Chapter 8: Where the Mistress Goes
スマが金城ふ頭の海岸を歩いていた。
光太がスマを見つけて、一緒に海岸を歩く。
「質問です。光太は、どうしてホワイトスターで戦うんですか?」
光太がスマを見て、微笑んだ。
「スマは戦うことに、理由をもとめているのかい?」
「僕は成り行きで、戦艦グリーンに来たから、理由はないです。」
「今のスマには、戦う理由が必要なのかい?」
白く染まる海水を、光太が蹴り上げた。
「どうして、僕のことを、そう思うんですか?」
「何ももとめなければ、傷つくこともないだろう。今のスマは、自分の思いに傷つけられている。だから、今は僕の隣にいる。」
「ヒトと関わることで、何かを感じることは、今まではなかった。けど、戦艦グリーンの時間が、僕を変えてしまった。」
「スマは変わりたくなかったのかい?」
光太が、スマの手をギュッと握りしめる。
「こんな気持ちを知ることができて、嬉しいと感じることと辛いと感じること、両方です。」
「スマは駿を独り占めできないことが辛いんだね。」
スマが、光太の手を握り返す。
「けど、今は、光太がいるから、大丈夫です。」
光太が、スマの頭を軽く撫でた。
成田と五十嵐と冴島が、最近の光太の行動を確認している。
「ビショップストーンの少年を、こちらに連れ込むとは。」
「シン東京連合の戦力が低下することは、よいことであります。」
五十嵐が成田に答えるが、冴島は二人とは違う反応をしていた。
「しかし、光太はどうして、スマを名古屋に連れ込めたのでしょうか。」
「理由など、どうでもいいことだ。」と、五十嵐が冴島の言葉を遮った。
しかし、冴島はその答えを知っているようにも見えた。
「名古屋の動きが活発のようだが。」
冴島は「内政が混乱しているようです。キララの演説の効果もあったようです。示度博士がどのように動くか、注視しなければなりません。」と、言った。
五十嵐が「姫を利用したことは、やはり正解だったな。」と、笑った。
「しかし、四方八方を敵に回すことは、同意しかねます。」
冴島が状況を冷静に見ている。
成田も仙台シン魔術国に喧嘩を仕掛けたことには、疑問が残っていた。
「わが国も勢いだけでは、乗り越えることができない。今後は、慎重な行動をもとめる。」
成田が「了解しました。」と、答えた。
キララが演説会場から出てくると、光太が彼女を待っていた。
「君は、何を望んでいるのかい?」
光太がキララに問う。
「私は、国民の平和を望んでいます。」
「この国の真実を知らずに、民に呼びかける姫は、大罪だね。」
後から、五十嵐がやってきて「どうかしましたか?」と、キララに言った。
「いえ。」
光太がキララに軽く会釈をした。
キララが去ると、冴島が光太に近づく。
「与えられた役割を果たさせられる姫。」と、冴島が言った。
「ああ。そういうことのようだ。」
「ところで、博多魔術国の計画は次の段階に入っているが。」
「ベリーショートだけで、示度博士の計画が完遂するとは思えません。」
「それでは、放置するということでよろしいのかな?」
光太が「ええ。僕の出番は、その後のようですから。」と、答えた。
「それまでは、自由にやらせてもらえるということかな?」
「私が貴方を指揮することはできません。私は、ただのジェミニですから。」
スマが光太の部屋を訪ねた。
「ホテルに泊まっていたんじゃなかったのかい?」
光太がスマに微笑みかけた。
「いや。居心地が悪くて、光太に会いたくなりました。」
光太がスマを手招きする。
「ご褒美がほしいのかい?」
光太がスマの頬にキスをする。
「接吻なんて、もとめてないです。」
「キスというんじゃないのかい。接吻という言葉を使うと、かえって、いやらしいと思わないかい?」
光太がスマを挑発した。
光太の指が、スマの頬をなぞった。
スマの顔が赤く染まると、光太がスマの唇を奪った。
「別に、こういうことをしたくて、光太に会いに来たわけじゃないです。」
「スマの唇は、僕をもとめているようだけど。」
スマが光太の唇を奪うと、舌を絡ませた。
「独りでいると、嫌なことを思い出すから、一緒にいたいんだ。」
光太がスマの頭を撫でると、ふくらはぎから太ももを撫でた。
「光太に撫でられると、落ち着く。」
光太の顔が、さらに赤く染まった。
「本当は、駿にもとめられたかったのかい?」
「どうして、光太は僕の心の中を知ることができるんですか?」
「どうしてなんだろうね。」
「光太と戦った時に、光太は僕の過去を見て、僕がどういう存在か知っているのに、どうして、僕を抱いてくれるんですか?」
「スマは、僕と戦ったのに、どうして、今、こうやって甘えてるのかな?」
スマが「質問を質問が返すのは、ルール違反です。」と、光太に応えた。
光太がスマの腰に手を回す。
スマが光太の胸に、頭をこすりつける。
光太が指で腕を撫でると、スマは光太のシャツを持ち上げる。
「良い匂いがする。」
スマは光太の胸部を、舌で撫でる。
光太がスマのズボンを下し、太ももを撫でた。
「スマの体温が心地いい。これがヒトの温もり。」
「僕のことを、もっと感じ取ってほしい。」
スマは、光太が満足するように、買春をさせられた頃の技を思い出して、酬いた。
スマが疲れて寝てしまい、目を覚ますと朝になっていた。
「まぶしい。」と、スマが目を覚ます。
「おはよう。」と、光太が頬を指で押す。
スマが光太の顔があまりに近いので、恥ずかしくなった。
「朝ごはん、作りますね。」
スマが立ち上がると、体がフラフラして、布団に倒れる。
光太が笑うと「もとめすぎるからです。僕が朝食をつくります。」と、キッチンに行った。
スマは「そういうことを、はっきり言わないでください。」と、照れた。
僕がもとめていた生活が、名古屋にはある。
光太と一緒に暮らすことで、僕の心が満たされている。
見知らぬ男に抱かれた時にはなかった幸せ。
どうして、今も男に抱かれているのだろうか。
普通の恋愛をしても良いはずなのに。
誰かにすがりたいだけ、甘えたいだけなのかもしれない。
今、そういうことを何も考えず、ここにいられたら満足だった。
スマがホワイトスターの前に立つと、光太のことを考えていた。
「ホワイトスターがなければ、光太は戦争から解放される。」
スマがホワイトスターに手をのせると、頭の中に閃光が走った。
「ホワイトスターにも意志があるんですか?」
「光太は、定められた運命を歩む存在。」
「定められた運命?」と、スマが言った。
「幾度と繰り返された呪縛を歩む存在。」
「僕達と同じ存在?」
「君たちは光。光太は対になる闇。」
「どういう意味ですか?」
「君たち兄弟は、常に生まれる存在。私たちは、常に生まれない存在。」
「僕には理解できません。」
ホワイトスターが白く輝くと、スマが我に返る。
「光太を守る力が必要ですか?」
スマが力であるスカイブルーを心で思う。
スマの体を、青い光が包んでいく。
青い光に誘われて、スカイブルーが姿を現した。
「僕に戦えというんだね。スカイブルーは。」
スカイブルーの優しい青い光が、スマを覆う。
「分かりました。僕は戦って、今の幸せを守ります。」
「仙台シン魔術国より、戦艦紅がこちらに向かっています。」
