Chapter 7: Dreams, and Reality
「黒い夢物語の終焉。」
「これより、西成の確保を行う。」
示度が直接に指令を出す。
「了解しました。」
戦艦連で指揮を執る連がいた。
「僕がこの機体に搭乗するんですか?」と、蒼太が言った。
「この機体を預けられるのは、蒼太しかいない。」
「疑似無限魔法炉搭載機。僕に扱えるか、自信がありません。」
「不安な気持ちにさせて、申し訳ない。」
連が蒼太に頭を下げる。
「止めてください。」と、蒼太が連に頭を上げさせる。
「分かりました。」
蒼太は、ヒト型兵器連に搭乗することを決意した。
泉佐野にある西成の基地。
「第一艦隊が、こちらに向かっています。」
「やはり、私を切るということか。」
西成が悔しそうな顔をしている。
「ヒト型兵器外郎の出撃準備は出来ています。」
「最後まで、こちらにつきあわせて、すまない。」
「いえ。」
「ヒト型兵器連と松風庵が来る。外郎3機のうち2機が撃破された時点で、基地を放棄し、各自、逃走するのじゃ。」
西成が最後の命令を、兵士達に出すのだった。
戦艦グリーンは、尾鷹に到着していた。
「名古屋を避けるために、海上から大阪に向かったのはいいが。」
陵が大阪にどのように向かうか、悩んでいた。
冷が「山を越えるか、海岸沿いに移動するか。」と、移動ルートを示す。
「海岸沿いは、狙い撃ちされる可能性がある。」と、隆が言った。
「それでは、山越えでいきましょう。」
陵が隆の意見を聞き、移動ルートを決める。
章が「静かになったな。」と、人気の少ない戦艦についてふれた。
潤はレッドスターとスカイブルーが格納されていた場所にいた。
隆が潤を見つけると、声をかける。
「スカイブルーもいなくなったな。」
「スマはしばらく、戻らないつもりですね。きっと。」
「力が必要となったから、スカイブルーが呼ばれたんだろう。」
「僕もそう思います。」
しばらく、沈黙が続く。
「せっかく、再会ができたのに、またバラバラになってしまいましたね。」
隆が「すぐに再開できる。」と、応えた。
西成の基地に、上空からミサイルが撃ち込まれる。
基地周辺が灰色に変わり、建物が焼失する。
「示度博士。手を緩めることを知らないのか。」
西成が苦笑いした。
「ヒト型兵器外郎を発進させろ。」
ヒト型兵器連と松風庵が出撃する。
「ヒト型兵器連。起動します。」
蒼太はヒト型兵器連の起動に異常が生じないか、不安に思いながら見守る。
疑似無限魔法炉が小さな音をたてながら、適度なエネルギーを創出する。
「特に問題は生じていません。」
蒼太は少しホッとした顔をした。
戦艦連から、先にヒト型兵器松風庵が出撃する。
「さあ、仕事をしますか。」と、雷が攻撃に備える。
ヒト型兵器外郎が、ヒト型兵器松風庵を睨み付ける。
与が「敵はどこだ。敵はどこだ。」と、戦闘を楽しむ。
ヒト型兵器外郎が、光化学ライフルを乱射する。
「見つけた。見つけた。」と、与が喜んでいる。
雷が「前よりも、精神がやられてるな。」と、光化学シールドで攻撃を受け止める。
「まだまだ。遊び足らないよ。」
与が大型光化学ライフルに持ち替えて、ヒト型兵器外郎に標的を合わせる。
「この火力なら、耐えられるかい?」
与がエネルギーを充填させて、雷の機体を狙い撃つ。
大きな発射音がすると、一直線に光が走る。
「光化学シールドで、受け止められるのか?」と、雷が不安を感じる。
攻撃を光化学シールドで受け止めるが、あまりのエネルギーで光化学シールドが震える。
光化学シールドが受け止めきれずに、宙に舞う。
ヒト型兵器松風庵の右腕が吹き飛んだ。
「こんなに強かったのか?」と、雷が汗を流した。
雷が決死の特攻で、ヒト型兵器外郎の胸元に入る。
光化学サーベルがヒト型兵器外郎の装甲と交わる。
「これで、どうだ!!」
与が大型光化学ライフルを乱射するが、ヒト型兵器松風庵が近距離のため、当たらない。
「近づくな。近づくなよ。」
与が機体を後退させようとするが、雷が機体を前に押し出す。
「頼む。何とか、突き刺さってくれ。」
ごう音とともに、ヒト型兵器外郎に光化学サーベルが突き刺さっていく。
「よし。これでいける。」
ヒト型兵器外郎の装甲にヒビが入ると、機体を串刺しにした。
「ここまでか。」
ヒト型兵器外郎が爆発すると、雷の機体も爆発に巻き込まれた。
雷の機体の左腕が吹き飛んだ。
ミンクと貴理子が、ヒト型兵器外郎で姿を現す。
ヒト型兵器連が、雷の機体の前に立つ。
「おそくなりました。」と、蒼太が声をかける。
「主砲一斉発射。前面にある巨大ヒト型兵器を撃破する。」
戦艦連が、ヒト型兵器外郎に主砲を打ち込む。
「いきなり、攻撃だなんて。イヤな感じ。」
ミンクの機体に、主砲が直撃すると、機体が仰向けに倒れる。
「雷。撤退してください。」と、連が雷に指示をだす。
「ありがてぇ。」と、雷が戦艦連に撤退していった。
貴理子が「私もいるのよ。」と、蒼太の機体に突進する。
「大型ヒト型兵器の機動性なら、どうとでもなります。」
蒼太が機体を上空にあげると、光化学ライフルを撃ち込む。
「機動性では勝てないということなの。回避できない。」
貴理子がヒト型兵器外郎に被弾するのを確認する。
貴理子が大型光化学ライフルで、蒼太の機体を狙い撃つ。
しかし、黒き光化学シールドが、ライフルを受け止める。
「違和感がある。ライフルのエネルギーを吸収している。そんなはずは。」
蒼太が機体に違和感があり、恐怖を抱く。
ミンクが機体を立ち上げ、大型光化学ライフルで蒼太を狙い撃つ。
「私がいることも忘れないで。」と、ミンクが叫ぶ。
蒼太が戸惑っているにもかかわらず、機体が黒き光化学シールドを前に押し出す。
「何がおきているんですか?」
ヒト型兵器連が光化学ライフルを、ミンクの機体を狙う。
疑似無限魔法炉が黒い光を放つと、不思議なエネルギーが、ヒト型兵器外郎を打つ。
ミンクのコクピットに、黒い液体が流れて入り込む。
「これはなに?」
ミンクの体を黒き液体が覆う。
「やめて。やめて。」
深き闇に体が沈んでいく。
黒い液体が人の形に変化していく。
子供の頃に暮らした父親の姿になり、ミンクを抱きしめようとする。
「お父さん。ここにいたの?」
ミンクは黒き液体を受け止めると、自ら黒い液体に体を沈めた。
「この世界は、おまえを苦しめることしか、しなかった。悪かったな。」
「嘘でもよかった。人間らしい生活ができて、嬉しかった。」
ヒト型兵器外郎が、機体の中心部に吸い込まれていくように、消失した。
「これが、魔術の力だということですか。」
基地から戦艦西成が発射すると、核攻撃をしかけてきた。
「隊長の夢は、我々の夢。西成隊長はお逃げください。」
西成が「悪いな。感謝する。」と、輸送機から戦艦西成に敬礼をする。
「厄介なものばかり、利用をする。」と、連が対応に困っていた。
ヒト型兵器連が光化学ライフルを、核兵器に向けて打ち込む。
「僕の制御下にない。どういうことですか。」
黒い光が核兵器を消失していく。
「疑似無限魔法炉搭載機。科学と魔法の力を融合した機体。まさに神の力か。」
連はヒト型兵器連の力に恐怖を感じていた。
蒼太はヒト型兵器連に身を委ねることしかできなかった。
貴理子のヒト型兵器外郎に向けて、ヒト型兵器連が光化学ライフルを打つ。
貴理子のコクピットに、黒い液体が入り込む。
「結局、私たちは、最後まで厄介者だったわね。」
黒い液体が、与に変化していく。
「僕たちは、薬物実験された存在。道具として生まれた者。」
「それなのに、幸福をもとめてしまった私は、アホなの。」
「そんなことはないよ。」
「もし、次、生まれ変われたら、普通に恋をして。」
「その時の恋人は、僕がいいな。」
「約束だよ。」
黒い与と貴理子が指切りをする。
貴理子が黒い液体を受け止めて、身を沈めていく。
「戦艦西成を落とす。主砲一斉発射。」
連のかけ声で、戦艦西成に主砲が打たれ、戦艦西成が沈んでいった。
戦艦グリーンが、戦艦連の前に現れた。
「味方同士の戦闘のようです。」
陵は戸惑いながら、状況を伝える。
ベリーショートに乗り込む隆と潤がいた。
「なにか、イヤな予感がする。」と、隆が言った。
「すごく冷たいエネルギーを感じます。」
「冷。ベリーショートを発進させる。」と言うと、ベリーショートが発進した。
冷が戦艦連に「こちらは戦う意思はありません。」と、通信する。
連が「こちらも戦う意思はない。」と、返答をする。
ヒト型兵器連の内部に高エネルギーが発生し始める。
