当に厄介だよ。君たちは。」

レッドスターもライフルを構えると、ヒト型兵器海風を狙う。

「標準を合わせて、撃つ。」

駿がライフルを撃つと、ヒト型兵器海風に向かって強い光が走る。

「マジックシールドを展開します。」

ヒト型兵器海風がマジックシールドを展開すると、ライフルを受け止める。

「今度は、こちらが受け止める番ですか。」

「それだけじゃ、ダメだよ。」と、駿が言う。

レッドスターが放ったビットが、ヒト型兵器海風の後方から攻撃をする。

「背後からの攻撃。回避することは難しい。」

学図が背中に、ビットからの攻撃を受ける。

「海風が中破。これ以上の戦闘は危険。」

ヒト型兵器海風が決死の覚悟で、レッドスターに突進する。

「冷静でない君は、君らしくない」

レッドスターがライフルを撃つと、ヒト型兵器海風の胸部を貫いた。

ヒト型兵器海風が爆発すると、機体が地上に落ちた。


莉久が、学図と理恵子を迎えに出る。

「ご苦労様です。」

理恵子が「申し訳ありません。機体を失いました。」と、謝罪した。

「問題はありません。」

学図はその言葉に、腹を立てていた。

「我々の役目は、これで終わりました。」

「ありがとうございます。残りの時間は、自由にして頂きたい。」

莉久が二人に深く頭を下げた。

「莉久様は、どうなさるおつもりですか。」

「私は最後の役目が残っております。心配は無用です。」

莉久が理恵子に笑って見せた。

「一つだけ、お聞きしたい。」と、学図が言った。

「ええ。質問にはお答えします。」

「里桜との思い出を創造したのは、莉久様であったのでしょうか。」

莉久が首を横に振った。

「私にはそのような力は与えられておりません。その答えも、今しばらくすれば分かります。」


学図が部屋で、過去の情報収集をしている。

理恵子が学図の隣に座ると、情報収集のスピードが格段に上がった。

「何を調べているんですか。」

「コントレーションのスーパーコンピュータにアクセスして、遠藤えんどう 勇児ゆうじについて今一度、調査している。」

「今更、調査しなおすということは、彼がアヤシイということですか。」

「莉久様と勇児の関係が気になっている。」

「里桜との記憶が薄れていく中で、莉久様が勇児を頼りにしていたことを思い出しました。」

「その通りだ。そして、さきの戦いで、はっきり思い出せました。」と、学図が言った。


勇児が莉久に十字架のネックレスをつける。

「莉久様。どうして。」と、理恵子が戸惑っている。

「今度こそ、俺達が幸せになる資格がある。」

勇児が莉久の手を握る。

「世界を敵に回しても、私たちの願う結末を。」

莉久が勇児の手を握り返す。


理恵子が「莉久様の十字架のネックレスを、見たことありますか。」と、学図に聞く。

「十字架のネックレスですか。」

「ええ。シャツの下に隠して身に着けている十字架のネックレス。」

「私は見たことはありません。」

理恵子は、莉久がなぜ十字架のネックレスを大切に身に着けているのか、思い出した。

「そうですか。」

理恵子は、学図に二人の関係を告げるか、迷っていた。


勇児が祐右と、フリースターの前に立つ。

「示度の計らいによって、13機の製造が完了しました。」

「祐右には、苦労をかけたな。」

フリースターを見上げると「私の手で、エンジェル計画を遂行する。」と、勇児が言った。

祐右が勇児に頷いて見せた。

「ヒト型兵器櫻も破壊され、計画にはプラスにはたらきます。」

「そうだな。」

勇児がフリースターを起動させる。


真理と香奈が、万偉人の墓に花を手向けた。

「これからは、万偉人に縛られずに、生きていきます。」

真理が誓いの言葉を唱えた。

香奈が手を合わせている。

「私たちは幸せです。心配しないでください。」


「基地に戻れ。」


「今、万偉人の声が聞こえたように気がしました。」と、香奈が言った。

「基地に戻れって、何が起きるの。」と、真理が戸惑う。

香奈と真理が目を合わせる。

「基地に戻りましょう。」


名古屋の基地にいる優子と敦子。

「いつもと様子が違う。気のせいかしら。」

敦子は人気が少ない基地に違和感を抱く。

「そうね。嵐の前の静けさのような。」

優子が基地の様子を確認する。

香奈と真理が、優子たちを見つけた。

「基地の様子が、いつもと違います。」と、真理が言った。