冴島が兵から報告を受ける。
「迎撃の準備をする。」と、冴島が指揮を執る。
「こちらは出撃準備が完了しています。」
真理子が、奈々と恵理の状況を含めて、冴島に報告をした。
冴島がそれぞれの配置場所を指定する。
「三人には、兵の指揮を執ってもらいたい。それぞれの配置場所において、周辺のヒト型兵器を含めた戦力に対する権限を委譲する。」
真理子が「よろしいのですか?」と、冴島に問う。
「相手がどの程度、本気なのか図り掛けている。現場での対応が妥当と判断した。」
奈々が「了解しました。」と、返事をした。
光太がホワイトスターの前に立つと、スマがスカイブルーの前に立った。
「スカイブルーを呼び出したのかい?」
「光太を守る力がほしいと思ったから。」
「ありがとう。」と、光太が笑った。
「ところで、光太は出撃しなくていいんですか?」
「私は、彼らとは独立した権限を与えられています。」
ホワイトスターが、何かに反応をする。
「彼らがやってきます。」
恵理がヒト型兵器天で、仙台シン魔術国を待ち構えている。
戦艦紅が、ヒト型兵器天の前に現れる。
「くじ運が悪いみたいです。戦艦紅を目視しました。」
恵理の近くにある迎撃ミサイルが発射される。
祐右が「これぐらいであれば、耐えられる。」と、ミサイルを避ける。
ヒト型兵器笹蒲が、前に飛び出してきた。
優子が「ファイアーアロー。」を唱え、恵理が「ウォーターボム」で応戦する。
互いの魔法がかき消しあう。
ヒト型兵器笹蒲が、超電磁ナイフでヒト型兵器天を襲う。
「これで、どうよ。」と、優子が勢いで攻撃する。
「これぐらいであれば、受け止められます。」
恵理が光化学サーベルで、超電磁ナイフを切り払う。
「機動性が高い。けど、私が負けることはない。」
優子が光化学ライフルに持ち帰ると、ヒト型兵器天に打ち込む。
「ライフルならば。」と、優子が攻撃する。
「雑な攻撃です。」
ヒト型兵器天が大空に舞い上がると、ヒト型兵器笹蒲を捕捉する。
「今度は私の攻撃の番です。ライトニングボム。」
ヒト型兵器笹蒲の四方八方に、光の爆発が起きる。
「回避できない。けど、負けられないのよ。」
祐右が「冷静に対応してください。」と、優子に声をかけた。
「分かっているわ。万偉人の仇を打つまでは、負けられないのよ。」
ヒト型兵器笹蒲に、優子の魔力が纏わりつく。
「私だって、ライトニングボムぐらい使えるんだから。」
ヒト型兵器天に目掛けて、ライトニングボムを投げつける。
「これぐらいの攻撃。受け止めてみせます。」
恵理が光化学シールドで、攻撃を受け止める。
「ただのライトニングボムではない?」と、恵理が疑問を抱いた。
ライトニングボムがシールドと衝突すると、光のエネルギーが、シールドのエネルギー内部に入り込む。シールドの内部が破壊されていき、粉砕されていった。
「私は、絶対に負けられない。」
ヒト型兵器笹蒲に、迎撃ミサイルが集中砲火される。
「私も、絶対に負けられない。」
恵理が、優子の言葉をかき消した。
「貴方は、私の大切な人を奪った。だから、私は許せない。」
「敵同士であれば、殺しあうことは仕方がないことよ。たくさんの人を、あなたも殺してきたはず。」
「理屈じゃないのよ。」
祐右が後方の動きに気が付き「優子。避けなさい。」と、言った。
冴島が魔法弾を込めたミサイルを、ヒト型兵器笹蒲に打つ。
ヒト型兵器笹蒲の右腕に被弾すると、大きな炎柱が立った。
「後方支援。成功した。」
恵理が「冴島さん。ありがとうございます。」と、礼を言った。
祐右が「そのダメージでは、戦闘継続は不可能です。退いてください。」と、指示した。
優子は「後方から攻撃なんて、卑怯よ。」と、恨み節だった。
戦艦紅から、レッドスターが発進する。
レッドスターを確認した光太が、出撃しようとする。
「今回は、僕に出撃させてください。」
スマは、光太が出撃することを止める。
「どうしてだい?」と、光太が問う。
「いろいろと心の整理ができると思います。」
光太の腕を、スマが掴んだ。
「分かりました。」
「どうしたもんか。名古屋と戦うことになるとは。」
駿が自分の置かれている状況に、頭が痛かった。
レッドスターは積極的な交戦を避けていた。
「俺は何をしているんだか。」
レッドスターが、スカイブルーを確認する。
「また、どうして、スカイブルーがこっちに来るんだ。」
スカイブルーが、ブルーウェーブを唱えて、レッドスターを襲う。
「いきなり、攻撃してくるんですね。」と、駿が驚く。
「油断したら、こちらが堕とされます。」
レッドスターが大波に呑まれ、後方に押し流される。
「少しは時間稼ぎができるかな。」
駿が呪文を詠唱し始めると、スカイブルーが機動性を活かして、すでに近距離にいる。
「駿。すいません。ここはやられてください。」
「スマ。どういう事情か分からないが、こちらも墜ちるわけにはいかない。」
スカイブルーが氷の刃を創造すると、レッドスターに詰め寄る。
「こちらの方が、機動性は上です。」
「さて、それで上手くいくかな。マジックバリア。」
レッドスターから、6つのマジックバリアが展開され、スカイブルーの四方を囲む。
「攻撃魔法ではない?」と、スマが驚く。
6つのマジックバリアが、スカイブルーに近づき、機体を封鎖する。
「これで、しばらくは攻撃できないだろ?」
「逆にいえば、駿も攻撃ができないと思います。」
「まあ、そういうことになるけどな。」
駿が戦況を確認すると、今しばらく、時間がかかることを察する。
「まだ、時間がかかりそうだな。スマ、俺と戦うのか?」
「申し訳ありません。今は、守りたい人がいるので。」
駿がスマに笑って「幸せなら、それでいい。」と、言った。
スマの心が揺れると、それを拒否するように魔力があふれ出た。
「駿は、いつもズルいと思います。」
スカイブルーからピンク色の光があふれ出る。
マジックバリアが、ピンク色の光に染まると、溶けていった。
「さすがだな。あっという間に、崩壊させるとは。」
スカイブルーが、レッドスターにナイフを突き刺そうとする。
「あれ、間に合わないか。」
スカイブルーが、レッドスターに接近するとナイフが消失した。
「スカイブルーが、僕を裏切った?」
スカイブルーの手がレッドスターを触れると、二機が共鳴し始める。
「僕は、今の幸せを大事にします。」
「スマは、それでいいと思う。」
「どうして、僕のことを責めないんですか?」
「俺は、身勝手な兄貴だからな。」
「本当です。いつも自由で、思う通りに行動して。」
「どうして、スマは名古屋にいるんだ?」
「僕を受け入れてくれる人がいるからです。」
「僕を?」と、駿が聞き返した。
「僕だけを見てくれる人がいるからです。」
「それは、嘘だな。」
「どうして、そんなことを言うんですか?」と、スマが泣きそうになった。
「ヒトは一人では生きていけない。たくさんのヒトと関わらないと生きていけない。だから、その僕だけというのは、嘘だよ。」
「それでもいいんです。今だけでもいいんです。偽りでもいいんです。やっと見つけた、僕だけの幸せだから。もちろん、永遠に続くものでないことも分かっています。見ないようにしていることもあります。それでも、今は、この瞬間を大切にしたいんです。だから、駿とも戦っているんです。」