「蒼太。機体の動力を切るんだ。」
隆の声に「機体が制御下にありません。」と、蒼太が返答した。
潤が「疑似無限魔法炉搭載機です。」と、隆に伝える。
「厄介なモノを。何か手はないのか。」
ベリーショートが黄色に輝きだし、魔力があふれ出す。
「蒼太を助けたいという、僕たちの気持ちが機体に共鳴してます。」
「俺の親友を助けたい。ベリーショート、力を貸してくれ。」
ヒト型兵器連とベリーショートが向き合うと、両手を掴み、押し合う。
ヒト型兵器連の機体に、ベリーショートの魔力が包み込むと、ゆっくりと静止していく。
「疑似無限魔法炉が完全に停止しました。」と、連が兵士に報告を受ける。
「戦艦グリーンに助けられる形で、幕を閉じることになったな。」
連が無事に戦闘を終えたことに、ホッとしていた。
そして、疑似無限魔法炉搭載機が恐ろしく感じた。
ヒト型兵器外郎に何が起きて消失したのか、連は考えるが何も分からなかった。
戦艦グリーンと戦艦連が、地上に着陸する。
連が冷を見て、駆け出した。
「今回は、助けていただいて、感謝する。」
「別にいつものお手伝いでしょ。」と、冷は軽く返事をした。
「そうですね。今、いろいろと事情が変わって、こんなことになってしまっているんだ。」
「味方同士で戦ってるなんて、思いませんでした。」
章が2人の会話に割って入ると「美佳は、いないのか。」と、聞いた。
「彼女は、基地の方で、情報収集をしてもらっている。前線にはたたせていない。」
章は、美佳の無事を聞いてホッとしたのと、前線から退いたことに複雑な感情を抱いた。
陵が「新都市大阪国の現状は、どうなっているんですか?」と、連に問う。
「示度博士と西成の対立が激化し、示度博士は西成が邪魔になり、排除するに至った。」
連の回答に、陵は納得がいかなった。
「いずれにしても、西成がいなくなった今、戦艦グリーンを招き入れることはできます。」
冷が「そうしていただけると助かります。」と、返事をした。
陵は、戦艦グリーンを受け入れるために仕組まれたことのようにも思えて、どこか面白くなかった。
隆と蒼太が再会を果たす。
「久しぶりだな。」
「久しぶりです。」
隆が「エースパイロットになったみたいだな。」と、蒼太を茶化す。
「隆がいないから、代わりに搭乗しました。」
隆がヒト型兵器連を下から上に確認する。
「疑似無限魔法炉搭載機。最新鋭機か。」
「はい。ただ、詳細は不明なことが多く、僕にも分からないことだらけです。」
「示度博士らしいな。」
ベリーショートの中にいる潤に「来いよ。」と、隆が呼ぶ。
「いや、戦艦グリーンに戻ってからにしてください。」
隆が自分の姿を見て「確かに。」と、返事をした。
治療を終えた雷が、戦艦グリーンの章を訪ねた。
「久しぶりだな。」
「いろいろとすまない。美佳のことも。」
「どういう経緯かわからないが、好きな女は守り切れよ。」
「雷の言うとおりだ。」
章は雷に言い返す言葉がなかった。
「こっちは、人員不足で、正直、助かってる。」
「裏舞台の人間が欲しいんだろ?」
「そういうことだな。いろいろと混乱していてな。」
「あとで、美佳のところに連れてく。」
「ありがとう。そうしてくれ。」
雷は章の疲れ切った表情に、戦艦グリーンで何かあったことを察した。
美佳が情報処理をしていると、示度が顔を出す。
「彼らのところには行かないのかね。」と、示度が言葉をかける。
「戦艦グリーンには、私の居場所はありません。」
示度が小さく笑い「ここは、君の居場所なのかな?」と、問う。
「分かりません。ただ、嫌なことからは目を背けることができるから。」
「戦艦グリーンには嫌なことだらけだったのかな?」
「いえ。そういうことではありません。ただ、気持ちの整理がつかない私がいけなかったんです。それで、章のことも利用していた。」
「相手が納得していれば、特に問題はないのでは?」
「戦艦グリーンにいるときの私。嫌な女だったんです。ここに来てから、よく分かりました。身勝手で、自分の役割も十分に果たそうともしないで。」
示度が「それでも迎えに来る仲間がいることは良いことだ。」と、言った。
大阪の基地内に、戦艦グリーンが誘導される。
「久しぶりに戻ったな。」と、隆は気持ちが高まっていた。
示度が「また会えるとは、思わなかった。」と言いながら、周りを見る。
「人数が少なくなったようだが。」と、示度が言った。
「いろいろと事情がありまして、駿とスマは不在です。」
陵が示度に説明をする。
示度は「まあ、よい。」と、戦艦グリーンを受け入れた。
西成がいなくなり、連が隊長室を利用している。
スーパーコンピュータが用意され、連は情報を整理し始めた。
美佳が「ここまでは、情報収集完了しています。」と、報告した。
隊長室のドアを叩く音がする。
「失礼します。」と、冷が部屋に入ると、連の隣に座った。
「君は少し休んだ方がよいと思う。」と、連が冷を気遣う。
冷は「美佳。ここからは私がやります。」と、美佳に告げる。
美佳は、冷の登場に戸惑っていた。
「私たちも、情報収集が必要です。ここは引いてください。」
「分かりました。」と、美佳は冷に従った。
連がヒト型兵器連の戦闘データをまとめ始める。
「いつも、申し訳ない。」
「いえ。私たちにも必要な情報です。」
「少し、嫌な予感がするんだ。」
「疑似無限魔法炉搭載機。私も何か秘密があるように思えてならないです。」
「冷もそう思うのか。」
「ええ。」
冷が360度モニターに移動し、靴を脱いで、操作場に入る。
冷の前後左右がモニターになり、情報が展開される。
「これなら、すぐに終わります。」
冷があっという間に、情報収集と管理をした。
連が足元に光るものを見つける。
「それ。してくれたんだ。」
「頂いた物は、大切にする主義です。」
連は気持ちが高まり、冷を見ることができなくなっていた。
隆が蒼太に潤を紹介する。
「はじめまして、松岡 潤です。」
「はじめまして、桜ノ宮 蒼太です。」
隆は潤と蒼太がどこか似ているような気がした。
「いつも無理ばかりさせてはいませんか?隆は。」
潤は「僕の方が世界知らずで、困らせているんです。」と、蒼太に答える。
隆が「博多魔術国にいたんだ。」と言うと、蒼太が潤に「それはいろいろと大変でしたね。」と、言葉をかけた。
「外の世界に出て、大変なのは自分だけではないんだと知ることができました。だから、僕は平気です。今は、一人じゃないので。」
「その気持ちはよく分かります。僕は劣等生だったので、隆に訓練に付き合ってもらって、なんとか、ここまで昇進できたんです。」
「もしかして、隆はお節介さんなんですか?」と、潤が蒼太に聞くと、隆が睨みつける。
「僕には、かなりのお節介さんでしたよ。」と、蒼太が潤に言った。
「俺の話をするのは、やめてくれ。」と、隆が頭をかいていた。
潤が示度の研究室を訪ねた。
「戦艦グリーンのスカイブルーパイロットが、私にどのような用かね。」
潤が研究室の中に入り、ドアを閉めた。
「疑似無限魔法搭載機を無人兵器にしなかった理由が、僕には分からなかったので、教えて頂きたいと思いまして。」
「なかなか、鋭い質問ではあるが、今は答えを教えることができない。」
「ヒトの魂が宿ったあの宝石を使ったヒト型兵器ということは、すでに一つの魂はヒト型兵器に用意されています。二つの魂が必要な理由があるということなんでしょうか。」
「冷静な分析ではあるな。」と、示度が笑った。
示度が名古屋共和国の数日前の映像を流す。
「レッドスターとスカイブルーが戦闘を行った。」
示度の映像に、潤はどうして二人が戦っているのかと、静止する。
「駿とスマが戦うことなんて、考えられません。」
「これは事実だ。そして、あの二人が対立したということは、間もなく、私の願いが叶う。」
「示度博士の願い?」
「時が来れば分かる。今日はこのあたりにしてくれ。」
潤は研究室を後にするしかなかった。
潤が示度に見せられた映像のことを話すために、隆を探す。
「こんなところにいたんですか。探しました。」
隆を見つけると、潤が近づく。
「何かあったか?」
潤が隆に、レッドスターとスカイブルーの戦闘したことを伝える。
隆が「状況を余計にややこしくする。」と、頭を抱えた。
「あの二人が戦う理由が分かりません。」
「可愛さ余って憎さ100倍って、ことなのかもしれない。」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だ。」と、隆はスマが暴走したのかと思った。
