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Chapter 5: Envy and Destruction

「独り占めしたいと気持ちが、自分を苦しめていく。」


高級ホテルに滞在するキングとクイーン。

祐右が滞在する部屋を訪ねる。

「例のモノの売却。ありがとうございます。」

クイーンが黒い宝石を、祐右に投げる。

「これも差し上げるわ。チップみたいな感じかしら。」

祐右が笑ってみせる。

「これで、こちらも準備を進めることができます。」

キングが「名古屋共和国は、次の段階に入りつつある。」と、言った。

「ええ、我々も計画を着々と遂行していきます。」


成田と五十嵐が、冴島を呼び出した。

「今回、彼女らの戦績について、どのように感じている?」

成田が冴島を鋭い目で、睨み付けた。

「ヒト型兵器の消失については、責任が重要だと認識しております。」

五十嵐が「重大すぎる汚点だぞ。」と、付け加えた。


奈々が病室で、慎吾の顔をじっと眺めている。

「負けちゃった。」

携帯ラジオから、キララの音楽が流れてくる。


成田と五十嵐が、キララの撮影現場を訪ねた。

キララが何事かと、二人を見た。

「お疲れ様でした。」と、キララが頭を下げる。

成田が「お時間を頂きたい。」と、告げる。

キララは、名古屋共和国代表が自ら何をしに来たかと不思議に思った。

キララがマネージャーの顔を見る。

「次の撮影現場までは、こちらでお送りします。」

軍用車に4人が乗り込んだ。

「代表。このたびは、わざわざ、いらして頂いてありがとうございます。」

マネージャーが頭を下げる。

「いやいや。こちらが無理にお願いをしに伺っているんだから、当然です。」

「こないだの件ですが、こちらは二つ返事です。」

「申し訳ありません。軍人皆さんの士気が下がっており、キララ姫のお力をおかりしたいのです。」

キララは何を言っているのか、理解していない。

「早速ですが、名古屋軍事基地でのライブを依頼したいのです。」

「勿論。お受けします。」

キララは「お願いします。」と、挨拶で返事をした。


キララは仕事を終えると、マネージャーを睨み付けた。

「どういうことですか?」

マネージャーが困った顔をした。

「いや。代表自ら、ライブをして欲しいと依頼があってね。」

「私は、政治や戦争に利用されるようなことは避けたいとお願いしていたと思いますが。」

「その気持ちは理解しているんだけど、代表自ら依頼があって、断りでもしたらね。」

キララは息を呑んだ。

「私の活躍の場がなくなると言いたいんですか。」

「情報統制には、合う可能性が高いと判断するよね。」

キララは致し方がないと、ライブを行うことを承諾した。


真理子は、いつものようにスナック真理子の準備をする。

いつものお客様を、いつものように待つ真理子。

「いらっしゃいませ。」

真理子の挨拶がある時間となった。

「真理子ママ!!来たよ!!」

「いらっしゃい。今日は、何にします?」

「バーボン!!」

真理子がお酒を提供する。

いつものように時間が流れることが、嬉しかった。

閉店間近になると、恵利が店に訪れた。

「いらっしゃいませ。恵利。久しぶりに来てくれて、ありがとうございます。」

「どれぐらいぶりだったかしら?」

「半年ぶりぐらい。」

「そこまで、前じゃないと思います。」

恵利がカウンターに座ると、ボトルを入れた。

「仙台は、どうだったの?」

「キングとクイーンの輸送役だった。」

一瞬、真理子が手を止めた。

「どうして、名古屋共和国が彼らに協力しないとならなかったのかしら。」

「物資の調達のため。」

「無人ヒト型兵器の件かしら。」

「博多に行ってきたの。そして、無人ヒト型兵器の実験が行われた。」

恵利が真理子に映像を見せる。

「これは、どういうことかしら?」

「私も同感。」

「冴島さんが主導しているということなの?」

「そこまでは、私には分からない。」

真理子と恵利がため息をついた。

「無人ヒト型兵器の無限魔法炉の正体も気になります。」と、真理子が考え込んだ。


成田が軍事工場を視察している。

新型ヒト型兵器の3機が製造されている。

五十嵐が「新たなパイロットの補充は、どういたしましょうか?」と言った。

成田が「無人ヒト型兵器の完成を急がせれば、問題は無い。」と、答えた。