「ええ。何か、嫌な予感がする。」


里桜がレッドスターの前に立つ。

「また、ここにいた。」

駿が里桜に声をかける。

「レッドスターに、僕の希望を託します。」

「何を言ってるんだ。」と、駿が里桜の唐突の言葉に戸惑う。

そのとき、基地が大きく揺れる。

「無防備に攻撃を受けたということか。」

「おそらく、シン東京連合からの攻撃でしょう。」

「完全平和主義の彼らが、なぜ、仙台シン魔術国に攻撃を仕掛ける。」

「フリースターの強奪が目的です。」

「シン東京連合の戦力から考えると、この熱量はありえないだろう。」


冴島が莉久の前に姿を現した。

「名古屋共和国での任務は、完了した。これは手土産だ。」

冴島が莉久に、多量の兵器を提供する。

「ありがとうございます。」

茂之が冴島に会釈をする。

「私が整備を行う手はずなのかな。」

莉久が茂之に微笑む。

「冴島。東京で会うのは久しぶりだな。」と、勇児が言った。

「ああ。こちらは楽しませてもらった。」と、冴島が言葉を返した。

「ずいぶんと趣味が悪戯だったようで。」と、祐右が笑った。


「どこからの攻撃ですか。」と、真理が状況を確認する。

「シン東京連合です。」と、香奈が答える。

優子が祐右に連絡を取ろうとするが、繋がらない。

「代表および高橋大臣、大嶋大臣の所在が確認できません。」と、真理が伝えた。

「嫌な予感が的中。」と、敦子が汗をかいた。

「もしかして、ここを放棄するつもりなの。」と、優子の表情が強張った。

理恵子と学図が、彼女らの前に現れた。

「そのつもりだと思われます。」と、理恵子が言った。

「どうして、シン東京連合のあなた方が。」

真理が理恵子を見て戸惑っていた。

「基地内の防御壁を下ろしてください。」

理恵子は真理に応じず、作業を進める。

「とにかく、生き残るのが先。」

優子が理恵子の指示を受けて、防御壁を下した。

「上空より、第二波が来ます。」

「東京の物資では説明できないな。示度か冴島の手土産なのか。」

学図がシン東京連合の力だけではないことを、察した。

「フリースターの内部より、強大なエネルギー反応があります。」と、香奈が報告する。

「ここで始めるつもりなの。」と、理恵子が言葉を漏らす。

「いえ。それはありえないです。」と、学図が理恵子の考えを否定した。


フリースターが起動すると、レッドスターを探し動き回る。

「レッドスターを探しているのか。」と、駿がフリースターを確認する。

「本能的な動作ってことなのかな。」と、里桜が言った。

駿がレッドスターに搭乗する準備を始める。

「さすがに13機を倒すのは、難しいですよ。」

里桜もレッドスターに搭乗する準備を始めた。

「おい。里桜、何してるんだ。」

「僕も搭乗します。」

「レッドスターは独り乗りなんだけどな。」

「たぶん、大丈夫だと思う。」

里桜は確信があり、駿はそれに流されていた。

「ああ、そうなのか。」

「魔力は多い方が良いと思うよ。」

「まあ、そうだけど。」

「少し耐えれば、東京にいなくなるような気がするな。」

「それって、どういう意味。」

「なんとなく、そんな気がする。」

「なんとなくって感じじゃないだろ。確信的な発言だし。」

「そうかな。僕を信じてくれれば、大丈夫。」

里桜が先にレッドスターのコクピットに入る。

「なんか、調子狂うんだよな。里桜は。」

駿は自分のペースを崩されていた。

駿がコクピットに入ると、起動準備を始める。

「里桜はノイズにならないのか。」

駿がスムーズにレッドスターが起動することを、確認した。

「まったく違和感なく、起動するわけね。」

駿はレッドスターが完全に起動したことを、確認した。

「僕は、力を注ぐことだけに専念するから、どうぞ。」

里桜が駿に操縦を任せる。

「それは、どうも。」

レッドスターを基地から発進させ、基地から距離を置く。


東京に到着した光太がフリースターの情報をかき集めていた。

「Rシステムの意味は、エンジェル計画という意味では無かったということか。」

光太の背後に、莉久が現れる。

「スターシリーズを起動させるためには、ワイズストーンの担い手の魂が必要でした。しかし、その魂は一つしか存在し得ない。量産するためには、その魂を疑似化する必要があった。そのシステムがRシステムです。」