「ただ、仕掛けるにしても、仙台シン魔術国にレッドスターが向かったことから考えると、駿が名古屋共和国に攻撃を仕掛けたことになる。そのあたりも、よくわからないです。」
「たしかに、スマが駿に攻撃を仕掛けたのなら、暴走したのかとも思える。」
隆と潤は、前後の成り行きが分からず、どうして戦闘に至ったのか、知りたかった。
真夜中の街。
光が消えたりついたりする、不気味な電灯がある。
「飲まないで、やってられるか!!」と、兵士が大声をあげた。
兵士の前に、黒い球体が現れる。
「なんだ、これ。」
兵士が黒い球体に触れると、姿を消した。
「消息不明となった兵士がいるとの報告があります。」
美佳が、連に情報をわたす。
「不可解な点は多いが、一人の消息不明など、よくあることだ。」
美佳は「余計なことでした。」と、別の作業を始める。
「彼らには、そろそろ会わなくていいのか?」
「ええ。」と、美佳が答える。
「だが、そろそろ、あちらが限界のようだ。」
雷が章を連れて、美佳を訪ねてきた。
「元気にしてたか?」
美佳は、章の顔を見ることができなかった。
「私のことは、もう大丈夫。今までありがとう。」
章が「仲間だろ?」と、声をかける。
「戦艦グリーンのお荷物になるのは、いやなの。」
「俺が美佳を責めたりはしなかっただろ?」
「戦艦グリーンにいる私には、役目がある。その役目が果たせないから、あそこに戻る資格はない。けど、ここなら、私の役目を果たせる。」
雷が「結論を急ぐ、必要はないだろ?」と、章を止める。
「どちらにしても、戦艦グリーンは、我々の仲間です。」
連も章のことを止めた。
章が「ああ、そうですね。」と、語彙を弱めた。
章が美佳を引き戻せない悔しい気持ちで、宿泊施設に泊まる。
戦艦グリーンに戻る気持ちにもなれないでいた。
「どうしたらいいんだよ!」と、壁を殴る。
その衝撃のせいか、部屋の明かりがチカチカする。
章が外を眺めると、遠くの施設群の明かりが消えていた。
「停電なのか?」と、章が暗闇を眺めていた。
施設の中に、小さな球体が現れ、兵士を?み込んでいく。
兵士たちは声を上げる間もなく、暗闇にのまれていく。
男性も女性も、青年も老人も、のまれていった。
美佳がゴーストタウンのようになった、施設群を視察していた。
「ヒトが消えた以外は、施設には何も損傷がない。」
冷が「神隠しとでもいえる現象です。」と、美佳に言った。
「冷。人だけが消えるなんてことが起きると思う?」
「血の跡もないとなると、戦闘があったわけではないとは思うけど…」
冷は不気味な空気が流れているように、感じていた。
連が遅れて、現場に入った。
「ヒトがいなくなった以外は、目立った変化はないか。」
美佳が「どういうことなのでしょうか。」と、連を見た。
兵士たちが騒がしくしていたので、章が様子を見に来た。
「何かあったのか?」と、冷に聞く。
「この一帯の兵士が消えました。」
「そういえば、いきなり灯りが消えたと思ったら、街が静かになったな。」
冷が「エネルギーが遮断されていたと、考えられます。」と、一つの案を出す。
コントレーションの会議。
キャンサーの西成が席に座る。
アクエリアスの示度が席に座る。
「D計画の最終段階。西成。おまえには悪いことをした。」
「悪夢を見られることを、私は願う。」
「本来のD計画とは、異なるようですが。」
「聖地である東京ではなく、大阪で起こそうというのか。」
ヴァルゴの席に座る莉久が、二人を哀れな目で見る。
「不完全な計画遂行の代償は大きい。それでも実行されるのですか。」
示度が莉久を見て「孤独で何年も待ち続けた気持ち。おぬしには分かるはずだが。」と、自分の胸の内を伝えた。
「ええ。分かります。私も22年もの間、待ち続けておりますから。」
「その件については、名古屋は不干渉とする。」
「では、僕もそれに従うしかありません。ただ、彼が黙っていられるのでしょうか。」
「我々もD計画については不干渉とする。」
「老人をいたわる気持ちに感謝する。私は先に旅立つことにする。後は頼む。」
「ところで、西成を倒した後、示度博士はどうするつもりなんだ。」
「今の戦力で、名古屋共和国を積極的に仕掛けることも考えにくい。」
章と陵が、示度の動きが気がかりだった。
「西成を無理に倒す必要は、本来は無いはず。そこを、あえて潰した。」
冷は、示度に裏があるように感じていた。
連に呼ばれる隆と蒼太。
「申し訳ない。」と、連が隆に頭を下げた。
「そんなことはしなくていい。」
美佳が隆を見て、隆がそれに気づくが、目をそらした。
「それで、なにか頼み事だろ?」と、隆が連に聞く。
「二人にあの事件のことを調査してほしい。」
蒼太が「神隠しのような、あの事件ですか?」と、情報を確認する。
「ああ。なにか、嫌な予感がする。」
連の言葉に、隆は頷いた。
「陵の証言によると、街の明かりが消えたといっていたけど、エネルギーの供給は何ら問題なく行われていたの。つまり、街の明かりが消えるということはありえない。どこかで、エネルギーが消失したのか。あるいは、何者かがエネルギーを奪い去ったか。」
美佳がその日のエネルギー状況の資料を、隆と蒼太に手渡す。
「隆はこのあたりの土地勘があるから、適役だと思ったんだ。」
「それは間違いない。その任務は引き取る。」
隆は連の申し出を、快く受けた。
隆と蒼太が、現場を改めて訪れた。
「何一つ、痕跡がない。」と、隆がどこから手を付けるべきかと悩んだ。
「ただ、すごく冷たい空気を感じます。」
隆が蛍光灯を付けたり消したりする。
「エネルギー供給に問題はないか。」と、隆が確認する。
「一時的に街が暗闇に化した、ということなのでしょう。」
「ただ、物理的にエネルギーを遮断していないわけだ。どうやって、エネルギー供給を絶ったんだ。」
「魔法を利用した可能性はあります。ただ、大阪にいる魔法を使える人間は限られています。現実的ではないですね。あの時間は、隆も潤も戦艦グリーンにいましたから。」
隆が「消えたヒトの行方も、気になるな。」と言うと、気分が悪くなった。
冷が連を呼び留めると、連の目をジッと見た。
「なんですか?」と、連が動きを止める。
「私に隠し事をしてないですか?」
「何の話ですか?」
「例の神隠しの件。本当は、何か知っているんじゃないかと思いまして。」
連はがっくりした顔をして、目をそらした。
「そのことですか。私の知っている情報は、すべて提供したとおりです。」
「これは聞き流してほしいんだけど。」
「そういう話は、ここでは。」と、場所を移すように言った。
連が部屋の場所と時間を書いた紙を、冷に手渡した。
「改めて、ここで。」というと、連は冷と別れた。
戦艦グリーンの大浴場にいる潤と陵。
陵が湯船に浸かっている。
陵がため息をつくと、潤も湯船に浸かる。
「風呂は命の洗濯です。」
潤が小言を溢す。
「大阪に来ると、どうしてか、やることがなくなるよな。」
「以前に来たときも、暇だったんですか?」
「暇ではないが、暇だった、かもしれない。」
陵が珍しく曖昧な言葉を返した。
「僕と陵は、大阪では似たもの同士ってことですか?」
「かもしれないな。」
陵が潤の顔に、お湯をかけた。
「なに、するんですか。」
潤が陵にお湯をかけ返した。
戦艦グリーンのブリッジにいる冷。
連から得た情報を戦艦グリーンに取り込む。
冷の姿を見つけた陵が、ブリッジに入る。
「冷。情報収集が終わったのか?」
「こちらの作業を丸投げして、すいませんでした。」
冷が陵に御礼を言った。
「礼を言うのは変だろう。お互い、戦艦グリーンのためにしていることだから。」
「戦艦グリーンに来て、だいぶ経ちました。」
「最初は不安なことばかりだった。なんとかなるって、度胸がついたのかもしれない。」
「私も度胸がついたかもしれません。けど、それは戦いのことだけかもしれない。」
冷が陵に笑った。
「自分も同じ、かもしれないな。」
陵は冷に笑い返すことしか、できなかった。
冷は作業を終えると、連の指定の場所に向かった。
「尾行をまくのに、時間がかかりました。」
「そうだろうな。」と、連が冷に笑った。
「早速ですが、例の件ですが、示度博士が絡んでいると思います。」
連が「ああ。私もそう考えている。」と、頷いた。
「そうだと仮定した場合、示度博士の目的は、もうすぐ達せられるということですかね。」
「自分もそう思うよ。」と、連が冷を後ろから抱きしめる。
冷が驚いて、体を制止させる。
「どうしたんですか?」