キララのコンサートの警備をする奈々。

「この仕事は、奈々にお願いしたいと思ったんだ。」

「冴島さん。いつも優しいですよね。」と、奈々が答えた。

警備とは名ばかりだった。

冴島と奈々は、二人でコンサートを鑑賞している。

キララの姿が現れると、奈々が立ち上がった。

「キララ!!サイコー!!」

冴島は隣に座っている。

あっという間に時間が流れ「今日は最後の曲になります。」と、キララが挨拶をした。

最後の曲は、キララのヒット曲で閉められた。

冴島と奈々は、キララの控え室に訪れた。

「今日はありがとうございました。」

「ライブが大盛況で終わって良かったです。」と、冴島が答えた。

奈々が前に出て、手を差し出した。

キララが奈々の手を握りしめた。

「私、ファンなんです。」

「いつも応援してくださって、ありがとうございます。」

「私が音楽活動を行えるのも、皆様が戦って、平和を維持してくださるからなんです。だから、少しでも皆様の心が安らいで頂ければと思って、謳いました。」

「私を含めて、みんな、明日から頑張れると思います。」

奈々がイヤなことを忘れて、話していた。

「田崎隊員は、弟さんが先日の戦闘で負傷して、大変な中、今回、参加してくれたんです。」

マネージャーが、なぜか奈々の現状をキララに告げた。

「それは大変ですね。私も、お見舞いに行かせて頂きたいです。」

奈々が「そんなことは、申し訳ないです。」と、体を震えさせた。

冴島がマネージャーの目を見て、頷いた。

「それでは、数日以内に、病院の方に伺わせて頂きますので。」

「また、お会いできること、楽しみにしてます。」

キララが会釈すると、次の仕事に急いだ。


数日後、キララが慎吾の病室に、花束を持って現れた。

「こちらが、奈々さんの弟さんの慎吾さん。」

キララが、慎吾の顔をジッと見た。

「今日はありがとうございます。」

奈々がキララに軽く頭を下げた。

「何歳ですか?」

「15歳です。」

「どうして、私たち若者が戦争の犠牲にならないといけないんでしょうか。」

「分かりません。けど、私は今も戦っています。」

「平和はすぐに壊れてしまうものなのですね。私の歌は、戦場には届かない。」

「どういう意味ですか?」

「私は、みんなの平和を願って歌っているんです。けど、日に日に戦闘は激化していって、私は非力で、誰の力にもなれておりません。」

奈々が立ち上がって「私は、力をもらってます。」と、声を張った。

少しの間の後に、奈々が「歌の力は無限大です。」と、続けた。

その様子を、マネージャーが遠くから見守っていた。


スナック真理子に「貸し切り」の札がかけられていた。

「やっと、顔を出してくれましたね。」

冴島が「こないだも来たと思うが。」と、遠くを見た。

「どうして、今日は?」

真理子が酒を出すと、冴島は酒を一飲みした。


「なあ、無人ヒト型兵器のこと。腹が立ってるんだろ?」

冴島が真理子を上から眺めている。

「納得いきません。」

冴島が素直な真理子の頬にキスをする。

「素直なんだな。」

冴島が小刻みに体を震わせる。

真理子が声を漏らしながら「兵士がいらなくなるから。」と、理由を言った。

「私も、無人ヒト型兵器には反対だ。」

冴島が真理子の耳を舌で撫でる。

「なら、どうして、止めてくださらないんですか。」

「戦況が激しくなる今、兵器の開発を止める素手はない。」

「たしかに、そうですけど。」

冴島が腰を押し出すと、真理子が声をあげる。

冴島が激しく体を動かすと、倒れこんだ。

「素直なのは、冴島さんの方です。」

真理子は、見慣れない天井を眺めていた。


成田と五十嵐に呼ばれる奈々。

「しばらくの間、菊川キララの警護の任についてもらう。」

成田の直接の指令に、奈々が「はい。」と敬礼した。

「彼女の存在は、兵士の希望なのだよ。」

奈々は、五十嵐に同感した。

「このような任を頂き、光栄です。」


恵利が冴島を訪ねる。

「なにか不満そうだな。」と、恵利を見て、冴島が言った。

「無人ヒト型兵器の開発の件です。」

「キングとクイーンとの交渉は、納得できないことは分かる。」

恵利は、どうして自分が選ばれたのかと、不思議だった。

「申し訳ない。恵利さんが一番、口が重いと思った。」

恵利が「いえ。不満はありません。」と、答える。