「過去の記憶が書き換えられた里桜が、都合の良い存在だったということかな。」

「ええ、その通りです。」と、莉久が答えた。

「君はこの世界でも孤独に襲われている。そんな君が僕を撃てるのかな。」

莉久の手が震える。

光太がその手をそっと触れる。

「ほら、君は僕のことを撃つことはできない。」

莉久が「ええ。そうよ。私は。」と、手を下げる。

「理恵子と学図を創造したのは、彼の力だね。」

光太が葉鳥を置いて、その場を去って行った。


レッドスターの上空に、13のフリースターが旋回している。

「まったく、どうして、いつも分が悪い方に付いちゃうのかな。」

里桜が文句を言いながら、フリースターを睨み付ける。

「本当に、俺って、外れクジばっかり。」

駿が自分の運命を呪うのだった。


戦艦グリーンの大浴場にいる、スマと隆と潤。

スマが浴槽につかると、体を大きく伸ばした。

「やっぱり、ここのお風呂は最高です。」

スマの姿を見て、潤が軽く笑った。

「大げさです。」

「何してたんだ。スマは。」と、隆が突っ込んだ。

「恋煩い。なんてね。」

隆が「笑えない。」と、細い眼をした。

「駿のところに行かないで、僕達を助けるなんて、変です。」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味です。スマは、駿が一番ですから。」