「示度博士の目的が達せられたとき、自分たちは不要な存在となるんだなと思うと、怖いと思う。もし、戦いが終わったら、ずっとそばにいてくれないか?」
「ずっと、近くに?」と、冷は連の言葉をどう受け止めていいのか、迷う。
「冷が傍にいてくれれば、どんなことも乗り切れるような気がする。好きなんだ。」
「私は。」と言うと、「返事は今じゃなくて、いいから、よく考えてほしい。」と、連が言葉を遮った。
美佳が飲み物を手に、雷の部屋のドアをたたいた。
「どうぞ。」と、雷が美佳を部屋に入れる。
「お疲れ様。」と、美佳が雷に飲み物を手渡す。
「新発売の野菜ジュース。よかったら、どうぞ。」
「ありがとう。」
美佳が雷の部屋を片付け始める。
「別に、気を使わなくていいから。」
「気を使ってるわけじゃないから。雷には感謝してる。」
「何をだよ?」
「私を受け入れてくれたこと。」
雷が真面目な顔をして、美佳をじっと見た。
「そういうこというと、誤解されるぞ。」
美佳が雷の真面目な眼差しに、目を背ける。
「章のこと、どう思ってる?」
「どうって?」
「好きなのか?」
「章のことは利用していたんだと思う。嫌な女なの。だから、私を好きにならない方がいいよ。ずるい女だから。」
雷が美佳の顎あたりを手で押し上げ、美佳と目を合わせた。
「ずるい女だな。いいじゃないか。俺もずるい男だから・・・」
雷は美佳の唇を奪うと、美佳は雷の唇を拒むことはしなかった。
美佳の呼吸が、雷に伝わっていく。
「俺のこと、好きになることないから、俺を利用していいから、傍にいろ。」
美佳は何も言えずに、しばらく、雷の唇を受け止めている。
「雷。分かった。今日は引き返すね。」
美佳は雷の言動を受け止めるだけで、それ以上、何もしなかった。
冷が仙台シン魔術国の製造した、疑似無限魔法炉搭載機フリースターが名古屋共和国に攻め入った映像を確認する。
スカイブルーとホワイトスターが、フリースターを応戦している映像であった。
「レッドスターに類似した機体と、スマと光太が戦闘した。」
陵が「ここ最近、疑似無限魔法炉に関する動きが早いな。」と、冷に声をかけた。
「仙台シン魔術国には、駿と里桜がいるから、フリースターの実践導入を邪魔するはずだから、二人がフリースターを抑えきれなかったという、ことなのでしょう。」
「確かに、あの二人ならフリースターの実践導入を阻止するだろうな。」
「ヒトの魂が宿らされた宝石を利用して、戦闘を有利に運ばせるようなことは、駿は許さないと思う。」
冷が駿を信じていることを、陵は感じていた。
連が「申し訳ない。意見を求めたいんだが。」と、戦艦グリーンのブリッジに入ってきた。
陵は冷が連に返事をしないので「どうぞ。」と、返した。
「ああ。申し訳ない。二人の意見を聞かせて頂きたいんだが。」
連もフリースターの映像を見せて「これのことなんだが。」と、言った。
「今、そのことについて、話し合ってました。」と、冷が連に答える。
「それで、どういう見解ですか?」と、連が答えを急ぐ。
「ここにきて、疑似無限魔法炉に関する動きが早いと話していました。」
「機体に生命体の反応がないところをみると、疑似無限魔法炉搭載機であることは、ほぼ間違いないが、この技術を使って、何をしようとしているんだ。」
陵は、新都市大阪国に関することで、連にも知らされていないことがあると思った。
「疑似無限魔法炉搭載機が、各国の思惑に必要なものであることは明らかだと思います。」
「だとすれば、疑似無限魔法炉搭載機となったヒト型兵器連が、新都市大阪国の思惑に必要なこととなるな。」
陵は冷の言葉を借りて、連の知っていることを引き出そうとした。
「表面的には、ヒトの犠牲なく戦争が可能となるということなのでしょう。」
連が教科書通りの回答をした。
冷が「今は、次の動きを待って、行動することが妥当だと思います。」と、連に伝えた。
「確かなことが分からない以上、先手は打てないな。」と、連が頷いた。
連の通信機が鳴ると「ありがとう。また、話を聞かせてほしい。」と言って、戦艦グリーンから去っていった。
「連と何かあったのか?」と、二人の変な空気を察し、陵が冷に聞く。
「別にいつも通りです。」と、冷が答えるが、少しの間をあけたことに、陵は気が付いた。
「冷は、嘘をつくのは下手だな。」
陵は、二人に何かあったことを悟り、その場からいなくなった。
隆と蒼太は、事件の捜査を続けていた。
「それにしても、本当に情報がないな。」
二人はヒト型兵器連の前に立つと、疑似無限魔法炉を見た。
「疑似無限魔法炉についても、情報がありません。」
「疑似無限魔法炉は、博多魔術国に人々の魂を魔石化して創造されたエネルギー供給源だ。」
「ヒトの魂をエネルギー源としているということですか。」
「その通りだ。」
蒼太は、何も知らされずに搭乗していたことに、腹が立った。
「じゃあ、潤の友達も魔石化してしまったということですか。」
「そういうことだ。すべては、クイーンの計画どおりに。」
「だから、俺は、この機体が怪しいと思った。けど、機体内部にエネルギー反応がゼロ。起動していないということは、こいつの仕業ではないということだと思う。」
隆がヒト型兵器連の機体を触れると、静電気のようなものが、体を走った。
「エネルギー反応がないということは、なにも作動していないということですからね。」
「この機体。やっぱり嫌な感じがする。」
「僕は、最初から嫌な感じだと思っていました。」
「まあ、エネルギー反応がないんだ。別をあたろう。」
二人はヒト型兵器連から離れて、いなくなった。
大阪の基地内を、トコトコと歩く黒い影。
警備兵が「止まりなさい。」と、声をかける。
黒い影が、警備兵の目の前に一瞬で移動する。
警備兵が銃を撃つ。
黒い影が銃口を?み込んでいく。
警備兵が声を上げようとすると、黒い影が警備兵を抱きしめる。
黒い影に警備兵が呑み込まれていった。
示度がその映像を消去し「早く、私のところに来なさい。」と、呟いた。
戦艦グリーンの中に黒い影が現れる。
章が黒い影を見て「目の錯覚か?」と、何度か見返す。
潤が章の前に飛び出し「マジックバリア。」を、展開した。
隆が潤を助けるため、横につく。
「隆。ありがとうございます。」
「この黒い影は、なんだ?」
二人の魔力が融合していくと、ベリーショートが反応する。
ベリーショートが黄色に輝くと、その光が戦艦グリーンを包み込む。
黒い影が苦しむように、薄くなっていく。
「ベリーショートが反応しています。」
「俺たちが戦艦グリーンを守るんだ。」
「分かりました。」
隆と潤が、強い意志を持って、闇と対峙する。
闇は黄色の光に染められて、消失していった。
「ありがとう。潤。隆。」と、章がお礼を言う。
「神隠しの原因は、あの黒い影に間違えありませんね。」
「まあ、そうだろうな。」
隆は、蒼太のことが気にかかっていた。
隊長室にいる冷。
冷に忍び寄る黒い影。
「また、人が消えた。そして、映像が消去されている。示度博士の仕業なの?」
冷は状況からして、示度の仕業と考えるのが、つじつまが合った。
人気を感じた冷が、振り返ると黒い影があった。
「なに、これ?」と、冷が言うと、黒い影が冷の目の前に移動する。
連が銃を撃つと、ライトニングボムが込められた弾が、黒い影に呑まれる。
ライトニングボムが、黒い影の中で爆発する。
「今です。早く、逃げてください。」と、連が冷に声をかける。
冷は、連の方に飛び出し、その体を連が受け止める。
「これは、どういうことなんですか?」
「分かるものか。」と、連が答えた。
連が黒い影に、数発の銃弾を撃ち込む。
黒い影は内部で、光魔法が爆発し、静止している。
「闇には光と、相場が決まっているということなのか。」
「かなり短絡的ですけど、効果があります。」
連の単純な発想に、冷はある種の賭けだと思っていた。
「これは使いたくはなかったが。」と言うと、連が魔石を取り出す。
魔石に反応して、黒い影が小さく消失していく。
「どうして、連がこの魔石を?」
「クイーンの差し金かな。」
「どういう意味ですか?」
「キングとクイーンは、新都市大阪国で起きる何かを阻止したいと考えているということなのでしょう。」
「だとすれば、やはり黒幕は。」
連と冷は、この件の黒幕が示度だということを確認していた。
美佳が導かれるように、ヒト型兵器連のところに向かう。
「私の夢は、普通の生活を送ること。」
ヒト型兵器連に話しかける美佳。
ヒト型兵器連からヒト型の黒い影が現れ、美佳を見つめる。