「ただ、無人ヒト型兵器が開発されれば、私たちは不要となります。」

冴島は「それはない。」と、何か確信があるようだった。

「あの二人がしていたことは、私は許せません。」

「ヒトの生きた証の結晶。それが、無人ヒト型兵器の動力源だということは、私も納得はしていない。ただ、そのようなことを言っている状況ではないということだ。」

恵利が「そうですよね。誰にも話せません。」と、頷いた。


「珍しい。来客ですね。」と、光太が冴島を見ていった。

「ああ。無人ヒト型兵器の開発は順調に進んでいるとのことだ。」

光太が「ヒトの作り出した神の模造品とでも言うべきもの。」と、考えこむ。

冴島が「ホワイトスターは、神の模造品ではないのかな?」と、問う。

光太がニヤリと笑った。

冴島が「それとも、神、そのものなのかな?」と、続けた。


仙台シン魔術国では会議が始まっていた。

遠藤えんどう 勇児ゆうじが「それでは、始める。」と、言う。

大嶋おおしま 茂之しげゆきが、現状の説明を行う。

高橋たかはし 祐右ゆうすけが「切り札はこちらにある。」と、呟いた。

「いずれにしても、博多魔術国の消失は、我々にとっては計画を進めるのに、有利となった。」

茂之が「ええ、科学と魔術の融合には、良きことかと。」と、納得した。

祐右が「キングとクイーンの件も、良いことかと思います。」と、言った。

「既に、ホワイトスターが動いている。」と、勇児が眉間にシワを寄せる。

「おそらく、駿と接触を図るでしょう。」と、祐右が言った。

「示度博士の功績でもあり、失敗でもある。」と、茂之がイヤな顔をする。

勇児が「いずれにしても、次はシン東京連合が動くかな。」と、言った。


連と蒼太が京都で休息を取っていた。

郊外の高級旅館にいる二人。

蒼太が「こんな高い宿、初めて泊まりました。」と、連に告げる。

部屋に露天風呂が付いているのに、蒼太が心を躍らせていた。

「最近、いろいろと疲れました。」

「ええ。隆は元気にしてるといいんですが。」

蒼太が早速、お風呂に入った。

連も脱衣所で、服を脱ぐ。

「ホッとする。」と、連の力が抜けていく。

二人が湯船に浸かると、しばらく景色を眺める。

蒼太が「冷のこと。好きだったんですか?」と、疑問を投げた。

連が「どうだろうな。一緒にいると楽しかった。ホッとした。」と、答えた。

蒼太が「僕と隆の関係に、似てるかもしれないです。」と、笑った。

連が不思議そうな顔をした。

「居場所を見つけられるかと思ったんだ。」

「居場所ですか?」

「背伸びをしなくてすむ居場所かな。」と、連が言った。

蒼太が「僕の居場所は、認めてもらえる居場所でした。少し、違うのかもしれないです。」と、言った。

「なかなか、ありのままで居られる場所を探すのは、大変だな。」

連が蒼太にそう言うと、蒼太は頷いた。

「彼らは、あの戦艦が居場所なのでしょうか?」と、蒼太が聞く。

「どうだろうか。」

「少なからず、パイロット達は、あの戦艦が居場所のように見えます。」

連が「彼らの居場所は、おそらく彼なのだろう。」と、答えた。


菊川キララが、郊外の基地に向かっている。

キララの隣に座る奈々が「今日はありがとうございます。」と、御礼を言った。

「いえ。私も少し戦争と向き合わないといけないと思いました。」

「どういうことですか?」

「奈々さんの弟さんのことを知って、私たちの側まで戦いが来ていると実感しました。」

「私は、ずっと戦闘に関わっていたから、そういうことを考えたことすらありませんでした。けど、いつもキララ姫の歌が私を支えてくれたんです。」

「ありがとうございます。ただ、平和を願って歌っていたのに、まったく届いていない。そのことと、もっと向き合わないといけませんでした。」

「どういうことですか?」

「私の思いと、きちんと伝えないとならないと思います。」

キララが奈々の手を握った。

キララのライブが無事に終わると、成田と五十嵐が会場に姿を現した。

成田が「ご相談があります。」と、言った

キララが「ええ。分かっております。」と、答えた。


名古屋の成田の部屋に、キララと奈々が招かれた。

「キララ姫。ご足労いただいて、感謝する。」と、五十嵐が礼を言った。

キララが首を横に振った。

「さっそく、本題に入るが、わが国の兵士の士気が著しく低下しており、問題が生じている。そこで、キララ姫にお力をお借りしたい。」

