Chapter 6:Bonds
「過去と未来の絆。選択できないモノ。」
戦艦西成とヒト型兵器外郎が、名古屋共和国を待ち構えている。
戦艦紅が戦艦西成に連絡を取る。
「こちらは、仙台シン魔術国。魔術省大臣。高橋 祐右である。」
「こちらは、新都市大阪国。第一艦隊、隊長の西成 次郎である。」
「わが艦隊は、新都市大阪国に敵意はない。」
西成が険しい顔をした。
「どういう真意か?」と、西成が高橋に問う。
「恋人の仇を果たしたい者がいるので、協力する。」
西成が「面白い理由だな。」と、笑った。
戦艦天守閣と戦艦紅が正面で向き合う。
「私は、菊川 キララです。この世界に不要な施設を破壊します。これ以上、薬物人体実験を続けさせてはならないのです。道をあけなさい。」
戦艦紅がガトリング砲で、戦艦天守閣を威嚇する。
新型のヒト型兵器で出撃する真理子と奈々と恵利。
真理子は「発進します。」と、ヒト型兵器みそかつに搭乗した。
奈々は「戦艦の援護をします。」と、ヒト型兵器ひつまぶしに搭乗した。
恵利は「先行します。」と、ヒト型兵器天に搭乗した。
冴島が主砲を発射して、戦艦紅を後退させる。
「戦場にお姫様は似合わない。」と、冴島がキララの言葉をかき消す。
2機のヒト型兵器笹蒲が、戦艦紅から発射する。
優子が「私が先行します。」と、飛び出して行った。
ヒト型兵器みそかつが遠距離光化学ライフルで、優子のヒト型兵器笹蒲を狙い撃つ。
「この間合いは、私の間合いです。」
優子が「この程度なら避けられるはず。一発だけは、避けられなかった。」と、ほとんどの攻撃を避けた。
真理が「ファイアーアロー!!」と、攻撃を仕掛けるが、射程が足らない。
ヒト型兵器天が上空から、ヒト型兵器笹蒲の攻撃のタイミングを計っている。
恵利が「火力より速さを優先したから、当てられる。」と、光化学ライフルを乱射する。
上空から、ヒト型兵器笹蒲を囲むように、光の柱が走る。
優子が「避けられないなら。」と、マジックバリアを展開し、攻撃を受け止める。
「いくつか、受け止められなかった?」と、ヒト型兵器笹蒲の装甲を傷つける。
恵利が「魔法を詠唱される前に仕掛ければ、ダメージを与えられる。」と、新型機に苦戦しながら、操縦の調整をする。
真理子が「引き続き、後方から支援します。」と、遠距離光化学ライフルにエネルギーを充填する。
恵利が「機動性を生かし切れるかが、勝敗を分けそうです。」と、言った。
真理子が「実戦での調整を急いでください。」と、言葉を加えた。
ヒト型兵器笹蒲が「ウィンドボム!!」を唱え、上空に舞い上がる。
優子が「魔法はこういう使い方もできるのよ。」と、短剣を装う。
ヒト型兵器天とヒト型兵器笹蒲が、上空で交わる。
「突撃すれば、当てられる。」と、優子が攻撃を仕掛ける。
恵利が光化学サーベルで、ヒト型兵器笹蒲の突撃を抑える。
「切り払ってみせる。」
ヒト型兵器笹蒲の勢いがなくなり、機体がゆっくり落ちていく。
「切り払われても、まだやれる。」
優子が「ウィンドボム」を唱え、もう一度、恵利に迫る。
「しつこい。」と、恵利が機体操作に戸惑う。
「隙を見せるのが悪いんだから。」と、優子がヒト型兵器天の光化学サーベルを弾き飛ばす。
恵利は無意識に右肩を下に落とした。
優子が「直撃させられた。」と、ヒト型兵器天の右肩に短剣を刺す。
恵利がヒト型兵器笹蒲の左足に光化学サーベルを投げつけ、貫通させた。
「ただでは、やられはしません。」と、恵利がカウンターを仕掛けた。
ヒト型兵器天がヒト型兵器笹蒲の胸部を、地面に向かって蹴り飛ばした。
恵利が「まだまだですね。」と、優子に通信を入れる。
優子が「この声。見つけた。」と、すぐに立ち上がり、上空に戻る。
ヒト型兵器笹蒲は、片足を負傷し、バランスを取るのが難しい。
真理が「ここは退いてください。」と、優子に告げる。
優子が「もう一回だけ!!」と、再度、攻撃を試みる。
ヒト型兵器天が機動性をあげて、旋回する。
「これ以上の機体へのダメージは避けなければ。」
恵利が回避に専念すると、ヒト型兵器笹蒲の攻撃をいとも簡単に避けた。
キララが「主砲、発射準備。この世に不要な施設を排除します。射線上の機体は回避してください。主砲、一斉発射。」と言うと、施設に向かって主砲が放たれる。
戦艦紅は回避行動のみを行い、状況を見守る。
優子のヒト型兵器笹蒲は巻き込まれないように、後退する。
施設の一部に着弾すると、炎が舞い上がる。
祐右が「戦域を離脱して、立て直してから再度攻撃を行う。」と、指示を出した。
莉久の申し出により、戦艦グリーンにヒト型兵器護摩と海風が格納される。
東京基地にベリーショートとヒト型兵器櫻が格納され、整備に回される。
「また、どうして、こういう展開になるかな。」と、章が頭を抱えている。
美佳が「戦艦グリーンは、巻き込まれ癖があるから、仕方ない。」と、章の肩を叩いた。
理恵子が「新都市大阪国にダメージを与えるチャンスです。」と、章と美佳に言った。
駿が「この状況も、不自然といえば不自然。」と、付け加えた。
隆は「示度博士が何もせずに見ているとも考えにくい。それにしても、どうして、情報が漏れたか、ということが気になる。」と、冷静に分析していた。
「第一艦隊は援護にも動きがありません。」と、冷が不思議そうな顔をしている。
陵が冷からの情報を確認して「罠なのか?」と、冷を見た。
隆は「罠を仕掛けるとすれば、仙台シン魔術国を一掃する何か切り札を用意するはずだ。連達が、人体実験を許すとは思えない。仲間割れでもしたのか。」と、言った。
学図が首を横に振った。
潤がまとまらない話に、割って入った。
「大阪に行けば、分かると思います。」
スマは潤の言うことは分かるが、大胆すぎると思った。
「どちらにしても、今は協力するしかありません。」
スマがクルーにそう伝えると、それぞれが出発の準備に戻っていった。
戦艦グリーンのブリッジで準備をする隆と潤がいた。
隆が美佳の隣に座ると「操舵補助をする。」と、言った。
美佳と章が操舵を担当している。
「潤は通信補助をお願いします。」と、陵に頼まれる。
潤は陵の隣の席に座り「わかりました。」と、返事をした。
後からブリッジ入る里桜が「今回は僕が艦長をやります。」と、中央の席に陣取る。
冷がイラっとした顔をするが「副艦長をやらせて頂きます。」と、席に着いた。
戦艦グリーンが大阪に向かって発進した。
潤が「あと120で到着予定です。」と、告げる。
「名古屋共和国と仙台シン魔術国が、先に交戦している模様か。で、どうするつもりなんだ。そちらの作戦は?」