「俺は、スマのこと、大切な弟だと思う気持ちは変わらないから、その幸せが終わったら、戻って来いよ。」
スカイブルーが、起動を停止した。
「どうして、動いてくれないんですか。」
ホワイトスターが、スカイブルーを迎えに来る。
レッドスターがホワイトスターを確認する。
「櫻木 光太。レッドスターの件は、感謝している。」
駿が光太に礼を言った。
「また、会えましたね。」と、光太が駿に微笑む。
「迷惑ついでに、スマのことを頼む。」と、駿が光太に頼みごとをした。
「分かっています。それが僕の運命ですから。」
戦艦紅が撤退信号を出した。
「タイミングがよろしいようで。」と、駿が撤退していく。
スマはスカイブルーを必死に動かそうとしている。
「待って。レッドスター。」と、スマが駿を止める。
「今は、決着の時ではないようです。」
ホワイトスターは、何もせずレッドスターを見送った。
「レッドスターを撃破しなくていいんですか?」
「今、レッドスターを撃破することは難しいようです。」
「やってみないと分かりません。」と、スマがムキになった。
「レッドスターは、ワイズストーンの担い手だよ。すべての知恵を授かる機体。そして、レッドスターは、その力を解放しようとしている。そのきっかけを与えてしまえば、私たちには勝算はありません。」
「すべての知恵を授かる機体ですか?」と、スマが気に掛ける。
「ビショップストーンは、癒しの力。マジックストーンは、攻撃の力が宿る魔石。スマも分かり始めているんだろう?」
光太にそう聞かれても、何を言われているか、スマには分からなかった。
「光太が、なにを言っているか、分かりません。」
光太がホワイトスターから降りると、スマのスカイブルーに手を置く。
スカイブルーのコクピットが開いた。
「スカイブルーが、レッドスターを恐れていたのか。」
光太がスカイブルーの状況を察した。
「光太の力で、コクピットが開いた。どうして。」
スマは光太の力を不思議に思っていた。
滝沢 龍雅が、指令室に入る。
「冴島さん。お待たせしました。」
真理子が龍雅を見て、目が点になる。
「どうして、龍雅が。」
「久しぶりだな。真理子。」
真理子が急に怒りだし「久しぶりだな。じゃないわ。」と、睨みつける。
「今日から、ここの配属となった。よろしく頼む。」と、冴島が言った。
真理子は余計にどうしたらよいか、戸惑った。
「もう、私の前には現れないんじゃなかったのかしら。」
「事情が変わったってことだ。仲良く頼むよ。」
「相変わらず、身勝手な奴。」と、真理子がさらに怒った。
キララが兵士たちに挨拶をしている。
キララとすれ違う兵士が「キララ姫。めちゃくちゃ綺麗だった。」と、言っていた。
奈々がキララのことを気遣う。
「最近、休みを取られていないですけど、大丈夫ですか?」
「私なら、大丈夫です。次は、どことの戦になるのでしょうか。」
「私には、検討がつきません。」
「先日、仙台シン魔術国との戦闘があったようですが。」
奈々は、恵理の戦闘について、話そうとしなかった。
千野 誠一が、キララを迎えにやってくる。
「キララ様。お迎えに参りました。」
「どうして、誠一が?」と、奈々が戸惑う。
「俺のセリフだよ。どうして、奈々がここにいる?」
「私は、護衛の任に就いているのよ。」
「その仕事は、五十嵐隊長より、自分が引き継ぐことになった。おまえは、ここまでってことだな。」
奈々が誠一を睨みつけた。
「今まで、ありがとうございました。」と、キララが奈々に礼を言う。
「それでは、こちらに来てください。」と、誠一がキララを連れて行った。
「どうして、誠一が現れるのよ。」と、奈々は怒鳴り声をあげた。
安楽田 陽が、恵理の部屋を訪ね、ドアを叩いた。
恵理が「どうして、陽がここにいるんですか?」と、目が点となった。
「今日から、ここの配属になった。」
「そういうことを聞いているわけではなくて。」
「一応、元カノだから、挨拶をした方がいいかなと。」
「施設で再開したら、驚くとは思いますけど。」
「そういうことだから。」
陽が部屋から離れようとすると、恵理が陽の手を取る。
「いきなり別れようって言われて、いきなり私の前に現れて、どういうこと。」
「どういうことってな。仕事だから。」
「そういうことなんですね。」と、恵理が陽の言葉を受け止めた。
「その感じだと、新しい彼氏はいないんだ。」
「いきなり、失礼だと思いますけど。」
「じゃあ、いないんだ。冴島の彼女って噂を聞いたから、そういうことなのかなって。」
「陽には関係ないと思うけど。」と、恵理が顔を背けた。
陽が恵理の様子を見て、恵理の手をといた。
「今日は、このあたりにしておきたいから。」と、陽がいなくなった。
奈々は慎吾の病室で、何も考えられずにいた。
「どうして、誠一が現れるかな。慎吾はどう思う?」
慎吾は意識がないから、返事はない。
「昔のことだから、気にすることないかな。」
奈々は自分の揺れる気持ちに、戸惑っていた。
スナック真理子は貸し切りの札を出し、真理子と恵理がいた。
恵理がウイスキーのロックを飲み始めると、真理子は日本酒を飲む。
「どういうことなんでしょうね。今更、戻ってくるなんて。」
恵理が、陽の身勝手な行動に怒りを覚えていた。
「龍雅も現れて、名古屋に配置換えになったなんて、驚いたわ。」
真理子も、恵理と同じ気持ちだった。
「それにしても、どうして、私たちの元カノが名古屋に配備されたのかが、不思議でならないと思わない?」
真理子が「それが問題だと思います。」と、恵理に同意した。
「私たちへの嫌がらせなのか、それとも、別の目的があるのか。」
恵理は、誰かに仕組まれたことであれば、その誰かを呪おうとしていた。
「冴島さんが知らないわけないと思います。私たちのことが重荷になったのかもしれません。それにしても、冴島さんが仕組んだとも思えませんし。」
真理子が、冴島のことを信じたいと思った。
「回りくどいことをするとは思えません。他の誰かの入れ知恵です。きっと。」
恵理も、冴島のことを信じたかった。
「けど、ここに来たってことは、陽のことが気になるのね。」
「そういう真理子だって、龍雅のこと気になっているんですよね。」
二人が顔を見合わせて、笑った。
「元カレに未練がないと思っていたんだけど。」
「真理子は、龍雅のことを吹っ切るために、この店を始めたのに。」
「今はお客さんの恋バナを聞いて、満足してるのに、邪魔しないでほしいです。」
「また付き合うことはないですよね?」
真理子は間髪入れず「ないです。」と、答えた。
「最近、冴島さんとも会えていませんし。どうなんでしょうね。」
「無人ヒト型兵器の開発に出遅れて、忙しいんだと思います。」
「よく考えてみたら、冴島さんの過去を、私たちはよく知りませんよね。」
「冴島さんは、私たちを拾ってくれた方。それ以前のことは、知りません。」
「私たちの過去は、知っているのに、不公平です。」
真理子がおかしくなって「不公平ですね。」と、言った。
「そんなにおかしかった?」
「不公平っていうのが、ツボにはまりました。」
「どうして?」