「はい。そのような内容だということは、理解しておりました。」

奈々は驚いた顔をしていた。

「そこで、キララ姫に演説をして頂きたいのです。」

「どのような内容で行えば、よろしいのでしょうか。」

「シン東京連合を攻め込もうと思っている。その大義を、訴えて頂きたいのです。」

「分かりました。」

成田の申出に、キララが承諾した。

「ちょっと、待ってください。」

奈々が声を上げた。

五十嵐が「一般兵が、口を挟むことはできんよ。」と、横目で見る。

「いいのです。私の覚悟はできていますから。」

奈々が「ですが。彼女を巻き込むことは。」と、声が小さくなる。

「ありがとう。」と、キララが奈々に微笑みかけた。


奈々が冴島の帰りを待っていた。

冴島の姿を見ると、奈々が駆け出した。

「冴島さん。」と、奈々が泣きそうな声を発した。

冴島は、奈々を何も言わずに抱きしめた。

「どうかしたのか?」

「私のせいで、キララを巻き込んでしまって。」

「彼女の歌を、戦争に利用するということか?」

「はい。」

冴島が奈々を部屋に入れた。

「奈々のせいじゃない。」

奈々が涙を流した。

「私のせいです。」

「いや。キララの警護を命じた私の責任だ。」

奈々が冴島の腰に手を回して、ギュッと抱きしめる。

「私と関わると、みんな、不幸になる。」

「そんなことないだろ?」

冴島が奈々の唇を奪う。

冴島が「少なくとも、私は助かっている。」と、奈々の目をジッと見た。

奈々が冴島の唇を受け入れる。

「少しだけ、いろいろ忘れさせて欲しい。」

奈々が冴島の下着に手を入れる。

冴島がそれに応えるように、手で胸を揉む。

奈々の息が上がっていく。

「もっと、優しくして。」と、奈々が冴島に甘える。

冴島との行為を終えると、奈々が体力の限界で寝ていた。

冴島は奈々を置いて、部屋から出て行った。

奈々は、冴島が部屋から出て行くのを感じて「やっぱり、私だけのモノにはならないんだ。」と、愛人であることを再認識していた。


「私が巻き込んでしまった。申し訳ありません。」

改めて、奈々がキララに謝る。

「覚悟はできています。それに、謝る必要はありません。」

キララが奈々に優しく笑いかけた。

「本当によろしいんですか?」

「はい。私がやらなければ、きっと、別の人がその宿命と向き合うことになります。誰かがやらなければならないことなんです。」

「そうかもしれませんが。お強いんですね。」

「それは、奈々さんも一緒です。誰かがやらないとならない戦闘を、奈々さんがやっている。それと同じことです。ただ、できることが違うだけです。」

奈々はキララの優しく強い言葉に、何も言えなくなった。

会場に到着すると、奈々がキララを誘導した。

「それでは、始めるとしましょう。」


菊川 キララの映像が、全世界に放送される。

「私は菊川 キララです。今日、この場所で皆様にお話しをしないとならないことがあります。さきの博多魔術国での戦闘は、皆様の周知のとおりです。」

ヒト型兵器櫻の映像が流される。

「シン東京連合のヒト型兵器が確認され、博多魔術国の消失に関与していたことは明白です。シン東京連合は、過去の失敗を繰り返そうとしています。この世界を終焉に導こうとしているのです。人類浄化計画を提唱し、我々を浄化しようとしているのです。私たちは、人間の姿を維持して、どんな世界であっても希望を持ち続け、生きていきたい。シン東京連合の乱暴な人類の浄化に対して、私は異議を申したいと思います。」

名古屋共和国の兵士は、歓声を上げている。


葉鳥はとり 莉久りくが、全世界に映像を流す。

「私は、完全平和主義を提唱するシン東京連合の葉鳥はとり 莉久りくです。名古屋共和国は、ヒトがいらない戦闘により、世界を統一しようとしているのは、周知の事実です。そして、無人ヒト型兵器の開発を進め、世界のあらゆるところに、戦争をもたらそうとしております。このようなことは、完全平和主義を提唱するシン東京連合は許すことはできません。」

博多にある無人ヒト型兵器の映像が流れる。

「無人ヒト型兵器の稼働実験を、博多で行ったのは、彼らなのです。」

無人ヒト型兵器ブラックナゴヤの映像が流れる。

「どうして、ブラックナゴヤは博多に姿を現したのでしょうか。それは、無人ヒト型兵器の稼働実験を行うためなのです。次は、どこで稼働実験を行うというのでしょうか。彼らの乱暴なやり方を止めなくてはならないでしょう。」