「それが叶わないなら、闇に落ちたい。」
「私は、ずっと独りだった。」
「独りでいるのが、怖いんでしょ?」
「そうよ。誰にも必要とされないことは、怖いこと。」
「だから、章を利用したんでしょ?」
「そうよ。章に抱かれている間は、章には必要とされていたもの。」
「まるで、誰かのオモチャね。」
「だから、私は消えるの。終わりたいの。」
美佳の後方から、銃声がする。
「それ以上、近づくな。魂を持っていかれるぞ。」
雷の声で、美佳が我に戻った。
「私、何をしていたの?」
美佳が目の前にある黒い影に気づき、悲鳴を上げた。
「落ち着くんだ。」
美佳が雷の腕に逃げ込む。
「本当に、これで効くのか?」
あるだけの銃弾を、黒い影に打ち込んだ。
黒い影がどんどん薄くなっていく。
「連の賭けは、勝ったということか。」
黒い影が静止すると、小さくなり消失した。
「あれは何?」
「俺に分かるもんか。」
「そうだよね。助けてくれてありがとう。」
隊長室に、連が潤を呼び出した。
「こんなところまで、申し訳ない。」
「いえ。あの事件のことですか?」
「察しがいいですね。」
「僕に、何をさせたいんですか?」
「示度博士の所在を、探し出してほしい。」
「示度博士の行方が、分からないということですか?」
「黒い影が出現してから、示度博士の所在が不明になった。」
「そういうことですか。」
潤は黒幕が示度だということを察した。
潤は少し考えてから、連に次の言葉をかけた。
「新都市大阪国の国王は示度博士です。所在を確認して、どうするんですか?」
「示度博士の目的を確認し、場合によっては阻止する。」
「それもまた、いばらの道です。」
「私は、隊長として隊員を守る義務がある。」
「分かりました。協力させていただきます。」
単独行動で、潤が示度博士の所在を探し始めるのだった。
与の姿をした黒い影が、示度の前に現れる。
「君たちかね。」
黒い影が、すぐに消失する。
「君たちは、西成のところに行きなさい。」
示度は、誰かを待っているようだった。
戦艦グリーンのブリッジに、クルーが集まる。
「状況はどうなっていますか?」と、冷が陵に聞く。
「ブラックボックスか、魔法の塊らしきモノが、戦艦グリーンの内部に現れ、隆と潤がそれらを追い払いました。」
隆が「あの黒い影には、意志があるように思えた。」と、付け加えた。
戦艦連から「隆。蒼太の所在を確認できますか?」と、連から通信が入る。
「いや。こちらには来ていないが。」
「分かった。ありがとう。」と言うと、連が通信を切る。
「潤の所在は、どうなっていますか?」
「艦内には、確認できない。」と、陵に隆が答える。
冷は潤が連から依頼を遂行しているのを、知っているようだった。
「ライトニング系統の魔法が込められた銃弾の残数は?」
「あまり多くないな。魔法と科学を融合した兵器なんだから、レアだろ?」
陵が章の質問に答えるが、いくつかの黒い影が現れると、対応ができないことは聞くまでもなかった。
冷が「できる限り弾をかき集めましょう。」と、無理なことを言った。
示度の研究室を訪ねる潤。
潤が奥に進むと、隠されていた部屋のドアが現れる。
「隠れ部屋を、魔法陣で作り出す。これが、絶対的科学主義を唱える国の本当の姿ということなんですね。」
潤がドアを開き、罠と思いながらも奥に進む。
示度が潤を部屋に招き入れた。
「博多の少年。そして、マジックストーンの担い手。ようこそ。」
「示度博士。どうして、僕を招きいれたんですか?」
「私の夢は、もうすぐ実現する。その続きの話を、誰かにしておきたいと思ったからじゃ。」
「続きの話ですか?」
「私の計画は、君たちによって阻止されることは、定められている。」
「失敗する計画を、どうして実行するんですか?」
「それが私の運命であり、願いだからだよ。」
「その続きの話とは?」
「おそらく、東京で儀式が始まる。そのときに、ワイズストーン、ビショップストーン、マジックストーンの力によって、新たな世界が創造される。それを阻止するのが、君たちの役目だ。」
「新たな世界?」と、潤が示度の言葉を理解できないでいる。
「ヒトという生命体が存在しない。統一的な生命が創造され、全知全能の魂として進化することになる。それ以外の計画もあるようだがな。」
「とにかく、僕達、兄弟が力を合わせて、阻止をしろということですね。」
「そのとおりだ。そして、私の計画も阻止するといい。」
示度が優しい笑顔を、潤に見せた。
示度が魔法陣を光らせ、潤を部屋から退去させようとする。
潤は示度との最後を感じていた。そして、最後の質問を投げる。
「率直に聞きますが、疑似無限魔法炉搭載機となったヒト型兵器連が、災いの始まりということですか?」
「君の思っている通りだ。」と、示度が答えると、潤は研究室の外に退去させられた。
そして、黒い満月が潤を眺めていた。
新都市大阪国の夜に、黒い満月が現れる。
たくさんの人々を、黒い影が呑み込んでいく。
ヒト型兵器連の胸部から黒い大きな球体が現れる。
無人のヒト型兵器連が、黒い球体を抱えて、上昇していく。
戦艦連が無人機となったヒト型兵器連を捕捉する。
「現時刻をもって、ヒト型兵器連を破棄する。」
大阪にあるヒト型兵器が、ヒト型兵器連を狙い撃つ。
しかし、黒い球体に攻撃が呑み込まれていく。
「通常兵器は効きません。」と、兵士が苦しい声を上げる。
「分かってはいるが。」
雷が「俺が出撃する。」と、連に告げるが、それを制止する。
「雷は待機してほしい。確実に勝算がある段階で、出撃してほしい。」
「分かりました。」
連は、これ以上、優秀な兵士が減ると、勝算が著しく減少すると判断した。
「こちらは、松岡 潤です。森の宮隊長、応答をお願いします。」
潤が連に対し、連絡を入れる。
「こちらは、森の宮 連です。報告をお願いします。」
「黒い球体は、示度博士によるところは確認しました。示度博士の所在は、研究室ではありますが、隠れ部屋におり、こちらからアクセスする方法は不明です。」
連が戦艦グリーンに、潤からの通信を流す。
「こちらへの協力を感謝する。」
雷が「示度博士が敵になったということか?」と、連に聞く。
「ああ。そういうことだと思います。」
「今は余計なことを考えず、目の前に事態を対処するしかないな。」
連が「そうだな。事の成り行きにあわせて、行動する。」と、言った。
「やはり、黒幕は示度博士ということです。」
冷は、連の予想が当たったと思っていた。
「あれは、科学の力なのか?」
章が絶対的科学主義を唱える大阪に、非科学的現象が起きたことに動揺する。
そして、その主犯が示度であることに、動揺した。
「分かるものか。」と、陵が答える。
宙に浮くヒト型兵器連が、生物のように遠吠えをあげる。
ヒト型兵器連から、黒い球が降り注ぐ。
雨のように、黒い球が降り注ぐ。
黒い雨を見上げる蒼太がいる。
「黒き夢物語の始まり。」
蒼太の体が宙に浮くと、ヒト型兵器連の前にくる。
「僕の心の闇が、黒い雨となっているんだね。」
ヒト型兵器連が笑って見せた。
「君はどうして、軍に入隊したんだね。」
蒼太が困った顔をしていると、他の兵士が笑っている。
「運動音痴なのに、どうして、軍に入隊したんだ。」
「ほら、こないだの戦いで、両親が亡くなって。」
「そういうことか。やむを得ず、入隊したってことか、納得。」
蒼太は自分に対する罵倒を聞き流していた。
「蒼太。どうしたんだ?」
いつものように隆が、蒼太に声をかける。
僕はいつもお荷物だったんだと思う。
僕を笑う人間がいるから、隆に気を遣わせてしまったんだと思う。
だから、僕を笑う人間がいなくなれば、いいんだと思う。
「人を馬鹿にする奴らは、すべて僕のモノになればいい。」
蒼太がヒト型兵器連に取り込まれていく。
ヒト型兵器連から黒いエネルギーが吹き出し、大阪を覆っていく。
黒い雨が人の形を模倣していくと、人々の思い出に変化していった。
ある兵士は、亡くなった両親の姿に変化し、黒いエネルギーを受け止めさせた。
ある兵士は、亡くなった妻の姿に変化し、黒いエネルギーを受け止めさせた。
いろいろな人たちの思い出に変化し、彼らの生命エネルギーを吸収していく。
「どんどん、僕の力になればいい。」
蒼太は強くなることを望んだ。
戦艦連が黒い霧に覆われる。
連の前に、蒼太が現れる。
「僕が強くなれば、隊長が楽をできると思うんです。だから、僕はみんなの力を利用して、強くなるんです。すごく良い案だと思いませんか。」
連は、蒼太の言葉に寒気がした。