「なんとなく。私たちも、冴島さんに聞こうとしていませんでしたから。」
「まあ、確かに。今がよければいいかなって、思っていましたから。」
真理子が「そうよ。」と、おなかを抱えて言った。
龍雅が、真理子を待っていた。
「出勤。お疲れ様。」と、龍雅が声をかける。
真理子は無視をする。
「おい、無視はないだろう。」
また、真理子が無視をする。
龍雅が真理子の腕を取り、行く手を阻む。
「やめてください。」
「無視することは、ないだろう。」
「龍雅が、それをいう資格あると思います。」
「そういうのに資格は必要ないと思うが。」
「私のこと、バカにしてるでしょ?」
「第一艦隊にいるおまえを、バカにするやつはいないだろう。」
「やっぱりバカにしてる。手を離してください。」
龍雅が手を離そうとしない。
「俺から別れ話をしといて、今更ってやつか。」
「そうでしょ。だから、近づかないでください。」
「また、あらためるよ。」
龍雅が手を離した。
真理子は、何事もなかったかのように、まっすぐ前を見た。
しばらく歩き、龍雅が見えなくなる。
「大きな手、懐かしい。私、バカだと思います。」
キララの音楽祭に、スマと光太が招かれていた。
誠一が「お疲れ様です。お席は準備しております。」と、頭を下げる。
光太が奈々の姿がないことを確認する。
「そういえば、いつもの護衛の方はいないんですね。」
スマも奈々の姿がいないことに、気が付いた。
「彼女は、弟さんが大けがをして、看病していると聞いています。」
スマが「慎吾の様態は、そこまで悪かったんですか?」と、聞く。
「ええ。未だに目を覚まさないということです。」
「スマには伝えなくてはいけなかったね。」と、光太が謝る。
「もしも、お見舞いに行かれるなら、私も同席させていただけませんか。」
後方から、キララの声がした。
スマが「そうして頂けると、僕も助かります。」と、言う。
光太が「では、3人で伺うことにしましょう。音楽祭が終わり次第、伺いましょう。」と、話を進めた。
キララが「ええ。」と、すぐに答える。
「音楽祭も楽しみにしてます。」
スマはキララにそう伝えると、キララはスマに微笑みかけた。
キララの音楽祭が始まる。
「どうして、ヒトは、音楽に安らぎをもとめるのだろう。」
「音楽は、ヒトの心を和ませる道具だと、僕は思います。」
「ヒトには安らぎの時間が必要なのかい。」
「ええ。ヒトは、ヒトを傷つけてします。そのくせ、誰もいないと寂しがる。矛盾したモノなんです。寂しいと思うなら、最初から誰も傷つけなければいいのに。」
キララがスマを見て、手を振った。
スマがキララに手を振り返すと、会場がざわめいた。
「今日は、最前線で活躍してくれている櫻木 光太隊員が、会場にいらしています。そして、先日、仙台シン魔術国との戦闘で、レッドスターと戦い、わが国を守ってくださったスマイル・シンプル隊員です。」
スマが「僕の紹介して、大丈夫なんですか。」と、顔を隠す。
光太に対して、会場が歓喜の声をあげる。
光太がステージにあがると「ご紹介いただき、ありがとうございます。」と、頭を下げる。
スマは、ただ光太を見ていた。
「彼女の歌は、心を潤してくれる。今日は、彼女の歌で、日ごろの心の疲れを癒しましょう。」
光太が話し終えると、キララの人気曲がかかる。
「私と一緒に歌ってくださいませんか?」と、キララが小さな声で言った。
「ええ。かまいません。」と、光太がキララに返事をした。
キララと光太が歌い始めると、会場はさらに大きな歓声が上がる。
盛り上がりが最高に高まった。
会場の様子を、慎吾の病室から見ている奈々。
「私の居場所が、また一つなくなっちゃった。」
慎吾の手をギュッと握ると、奈々は苦しい気持ちになった。
「それに、どうして、誠一が。くそ。」
キララの音楽祭が終わると、光太がキララをステージ裾で待つ。
「ありがとうございました。」と、キララが先に声をかけた。
「ヒトは、歌の力で救われるということか。」
「ええ。そういうことです。」
キララは光太の言葉に、心が明るくなった。
「ヒトを先導した結末を、君は知っているのかい?」
「どういう意味ですか?」
「ヒトは自分が知ることが限られている。自分の知らないこともたくさんある。全知全能にはなれないから。」
「言っている意味が分かりません。」
「覚悟の問題だよ。気にしないでほしい。」
キララの表情が曇ると「はい。」と、答えた。
スマが光太を見つけると「よかったです。光太も。」と、声をかけた。
光太は「ありがとう。」と、スマに微笑んだ。
奈々が、慎吾の前でウトウトしていた。
キララが「お休みのところ、すいません。」と、奈々に話しかけた。
奈々が驚いて、椅子を倒しながら、立ち上がった。
「私、寝てました。それに、あの。キララ姫。」
キララが、いつものように奈々に笑いかける。
「どうして、お忙しいのに。」
スマが慎吾を見て「こんばんは。様態の方は。」と、奈々に尋ねた。
「この通りです。慎吾と共に戦ったことがある戦艦グリーンのスマですよね。」
スマが「ええ。以前は、名古屋の敵でした。」と、答える。
光太は慎吾を見て、何か考え込んでいる。
スマが慎吾の手を握り、回復を願った。
「スマの強い願いは、人々に癒しを与える。そう思わないかい。スマ。」
「僕は、慎吾が早く良くなってほしいと、そう願います。」
「それなら、その思いを一点に集中させるといい。」
スマが慎吾の手に、自分の願いを込めた。
スマから暖かな光があふれ出ると、慎吾を包み込んだ。
「これは、どういうことなのですか?」と、キララが驚く。
「ビショップストーンの力ということ?」と、奈々はスマに期待を抱いた。
慎吾の息が早くなると、苦しそうな声を小さく上げ、目を開いた。
「慎吾。目を覚ましてくれた。」
奈々の涙ぐむ姿と、大きな声が病室にあった。
「先生をお呼びします。」と、キララは病室の外に出た。
「これが、スマの力。ビショップストーンの本来の力だよ。」
「僕が、慎吾を助けたということですか?」
「癒しの力で、彼を救ったということだよ。」
スマは、光太が自分の力のことを、どうして知っているのかと思い、光太に対する疑問が深まるのだった。
陽が恵理を迎えに来た。
「どうして、またいるの?」と、恵理が陽を見る。
「慎吾が目を覚ましたそうだ。行くだろ?」
「奈々の思いが叶って、良かった。」
陽が恵理を、車の助手席に招く。
「ありがとう。」
恵理は、陽の助手席が懐かしく、恥ずかしかった。
しばらくの無言の時間が続く。
「あれから、どうしてた?」と、陽が声をかける。
「どうしてたって?」
「いや、俺が聞けた義理じゃないけど。」
「第一艦隊に昇格しました。」と、恵理はわざと陽のもとめる言葉を返さなかった。
「おめでとう。いや、そうじゃなくて。」
「陽とのことは、忘れることにしました。」
「俺は、恵理との思い出は大切にしてるよ。」
陽が、恵理がプレゼントした小指の指輪を見せた。
「どうして、小指の指輪をプレゼントしてしまったんだか。」
「俺が、嫌がると思った?」
「深い意味はなかったような気がします。」
「そうなんだ。俺、浮気性ではないよ。」