鹿児島で状況を見守っていた戦艦グリーン。

「名古屋共和国が、シン東京連合に攻め込もうというのか。」

陵が名古屋共和国の勝算を確認していた。

冷が「シン東京連合の内情は不明。計算は推測の域から外れない。」と、告げる。

里桜が「どちらにしても、レッドスターを名古屋共和国に回収されてしまったら、厄介なことになるね。」と、言った。

駿が「レッドスターは、早めに回収したい。多少、リスクがあるが、東京に移動するしかなさそうだな。」と、言った。


隆がゆっくりと大浴場で、疲れを取っている。

ドアが開く音がする。

「隆か。」と、駿の声がした。

駿は体を洗っている。

「いろいろ、大変だったな?」

隆が「俺は別に。」と、返事をした。

「あんまり、ゆっくり話すことがなかったな。」

「そうかもしれない。」

「潤のこと、助かってる。」

「いや。あいつは甘いから。」

「すぐに分かち合えるんだな。」

駿が隆の顔を見て、笑った。

「別にわかり合えているとは、思っていない。」

「ヒトのことを気遣えることは、いいことだよ。」

「それは甘さのようにも思える。」

「人間は、そこまで強くはないよ。」

駿は隆の頭を撫でた。


戦艦グリーンがシン東京連合に到着する。

学図が里桜を出迎えると「今まで、何をしていたんだ。」と、睨んだ。

「ごめんなさい。」

駿が「戦艦グリーンの三田みた 駿しゅんです。」と、頭を下げた。

「こちらに来ることは、分かっていた。私は、南部なんぶ 学図がくと。」

冷が「もちろん、知っています。」と、答えた。

里桜が駿から学図の側に移動した。

「葉鳥様がお会いになりたいと申しております。」と、学図が言った。


スマと隆と潤は、シン東京連合の周辺を散策していた。

「勝手な行動をして、大丈夫なんですか。」

潤が隆に聞くと「問題ない。」と、答えた。

「問題はあると思うんだけど。ただ、シン東京連合の情報が欲しいですから。」

スマは隆と潤に先立って、歩いて行く。

研究棟のような建物が、目の前に現れる。

隆が「いかにも、怪しいな。」と、建物の中に入っていく。

地下に続く階段が、永遠に続いている。

「まだ先に行くんですか?」と、潤がためらいながら、地下に進んでいく。

研究棟の最下層部に到達すると、周りが開けた。

理恵子が、彼らの到着を待っているかのようだった。

「どうやら、お客様のようですね。」

スマの顔色が青ざめていく。

北島きたじま 理恵子りえこ。」と、隆が驚いている。

「ここは、仕組まれた子供を創造するための実験が繰り返された場所。」

理恵子がスイッチを押すと、周囲の水槽のようなモノが現れる。

水槽には人間のようなモノが浮かんで、並んでいる。

人間のようなモノは、駿のように見えた。

隆が「兄さん。」と言うと、顔を背けた。

「そう。これは三田 駿のプロトタイプ。ここでの実験では、肉体の復元のみ成功をした。ただ、魂というものは生まれてこなかった。」

駿が三人を見て、笑う。

潤が「どういう意味ですか?」と、理恵子に聞く。

「そのままの意味です。私たちは、ワイズストーン、ビショップストーン、マジックストーンの担い手が必要だった。ただ、その担い手は、先の戦いで消滅してしまった。だから、私たちが復元することにした。」