「強ければ良いということではないと、思います。」
連が蒼太に笑いかけた。
「けど、強くないと、辛いことばかりなんです。」
「辛いことの中に、幸せなこともあるんじゃないか?」
連が蒼太を諭そうとすると、蒼太がそれを拒否した。
「どうして、優しい言葉をかけてくれないんですか?」
「私たちは、蒼太のことを信用しています。イヤなことから逃げずに向き合うことを信じています。だから、優しい言葉をかけないんです。」
「大人は、いつもそうやって都合が良いことばかり、僕に言うんです。だから、イヤなんです。僕の心を、怖そうとする。だから、イヤなんです。」
蒼太が、連の前から消失していった。
「この黒い雨は、まるで蒼太の涙のようだ。」
ヒト型兵器連の胸部に、蒼太がいる。
黒いエネルギーが衣とり、蒼太の身を包む。
「そうだ。僕から隆を奪い取った戦艦グリーンも、排除しないと。」
蒼太の手に、兵士の顔がある。
「こいつは、僕を馬鹿にした二等兵だ。」
蒼太が笑いながら、手で兵士の顔を砕く。
「僕のことを馬鹿にした。あいつもいる。」
新しい骸骨を手にすると、蒼太がそれを砕いた。
「次は、戦艦グリーンだ。」
蒼太が不気味に笑い出す。
潤が戦艦グリーンに戻ると、隆がベリーショートに搭乗していた。
「遅くなりました。」
隆がコクピットを開けて、潤を招き入れる。
「俺たちのことに悪い。」
「気にすることはないです。さあ、行きましょう。」
ベリーショートが起動すると、一度、静止した。
蒼太と隆との思い出が、潤の中に入り込んでくる。
「蒼太は優等生とはいえないタイプだった。」
「僕と同じだと思う。」と、蒼太が二人の思い出を眺める。
隆が独りでいると、蒼太が声をかける。
「お互いに声を掛け合って、成長してきたんですね。」
「俺は、蒼太に支えてもらっていた。」
真っ黒の衣を着た蒼太が、こちらを見る。
「僕の居場所を奪った戦艦グリーンが、憎い。」
「黒いエネルギーが、蒼太の不安を具現化して、憎悪へと変換してしまったんだ。」
潤が蒼太を見て、変わり果てた蒼太に苦しくなった。
「蒼太は、いつも前向きに取り組める希望に溢れた奴だ。不安に負けるわけがない。」
「僕もそう思う。だから、助けに行こう。」
黄色の柱のような光が放たれると、ベリーショートが起動した。
「さあ、ベリーショート。僕の所においで。」
蒼太が、ベリーショートのことを待つ。
ベリーショートが、蒼太の思いに応えるように浮上していく。
「蒼太。正気に戻るんだ。」
隆が蒼太に声をかける。
「僕はいたって、正気です。」
戦艦グリーンに黒い霧が覆う。
戦艦グリーンの精密機器が、ギシギシと音を鳴らす。
冷たちの呼吸が荒くなる。
「私たちを呑み込もうとしている。」
ベリーショートが戦艦グリーンに手のひらを向けると、黒い霧の周りを黄色の光が覆う。
「これで、少しはもつと思います。」
潤が戦艦グリーンの援護に入る。
ヒト型兵器連が、ベリーショートの目の前に移動し、黒いエネルギーを放つ。
「直撃する。」と、隆が衝撃に備える。
ベリーショートが、黒いエネルギーの直撃を受けると、後方に飛ばされる。
ベリーショートの左腕が、黒いエネルギーに汚染されていく。
隆が痛みで、悲鳴を上げる。
「どうして、僕のことを受け入れてくれないの?」
小さな黒い蒼太が、泣きそうな声で隆に問う。
「蒼太は、いつも明るく前向きな奴だ。おまえは、蒼太じゃない。」
黄色の光が、ベリーショートの左腕に集まる。
「僕は隆とずっと一緒に居たいだけなんだ。僕を見捨てないで。」
「蒼太を見捨てた事なんて、一度も無い。友達だろ。」
黒い小さな蒼太が「痛い。」というと、ヒト型兵器連に戻っていく。
戦艦連が、ヒト型兵器連に主砲を向ける。
「主砲、一斉発射。黒いエネルギーに囚われたヒト型兵器連を開放する。」
雷が「といっても、あれだけ的が大きければ、誰でも当てられるけどな。」と、突っ込む。
「それでも、雷の上手には期待しています。」
雷が「操るのが、ヒト型兵器じゃないけど、やってやる。」と、主砲を発射する。
ヒト型兵器連に主砲が当たると、後方に弾かれる。
「隊長。僕の邪魔をするんですね。僕の邪魔をしないでください。」
雷が「俺たちが、正常な蒼太に戻してみせる。」と、蒼太に言った。
「雷の言うとおりです。私たちが勝利して、蒼太を迎え入れます。」
「隊長。お願いだから、邪魔しないでください。」
黒い球体が爆発して、大阪をさらに黒い色に染める。
身を潜めていた西成に、黒い影の迎えが来る。
「ずいぶんと、遅かったな。」
与とミンクと貴理子が、西成のまわりを囲む。
「私は、自分の夢を叶えるために、ずいぶんと犠牲を出してきた。」
西成の初恋の女性が現れ、西成の手を取る。
「私も普通に恋をしていたら、こんな非道に手を染めることはなかった。」
西成がその女性を強く抱きしめる。
「示度博士。君の計画は成功だったよ。」
西成が黒い影に吸収される。
しかし、黒い影となった西成は、拒絶されるように爆発し、無数の黒い液体となって散った。
与とミンクと貴理子が、それを見て笑っていた。
研究室にいる示度に、妻の迎えが来る。
「ようやく、会えたな。」
黒い姿をした妻を見て、示度は喜んでいた。
「私は、私の手で、おまえを迎えたかった。私のエゴで、大阪を犠牲にした。ひどい奴だ。」
妻は示度に首を横に振って「何よりも優先してくれたこと、私は嬉しかった。」と、答えた。
「私の人生は矛盾ばかりだった。絶対的科学主義を唱えながら、魔法の力を利用することもいとわなかった。それは、すべて、おまえと再会するためだ。」
示度に仕えていた研究員たちが、姿を現す。
「君たちの犠牲も尊いものであった。」
研究員たちが、示度を囲む。
「示度博士は、多くの犠牲をもとめた。その罪は重いです。」
蒼太が示度の前に現れて、示度の罪を問う。
「蒼太。それは私も分かっている。博多魔術国の消失も、私が願ってのことだ。」
「僕が疑似無限魔法炉搭載機に搭乗したことも、示度博士の計画通りということですよね。」
「その通りだ。そして、蒼太は見事に疑似無限魔法炉搭載機の器となって、私を導いてくれた。本当に感謝している。」
「僕に感謝の言葉は不要です。」
「蒼太の孤独は、私も理解している。そして、今、その孤独から解放されようとしていることもな。これは、蒼太のためでもある。」
蒼太が、示度の身勝手な言葉に腹を立てた。
「僕は、もう、どうしていいか分からないです。」
「君には、隆と潤がいる。彼らが蒼太を導いてくれる。」
示度が黒い妻を強く抱きしめる。
「ありがとう。蒼太。私は、先に行かせてもらうよ。」
示度が黒い妻に呑まれていく。
黒い球体が、示度を拒絶することはなかった。
「示度博士は、ずっと苦しんでいたんですね。」
蒼太は示度の痛みを理解して、示度を拒絶することはなかった。
陵の前に、黒い影が冷となって、現れた。
「私を受け入れれば、一つになれる。」
冷が陵に微笑みかける。
陵が冷に、手を差し出そうとする。
「こんなことを言うのは、冷ではない。」
冷が「騙されてはいけない。」と、陵に言った。
「私は、陵だけのもの。誰かに心を奪われる不安などないわ。」
「私だけのモノ。」
「そうよ。私と陵は永遠に結ばれるの。」
冷が陵の頬を手で触ろうとするが、陵が後ろに避ける。
「永遠なんていうものは、偽りだろ?」
「ヒトの心が移り変わってしまうことが、怖いんでしょ?」
「そうだ。それの何が悪い。」
「私と一つになれば、陵と私は同一体だから、心の移り変わりもなくなる。私の心は、陵の心。陵の心は、私の心なのだから。」
陵が首を横に振った。
「ありがとう。けど、君を受け入れることはできない。君と僕が同じ存在になるということは、君のことを感じることもできなくなるということだから。それは、寂しいことだと、私は思う。」
陵が黒い影を強く拒否すると、黒い影が後方に引きずられた。
美佳の前に、章の黒い影が現れる。
「まったく、気持ちがなかったわけではないけど、途中から分からなくなってしまった。生きることに必死で、章の気持ちすら利用して、感じないようにしていたと思う。」
黒い影が、雷に変化していく。
「大阪に来て、今度は雷の好意を利用しようしているのかもしれないと思うと、自分のことがどんどん嫌いになっていった。」
「それなら、俺達と一つになれば、罪悪感もなくなる。」
黒い影の章と雷が、美佳に近づいていく。
「私とみんなが、同じ存在になれば、他人を傷つけることもなくなる。そうしたら、傷つくこともなくなる。夢みたいな話だと思う。」