「どこから、そんな言葉が出るんですか。付き合ってる間に二けたは告白されて、断ってましたよね。」
「きちんと断ったってことは、浮気性じゃないだろ?」
「気を持たせるようなことをしたから、浮気性です。」
陽と恵理の目が合うと、二人は笑っていた。
陽が恵理の手を握ろうとすると、恵理は手を引いた。
「ダメ。」と、恵理が言った。
「俺が勝手に別れ話をしたこと。怒ってるよな。」
「もう終わった話だから。その話はするつもりありません。」
「あれから、誰とも付き合ってないから。」
恵理の心が揺れる。
「卑怯だよ。そういうこと、言うことが。いつも、身勝手で。」
「けど、そういうところに惹かれてくれたんだろ?」
「身勝手なことは知ってました。付き合う前から。」
「それでも好きになってくれて、ありがとう。」
「一度だけです。」
車が駐車場に到着すると、二人は慎吾の病室に急いだ。
「わざわざ、来てくれてありがとう。」
奈々が、恵理の顔を見て、喜んでいた。
「ところで、隣の彼は?」と、奈々が陽を睨みつけた。
「安楽田 陽と言います。いつも、奈々がお世話になっています。」
「だから、彼氏ずらしないでください。」
「いいだろう。元カレなんだからさ。」
「元だから、今は関係ない。」と、恵理が言い切った。
「あの。ご夫婦ですか?」と、慎吾が二人に割って入った。
「断じて違います。」と、恵理が慎吾を睨みつける。
奈々が、二人の様子を見て「なんだか、楽しそうでよかった。」と、こぼした。
冴島が、疑似無限魔法炉搭載機フリースターを確認する。
真理子と奈々と恵理が、呼び出される。
「仙台シン魔術国より、新型機がこちらに向かっています。」
「冴島さん。私たちが応戦します。」と、真理子がヒト型兵器に走り出そうとする。
「いや。今回は彼らの出番だ。」
真理子を制止すると、光太とスマが姿を現した。
「僕たちの出番です。」
「ホワイトスターとスカイブルーの活躍に期待する。」
奈々が「どうして、私たちじゃないんですか。」と、冴島を問う。
「彼らが適任者ということだけだ。」
「私たちが役不足だということですか?」
冴島の言葉に、恵理は不安を覚えた。
「君たちは、よくやってくれている。問題はない。」
「ホワイトスター、発信します。」
「スカイブルー、発信します。」
フリースターが、二人を待っていたかのように、声をあげる。
そして、魔力を増幅させていく。
「魂が残置されているヒトの創造したモノ。」
「すごく悲しい思いが伝わってきます。」
「浄化されることなく、あそこに留まらさせられているからかな。」
フリースターが、ホワイトスターにとびかかる。
ホワイトスターが地面に倒され、フリースターがのしかかる。
スマが「まるで、動物です。」と、フリースターに銃弾を打つ。
「悲しい魂の叫びか。」と、光太はフリースターの攻撃を受け止めた。
「どうして、反撃をしないんですか。」
「ヒトは何度も同じ過ちを繰り返す。だから、彼らが必要となった。」
ホワイトスターが、フリースターの手を受け止める。
スカイブルーが、フリースターに近づくと、スカイブルーが反応をする。
スマの目から、涙があふれだす。
「どうして、こんなに悲しい気持ちが流れ込むんだろう。」
フリースターの中にいる魂が、孤独を憎んでいる。
「僕は、この気持ちを知っている。そうか、この涙は、自分自身の。」
フリースターが、スカイブルーを侵食しようとする。
幼いころのスマが、スマの前に現れる。
「どうして、独りは嫌いなの?」
「一人は寂しくて、苦しいから、嫌いです。」
「けど、駿と触れ合って、また孤独を感じてる。」
「今は、光太がいるから大丈夫です。」
「じゃあ、光太がダメになったら、どうするの?」
幼いころのスマが、スマの頬に手をそえる。
「最初に戻るだけです。」
「喪失感がなければ、誰でも良いんだ?」
「そういうわけじゃない。」
「じゃあ、どうして、今は光太なの?」
「僕だけを見てくれるから。」
「それって、自分に都合のいいヒトをもとめてるだけじゃん。」
幼いころのスマが、等身大の自分となる。
等身大のスマが、スマの唇を奪う。
「僕は、君のことが好きだ。」
スマが「やめてください。」と、唇を離す。
「結局、僕は僕のことしか愛せない。だから、都合のよいヒトのところにいる。本当に、相手を好きだと思ったことが、ないんだよ。」
「そんなことはない。駿も光太も、みんな、好きです。」
等身大のスマが、駿に姿を変える。
「嘘つくな。」と、駿が言った。
ホワイトスターが、スカイブルーに近づき、フリースターとの共鳴を阻害する。
「フリースターの目的は、スマの魂ですか。」
ホワイトスターが、スカイブルーを白い光で覆う。
「さあ、スマ。僕のところに。」
光太がスマに手を指し伸ばす。
「また、僕は光太に助けられてる。」
「それじゃあ、今度は、スマが僕のことを助けてくれないかい。」
スマが光太を助けたいと思う気持ちを、ホワイトスターに集中させた。
「スマ。俺と一緒に来るんだ。」と、駿の声がした。
癒しの光が、光太を覆うと、駿の姿が消失していく。
フリースターに白い光を覆うと、疑似無限魔法炉が停止していった。
「この交戦は、ここまでだ。」
冴島のブラックナゴヤが、スカイブルーの前に立つ。
「やはり、そういうことですか。」
光太が冴島の行動に、納得をしていた。
「スマ。後退することにしよう。」と、光太がスマに言う。
「フリースターを撃破すべきです。」
「今は、やめておこう。疑似無限魔法炉を破壊するのは。」
「どうしてですか?」
「まだ、その時ではないということです。疑似無限魔法炉を破壊した場合の被害も、想像ができません。」
スマと光太が話し合っている間に、フリースターが仙台シン魔術国に帰っていく。
待機している真理子を、龍雅が会いに来る。
「疑似無限魔法炉搭載機の到来。こちらの計画が遅延しているな。」
「無人ヒト型兵器の投入は、私たちは反対ですから、そちらは。」
「他の二人は?」と、龍雅が話を変えた。
「待機命令に不服で、どこかに行きました。」
「戦うことが好きなのか?」
「そういう問題では、ありません。」
龍雅が真理子の余裕がない顔を見て「あんまり考えすぎるな。」と、言った。
「余計なお節介です。私にかまってる暇があったら、仕事してください。」
「今日の任務は、そちらは同じく出撃待機なので。」
「ちょっと、待ってください。そんな情報は、たしかなかったはず。」
「特務任務で、公表はされてないな。」
真理子は、冴島から知らされていない情報があることに、さらに腹を立てた。
「最近、私たちが知らないところで、軍が動いているみたいだけど、どうしてなのか、龍雅は知ってるの?」
龍雅は「知ってたとしたら、どうするんだ?」と、ニヤリと笑った。
「私に情報を提供してください。」
「ただってわけには、いかないだろ?」
「それ、どういう意味ですか?」
「質問を質問で返すのは、卑怯だな。」
龍雅が余裕の笑みを、真理子に見せた。
「強引なところは、相変わらずということかしら。」
真理子が、龍雅を呆れ顔で見た。
「そういうことだな。そういうところが、好きなんだろ?」
「頭、大丈夫ですか?」と、真理子が冷たく答えた。
奈々を迎えに来た誠一が、車にいる。