隆が「これは人間なのか?」と、戸惑いながら、理恵子に問う。

「ヒトでもあり、ヒトではない存在。」

理恵子が、さらに何かのボタンを押す。

「私たちは示度博士に負けてしまった。ガラクタは不要。」

駿の模造品が壊れていく。

スマが「やめてください。」と、怒鳴った。

「これはただの入れ物。失敗作を破壊しただけ。」

隆が理恵子に銃口を向ける。

「私を打っても、何も変わらない。」

駿の姿が、水の中に消滅していく。

駿の頭が、水の中を漂っている。

苦しむこともなく、ただ壊れていった。


学図に連れられて、シン東京連合の中心部に向かう駿と冷と陵。

シン東京連合の街並みが映し出されると、何一つ変わらない風景がある。

冷が「爆心地となった東京が、何一つ変わっていない。」と、疑問に思った。

「人類浄化計画の始まりの地。本当の姿は。」

学図がシン東京連合の街中に入ると、三人も後に続く。

街中に踏み込むと、さきほどの街並みが白く浄化された世界となった。

ヒトは人の姿ではなく、白い動物と化していた。

「これが、人類浄化計画の末路。」と、陵は足が竦んだ。

「いえ。これは、不完全な人類浄化計画。そして、浄化されなかった者のなれの果てが、あの白い化け物です。」

学図とさらにシン東京連合の奥に進んでいく。

駿達は、ようやく莉久の姿を目視する。

「シン東京連合にようこそ。」と、莉久が三人を招き入れた。

学図が莉久の横に、ピタリと並ぶ。

里桜が「帰還しました。」と、莉久に告げた。

駿が「戦艦グリーンの三田みた 駿しゅんと申します。」と、挨拶をした。

莉久が「ワイズストーンの担い手。そして、レッドスターのパイロット。こちらに来た用件は分かっております。」と、優しい声を発した。

「それでは、レッドスターを。」と、駿が言うと、莉久は首を横に振った。

「レッドスターは幽閉されています。今の貴方では、レッドスターを起動させることはできないと思います。」

陵が「幽閉されているというのは?」と、莉久に聞く。

「レッドスターは危険な存在として、ファーストソードにより封印されています。」

冷が「どうして、レッドスターが危険な存在と言われているんですか?」と、疑問を投げた。

「人類浄化計画が発動したカギとなった存在が、レッドスターなのです。」

「レッドスターによって、世界が浄化されていったということなのか?」と、駿が戸惑う。

「レッドスターは、世界の魔力を司る存在なのです。」

「世界の魔力を司る存在とは?」と、冷が今一度、質問を投げた。

莉久は小さく笑うだけで、答えようとしなかった。

「さあ、こちらへ。」と、莉久がレッドスターの幽閉される場所に連れて行く。

レッドスターの前に立つ駿。

駿がレッドスターに手を置く。

レッドスターが僅かに動くが、すぐに停止してしまう。

「ファーストソードによって、起動できないということか。」

莉久が頷いて見せた。


一度、戦艦グリーンに戻るクルー達。

「葉鳥の件は、どうだったんですか?」

スマが駿を心配して、声をかけた。

「特に問題は無い。」

駿が目をそらすのをみて、スマは嘘を見抜いた。

「嘘をつくのが下手ですよ。」

隆が「本当に下手だな。」と、スマに同調した。

「レッドスターは確認できたんだけど、起動しなかった。」

スマが「どうしてですか?」と、心配する。

「ファーストソードによって、その力が封印されていた。」

潤が「どういうことですか?」と、聞いた。

「レッドスターにファーストソードが突き刺さり、おそらく、魔力を封じられているんだと思う。それか、ファーストソードが魔力を吸収しているか、いずれかだな。」

スマはイヤな気配でもあり、好きな気配が近づいているように感じていた。


陵が冷を呼び止めた。

「この状況、どう考えている?」

冷が「レッドスターを確認できたことは、良かったと思います。」と、答える。

陵が頭をかいた。

「レッドスターが幽閉されている事実。だいぶ、まずい状況だと思わないか。」

「新たなヒト型兵器が必要だとは思います。ただ、レッドスターが状況を著しく改善するとも限らないと考えています。」

「その通りだとは思う。」

冷が陵は、何を考えているのか考えた。

「なにか、焦っているんですか?」

冷の言葉に、陵は自分が焦っていることを認識した。

「自分らしくないかな。」

「そうですね。陵は冷静だから。現況からすれば、戦力は多い方がいいです。ですが、シン東京連合に、いつまで居られるのかという問題もあります。だから、焦っても仕方ないと思います。」