「うるさいです。潤たちを助けないと、駿も助けられないから、です。」

スマが潤に本音を隠していた。

「どうせ。駿に会う勇気がなかっただけだろ。」

隆がスマに、冷たい言葉をかける。

スマが隆の顔に、お湯をかけた。

「そんなことないですよ。」

「なにするんだよ。痛いところを言われたから、だろう。」

「そんなわけないだろ。」

隆が「はいはい。」と、スマの言葉を受け流した。

「僕達で、駿に会いに行きましょう。」と、潤がスマに言った。

「そうだな。とにかく、進むしかないな。」

話が勝手に進んでいくことに、スマは不満だった。

「だから、一人でも会いに行けますよ。」

「フリースターと戦うのに、ベリーショートだけでは厳しいと思いますよ。」

「敵は13機。どんなに有能でも13機を倒すのに、一人は厳しいだろ。」

潤が話を逸らして見せた。

「駿と会えるかって、話でしたよね。」

隆が「駿に会うためには、フリースターを撃破しないとならないかもしれないからな。」と、スマを茶化した。

「僕達で、フリースターを撃破しましょう。」

スマが立ち上がり「僕の話をきちんと聞いてください。」と、言った。

潤が「前を隠した方がいいですよ。」と、スマを茶化した。

「もう、分かりました。」

スマの悲鳴が、大浴場に響くのだった。


3機のフリースターが、レッドスターを目がけて急降下してくる。

まるで刈りを楽しむかのように、不邪気にフリースターは戦闘に入る。

「前方より、フリースターが来ます。」と、里桜が言う。

「マジックバリアを展開。受け止める。」と、駿が防御に徹する。

フリースターがマジックバリアにぶつかると、すぐに上空に舞い上がる。

「意外と引き際がよろしいようで。」と、駿が言う。

全てのフリースターが、ファイアウォールを唱え、投げ込んでくる。

「これだけの数を打ち込まれたら、厳しいな。」

駿がマジックバリアを展開することに集中する。

「本当に遊んでるんじゃないんだから。」と、里桜が怒る。

「フリースターを撃破するには、疑似無限魔法炉を破壊するしかないよな。」

「それしかないと思います。本当に厄介でイヤになる。」

1機のフリースターが前から突進してくると、レッドスターが跳び箱を飛ぶように、フリースターの背中に手をつけて、受け流した。


勇児がホワイトスターを見上げていた。

「レッドスターに代わるホワイトスター。新鮮でもあり、懐かしくもあるな。」

光太が勇児を待っていたかのように、ホワイトスターのコクピットから降りてきた。

勇児が光太を抱きしめる。

「相変わらずだね。君は。」と、光太がささやく。

「スマのことをありがとう。」と、勇児が礼を言った。

光太が首を横に振る。

「結局、君はスマのことを受け入れることはできない。」

「それでも、スマのことは好きなんだ。」

「中途半端な好意は、他人を傷つける結末を知っているのに、繰り返す。それが未完成な生物であるヒトということなのか。」

光太がホワイトスターを勇児に差し出す。

「僕は、僕の最後の定めを果たしに行く。この機体は、好きにしてくれるといい。」

光太からホワイトスターを受け取ると、勇児が頭を下げる。

「ありがとう。」

勇児が服を脱ぎ捨てると、ホワイトスターのコクピットに入る。

ホワイトスターが目を閉じると、赤銅色に機体が変化していく。

「レッドスターの偽物と化すか、それもいい。」


里桜が駿に魔力を注ぎ続ける。

「これじゃあ、きりがないな。」

駿がフリースターにファイアウォールを何発も打ち込む。

フリースターはそれをあざ笑うかのように、マジックシールドで受け流す。

「このままじゃ、こっちの魔力が尽きてしまう。」と、里桜の息が上がる。

「一か八かやりますか。」と、駿が言うと、里桜が頷いた。

二人の魔力が融合し、あたりが不気味に暗くなり、怪しい力が漂う。

「古より続く火の力。人間に文明をもたらした火の力の神よ。滅びを恐れん汝の力を今解き放ちたまえ。ゴッドファイアー。」

駿と里桜が魔力を融合させて、空を舞うフリースターに攻撃を仕掛ける。

フリースターが展開するマジックシールドは、一瞬に破壊され、フリースターが炎に包まれる。そして、フリースターが声なき声をあげて、苦しんでいる。

フリースターの疑似無限魔法炉が1つ爆発をする。

「やったか。」と、駿がほっとした顔をする。

そして、また疑似無限魔法炉が1つ爆発をする。

「さすがに数機は、堕とせたんじゃないかな。」

里桜が希望的な観測をしている。

さらに、疑似無限魔法炉が1つ爆発した。

「なんとか、3機は堕とせたが。現状は、あまり変わらずか。」


莉久はホワイトスターが起動したことを確認する。

「私は勇児を信じて、待っています。」


冴島がホワイトスターを見て、笑っていた。

「同じエンジェル計画だと思っていたが、とんだ思い違いだったな。」

冴島がブラックナゴヤに搭乗すると、東京の地下に降りる。

龍雅と誠一と陽が、量産型ナゴヤに搭乗する。

「私たちもお供します。」

「そのつもりだ。」

ホワイトスターとブラックナゴヤがすれ違う。

「冴島。申し訳ないが、自分の願望を叶えさせていただく。」

勇児が冴島に挨拶をした。

「遠藤代表。最後の悪あがきをさせていただく。」

ホワイトスターが地上に向かっていった。

最下層の途中で、莉久の姿を見かける。

「幸運の女神は、君だったということか。」

莉久が冴島に軽く頭を下げた。

「ファーストシールドを預からせて頂こう。」

冴島が最下層に到着すると、ファーストシールドを装備する。

ファーストシールドは白銀に光り、誰かを待っていたかのようだった。


東京上空にホワイトスターが現れると、フリースターが東京に向けて飛んでいった。

ホワイトスターが赤い柱を走らせて、東京を赤く染めた。

白く浄化された世界が赤く染まり、白い動物が赤褐色色に姿を変えていった。

「完全な浄化を始めるとしよう。」

ホワイトスターが魔法で白い球体を創造し、赤く染まっていく東京に投げつけた。

シン東京連合の基地が丸裸にされていき、人類浄化計画の爆心地が姿を現した。

赤褐色色となった化け物が、ホワイトスターに近づいていく。

「さあ、夢の続きを始めよう。」と、勇児が言った。


「ホワイトスターを依り代にするつもりなのね。」

里桜はホワイトスターが東京上空に現れて、呆れた顔をした。

「俺たちも東京に向かうしかないな。」と、駿が言った。

「もちろん、そのつもりだよ。」


光太は駿と里桜の到着を待っていた。

「さあ、三田みた 駿しゅん。最後の儀式の時間だ。今度の君は、何を望むのかな。」



***


読み終わったら、聞いてもらいたい曲


『TIME IU ON MY SIDE』lisa


***


本作品の本編は「シン・ブラザー大戦」です。


https://ncode.syosetu.com/n4978ht/


***


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