駿が理恵子に、策を振る。
「仙台シン魔術国の目的が分かりかねます。」
「こちらと同様に、新都市大阪国の戦力を裂こうとしているのか。」
理恵子の言葉に、学図が意見を言う。
「もっと短絡的な動機かもしれないですけどね。」
スマは空気を読まない発言を、あえてした。
「次に仙台シン魔術国が攻め込むのを待って、攻撃を仕掛けるか?」
駿の問いには、理恵子は頷かなかった。
「いえ。仙台シン魔術国は、施設の破壊にまわる可能性が高いです。ですから、私たちが戦艦西成に攻撃を仕掛けましょう。」
学図は「冷静な作戦であれば、そのように行動するはずです。」と、言った。
スマが「冷静な作戦でなかったら、どうなんでしょうね。」と、理恵子の読みは外れると思っていた。
「今回は、そちらの作戦に従う。艦長は里桜がやっているみたいだからな。」
駿がお手並み拝見とばかりに、理恵子たちに指揮を任せた。
駿とスマは、食堂で待機することにした。
スマが駿に、和菓子と抹茶を用意した。
「今日はずいぶんと渋いんだな。」
駿が抹茶をすすると、上手に抹茶がたてられていて、びっくりする。
「けっこう、上手にたてられるんですよ。」
スマも抹茶をすすると、その味に満足しているようだった。
駿が「日本の良き文化だな。」と、納得している。
スマは駿のことを見ているだけで、幸せを感じていた。
駿が「何?」と、スマの目線に気が付いた。
「いや。なんでもない。」
「なんでもなくないだろう?」
駿がスマの頬を、指でつつく。
スマが「いつも、ずるいです。」と、駿を照れながらも睨んだ。
「どうして、ずるいんだよ。」と、駿に聞かれると、スマは少し黙る。
駿がスマの目を、じっと見つめた。
スマが「だから、ずるいんですよ。」と、目をそらした。
「だから、どうして、ずるいんだよ。」と、駿は再び同じ質問をした。
スマが「じゃあ、聞きますけど。」と、駿の目を見返した。
「どうして、僕のところに来てくれたんですか?」
スマの真剣な眼差しに、駿は息をのんだ。
駿が「スマのことが心配だったから、迎えに行った。」と、答えた。
スマは納得がいくような、いかないような気持になった。
戦艦グリーンが、戦艦西成をレーダーで捕捉した。
潤が「敵艦を捕捉しました。」と、報告する。
ヒト型兵器外郎が基地から出撃するのを、潤が確認する。
「こちらも、理恵子と学図は発進してください。」
理恵子と学図が「了解した。」と、機体を発進させる。
戦艦紅が1機のヒト型兵器笹蒲が出撃する。
優子が「私の標的じゃない。」と、後方に下がる。
戦艦西成が戦艦グリーンと間合いを取る。
「あちらの機動性は侮れない。」と、西成が戦艦グリーンを警戒する。
冷が「この間合いでは、攻撃が届きません。」と、里桜に伝える。
里桜が「特攻あるのみ。」と、戦艦グリーンを前進させる。
ヒト型兵器護摩と海風が、戦艦の左右にピタリと張り付いて、守りを固める。
西成が「主砲一斉発射!!」と言うと、一直線に光が走る。
章が「左に傾けます。」と、攻撃を避ける。
潤が「射程内です。」と言うが、里桜は「まだ、耐えてください。」と、前進する。
陵が「戦艦西成まで、あと30。」と、里桜に伝える。
戦艦西成の下部に戦艦グリーンが入り込む。
戦艦西成が真上にいることを、全員が目視できる。
里桜が「ゼロ距離なら、避けられはしない。攻撃開始。」と、指令を出す。
美佳の体は硬直したように、震えるだけだった。
「覚悟がないなら、退け!!」と、隆の強い声が響く。
隆が美佳を席から退かすと、美佳から全ての制御を奪い取り、実弾を発射した。
西成が「我慢比べで負けたか。被弾箇所を確認し、消化しろ。」と、指示をする。
理恵子と学図も援護をして、戦艦西成に攻撃を命中させる。
スマが戦艦の後方に悪寒を感じ「スカイブルー。出撃します。」と、新手に備える。
駿はスマを追いかけるように「レッドスター。発進します。」と、飛び出した。
ヒト型兵器みそかつとヒト型兵器ひつまぶしが、戦域に姿を現す。
スマが「こちらはスカイブルー。そちらに攻撃する意志はない。」と、伝える。
真理子が「目標は、あの無用な施設です。こちらかは攻撃しません。」と、答える。
ヒト型兵器みそかつの超長距離光化学ライフルが、ヒト型兵器外郎を襲う。
与のヒト型兵器外郎が大きな盾を前に突き出す。
「射程外からの攻撃だと。卑怯なんだよ。」
与は自分の腕に薬と投与する。
スマのスカイブルーが急接近して、剣を突き出す。
ミンクのヒト型兵器外郎が、スカイブルーの剣を受け止める。
「僕の攻撃を受け止めるとは、やりますね。」
ミンクは薬のせいか、ただ笑って、光化学ライフルを乱射する。
「無駄打ちしても、当たりはしません。」
スカイブルーは、見事に回避して見せる。
貴理子のヒト型兵器外郎が、スカイブルーの背後に回り、大型光化学サーベルを振りかざす。
「私がいることを、忘れてもらったら、困りますよ。」
スカイブルーに大型光化学サーベルが触れるが、駿のレッドスターが炎の剣で押し返す。
スマが「兄さん。ありがとう。」と、礼を言う。
レッドスターに、ミンクのヒト型兵器外郎の大型光化学サーベルが迫る。
「私が加勢すれば、押し切れる、はず。」
駿が「スマ。ブルーウェーブを頼む。」と、潰れた声で頼む。
スマが「すいません。」と言うと、ブルーウェーブでヒト型兵器外郎を押し返す。
押し返されたヒト型兵器外郎に、ヒト型兵器みそかつの射撃が命中する。
重量があるため、ヒト型兵器外郎がひっくり返る。
貴理子が「どこから狙い撃ちされたのよ。」と、怒り叫んでいる。
戦艦西成が前に出て、スカイブルーに機関砲を打つ。
与が「世話がやけるな。」と、貴理子のヒト型兵器外郎を起こす。
ヒト型兵器ひつまぶしのバズーカ砲を、ミンクのヒト型兵器外郎の大きな盾で受け止める。
「的になってるんだって。しっかりしなさいよ。」
ミンクの言葉に「うるさいわね。」と、貴理子が怒った。
ヒト型兵器外郎の援護にまわる新都市大阪国の隙をついて、戦艦天守閣が前進する。
冴島が「全弾一斉発射。このタイミングしかない。」と、支持を出す。
キララが「この世にあってはならない施設を、破壊してください。」と、冴島に続く。
戦艦天守閣の攻撃が、新都市大阪国の施設に着弾する。
戦艦紅からヒト型兵器笹蒲が出撃すると、ヒト型兵器天が出撃する。
優子が前に出ると「決着をつけさせてください。」と、短剣で襲う。
恵理が機体を旋回させ「回避に集中すれば、当たりはしない。」と、宙を舞う。