陵が「そうだな。」と、答えた。


コントレーションの会議。

「博多魔術国の消滅は、計画を進めるのに良きことではあった。」

「仙台シン魔術国は、エンジェル計画を着々と進行している。」

「名古屋共和国のエンジェル計画は、遅延しているがな。」

「私のD計画も遅延なく、進行している。」

「計画の進行を急ぐべきよ。各国に宝石を分配して差し上げるわ。」

「次は、レッドスターの開放を急ぐとしよう。」


シン東京連合の上空に現れるホワイトスター。

光太が「さて、始めるとするか。」と言うと、降下していく。

シン東京連合が、ホワイトスターを確認して、交戦の準備をする。

里桜は、最下層部でホワイトスターを待ち構えている。

戦艦グリーンから、スカイブルーが発進した。

「ホワイトスター。あの青年。」

スカイブルーとホワイトスターが戦闘を始める。

スカイブルーが接近して、両手をふさぐ。

「久しぶりだね。スマ。」

光太が嬉しそうに笑った。

「どうして、こんなところに。」

スマの問いに「これが、僕の運命だからだよ。」と、微笑む。

ホワイトスターから白い光が放たれる。


僕の周りが暗黒で包まれる。

何も見えない。

誰もいない。

遠くの方に気配を感じる。

体が引き寄せられていく。

黒い空間に無数の手が浮かび上がる。

僕の体が、無数の手に引き寄せられ、背中を触れられた。

「いやな感覚です。」

無数の手が、僕の胸や太ももなどを、撫で遊ぶ。

昔はなんとも思わなかったのに、今は、イヤだと思う。

こんなことは慣れていたのに、今は、イヤだと思う。

無数の手が、僕の体を遊び尽くす。

僕の息が上がっていく。

体に快感が走り、体が反応してしまう。


「本当は、純粋な心の持ち主なのに。」


僕は、スカイブルーのコクピットに、白い体液が漂っているのを見る。

そして、なぜか泣いていた。


「僕の心を弄ばないでください。」

スカイブルーの起動が停止した。

「そういうことなのか。ビショップストーンの担い手の理由。」

ホワイトスターは、さらに降下していく。

「待ってください。」と、スマが言うが、スカイブルーは起動しない。

ホワイトスターを待ち構えていたのは、ベリーショートだった。

潤が「これ以上、さきには行かせません。」と、ホワイトスターの前に立つ。

隆が「ホワイトスター。退いてもらう。」と、光化学ライフルを構える。

光太が光化学ライフルを、ベリーショートに打つ。

ベリーショートがマジックバリアを展開し、攻撃を受け止める。

潤が「スカイブルーが来ない。負けたということですか?」と、隆に聞く。

光太が「勝敗は決してはいません。ただ、休んで頂いています。」と、答えた。

隆が「ふざけるな!!」と、攻撃を続ける。

光太が目を閉じると、強力なマジックバリアを展開し、押し返す。

ホワイトスターから白い光が放たれる。


俺がベリーショートから降りて、仁王立ちする。

「俺は、あいつらを倒す。」

最後に潤が機体から降りた。

「お疲れ様でした。」

駿が隆に声をかけようとすると、それを遮るスマがいた。

「すいません。駿、確認したいことがあります。」

「悪い。風呂に入ってからでいいか。液体の感覚が、どうもな。」

「じゃあ、僕も行きます。」

駿とスマは大浴場に消えていった。

話をしたいと思っても、俺は退いてしまう。


「本当は、人に甘えたいんだね。」


今までは、ずっと自分がしっかりしないといけないと思ってきた。

そうしないと、自分の居場所を奪われてしまうから。

自分の居場所を、自分の正義を貫くことで、維持してきた。


「隆、ちょっと来いよ。」

俺のことを駿が呼んだ。

「なんだよ。」

「なんだよ、じゃなくて、はいだろ。」

駿が隆のことを、後ろから抱きしめる。

「・・・はい。」

どうしてだろう。

人の体温が、俺の心をホッとさせる。

本当は、ごく普通の少年でいたかった。


潤は、多くの友達に慕われて、楽しい学生生活を過ごしていた。

自分とは違う潤が羨ましくもあり、自分もこうありたいと思っていたような気がする。


「潤のことが、うらやましいんだね。」


隆が目を閉じると、静止する。

潤が「隆。大丈夫ですか?」と、声をかけるが、返す言葉がない。

「結局は、強がりでしかないということですか。」

隆が小さく「うるさい。」と、声を漏らした。

ベリーショートが静止すると、ホワイトスターがさらに降下していく。

ヒト型兵器櫻が、光太を待ち構えていた。

「ずいぶんと、荒っぽいね。」と、里桜が応戦する。

ホワイトスターがファイアーアローを放つと、ヒト型兵器櫻もファイアーアローで対抗する。魔法と魔法がぶつかり合うと、双方の攻撃が消失した。

「同じ存在が戦い合うとは。」

光太が何か考えている。

両機が降下しながら、最下層部に到着する。

そこには、プロトスターが待ち構えていた。

「ホワイトスターがここにいるということは、スマ達は負けたということか。」

光太が「いえ。負けてはいません。」と答えると、プロトスターの両手を奪う。

ヒト型兵器櫻が近づくと、急激に魔力が増大し、結界のようなものが現れる。

「これは、どういうことだ?」と、駿が戸惑っている。

里桜が「光太。レッドスターを開放させるつもりだね。」と、言った。

駿の魔力がファーストソードに反応を始める。

光太と里桜の魔力も続いて、ファーストソードに反応する。

魔力の影響で、ファーストソードが小さく揺れる。

「どうして、俺たちの魔力が協調する?」

里桜が「それは、僕たちが同じ存在だから。」と、答えた。

光太が「本来、僕たちの力は一つでなければならなかった。けど、今は、三つの存在に分かれてしまった。」と、答える。

駿は、二人が言っている意味がよく分からなかった。

ファーストソードが大きく揺れると、レッドスターの頭上に浮き上がる。

ホワイトスターが、宙に浮くファーストソードを手に取った。