「キララ姫なら、お帰りになりましたよ。」
奈々は、それだけ言うと誠一を無視した。
「今日は、奈々を迎えに来た。」
「私を迎えに来るって、どういうこと?」
奈々は、誠一の気まぐれに付き合えないと思い、歩き始めた。
「ちょっと、待てよ。」
「待たない。」と、奈々は誠一を無視する。
誠一が車を止めて、奈々を追いかける。
「そこまで拒否することないだろ?」
「あります。」と、奈々が怒る。
奈々が誠一の頬を、平手で払った。
「勝手に別れ話して、勝手にいなくなって、勝手に現れて。」
奈々が誠一を睨みつけた。
「別れ話をしたのは、奈々が昇進することを知って、身を引いたんだ。」
「なにそれ。そんな話、してくれなかったじゃない。」
「いつも、気を使って、早く帰ろうとしていただろう。」
奈々は下を向いて、黙り込んだ。
「勝手にいなくなったのは、奈々に会いたくなる気持ちを抑えられなくなりそうだったから、いなくなった。」
「そういうのを身勝手っていうのよ。私の気持ちも知らずに。」
奈々が誠一の目を見て、目に涙を溜めた。
「勝手に現れたのは、会いたくなった。たしかに、身勝手だな。」
「バカだよ。こんな大変な時に、戻ってくるなんて。」
奈々が誠一の腰に手を回して、抱き着いた。
「本当は、いつも誠一のこと、考えてた。大丈夫かなって。」
「冴島さんのことが好きだったんじゃないのか?」
「誠一が居なくなった後、支えてもらった。だから、好きだよ。」
「そうだよな。」
「けど、冴島さんは、みんなの冴島さんだから。たまに寂しかった。」
「自分だけを見てくれる人が欲しいんだろ?」
「そうだよ。私が寂しがり屋だってこと、知ってるでしょ?」
「もちろん、知ってるよ。」と、誠一が微笑んだ。
奈々は慎吾が目を覚ましたこともあって、ほっとしていた。
誠一に誘われて、ホテルに向かった。
胸板の熱い誠一の体に、奈々は身を委ねた。
「まだ、私、怒ってるんだけど。」
奈々が誠一に怒って見せた。
「じゃあ、どうして、こうして、身を委ねてくれるんだい。」
誠一が奈々の腕を手で撫でた。
「変な触り方しないで。」
「こういうの、奈々、苦手だったよな。」
「変なことは覚えてるんだから。」
奈々が誠一の唇を奪うと、誠一の息遣いを確認した。
「やっぱり、誰かの特別っていいね。」
奈々は誠一の頬に手をそえて、目を合わした。
「奈々って、甘えん坊だよな。相変わらず。」
「誠一には、甘えん坊なの。」
誠一のわきの下あたりを、奈々は舌で撫でる。
「くすぐったいだろ。」
「誠一の弱点、私は知ってるよ。」
奈々は、誠一に笑って見せた。
二人は疲れ果てるまで、身を寄せ合っていた。
冴島が、無人ヒト型兵器の前に立つと、魔石を放り投げた。
魔石から強大なエネルギーが放出され、悲鳴をあげた。
名古屋の基地の天井を破壊し、魔法の柱が立つ。
その光景を遠くからキララが見て、倒れこんでいた。
スナック真理子に、龍雅が姿を現した。
「招かざる客ね。」と、真理子が龍雅を見る。
「真理子の知らない情報、知りたいんだろ?」
「知りたいけど、今は大丈夫です。帰ってください。」
龍雅が、真理子の言葉を無視した。
「おいしい日本酒が並んでるな。これ、もらうぞ。」
「商品を勝手に飲まないで。」
真理子が龍雅の手を取って、日本酒の注ぐのを止めた。
真理子の手が龍雅にふれると、龍雅が真理子の上にかぶさった。
「こうするの、何年ぶりだ。」
真理子が龍雅の胸をたたいた。
「なに、するんですか。」
「俺がいない間に、立派な店を出して、生意気だぞ。」
「龍雅がいなくなった、腹いせ。」
「なんだよ、それ。」
龍雅が真理子の唇を奪う。
「どうして、拒否しないんだ。」
「私って、損な女だと思う。」
真理子が龍雅を受け止める。
「ねえ、どうして戻ってきたの?」
「おまえが思ってる通りだよ。」
「やっぱり、冴島さんが。」
「真理子は、いつも頭がいいからな。」
真理子が龍雅の肩に手をまわした。
「もしかして、龍雅がいなくなったのって。」
「おまえの想像に任せる。」
龍雅の舌が、真理子の舌を絡める。
真理子は、龍雅のにおいを確かめるように、首筋をなぞった。
無人ヒト型兵器が、名古屋の基地から上昇していく。
冴島が、奈々に出撃命令を下す。
真理子は、音信不通となっていた。
誠一と陽が、量産型ヒト型兵器ナゴヤに搭乗する。
「待機命令とは、またまた。」と、誠一が陽に言った。
「本当に、冴島さんは人が悪いです。」と、陽が冴島を見た。
奈々が「ヒト型兵器ひつまぶし。発信します。」と、無人ヒト型兵器に向かっていった。
無人ヒト型兵器が、ごう音を鳴らして、ヒト型兵器ひつまぶしを睨みつける。
「見るからに、強そう。」
無人ヒト型兵器がサンダーボムを、ヒト型兵器ひつまぶしに放った。
空から雷が落ち、大地を焦がしていく。
「遠距離から、攻撃すれば。」
遠距離光化学ライフルで、無人ヒト型兵器を狙い撃つ。
しかし、無人ヒト型兵器の前に、マジックシールドが現れ、光が屈折して遠くに避ける。
「あんなに強いマジックシールド、どうやって打ち破ればいいのよ。」
コクピットに張られた慎吾と奈々の写真を、奈々は見る。
「私は、まだやられるわけにはいかないんだから。」
冴島のブラックナゴヤが、無人ヒト型兵器に遠距離光化学ライフルを打つ。
「私が支援する。」
「冴島さん。ありがとうございます。」と、奈々が言った。
飛行場にいる奈々。
「ごめんなさい。私が守ってあげたかったんだけど。」
慎吾のことをぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫。もうすぐ、この戦いも終わりが来るはずだからさ。」
慎吾が奈々に笑った。
「ここも、もう安全じゃないから、ごめんなさい。」
「それは、大阪も同じだよ。俺が戻っても、居場所はないだろうから。」
「私がしてあげられるのは、シン東京連合に移送することぐらいしか。」
「姉さんの気持ちは、伝わってるから。ありがとう。」
奈々と慎吾は、早すぎる別れに、強く抱きしめあった。
誠一が「時間です。急いでください。」と、慎吾に告げる。
「千野さんも、本当にありがとうございました。」
誠一は首を横に振った。
慎吾が輸送機に搭乗していく。
「生きて、会いに行くから。」と、奈々が声をあげた。
慎吾が最後に振り返ると、軽く会釈して、輸送機の中に消えていった。
それからすぐに、輸送機が飛び立っていった。
「ありがとう。誠一。いろいろ、手配してくれて。」
「自分にできることは、これぐらいしかないからさ。」
奈々が、誠一の手を握った。
「死んでいると思っていた弟と再会できて、よかったな。」
奈々は「本当にありがとう。」と、誠一に口づけをした。
スマと光太が、山奥の旅館に泊まっていた。
敷布団に、スマが寝転んでいると、光太が隣に寝た。
「僕の力は癒しの力だったんですね。」
スマが光太に、あらためて聞いた。
「スマの力は、癒しの力。ヒトの心の傷を癒すこともできる。」
「自分のことも癒すことができるんでしょうか。」
光太がスマの手を握る。
「僕のことも癒してくれないかい。」
「どうやって?」と、スマが意地悪を言う。
光太がスマの背中を指でなぞり、スマの反応を楽しむ。