二人の決着を邪魔するかのように、戦艦連が現れる。
ヒト型兵器松風庵が、戦艦天守閣に電磁的ネットを仕掛けようと近づく。
「今まで援護しなかったのに、どうしてこのタイミングで。」
雷が「そちらの目的は達したはずだ、撤退しろ。」と、冴島に告げる。
ヒト型兵器堂島がヒト型兵器笹蒲の前に立つ。
蒼太が「勝敗はつきました。退いてください。」と、優子を止める。
祐介が「あえて敗北してみせるということですか?」と、苛立つ。
連が「あえて敗北することはないが。」と言うと、施設が大爆発を起こす。
祐介が「大義がなくなったか。撤退する。」と、面白くなさそうに言った。
優子が悔しそうに、戦艦紅に帰還した。
「目的は達しました。撤退します。」と、里桜が戦域から離脱することを告げる。
レッドスターとスカイブルーが、戦艦グリーンに帰還する。
戦艦グリーンは、シン東京連合に戻っていった。
「このタイミングでの介入とは。」と、雷がイラついている。
蒼太が「あまりに露骨です。」と、言った。
「示度と西成の対立が深まるばかりだ。」
「ただ、国王は示度博士なんだから、直接的に命じればいいだけなんじゃないか?」
連に雷の疑問を投げかけた。
連は「単純な力関係ではないということです。」と、雷に答えた。
「美佳。貴方に戦艦を預けられない。」
戦艦グリーンのブリッジでは、緊張した空気が走る。
冷が淡々と感情を入れずに言った。
「すいませんでした。」
章が「体調が悪かっただけ。そうだよな?」と、二人に割って入る。
陵が「体調の問題ではないと思います。」と、章を止める。
潤は優しい言葉が見つからずに、言葉を発せずにいる。
「ここは戦艦です。戦いが怖いなら、ここにいる資格はありません。」
「分かっています。」と、美佳が冷に答える。
「俺達は兵士なんだな。」と、隆が寂しそうな顔をする。
潤が「僕達は戦友です。未だに終わらない戦いの戦友です。」と、隆の言葉を打ち消した。
隆が潤を見て、明るい顔をした。
里桜が「迷いは死を呼ぶ。やめたほうがいいよ。」と、言った。
美佳が「すいません。」と、部屋に戻っていった。
章が美佳を追いかけて、ブリッジからいなくなった。
学図が章とすれ違い、ブリッジに入ってきた。
「攻撃のタイミングが遅れていたが。」と、学図が言うと、潤が睨みつけた。
学図が「何か悪いことをいいましたか。」と、困っている。
里桜が「学図もタイミングが悪いよ。」と、言った。
戦艦グリーンの大浴場に駿とスマがいた。
駿が「さっきの、もう一回。」と、スマにねだる。
スマが「なにを、もう一回なんですか?」と、何をねだるのか、分からずにいた。
駿が「もう一回、呼んでほしいな。」と、スマを茶化す。
スマが「駿。」と言うと、駿が「そっちじゃない。」と、言った。
スマはどっちなんだと思いながら「兄さん。」と、駿を呼んだ。
駿はスマに呼ばれると、喜んだ。
「そこまで喜ぶこと、ないと思います。」
駿が「兄さんって、響きが好きなんだよ。」と言うと、スマが理解できない顔をした。
隆が機嫌悪く、浴室に入ってきた。
「ああ、まったく。」と、美佳のことを考えているようだった。
「お疲れ。」と、駿が隆に声をかける。
スマも「お疲れ様。」と、隆に声をかけた。
隆が「外に出てた人たちは、いいよな。」と、八つ当たりをする。
スマが「幸せな空気が出てましたか?」と、隆に意地悪をした。
隆が「ああ、出てたさ。」と、スマに答えた。
駿が湯船から出て、隆の頭をポンッと触った。
「あんまり、イライラするな。隆は真面目なんだな。」
「不器用なだけだ。」
「いろんな人のことを真剣に受け入れて、真面目に考えてくれて、ありがとう。」
隆が「兄さん。」と、言葉を漏らすと、駿が喜んだ。
「もう一回。」と、駿が隆に言うのを聞いて、スマは脱衣室に移動する。
隆が「なんだよ。それ。」と、駿を睨み付ける。
「僕だけじゃないんだって思ったら、苦しくなった。」
スマが廊下を歩いていると、里桜とすれ違った。
里桜が「今度は、スマがイライラしてる。」と、スマに声をかけた。
「イライラしてない。」と、スマが里桜に言った。
「ほら、イライラしてる。」
里桜がスマに笑うと「スマは僕と同じだね。」と、言った。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。」
スマが「部屋でお茶でも飲んでいきませんか?」と、里桜を部屋に誘った。
冷と陵がブリッジに残り、情報整理を行っている。
陵が「美佳のことは、どう処理するつもりですか?」と、冷に聞く。
冷が「私の意見だけで、決められることではないでしょう。」と、陵に答える。
陵は言葉を選びながら「美佳のことを助けてあげないのか?」と、聞く。
「美佳のことは好きだけど、心の問題は、他人が解決できる問題じゃないから。」
「冷は美佳のこと、よく知ってるから、助けてあげられると思った。」
「章の方が、美佳のことをよく知ってるから、私の出番はないと思う。」
「そうか。」と、陵は言葉を止めた。
理恵子がタイミングを見て、ブリッジに入ってきた。
「東京まで、こちらを利用させてください。」
冷が「はい。問題ありません。」と、理恵子に応えた。
「人を殺すことに抵抗があるとすれば、戦艦にいたら不幸になります。」
陵が「聞いていたのか。」と言うが、理恵子はそれには何も言わない。
「本人が不幸になるのではなく、私たちが不幸になるということを言いたいんですよね。」
冷が理恵子の言いたいことを、代弁した。
理恵子が「結局、戦いに負ければ、死ぬかもしれないということです。」と、言った。
駿の部屋の前にいる潤。
「おかえりなさい。」と、潤が駿を見つけた。
「ただいま。中に入るか?」
潤が「はい。」と言うと、部屋に入った。
駿が潤にオレンジジュースを入れた。
「ありがとうございます。」
「潤が部屋に来てくれるなんて、珍しいな。」
「僕の考えが甘いと思いますか?」
「いきなり、どうしたんだ?」
「美佳のことです。僕は、美佳には時間が必要だと思ったんです。それに戦友だから、結論を急ぐことはないと思ったんです。」
駿は美佳を早く戦艦から降ろすべきだったと、潤の言葉を聞いて思った。
「たしかに、潤の言っていることは正しい。ただ。」
潤が「ただ?」と聞く。
「ただ、今は戦いの最中。一つの判断のミスが、死につながることもある。美佳が戦いから逃げたいのなら、戦艦にいない方が幸せかもしれない。」
「僕たちが死ぬかもしれないってことですか?」
駿が迷わず「そういうことだ。」と、答えた。