「だから、俺達と一つになろう。」
「だけど、私は傷ついても、また、章と雷に出会いたいと思うから。だから、あなたのことを受け入れることはできない。それに、生まれ変わっても、また章のことを好きになると思うから、だから受け入れられない。」
黒い影の中から、黄色の光が放射され、影は消失する。
「隆と潤のことを感じる。二人の希望の光。私のことを守ってくれて、ありがとう。」
ベリーショートは前方に立ち、マジックバリアを展開して、黒い液体を受け止める。
「攻撃するタイミングが計れない。」
隆と潤は、マジックバリアで攻撃を受け止めることしかできなかった。
「隆。援護を感謝する。」と、連が感謝を述べる。
戦艦連に兵から連絡が入る。
「西成元隊長ですが、黒い球体に呑まれ消失したと、西成派の兵より連絡がありました。」
「続いて、示度博士も黒い球体に呑まれ消失したと、連絡がありました。」
連が二人の消失を確認すると、大阪に生き残る者に告げる。
「私は、第一艦隊の隊長。森の宮 連である。示度博士の死亡により、国王が不在となった。また、大阪の有事であることは、目の前の現状から皆の知る通りである。従って、これより、わが国の指揮は、私が執ることとする。協力を願いたい。」
大阪に生き残る数少ない国民が、応援の声をあげた。
「応援の声が小さくなったな。」
隆が、大半の国民が黒い液体に呑まれていることを、実感する。
「これ以上の被害を抑えなければいけません。」
潤の言葉も空しく、ベリーショートは動けずにいる。
ヒト型兵器連は暴走し、悲鳴をあげるだけで、その場から動かずにいる。
隆が蒼太の気配を感じると、目を閉じる。
「潤。ベリーショートのことを頼めるか?」
「はい。大丈夫です。」
ベリーショートの内部にあるマジックストーンが輝き始める。
「俺が蒼太を迎えに行く。」
ヒト型兵器連の想像した黒い球体の中に、ベリーショートが侵入する。
「これは凄いエネルギーです。」
「今の俺たちなら、大丈夫だ。」
ベリーショートが奥に進んでいく。
ベリーショートを、召喚獣のようなものが襲う。
しかし、マジックストーンの光によって消失する。
「モンスターの巣窟だな。」
「すごい苦しい空気が流れています。」
現実を受け入れられないヒトのなれの果てが、エネルギーに変換し、蒼太の想像上の獣に変換されていく。
人々の苦しむ声が、あちらこちらから聞こえてくる。
「蒼太はどこにいるんだ?」
潤が隆の手をギュッと握る。
「落ち着いてください。」
「いつの間にか、俺が潤に支えられていた。」
「僕にできることがあれば、隆に協力したい。」
「何も知らなかった潤が、この世界に順応していく。」
「ヒトは生きていれば、きっと幸せを見つけることができる。」
「そのことを、蒼太に伝えられればいいんだ。」
「僕もそう思います。」
潤が隆の部屋を訪ねていた。
「隆は新都市大阪国のことを、気にかけているんですね。」
「軍には裏切られたが、親しくしていた人もいるからな。」
「それなら、新都市大阪国に行くべきです。」
潤が隆の肩を叩いた。
「俺は別に。」
「僕は隆の味方だから。」
潤が隆に笑顔を見せた。
「俺の希望は、新都市大阪国にもある。」
マジックストーンから、希望の光が放たれると、黒いエネルギーが退く。
ベリーショートの前方が明るくなると、黒い衣を羽織る蒼太がいた。
「蒼太。迎えに来た。」
隆が蒼太に手を差し伸べると、蒼太はその手を取ろうとはしない。
「僕は弱くて、誰かに甘えていました。隆がいうような強さなんて、ないんです。」
「それでも来い。」
蒼太が下を向いて、隆を見ようとしない。
「僕はダメなんです。ここにいるべきなんです。」
「蒼太は、俺に優しく声をかけてくれた。連のことを気遣ってくれた。みんなをよく見てくれていた。俺たちに必要な存在だ。」
潤が呪文を唱えると、蒼太を明るく照らした。
「止めてください。僕は、もう、苦しみたくないんです。苦手なことから逃げたいんです。」「蒼太が軍にいなかったら、俺たち出会わなかった。蒼太が迷わなかったら、俺たちはこんなに親しくならなかった。蒼太は苦しいことを受け入れて、まわりに幸せを分けてくれた。だから、大丈夫だ。来い。」
蒼太が手を差しだそうとすると、黒い獣が蒼太を呑み込んだ。
「隆。逃げて・・・」
蒼太に扱えきれなくなった黒いエネルギーが、希望を拒絶して、蒼太を呑み込む。
そして、蒼太の心を絶望に染めていく。
「どうしたら、いいんだ。」
「あと少しのところでした。」
黒い蒼太の形をしたモノが、ベリーショートに張り付く。
「誰も居ない世界に、隆もおいで。」
黒い蒼太の形をしたモノが、ベリーショートに浸食していく。
「もう、誰も傷つかないから、おいでよ。」
「僕がいないと、やっぱり頼りないんですね。」
連が「こちらは、森の宮 連。ヒト型兵器連の撃墜に協力を願いたい。」と、スマに声をかけた。
「もちろん。ベリーショートの援護をします。」
スカイブルーは、ファーストソードを装備している。
「ベリーショートは、あの黒い球体の中にいます。」
「状況は察しました。久しぶりです。」
スマが冷に返事をした。
「俺たちもいるぜ。」と、章がスマに声をかける。
「久しぶりです。章。ここからが勝負です。戦艦グリーンの援護に期待します。」
スカイブルーが、黒い球体に突っ込んでいった。
青い光が、ベリーショートに近づくと、黒い蒼太が逃げるように消えてく。
「どんな魔法も自由自在って、ことですね。」
スカイブルーが、青い光の中から姿を見せた。
「スマ。助けに来てくれたのか。」
隆がスカイブルーを見て、驚いた。
「お待たせしました。マジックストーンの力だけでは、蒼太を解放することは難しいです。なので、僕が手伝いに来ました。」
「ありがとうございます。だいぶ、強くなったようですね。」
潤がスマから溢れ出るエネルギーを感じていた。
「蒼太を、あの黒いエネルギーから引き釣り出しましょう。」
「一度、失敗している。」
「僕がいるから、今度は成功します。」
スカイブルーが、ベリーショートの周りを舞い、魔方陣を描く。
「僕も出来るような気がします。隆、やりましょう。」
「分かった。やろう。」
魔方陣が輝き出すと、ベリーショートに力を与える。
黒いエネルギーとなった人々が、ベリーショートとスカイブルーに突撃する。
魔方陣に引き込まれるように、次々、黒いヒトが突撃する。
マジックストーンの光が、それらを打ち消していく。
「蒼太の魂を、探し出しましょう。」
「ああ。もう一度、最初からだ。」
大きな黒い球体が現れ、スマが飛び出した。
「ファーストソードの力であれば、無力化できるはずです。」
ファーストソードに大きな黒い球体を突き刺すと、人々の悲鳴が大きくなっていく。
大きな闇のエネルギーが、ファーストソードによって、消失していく。
大きな闇のエネルギーの奥に、蒼太が倒れ込んでいた。
「俺の手を掴むんだ。」
ベリーショートが、蒼太に近づくと、ヒト型兵器連が邪魔をする。
潤がマジックストーンの力を解放していく。
「古より伝われし。すべての魔力の源泉。ある時代では魔王と呼ばれ、ある時代では帝王とよばれた神よ。この暗闇の中に、明日を与える力を与えたまえ。ゴットライトサン。」
朝日のように、暗闇を照らし、闇でしか生きれないモノを滅ばしていく。
「明けない夜はない。そうだろ。蒼太。」
隆が必死に手を伸ばし、蒼太の手を取ろうとする。
「癒やしの光よ。蒼太を導きなさい。」
スカイブルーから、蒼太に青い光が放たれると、黄色の光が蒼太に届く。
「両親が死んだ時。自分がしっかりしないといけないって思って、背伸びすることにしたんだ。けど、結局、僕には出来ないことが多くて、やっと出来るようになったと思ったら、また、次の課題があって、大変だったんだ。」
蒼太の黒い衣が、青く光り、蒼太の心の傷を癒やしていく。
「それでも、僕は生きようと思ったんだ。」
蒼太の衣が、黄色く光り、蒼太の心を温める。
「それでも、僕のことを認めてくれるヒトは、少しでもいたから。だから、僕は生きていていいんだって思った。」
蒼太の手に、黒い魔石が現れ、スカイブルーに投げる。
「お願いします。この悪しき力を打ち砕いてください。」
「僕に任せてください。」
スカイブルーはファーストソードを使い、黒い魔石を破壊する。
黒い魔石は、浄化されるように白い光を放ち、消失していった。
蒼太の手が隆の手に触れる。
隆が蒼太を強く引き寄せると、絶望の淵から舞い戻った。