「そうやって、ヒトを困らせてはいけないよ。」
「いつも、僕のことを戸惑わせているのは、光太じゃないですか。」
スマが光太の口をふさぐと、愛を確かめ合った。
「いつも、君は甘えるのが上手だね。」
「こんなことするの、光太が初めてだよ。」
「僕は、スマの初めてを、いつも受け止めている。光栄だよ。」
「また、不思議なことを言って、戸惑わせないでください。」
光太の太ももを、スマが下でなでる。
スマは光太の体を欲して、光太の体を撫でまわす。
「僕は君のものだよ。」
「ありがとう。」
光太の体温を感じて、疲れきるまで愛し合い、二人は眠りについた。
「こんな時に、龍雅とここにいるなんて、第一艦隊、失格ね。」
真理子が龍雅の背後にある、空を見た。
「俺たちは、兵士、失格だな。」
露天風呂につかる真理子と龍雅。
「こんなに空が荒れてるのに、私たちって、酷いことしてますね。」
「ヒトは自分の幸せを優先する権利はあるさ。」
龍雅が真理子に微笑んだ。
無人ヒト型兵器が暴走を続け、ヒト型兵器ひつまぶしが、ダメージを受けている。
「このままじゃ。耐えきれない。」
奈々が、無人ヒト型兵器の攻撃を光化学シールドで必死に受け止める。
「仕方がない。」と、冴島が言うと、基地の下層部に降りていく。
「冴島さん。出撃させていただきます。」と、誠一が言った。
「少しだけ、時間を稼いでくれ。」と、冴島が答えた。
量産型ナゴヤがヒト型兵器ひつまぶしをかばう。
「これで少しは、時間稼ぎできるだろう。」
「ありがとう。誠一。」と、奈々が誠一に礼を言う。
無人ヒト型兵器が、火柱を立て、ファイアウォールを唱える。
辺りが火の海となり、機体を傷つける。
「冴島さんを信じて、今は防御に徹しよう。」
「わかったわ。」と、奈々の声が明るくなった。
ブラックナゴヤが基地の下層部に到着すると、ファーストソードの前に立つ。
「これを、私が使う時が来るとは。」
ファーストソードを装備すると、戦場に戻っていった。
戦艦紅が、ヒト型兵器の暴走を見守りに、名古屋の空に現れる。
「次こそ、復讐してやる。」と、優子が出撃する。
「冴島さん。こっちは出撃します。」と、陽が出撃する。
それに続いて、恵理が「冴島さんの計算通りです。こちらが先行して、応戦します。」と、ヒト型兵器天が出撃した。
「ああ。計画通りに頼む。」と、冴島が応答した。
無人ヒト型兵器が暴走を続けて、街を火の海に変え、氷の街に変え、雷を落としたりする。
奈々が「どんどん、街が破壊されていく。」と、防御しかできない自分を呪う。
誠一が「あと少し、耐えるんだ。」と、奈々を気遣った。
さまざまな魔法を受け止めてきたが、機体が限界に近づく。
そこにブラックナゴヤが現れ、無人ヒト型兵器が創造する魔法を切り払う。
ファーストソードは、無人ヒト型兵器の魔法をあざ笑うかのように、次々と、攻撃を無効としていく。
「あれが、ファーストソードの力。」と、奈々は驚いていた。
無人ヒト型兵器に到達すると、無人ヒト型兵器の胸部に、ファーストソードを押し込んだ。
無人ヒト型兵器が制止すると、地上に真っ逆さまに落ちていく。
冴島が誠一に何かを告げる。
量産型ナゴヤが光化学サーベルを、ヒト型兵器ひつまぶしの背部から胸部を刺し通す。
「どうして。誠一が、私のことを。」
「ごめん。これが、冴島さんとの約束だったんだ。」
「私とのことは嘘だったってこと。」
「奈々のことは好きだったよ。」と、誠一が笑う。
「冴島さん。どうして。」
冴島は何も答えてくれない。
「やっぱり、愛人って柄じゃなかったかな。」
慎吾の写真を手に取ると、奈々は笑った。
「最後に会えて、嬉しかった。ありがとう。慎吾。」
ヒト型兵器ひつまぶしが爆発を起こし、量産型ナゴヤが後退する。
「しかし、冴島さん。こんなことしたら、地獄に落ちますよ。」
「私は何回も地獄に落ちている。」
誠一が「そうですか。」と、基地に戻っていった。
ヒト型兵器笹蒲が、ヒト型兵器天を遠距離光化学ライフルで狙い撃つ。
「この射程なら。標準を合わせて、ロックオン。打ちます。」
優子が恵理に、万偉人の仇を込めて、一直線に光線を放った。
「たしかに。当たる可能性はあります。けど。」
ヒト型兵器天の機動性を活かして、攻撃を避ける。
「もう一発。」と、次の攻撃を打つ。
「この射程だと、こちらが不利か。」と、恵理がヒト型兵器笹蒲に近づく。
優子は待っていたかと、武器を持ち構える。
「そうでないと。」と、恵理がファイアーアローを放つ。
「攻撃の方法は、何でもありということですか。」
恵理が光化学シールドで、攻撃を受け止めた。
「簡単にはやらせてくれはしないよね。」
優子が超電磁ナイフに、氷系魔法を詠唱した。
ヒト型兵器笹蒲が、ヒト型兵器天に突進する。
氷のナイフが、ヒト型兵器天の左足を切り落とした。
そして、光化学サーベルが、ヒト型兵器笹蒲の左腕を切り落とす。
「どういうことなの。」と、優子が目の前の光景を疑った。
ヒト型兵器天の背後から胸部に、光化学サーベルを突き通す量産型ナゴヤ。
「ごめん。君の復讐は、ここでおしまいです。」
優子が、陽の言葉にイラっとした。
「なに、どういうことなの?」と、優子が陽に応える。
「陽。どうして、こんなことを。」
「恵理のことは、忘れません。」と、陽が恵理に応える。
「陽。私のこと、愛してくれてた?」
「二人の思い出は、嘘ではありません。」
恵理が「生まれ変わったら、今度は結婚してね。」と言うと、機体が爆発した。
「戦艦紅は、撤退しますか。」と、陽が問う。
「こういうことなのね。名古屋って、本当に嫌なところ。わかったわ。」
戦艦紅に、ヒト型兵器笹蒲が撤退していった。
スマは、光太とその映像をベットで見ていた。
「ヒトがいなくなっていく。」と、光太が呟く。
「光太は行かなくて、いいんですか?」と、光太の手を握る。
「行けと言われれば、僕は行くよ。」
「逆に、僕が行けと言われれば、光太についていきます。」
光太がスマの体をもてあそばしながら「もう少し、こうしたいんだろ?」と聞いた。
「意地悪。」と、スマが答える。
「二人の時間を楽しんでいたから、ごめんなさい。」
スマが素直に、光太に気持ちを伝えた。
ブラックナゴヤの格納庫で、冴島を待つキララ。
ブラックナゴヤが基地に戻ると、キララは銃をひそめて、冴島を待つ。
冴島がブラックナゴヤのコクピットから飛び降りた。
「キララ姫。お出迎えですか。」
キララが、冴島に銃を向ける。
「無人ヒト型兵器を操っていたのは、あなたです。不要な兵器を、名古屋に持ち込んだのも、あなたなのでしょ。そして、私の友である奈々を殺害したのも、おそらくあなたです。」
「さすがです。人々に真実を伝える国民の味方。そして、人々に希望を与える国民的アイドル。そのことを知って、どうするおつもりですか?」
冴島が、キララに銃を向ける。
「私は、真実を伝えます。」
キララが銃に手をかけるが、手は震えていた。
「姫には、銃は似合いません。」
銃声が2回すると、キララがその場に倒れた。
床が血の海と化し、キララの服を赤く染めていった。
「私がしたことは、人々を戦いに向かせたことだけだったのかもしれません。」