潤は死という現実と向き合わされ、言葉を失った。
潤は博多魔術国で亡くなった友のことが脳裏に浮かび、言葉が出なくなった。
「この戦艦にいる限り、人の死と向き合うしかないんだ。俺は、逃げることも許されない。俺達には選択肢は用意されていないんだ。」
潤が「そうですか。」と、無表情のまま言葉を発する。
「悪いな。どうしてやることもできなくて。」
駿の言葉に「駿は何も悪いことをしてはいません。大丈夫です。」と、潤が答えた。
スマの入れた抹茶をすする里桜。
里桜が「結局、僕達は孤独から解放されることがないんだなって。」と、言った。
スマが「里桜と僕が同じ理由ですか?」と、聞く。
「理恵子と学図の中に入れなくなった僕と、みんなに優しくする駿を独占できないスマ。僕もスマも、ふと孤独を感じてる。だから、同じだなって思ったんです。」
里桜の言葉に、スマは頷いてた。
「どうして、自分だけじゃないとダメなんだろう。」
スマは自分の気持ちに疑問を抱いた。
「僕は不安を感じた。二人だけの世界があることに。いつか、二人が僕の前からいなくなるような気がしていたから。」
「僕なんかが、愛を受け取ってはいけないって思って生きてきた。けど、駿と出会って、僕のことを気遣ってくれたりして、愛情を感じた。誰かに奪われたくないって、思っているのかもしれない。」
「僕達には自信がないんだ。」と、里桜が自分の気持ちに気が付いた。
「僕が愛されるわけがないと思っているから、自信がないんだ。」
スマは里桜と同じだと思っていた。
「自分で自分を認めることって、難しいよね。」と、里桜が頭をかいた。
スマが「そういうこと、考えたことすらなかったです。」と、素直な気持ちを言った。
「今日は、皆さんに報告があります。新都市大阪国にある忌まわしい施設が破壊されました。戦艦天守閣の冴島副艦長が指揮を執り、施設が破壊されました。」
仙台シン魔術国の戦艦紅の映像を流す。
「しかし、私たちの作戦を妨害した者がいます。仙台シン魔術国の戦艦紅です。どうして、私たちの作戦を妨害したのでしょうか。あの施設は、ヒトをヒトとして扱わない研究が行われていた、この世にあってはならない施設だったのに。仙台シン魔術国は、どうしてこのようなことをしたのか、その目的を私たちは知らなければなりません。」
キララが全世界に向けて、訴えかけるのであった。
キララの横には、冴島が立っていた。
「高橋大臣。してやれましたね。」
茂之は祐介にいら立ちを感じていた。
「大嶋大臣。問題はないかと。」
祐介はキララを脅威に感じていないようだった。
美佳は部屋に閉じこもっていた。
章が美佳の部屋の前から「大丈夫か?」と、声をかける。
「今は一人にさせて。」と、美佳が返事をする。
章は何もできず、自分の部屋に戻っていった。
示度が帰還した連を呼んだ。
「施設の破壊は、無事に完了したのだな。」
連が「命令通り。処理しました。」と、答えた。
「西成の玩具が、いくつか残っているが問題はあるまい。」
「仙台シン魔術国の動きが気にかかります。」
示度が「さて、彼らはどう動こうとするかな。」と、笑った。
蒼太と雷は、施設の後処理を任されていた。
腐った肉の強烈な異臭が鼻につく。
二人は白い防護服を着て、後始末の支持をする。
「あまりにムゴイすぎる。」と、雷が死体を片付けながらつぶやいた。
蒼太が「こんなことをしているのが、僕達の軍だということですか。」と、暗い表情を見せる。現実を受け止めたくないようだった。
兵士が次から次に死体を運んでいく。
「10から15歳ぐらいの子供ばかりだな。」
「僕と同い年ぐらいの子供が、無数に人体実験をされていたと思うと。」
雷が「それ以上は、考えない方がいい。」と、蒼太の気持ちを察した。
「第二艦隊のパイロットを見て、薄々は気が付いていました。僕は見ないふりをして、今日まで戦ってきました。」
雷が「そのことを責める人は、誰もいないだろ。」と、言った。
「僕が軍人で、命令された通りに動いたから、責められない。」
雷が、蒼太の言葉に頷いた。
美佳が部屋にある通信機器を操り、仙台シン魔術国の情報を何気なく見ていた。
たまたま、一つのシャトルの情報が目に入る。
新都市大阪国に物資を運ぶと思われる輸送機に、クイーンが搭乗している。
しばらくすると、クイーンが輸送機を降りた。
クイーンの手にあった、いくつかの宝石のようなモノが無くなっている。
東京の成れの果てを見る美佳。
「これが人類浄化計画の成れの果て。人々が夢見て勝ち取った結果。」
莉久が「代償は大きく。人々は絶望の中、新たな希望を抱くことなる門出の地。それがシン東京連合であり、今の東京の姿なのです。」と、言う。
「戦う先に、突き進むことで希望を抱けると思っていたんです。」
「今は、希望を抱くことができませんか?」
「今は、人を殺すという怖さが、私の気持ちを揺さぶるんです。」
莉久が、シン東京連合の施設に案内する。
「ここを利用してください。ここにいない誰かとお話ししたいのでしょう。」
美佳は、雷のことが脳裏に浮かんだ。
雷の所持する通信機器が鳴る。
「はい。どちらさまですか?」と、雷が通信機器を取った。
「久しぶり。日野 美佳です。」
「美佳か。元気だったか?」
「何とか、やってる。雷は?」
「こっちは相変わらずだ。内情はグチャグチャだけどな。」
「こっちも同じ。どうなっちゃうんだろうって。」
雷が美佳の元気のない声に気が付く。
「章とは、うまくやってるんだろ?」
「どうなんだろうね。私が役に立たないから、お荷物みたいになってるかな。」
「お荷物って。なんだよ、それ。」
「そのままの意味。私の居場所って、どこなんだろうなって思っちゃう。」
美佳は涙声になっていた。
「こっちに来るか?こっちから迎えには出られないが。」
「そっちも大変なんでしょ。悪いよ。」
「連とか蒼太とか、俺もだけど余裕がないから、来てくれると助かる。」
「私、戦えないから、足手まといになるよ。」
「後方支援でもかまわない。いろいろ事情があって、人手が足りないんだ。」
美佳は数秒だけ考えると、雷に「少し時間がかかるけど、そっちに行くね。」と伝えた。
駿がブリッジにいる冷に話す。
「あの。美佳のことなんですが。」と、駿が切り出した。
「私は、シン東京連合に預けるべきだと思います。」
「しかしだな。章が納得しないだろう。」
「甘いことを言っていると、戦艦を落とされます。」
冷が言っていることは正論だと、駿も思う。
「俺って、いつも嫌な役を冷に押し付けてるよな。ごめんな。」