「俺たちは、永遠の友達だ。」
「ありがとう。隆。僕のことを迎えに来てくれて。」
「当たり前だろ。大変な時を共にした。仲間なんだ。」
ヒト型兵器連が、マジックストーンの力で崩壊していく。
動力源を失った今、ただの鉄くずとなり、壊れていく。
戦艦連の主砲が、ヒト型兵器連に撃たれると、塵と成っていく。
「私の専用機。ここで、静かに眠ってほしい。」
連は、ヒト型兵器連が、もう誰も利用されることがないことを願った。
「ありがとう。俺に力をくれた機体。感謝する。」
隆も、ヒト型兵器連に感謝を伝えた。
疑似無限魔法炉搭載機にならなければ、このような最後ではなかったと思い、ヒト型兵器連が静かに墜ちることを願った。
光太が「やはり、スマが止めてくれました。」と、報告する。
莉久が「闇の力を止めるには、駿かスマの力を借りなくてはなりませんでした。すべては、計画通りです。」と、現状に満足をする。
勇児が「我々が想像したフリースターの稼働も順調です。」と、報告する。
祐右が「三機のフリースターが撃破されましたが、問題はありません。」と、言う。
茂之は「仙台シン魔術国の役目は、果たさせて頂きました。」と、続けた。
冴島が「博多魔術国の続く、名古屋共和国の崩壊。そして、新都市大阪国の崩壊。すべて、それぞれの計画に必要な儀式であり、無事に完了しました。」と、報告する。
クイーンは「東京での儀式。私たちにも参加する権利がありますわ。」と、言う。
キングが「ヒトのエネルギーを魔石に込めるという技術がなければ、計画は遂行できなかったことは、忘れてはならないぞ。」と、言った。
理恵子は「いずれにしても、最後の儀式が残っています。」と、話しを止める。
「彼らが、ここにやってきます。」
莉久が心の準備をしていた。
「そのときは、私の別れの時です。」
光太が嬉しそうに笑い、軽く会釈した。
蒼太を迎える連と雷と美佳がいた。
「おかえりなさい。」
連が蒼太に、いつものように声をかけた。
「ただいま。」
連が蒼太の頭を軽く撫でた。
「やめてください。」
「よく、頑張りました。」
「・・・はい。」
スマを迎える戦艦グリーンのクルー。
「おかえりなさい。」
冷がスマの目を見て、声をかけた。
「ただいま。」
章が「どこ、行ってたんだ。心配したんだぞ。」と、スマの背中をたたく。
「痛いです。」
陵は「おかえりなさい。」と、何もなかったかのように、スマを受け入れた。
「名古屋共和国は、冴島の裏切りで幕を閉じた。冴島は、東京に向かいました。僕たちも、東京に向かいましょう。」
隆が「その前に、少しだけ休ましてほしい。」と、珍しく弱音をはいた。
「僕も限界です。」と、潤も同意する。
「あまり休む時間はなさそうです。」
冷が、東京上空をフリースターが舞う映像を見せる。
「疑似無限魔法炉搭載機が、10も投入されるとは、ただ事ではない。」
「こちらも、すでにただ事じゃなかったけどな。」
陵と章に割って入るように、連から連絡が入る。
「今回の件。ご協力を感謝する。そちらも、かなりの損傷を受けていると見える。また、シン東京連合が何かを企んでいることは間違えない。したがって、補給をおこなったうえで、シン東京連合にむかおうと思うのですが、冷はどう思う。」
「ありがとうございます。補給の件、感謝します。ですが、シン東京連合のことは、連には関係がないことです。大阪の復旧を急いだ方が賢明なのでは。」
「いや。シン東京連合の計画を阻止しなければ、ヒトに未来がないと思われる。確たる証拠はありません。しかし、シン東京連合に国を超えた人物が集まっている。だとすれば、人類最後の儀式が行われる可能性がある。大阪の未来は、彼らを阻止しない限り、閉ざされてしまいます。」
「おそらく、東京で儀式が始まる。そのときに、ワイズストーン、ビショップストーン、マジックストーンの力によって、新たな世界が創造される。それを阻止するのが、君たちの役目だ。」
「示度博士は、新たな世界の創造が始まると言っていました。」
潤が示度の言葉を思い出し、二人の会話に割って入った。
「示度博士の言葉を信じるとすれば、駿とスマと隆と潤が、この世界を維持するために必要な存在だということになる。そして、すでに駿は東京に向かっているようだ。」
「僕達も、早く東京に向かいましょう。」
潤が連に気持ちを伝えるが、すぐには東京には向かえずにいた。
戦艦グリーンの整備作業が進む中、陵が冷を呼び出した。
「これが最後の戦いになると思う。だから、話しておきたい。生きて帰れる保証はないからな。」
冷が「私も話しておきたいことがあるの。」と、切り返した。
陵はすぐに言葉を発することができなかった。
「この戦いが終わったら、私は戦艦グリーンを降りると思う。」
「戦艦グリーンを降りたら、自分と暮らさないか。」
「今すぐ、返事はできない。」
「この戦いが終わったら、返事を聞かせてほしい。」
冷は「ありがとう。」と、言った。
章が美佳のいる施設に向かった。
「俺たちは、東京に向かう。」
「連たちも、東京に向かうよね。」
「ああ。このまま、ここにいるのか?」
美佳が、しばらく答えないでいる。
「最後の儀式を阻止しにいくことも、知ってるよ。」
「戦艦グリーンに戻らなくていいのか?」
「私は、戦艦グリーンにいる資格がないと判断されたの。仕方ないわ。」
「俺が守るって、言っただろ?」
「また、章のことを利用しているような気がして、気が引ける。」
「あいつらの最後の戦いを、見守ってやれよ。」
美佳は、冷の笑顔を思い出していた。
「戦艦グリーンの最後の戦い。私も戦うわ。」
章が美佳を抱きしめた。
「ありがとう。」
戦艦グリーンに美佳が戻る。
章が美佳の手をつなぐ。
「美佳。どうしましたか?」
冷が美佳の姿を見て、冷たい言葉をかけた。
「私も戦艦グリーンで戦う。」
「戦艦グリーンに戻ったら、また人を撃たなければならないのよ。」
「それでも、戦艦グリーンを見守る義務が、私にはあるから。」
美佳の決意に、冷は「分かりました。」と、承諾した。
「ありがとう。冷。」
「今は人手が多い方がいいわ。それに戦うことに迷いがないなら、美佳は戦力になる。」
陵が「おかえりなさい。」と、美佳に言った。
「ただいま。」というと、定位置に美佳が座った。
戦艦グリーンの大浴場にいる、スマと隆と潤。
スマが浴槽につかると、体を大きく伸ばした。
「やっぱり、ここのお風呂は最高です。」
スマの姿を見て、潤が軽く笑った。
「大げさです。」
「何してたんだ。スマは。」と、隆が突っ込んだ。
「恋煩い。なんてね。」
隆が「笑えない。」と、細い眼をした。
「駿のところに行かないで、僕達を助けるなんて、変です。」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。スマは、駿が一番ですから。」
「うるさいです。潤たちを助けないと、駿も助けられないから、です。」
スマが潤に本音を隠していた。
「どうせ。駿に会う勇気がなかっただけだろ。」
隆がスマに、冷たい言葉をかける。
スマが隆の顔に、お湯をかけた。
「そんなことないですよ。」
「なにするんだよ。痛いところを言われたから、だろう。」
「そんなわけないだろ。」
隆が「はいはい。」と、スマの言葉を受け流した。
「僕達で、駿に会いに行きましょう。」と、潤がスマに言った。
「そうだな。とにかく、進むしかないな。」
話が勝手に進んでいくことに、スマは不満だった。
「だから、一人でも会いに行けますよ。」
「フリースターと戦うのに、ベリーショートだけでは厳しいと思いますよ。」
「敵は13機。どんなに有能でも13機を倒すのに、一人は厳しいだろ。」
潤が話を逸らして見せた。
「駿と会えるかって、話でしたよね。」
隆が「駿に会うためには、フリースターを撃破しないとならないかもしれないからな。」と、スマを茶化した。
「僕達で、フリースターを撃破しましょう。」
スマが立ち上がり「僕の話をきちんと聞いてください。」と、言った。
潤が「前を隠した方がいいですよ。」と、スマを茶化した。
「もう、分かりました。」
スマの悲鳴が、大浴場に響くのだった。
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読み終わったら、聞いてもらいたい曲
『花の唄 end of spring ver.』Aimer
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