「ヒトの希望は、優しさを与えるものも、傷つけるものもある。姫は、前者だけを信じて、人々を導いてくれた。感謝している。」
キララが軽く笑って「世間知らずの、お姫様だったってことですね。」と言うと、息を引き取った。
量産型ナゴヤ二機が戦闘を終えると、成田のいる王室に向かった。
「結局、私は示度博士に踊らされていたようだ。」
陽が「示度博士の計画は成功したようです。」と、成田に言う。
「まだ、彼の夢は叶っていないようだな。」
誠一が「黒き夢物語。最終段階にあると思います。」と、言う。
「結局、私は何もすることができなかったようだ。」
「この国を守っていただいたことは感謝します。」
陽が敬礼をする。
誠一が、成田に銃口を向ける。
そして、成田は火の中に消えていった。
「さて、冴島さん。真理子のことは、どうするつもりなんですか。」
陽が名古屋共和国の最後を見守ることとした。
「夜が明けたわ。」と、真理子が朝焼けを眺める。
龍雅は疲れて寝ている。
「本当に、身勝手な男。」
龍雅の体に、真理子は口づけをした。
「偽りの愛でも、後悔はしていないわ。」
龍雅は目を覚ます様子がない。
「私をここに連れてきたのは、善意それとも悪意。それもどちらでもいいわ。私も行かないといけないんでしょ。冴島さんのところに。」
龍雅の腕を触ると、真理子は着替えて、基地に戻った。
「ありがとうございました。龍雅。」
スマと光太も朝焼けを眺めていた。
「明けない夜はないか。」と、スマが呟く。
「どうしたんだい?」と、光太がスマの顔を見る。
「嫌なことがあっても、夜が明けると、また新しい一日が始まる。当たり前のことだけど、僕は救われた。夜のことを忘れられるから。朝焼けが、僕のことを癒してくれたんです。戦艦グリーンにいたときは、朝焼けを見ることなんて、なくなってたから、いろいろ思い出しました。」
「スマにとっての癒しは、明日の希望なのかい?」
光太が、少し不満そうにスマに問う。
「どうなんでしょうか。また同じことを繰り返すと思う日もあれば、新しいことが訪れると思う日もあります。今回は、どちらなんでしょうね。」
「古の記憶が戻ったのかい?」
「記憶が戻ったわけではありません。光太に甘えていたら、駿と同じことを繰り返してしまう。光太に愛されて、もっと怖くなったんです。だから、僕は僕の世界を、きちんと築かないといけないんだなって、思いました。」
スマは光太が、自分のところから居なくなるような気がしていた。
スマなりの心の準備をしようとしていた。
「けど、最後かもしれないから。もう少しだけ。」
スマが光太に甘えると、光太がスマの唇を奪い、白いシーツをクシャクシャにした。
冴島のブラックナゴヤの格納庫に、真理子が現れた。
「真理子は来てくれると思っていたよ。」
冴島が、真理子を明るく迎え入れる。
真理子が、冴島に銃口を向ける。
「奈々と恵理は、どうして死ななければならなかったんですか?」
「この名古屋共和国は、滅びゆく運命だということだよ。」
「私たちは、いつも一緒に戦ってきました。冴島さんのことも信じたいと思う気持ちもあります。けど、二人が愛した男性に殺されなければならなかった理由を教えてください。」
「君たちは私を受け入れた。そして、私のために戦ってくれた。感謝している。」
冴島が真理子に銃口を向ける。
「答えになっていません。」
「君たちは、スマと光太の関係を結ばせるために必要だった。二人の関係を進捗させるために、彼らの手本になる存在だったということだ。」
真理子が銃の手を引こうとした。
銃声がすると、冴島と真理子が静止した。
「私の負け。冴島さん。」
「撃ったのは、私ではない。」
龍雅が「真理子。ありがとうな。」と、銃から煙が上がる。
「龍雅。やっぱり、私もみんなと一緒の運命なんですね。」
「真理子。今まで、ありがとう。」と、冴島が言った。
「嘘をつくのが、下手です。」
真理子は最後に笑うと、息を引き取った。
「お迎えに参りました。」と、学図が冴島に言う。
龍雅と誠一と陽が、学図に敬礼する。
「わざわざ、お出迎えとは。ありがたい。」
「莉久様が心配をしております。」
ナゴヤブラックと量産型ナゴヤが、シン東京連合に向けって発進した。
冴島が何かを唱えると、名古屋に魔法陣が現れ、建物を呑み込んでいく。
「これが名古屋共和国の最後だ。」
破壊された無人ヒト型兵器が、大地に戻っていく。
たくさんの壊れたライフルが、大地に戻っていく。
しかし、中心部の基地だけは、何も変わらずにそこにあった。
「私の力だけでは、彼らの運命には逆らえないか。」
白い雪のようなモノが、名古屋の空を舞った。
スマがホワイトスターの前に立つ。
光太が遠くから、スマを見守る。
「ホワイトスターは、僕のことを受け止めてくれるかい?」
スマがホワイトスターのコクピットに搭乗した。
スマが目を瞑ると、無限の宇宙が広がっていった。
「僕のことを受け止めてくれるのかい。」
スマがホワイトスターに問いかける。
「おまえは、光太のことが好きなのだろ?」
「僕は光太のことが好きです。」
光太がスマの前に現れた。
「ありがとう。ただ、この場所はスマのいる場所ではないよ。」
「じゃあ、僕のいる場所は、どこ?」
「それは、自分自身で見つけることが重要だよ。」
スマが光太の安らぎを願った。
青い光が光太を包み込み、光太が癒されていった。
光太の姿が、駿に変化していく。
「どうして、兄さんに。」
「スマは、スマの幸せを見つければいいんだよ。」
「そういうことですか。」
駿がスマに抱きしめられる。
スマが駿のひざに頭をのせる。
「ずっと、僕のこと、抱いてくれてたんですね。」
駿と光太の声がする。
「僕(俺)は、スマのことが好きだ。」
スマが顔を赤く染める。
駿の肌を舌で舐める。
「僕も、好きです。二人に会うために生まれてきたんだと思います。」
光太が遠のいていく。まるで浮いていくように消えていく。
「光太、ありがとう。僕のために付き合ってくれて、ありがとう。」
ホワイトスターのコクピットから、排出される。
全裸の光太が、ホワイトスターの前にいる。
スカイブルーが青く光り、スマを呼んでいる。
「僕、行ってこないと。」と、スマが光太に言う。
「もういいんだね。」
「光太との時間は、本当に居心地がよかった。」
「スマの覚醒によって、これが最後かもしれない。」
光太がスマにキスをし、舌を絡ませる。
「大人の接吻だよ。いってらっしゃい。」
「隆と潤を助けに、行ってきます。」
スマがスカイブルーに乗り込んだ。
「スマ・シンプル。スカイブルー、発進します。」
***
読み終わった後に聞いてほしい曲
『元カレです』AKB48
***
作者からのお願い
「面白かった!!」
「続きが気になる!!」
「作品を応援したい!!」
ぜひ、ブックマークに追加をお願いします。
このキャラのこんなところが「好き」「嫌い」というのも、ぜひ感想をお願いします。
作品にポイントを入れて頂けると、出筆の励みになります。
皆様の応援で、この小説は成り立っております。
よろしくお願いします。
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