冷は、何も答えない。
「怒ってるのか?」
冷は、また何も答えない。
「分かったよ。今回は、俺の負けだ。美佳を戦艦から降ろそう。」
冷が「今の彼女には、それが良策です。」と、言った。
駿は助けをもとめるように陵を探した。
廊下にいた陵を見つけると「陵。ちょっと。」と、駿が陵に声をかける。
「何かありましたか。」
「美佳のことなんだけど。」
「ああ。そのことですか。」
陵が周りを見て、自分の部屋に誘った。
「それで、美佳のことなんだけど。」
「冷とは話をしたんですか?」
「ああ。冷の気持ちは固まっていたみたいでさ。」
「冷も辛い判断だったと思います。」
「本当なら、俺がその判断をすべきなのに。」
「それはそうですけど。とにかく、今、冷に抜けられたら大変です。」
「それはそうです。」
「早めの対応をしてください。」
駿は「はい。」としか、答えられなかった。
隆とスマが食堂で、ランチをしている。
「隆が美佳のフォローにまわったって聞きました。さすがですね。」
「美佳の手が震えているところを見ていたから、できたことだ。」
スマが不思議そうに、隆を見る。
「真っ先に、この戦艦から降りるように、美佳に言うと思ってました。」
「ここから去っても、行くところがないだろ?」
「それは分からないですけど。隆が戦いに勝つことに、執着しているので、中途半端な気持ちなら、降りろって言うと思っていました。」
「勝つことが正義であることは、確かだ。俺らしくないな。」
スマは、ふと自分らしいとは何なのかと、考えた。
「今回の件、スマはどう思った?」と、隆がスマに聞く。
「あんまり、興味がわかないかな。けど、章が辛い思いをすると思うかな。一番の貧乏くじは、章が引くような気がしてる。」
「なぜ?」と、隆がすぐに聞く。
「美佳が去っても、残っても、どっちにしても章は大変だと思う。美佳は、章のこと、本当はどう思っているんだろう。章は美佳が好きなのは分かります。けど、美佳は心の隙間を埋めているだけかもしれないと、思うことがあるんです。」
隆が「大人の恋模様は、複雑で理解できん。」と、言った。
「僕も理解はしてないけどね。」と、スマが言った。
駿が章を呼び出すと、美佳のことを報告した。
「どうしてなんだよ。それが総意ということか?」
「総意ではない。これは、俺の決断だ。」
章が目を下に背けると、手をぎゅっと握る。
「美佳は、今まで、この戦艦に貢献してきた。納得ができない。」
「このまま、美佳がここにいることが、彼女にとって良策だと思うか?」
「はい。」と、章が即答する。
「どうして、そう思う?」
「俺が彼女を支えていくからです。」
駿が頭をかいて、困っている。
「たしかに、章の気持ちは分かる。ただ、この戦艦にいることで、かえって美佳がプレッシャーを感じ、居心地が悪いと感じるんじゃないか?」
「美佳は大丈夫です。だから、お願いします。」
章が駿に頭を下げる。
「今回の件は、すでに決定したことだから。悪いな。」
駿が章の肩を軽くたたいた。
章がブリッジに飛び出していく。
ブリッジにいる冷と陵を目掛けて、勢いよく近づく。
「二人の判断だよな?」
冷が「美佳のことですか?」と、淡々と答える。
「そうだよ。どうして、仲間を切り捨てるようなことをするんだ。」
章の声に驚いて、隆と潤とスマもブリッジに急ぐ。
「切り捨てたわけではありません。」
陵が「ここにいることが、彼女にとっては負担になると思うからです。」と、続ける。
「美佳がそう言ったのかよ。単なる口実だろ?」
駿が「戦艦である以上。戦えない人間は、ここにはおいておけない。それだけだ。」と、二人をかばう。
スマは駿の言葉を聞いて「戦えない人間は不要ということですか?」と、聞き返す。
駿が迷わず「そうだ。」と、答える。
隆が「美佳の迷いは前からのものだ。解放してやるのも、優しさかもしれない。」と、駿をかばった。
潤はどうしていいかわからず、アタフタしている。
陵が「章の気持ちも分からないわけではない。ただ、美佳を受け入れる余裕がないと思ってほしい。」と、章に言った。
章が「もういい。分かった。」と、ブリッジから出ていった。
章は部屋に戻ると、美佳からの手紙が置かれていた。
莉久が美佳に輸送機を用意すると、新都市大阪国に飛び立っていった。
「またまた。どうして、東京なんでしょう。」
「戦艦グリーンがいるからじゃないですか。」
敦子と香奈が、戦艦暁から東京を眺めていた。
「出撃してください。」と、茂之の命令がある。
「了解。」と、敦子と香奈が、ヒト型兵器白松に搭乗した。
戦艦暁をレーダーで捕捉する莉久。
「仙台シン魔術国のヒト型兵器が、こちらに向かっています。」
ヒト型兵器護摩と海風が、迎撃に向かう。
「戦艦グリーン。迎撃をお願いします。」
莉久の応援要請に、冷が「了解しました。」と、答える。
戦艦グリーンが迎撃準備を始める。
戦艦グリーンの廊下にいる里桜とすれ違うスマ。
「出撃しないんですか?」と、スマが里桜に振り返る。
里桜が「理恵子と学図なら、大丈夫かな。」と、ブリッジに歩いていく。
ブリッジに章が入ると、すぐに里桜も姿を見せた。
冷が「貴方は出撃しないのですか?」と、里桜に聞く。
「戦艦グリーンで指揮を執ります。」
冷は駿に雰囲気が似ている里桜に戸惑い、中央の席をゆずる。
「私がサポートします。」と、冷が里桜に伝える。
章が「こちらは準備完了。いつでも発進できます。」と、里桜に報告する。
ヒト型兵器護摩と海風が、ヒト型兵器白松を捕捉する。
「絶対的魔術主義の看板を掲げながら、科学の力を利用するとは。」
敦子が「今回は、別の秘密兵器の実験らしいけど。大丈夫なの?」と、小言を漏らす。
香奈は「作戦に従うだけです。」と、答えでない答えを返す。
ヒト型兵器護摩が、いくつかの罠を仕掛けていく。
ヒト型兵器白松は後方より、攻撃の機会を見計らっている。
学図が「後方支援に徹して、なにをしようとしているんだ。」と、敵の様子を不快に思う。
戦艦暁が先行するのを確認して、戦艦グリーンが接近する。
「レッドスター。発進します。」と、駿が戦艦グリーンの援護につく。
「スカイブルー。発進します。」と、スマが駿に続いた。
「ベリーショート。発進します。」と、隆と潤は状況を伺う。
里桜がヒト型兵器の発進を確認すると、戦艦暁に攻撃を試みる。
「主砲一斉発射準備。これより戦艦暁を撃破します。」
里桜の掛け声に「戦艦暁を捕捉しました。」と、冷が伝える。
陵が「エネルギー充填完了まで、あと10。」と、冷に続く。
章が「主砲発射に問題なし。発射できます。」と、里桜に告げる。
里桜が「主砲一斉発射。」と言うと、一直線に光が走る。
章が「直撃しました。」と、喜びの声をあげる。
戦艦暁の後方が被弾し、火が上がる。
「この程度のダメージであれば、問題ない。消化を急げ」と、茂之が指示を出す。
戦艦の被弾の程度を確認して「奥の手を使う。主砲にN弾薬を投入急げ。」と、茂之が言う。
兵士たちは、本当に利用するのかという顔をする者もいた。
潤が「静かすぎます。警戒した方がよさそうです。」と、不快感を抱く。
隆も潤と同じ気持でいた。
スマは戦艦暁との距離を確認し「あちらの射程からは離れているから、問題はないと思います。ただ、動きが不自然です。」と、状況を確認する。
「俺が先行する。2機は後方より、支援を頼む。」と、レッドスターが前に出る。
戦艦暁がヒト型兵器ではなく、シン東京連合の主砲基地に標準を合わせる。
「弾薬準備完了。」と、兵士が言うと「禁止兵器を使用する。主砲発射。」と、茂之が言った。
里桜が「駿。離れて。危ない。」と言うが、駿は「ファイアーアロー!!」を唱え、弾を狙う。ファイアーアローがぶつかると、大きな爆発が起きた。
茂之が「攻撃が当たらなくとも、目的は達せられる。」と、にやりと笑う。
駿は「この破壊力は、核を利用したのか。何でもありだな。」と、マジックバリアで衝撃に備える。
章が「衝撃は来るぞ。」と言うと、冷が「戦闘継続に問題なし。」と言う。
戦艦グリーンが衝撃で、左右に揺れる。
東京の上層部が、核の力によってえぐられていく。
レッドスターのマジックバリアに亀裂が入る。
「古より続く火の力。人間に文明をもたらした火の力の神よ。滅びを恐れん汝の力を今解き放ちたまえ。ゴッドファイアー。」
駿が最大級の炎系魔法を唱えて、戦艦暁に投げつける。
「回避不能。艦を捨てて、離脱する。」と、茂之が早々と撤退する。
「脱出ポットに急げ。」と、兵が走る。
戦艦暁が炎に包まれると、煙を上げながら、撃沈していった。
敦子が「やられちゃったの。」と、戦艦暁の撃沈していく姿を見ている。
香奈が「撤退します。」と、機体を後退させようとする。
「残念です。私の予想通りでした。」
理恵子の仕掛けた罠に、香奈が引っかかる。
「私のしたことが。」
ヒト型兵器白松が超電磁ネットに引っ掛かり、身動きが取れない。
電子機器から白い煙が上がり、静止していく。
「機体を捨てます。」と言うと、香奈は機体から退避して、機体を自爆させた。
学図は「植物を育む大地の力よ。生命を育む大地の力よ。我が力となり。大地を荒らす者を排除したまえ。レタブレイカー!!」と、魔法を唱える。
大地が大きく揺れ、針状となった大地がヒト型兵器白松に突き刺さる。
「あっさりと、やられちゃうのね。」
敦子のヒト型兵器白松が、大地に突き刺さり再起不能となった。
「作戦終了。」と、学図が敵を殲滅した。
「冷。ごめん。僕、用事を思い出したから、ヒト型兵器で行ってきます。」
里桜が急にブリッジから飛び出していった。
「汚染された大地に、出撃するのか?」と、章が驚いている。
「絶対的魔術主義の彼らが核に手を出すとは。」
陵は信じられない様子だった。
戦域は核の影響で、モニターができない状況にあった。
「レッドスターの確認ができません。」
潤がレッドスターを探るが、発見できずにいる。
「核も魔法も、いずれも強大な力だった。」
隆が目の前の地獄を見て、動けずにいた。
スカイブルーもレッドスターを探るが、発見できずにいる。
「どこにいるんですか?」と、スマが駿を必死に探す。
ベリーショートが、黒く砂ぼこりをかぶったレッドスターを探り出した。
「レッドスターです。駿。」
レッドスターは静止している。
「レッドスターを回収する。」と、隆が冷に伝えた。
戦艦グリーンに帰還したベリーショートとレッドスター。
ベリーショートから飛び降りると、潤がレッドスターのコクピットに入ろうとするが、コクピットが開かない。隆が潤の隣に立つ。
「隆。お願いします。」
「これでいいか。」
隆が目を瞑り、潤に魔力を与える。
潤がレッドスターに魔力を注ぐと、コクピットが強制的に解放される。
「こんな使い方もあるのか。」と、隆が驚いた。
潤はコクピットに勢いよく入り、駿を探す。
駿は意識を失い、漂っていた。
潤が駿を見つけると、抱きかかえる。
「魔力を使いすぎです。無理しすぎです。」
潤が駿に魔力を注ぎ込むと、駿の小さい呼吸が落ち着いていく。
陵が「医務室に運んでください。」と、潤に指示を出す。
隆が潤に手を貸し、駿をコクピットから救い出した。
スカイブルーが戦艦グリーンに帰還し、スマが機体から降りる。
「僕がどんなに心配しても、おいしいところは、潤が持っていくんですね。」
スマは、潤と駿を遠くから見ることしかできなかった。
里桜は機体から脱出した敦子を見つけ出していた。
「佐竹 敦子。発見しました。」
「シン東京連合のコマが、私に何の用よ。」
「仙台シン魔術国が、東京の大地を汚すということは、結末が近いのかなって思って。」
敦子が「何を言ってるのか、分からないけど、哲学的。」と、言った。
「僕がシン東京連合にいても、惨めになりそうだから、仙台シン魔術国に行こうかな。」
「そんな自由に行動していいわけ?」
「招かざる客ではないと思うけどな。たぶん。」
敦子が里桜を無視して歩き始めると、里桜が敦子の後ろを歩いて付いていった。
戦艦グリーンの大浴場にいる章と隆。
「いろいろなことがあって、頭がグチャグチャだ。」
「章には辛く当たって、悪かった。」
「隆もそういうことが言える年になったのか。」
章は隆に笑って見せた。
章が「それにしても、行く当てもない美佳がどこに行ったんだか。」と、天井を見た。
隆は、美佳との再会はそう遠くないと、なぜか思っていた。
医務室で駿を見守る潤。
その姿を遠目で見るスマがいた。
「あのポジションは、僕のものだったはずなのに。」
灰色に覆われた東京を、何気なく歩くスマ。
生命の終わりを意識する光景が続いている。
「こんなところに、人がいる。」
スマは遠くから近づく人を見つけた。
「こんにちは。スマイル・シンプル。」
光太がスマに笑いかけた。
「どうして、君がここにいるんですか?」
「君を迎えに来た。」
スマはどういう意味なのかと、険しい顔をした。
光太から淡いピンクの光が放たれると、二人を覆った。
夜景が綺麗な現代的な街並み。
窓の光が宝石のように見える。
レインボーブリッジの照明が、スマの目に入る。
「ここは、昔の東京ですか?」
海の水は青く澄んでいる。
「そう。ここは昔の東京。旧人類浄化計画の発動以前の東京だよ。」
光太に連れられて、綺麗なホテルの一室に入る。
外に見えるのは、お台場の夜景だった。
「僕たちのいる世界からすれば、夢のような世界です。」
光太がスマの手を握る。
「スマが望めば、世界を創りなおすことも可能さ。」
スマが光太の手を握り返す。
「僕の望む世界が創造できるんですか?」
光太がスマの唇を奪う。
一瞬、スマは光太を拒絶しようとするが、光太の温もりが懐かしく感じた。
「光太は、本当は誰なの?」
スマは懐かしい温もりに、光太は別の誰かのように感じていた。
「櫻木 光太。僕は僕だよ。」
光太がスマの首筋に口づけをする。
「くすぐったい。」と、スマが顔を赤く染める。
光太がスマの服を?いでいく。
「その綺麗な体は、ビショップストーンの治癒の力によるものだね。」
本当のスマの体は、あちらこちらに大小の傷がある。
大人に遊ばれて傷ついた体を、光太が優しく撫でる。
「僕の本当の姿です。何よりよりも汚らわしい僕の姿。」
スマが涙を流すと、光太がその涙を舌で受け止める。
「ビショップストーンの担い手が君の理由は、誰よりもヒトに心を傷つけられてしまう宿命だからだったんだね。」
スマは自分を理解してくれる光太に、体をゆだねる。
光太の唇に、スマは自らの唇を重ねた。
「僕だけを見てくれませんか?」
光太が「もちろん。僕は君だけのモノだよ。」と、優しく微笑んだ。
光太がスマを受け入れていくと、白いシーツがクチャクチャとなっていく。
か細いスマの体を、指でなぞると、スマは恥ずかしそうにする。
スマが居なくなったことに気が付いたのは、隆だった。
「機体を置いて、居なくなったのか。」
章が「スマは、駿を置いていくとは思わなかったな。」と、スカイブルーを見る。
「自分の思いが届かないことに気が付いてしまったから、居なくなったのかもしれない。」
「どこかに行く勇気があるのは、うらやましいよ。」
章が自分のことを恨んだ。
冷と陵が話し合っていた。
「スマをロストした報告は受けている。」と、陵が言った。
「しかし、どうして、ロストに至ったんでしょうか。」
冷が何かに仕組まれていると、思っていた。
「加えて、里桜もロストしたようです。シン東京連合の報告です。」
「里桜の件は、ロストではなく、仙台シン魔術国に向かったのだと思います。」
「核が利用されたことで、また世界が動くということなのか。」
陵が核の使用については、心に引っ掛かりがあった。
「こちらの資料で問題ありませんか?」
美佳が連に資料を手渡す。
「ありがとう。」
蒼太が「どうして、仙台シン魔術国から例のモノが搬送されてきたのでしょうか。」と、疑問を投げた。
雷が「また、俺達には秘密にされているんだろう?」と、西成に怒る。
連が「美佳、機密情報を入手する技術に助かります。」と、礼を言う。
美佳は首を横に振った。
「僕じゃ、何時間もかかる作業をいとも簡単にやれるから、すごいです。」
蒼太が美佳に目をキラキラさせた。
雷が「俺は何時間かけてもできねぇー。」と、答えた。
連が「雷には期待する人がいないから大丈夫だと思います。」と、言った。
美佳は笑みをこぼしていた。
戦闘から数日後、駿が目を覚ました。
「潤。俺、どうしたんだ?」
「レッドスターの中で気絶してしまったんです。」
駿が体を動かすと、あちらこちらが痛い。
「本当によかったです。」
潤が駿に飛びつくと、駿は体の痛みを我慢した。
「体が思うように、動かせない。」
冷が潤からの報告を受けて、部屋に入る。
冷が「あれだけの魔力を使えば、無理もありません。」と、切り返した。
「俺は、ただ必死にやっただけだ。」
章が「いってやらないのか?」と、隆に聞く。
「今はいい。後で顔を出す。」
章は「そうか。」と、隆が何を考えているのかと、思っていた。
理恵子が章を見つけると、話しかける。
「彼女の件ですが。」
章が「何か知っているのか?」と、すぐに返事をした。
「ええ。新都市大阪国の森ノ宮のところに仕えているようです。」
章が「本当なのか?」と、理恵子に確認をする。
「シン東京連合が確認をしています。」
理恵子の言葉に、隆は違和感を覚えた。
「今すぐ、新都市大阪国に向かうか。」と、章が言うと、理恵子が首を横に振る。
「戦艦グリーンは、新都市大阪国に向かうことになると思います。今は、その時を待つことが賢明です。」
「どうして、そんなこと、分かるんだよ。」と、章が理恵子に説明をもとめる。
「新都市大阪国に災いが近づいていると、莉久様が言っていたので。」
隆が「災い?」と、その言葉に恐怖を感じていた。
莉久と理恵子と学図が、東京の最下層部に集まる。
「仙台シン魔術国からの東京への攻撃は、予定の範囲内だったのでしょうか?」
学図が莉久に疑問をぶつける。
「仙台シン魔術国からの攻撃は、シナリオにはない事柄ではありました。しかし、彼らが行動に移ったことは、人類浄化計画にとっては好ましきことでもあります。彼らの計画も順調に、次の段階に入ったということなのでしょう。」
理恵子は「仙台シン魔術国には新たな力が集中しすぎてはいませんか?」と、莉久に聞く。
「戦いの経験の少ない仙台シン魔術国に、新たな力が得られても、正しくその武力を行使できるのかは、疑問です。」
理恵子は「脅威にあたらない内は、相手にする必要がないということなのでしょうか。」と、言葉の意味を確認する。
「ええ。その通りです。」と、莉久が答えた。
「無人ヒト型兵器の開発については、大阪と名古屋が競争しているようですが。」
学図が無人ヒト型兵器について、莉久に話をする。
「新都市大阪国がD計画の次なる段階に移ると思われます。」
「名古屋共和国に遅れて、疑似無限魔法炉の制御技術を得ようとするのでしょうか。にしては、動き方に違和感があります。」
莉久は、新都市大阪国で起きる次なる災いを予知していた。
学図は、新都市大阪国が目指すエンジェル計画ではないD計画の進捗に、注視していた。
「私たちにできることは、起きた事柄を受け入れること。今はその段階なのです。名古屋共和国が疑似無限魔法炉の技術を得るのか、あるいは別の思惑があるのかは、私たちは見守ることしかできないのです。」
学図は、莉久に話を逸らされたと思いながら、それ以上、聞こうとはしなかった。
示度がヒト型兵器連に、疑似無限魔法炉を装う。
「しかし、こんな物騒なものを、どうして、ヒト型兵器に搭載するんだ。」
雷は搭載作業を見守りながら、軍の方針に納得がいかなかった。
「あの物質体の情報は、すべて抹消済みでした。」
美佳が示度の研究室のデータベースに、ハッキングをかけていた。
蒼太が「ずいぶん、危ないことをしますね。」と、美佳の大胆さに驚いた。
「けど、連も拒否できないだけに、普通だと思う。」
美佳は連の気持ちを察した。
「厳しい立場だよな。副隊長という立場は。」と、雷も連の気持ちを察した。
美佳が「あの物質体の情報を得られませんでしたが、あの施設の情報を漏洩させたところがわかりました。」と言うと、蒼太と雷が驚いた。
「で、どこなんだ?」と、雷が聞く。
「示度博士の研究室。つまり、示度博士が情報を漏洩したということです。」
「はい。その相手も分かってます。冴島との交信履歴を確認できました。」
蒼太は何が起きているのかと、頭を抱える。
「西成の行動を封じるために、情報を漏らしたと考えるのが、自然ということか?」
蒼太が「そういうことになります。ただ、示度博士が隊長の行動を制限するために、敵国に情報を提供するなんてこと、本当にするのでしょうか。」と、混乱している。
美佳は「私たちの敵は、意外に身近な人間だったりするのかもしれない。」と、言った。
「どうして、私の機体に、このような貴重なエネルギーを搭載するのですか?」
連は示度に直接、疑問を投げつけた。
「無人ヒト型兵器の開発は、すでに名古屋共和国が行っている。同時に、仙台シン魔術国も行っている。我々はヒトの力で、この無限とも思える力を制御し、操りたいのじゃよ。」
「あの物質は、人の魂が宿った代物です。科学の力で制御できるのでしょうか。」
示度が笑いながら「科学が勝つか、魔法が勝つか、ということだな。」と言った。
「博士は絶対的科学主義を提唱しつつも、魔法の力を拒絶しようとしない。その真意は、どこにあるのですか?」
「絶対的科学主義は、国の理念として掲げたにすぎない。本来であれば、分かりやすく科学のみを信仰すればよいのだろう。しかし、理想と現実は違う。仙台シン魔術国も、絶対的魔術主義を提唱しつつも、核の力を利用した。さらに、核の力を魔法で制御することによって、目標以外の汚染を最小限に留めている。この世界は単調的な思想では、国を維持することはできないのだよ。」
連は示度の考えに同意しながらも、その場主義だとも感じた。
連の返事を待たずに、示度が話を続ける。
「ところで、戦艦グリーンのクルーがこちらに来たことについてじゃが。」
「その件につきましては。」と、連がすぐに示度に言葉を切り返す。
「現状維持の対応でよい。戦艦グリーンがこちらに来ることになるだろう。」
連が「彼らと戦えと言うのですか?」と、示度に聞く。
示度は「今後の成り行き次第というところだな。西成の相手にはなるかもしれん。」と、明確な答えをしなかった。
仙台シン魔術国との戦闘から数日後。
駿が冷に「スマのこと。申し訳ない。」と、謝った。
「スマのことは、スマが決めたことです。駿が謝ることではないと思います。」
「戦艦グリーンの艦長として、申し訳ない。」
「艦長と言えば、里桜の消息も不明です。さきの戦闘中に、いなくなりました。」
「また、戦闘中とは、相変わらず大胆だな。それで、行先は検討がついているんだろう?」
冷が映像を流すと、そこには仙台シン魔術国の敦子が映された。
「核使用の真意でも追及しに行ったのか。」
「理由は分かりません。シン東京連合は、彼の行動を監視していないようです。」
「それもまた不自然だな。」
駿がしばらく、何かを考えこんでいた。
駿の部屋に、隆が訪ねた。
「いろいろ、申し訳なかった。」
隆が「いえ。ただ、あの力は。」と、駿に言いかける。
「ゴッドファイアーは、レッドスターの得意魔法のひとつ。ただ、後味が悪い魔法でもある。すべてを火の海に包み込む。破壊の魔法。力が正義だとすれば、ゴッドファイアーが正義ということにもなるが。」
隆が「ゴッドファイアーの破壊力には、驚いた。」と、言った。
「科学の最大の破壊力といえる核と、魔法の最大の破壊力の一つであるゴッドファイアーが衝突すれば、一つ間違えれば星が消失するかもしれない。」
隆は、強大な力の前に息をのんだ。
隆は「力はただ力でしかないということか。」と、呟いた。
駿がレッドスターの前に立つ。
駿がレッドスターに手を置くと、赤く反応した。
「里桜を追いかけろ、というのか。」
仙台シン魔術国に行くことを、レッドスターにもとめられているように思えた。
駿が一呼吸すると、章が駿を見つけると近づく。
「俺は、美佳を迎えに行きたい。」
章が駿に、自分の思いを告げる。
「それは応じられない願いだ。」
「美佳の居場所は、戦艦グリーンだ。」
「それは昔の話だ。」
莉久と冷が、大きな声を聞きつけて、近づく。
「美佳のことですか?」と、冷が聞く。
「新都市大阪国に美佳を迎えに行きたい。」
冷が「現状では難しいと思います。」と、淡々と答える。
「それでも、俺が行かないとならないんだ。」
莉久が「新都市大阪国に、仙台シン魔術国から例の物質が運ばれています。示度博士が何に利用するのかまでは、情報を得られていません。ただ、嫌な予感がします。例の物質が、第一艦隊に災いをおよぼすかもしれません。」と、言った。
冷は、連のことを気にかけていた。
「それでも、俺は反対だ。」と、駿がすぐに意思を示す。
冷が「新都市大阪国に、不穏な動きがあるとすれば、今一度、示度博士を訪ねるのもよいかもしれません。人体実験の件で、西成の力が小さくなっているようです。今なら、示度博士を訪ねることも可能かと。」と、意見を変えた。
章が「そうだろう。現状を示度博士がどう思っているのか、直接聞くことは有意義だ。新都市大阪国に向かうべきだ。」と、冷に続く。
駿は莉久を睨みつけると「それでも反対だ。」と、言った。
潤が隆の部屋を訪ねる。
「隆は新都市大阪国のことを、気にかけているんですね。」
「軍には裏切られたが、親しくしていた人もいるからな。」
「それなら、新都市大阪国に行くべきです。」
潤が隆の肩を叩いた。
「俺は別に。」
「僕は隆の味方だから。」
潤が隆に笑顔を見せた。
戦艦グリーンからレッドスターが発進する。
「レッドスター。三田 駿。発進します。」
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読み終わったら、聞いてもらいたい曲
『FAMILY』SPEED
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