「本来は存在しないファーストソードですか。」

光太がファーストソードを上から下まで確認する。

里桜がホワイトスターに近づこうとすると、ファーストソードを振りかざした。

ファーストソードから、突風が生じ、ヒト型兵器櫻を後退させる。

「レッドスターは、駿に預けます。」

光太がそう言うと、ファーストソードを真下に振りかざし、一気に上空に舞い上がって、離脱していった。

駿はプロトスターから降りると、レッドスターの前に立った。

レッドスターが赤く光を放ち、駿を受け入れる。

駿は「ただいま。」と、コクピットの中で呟いた。


「おかえりなさい。」


スカイブルーが戦艦グリーンに帰還する。

駿がスマを待っていた。

スマがコクピットから降りてこないので、駿が心配になり、コクピットに入っていった。

コクピットに漂う液体を見て、駿がスマを抱きしめた。

「ごめん。」と、駿がそれだけ言った。

スマが「どうして、謝るんですか?」と、言った。

「とにかく、悪かった。」


僕は駿に優しくされる度に、弱くなっていく気がしていた。

人の愛情を知ったことで、愛情がもっと欲しくなっていった。

その気持ちが苦しくて、押し殺すことができなくなっていた。

駿の抱きしめる腕が痛くて、心地良かった。


「大丈夫です。」と、スマが答える。

駿が我に返り、体を離そうとする。

スマが駿を軽く抱きしめ、引き寄せる。

「もう少しだけ、こうしていてください。」


里桜が「結局、おいしいところは、スマがもっていくのかよ。」と、漏らしていた。


戦艦グリーンの大浴場に隆と章がいた。

「隆。お疲れ様。大変だったな。」

「いつも通りだ。」

「それはそうかもしれないけどな。」

章が隆に水をかける。

隆が「冷たいな!!」と、怒っている。

章がそれを見て、笑った。

「変に大人ぶる必要、ないんだぞ。」

「そういうつもりはない。」

「ここは軍隊じゃないからさ。」

隆は、今居る場所を、再確認した。

「じゃあ、何なんだよ。」

「家族みたいなものだろ。」

「家族?」

「それは言い過ぎか、戦友みたいなものかもな。」

隆は、「家族」という言葉の響きが、心地良かった。


ホワイトスターの来訪から数時間後。

シン東京連合に、仙台シン魔術国の戦艦紅と暁などが攻めてきた。

莉久が「狙っていたようですね。」と、余裕な顔をしている。

ヒト型兵器護摩と海風が、先行して迎撃に向かう。

理恵子が「シン東京連合には一足も入れはしない。」と、士気をあげる。

学図が「名古屋共和国の追撃を予定していただけに、驚きはしたが。」と、攻撃の準備をする。


藤田ふじた 優子ゆうこ東海林とうかいりん 真理しんりが、ヒト型兵器笹蒲で出撃する。背後に、祐右のヒト型兵器豆打が控えている。

佐竹さたけ 敦子あつこはやし 香奈かなが、ヒト型兵器白松で出撃する。その背後には、大嶋おおしま 茂之しげゆきのヒト型兵器豆打が控えていた。


優子と真理が、理恵子に攻撃を仕掛けてくる。

ヒト型兵器笹蒲が、ライトニングボムでヒト型兵器護摩の装甲を傷つけようとする。

「すべての魔法の力を静止したまえ。マジックストップ。」

ライトニングボムが動きを止める。

優子が「だから、シン東京連合と戦うのは嫌だったのに。」と、文句を言い始める。

真理が「そういうことは言わないでください。」と言いながら、態勢を整える。

ヒト型兵器豆打が、ファイアーアローを放つと、ヒト型兵器護摩を僅かに掠る。

「さすが、高橋大臣。やりますね。」

理恵子が機体を大きく旋回させ、次の攻撃に備える。

優子と真理が、上空に舞い上がると、祐右が特攻する。

優子が「雷の神よ。私に力を貸して!サンダーアロー!」と、攻撃をする。

真理が「風の神よ。大地に大きな力を示しなさい。ウィンドボム!」と、攻撃をする。

「コンビネーション攻撃ですか。」

理恵子がサンダーアローを避けるため、上に逃げようとするが、ウィンドボムによって大地に押し返される。

祐右がヒト型兵器豆打の剣に、魔法を宿して、ヒト型兵器護摩の胸に突き進む。

「これなら、回避できない。暁コンビネーションアタック!」

ヒト型兵器護摩が、4枚の札を展開すると、魔方陣が現れる。

「さて、私の温存した魔力で耐え消えるか。」と、理恵子がマジックバリアを展開する。

祐右が「推し進める!!」と気合いを入れる。

理恵子がタイミングを計って、左に避けた。

「時間稼ぎはできたみたいですね。」と、理恵子が笑った。

祐右がマジックバリアを押し破るが、ヒト型兵器護摩はそこにはいなかった。

「やはり、やりますね。実戦の経験の差が、モノをいったかな。」


敦子と香奈が、学図に攻撃を仕掛けた。

ヒト型兵器海風に、ヒト型兵器白松に光化学ライフルを何発か打つ。

「女性に手を出すのは、趣味ではないが。」

学図が魔法を唱え、ブルーウェーブでヒト型兵器白松を押し戻す。

敦子が「女、女って。馬鹿にしないで。」と、武器を持ち替える。

香奈が「そんなに熱くならないでください。」と、武器を持ち替える。

茂之のヒト型兵器豆打が後方で、タイミングを合わせている。

「さて、どう仕掛けてきますか。」と、学図が呼吸を合わせている。

「こちらから、いきますよ。」

敦子が大型バズーカで、ヒト型兵器海風を狙い撃つ。

香奈がヒト型兵器海風から標準を外して、数発のバズーカを撃った。

ヒト型兵器海風が、敦子の攻撃を避ける。

「こんな攻撃であれば、避けることはできる。」

しかし、ヒト型兵器海風に超電磁ネットに絡まる。

「こっちが本筋だったのか。私としたことが。」

ヒト型兵器豆打が大型光化学サーベルを構え、突進する。

「これで、おしまいです。」と、茂之が言った。

学図がマジックバリアを展開して、攻撃に備える。

「最後の悪あがきをさせて頂きます。」

学図が目を閉じて、魔力のすべてを防御に使う。

「学図。君の攻撃は繊細で華麗でした。」

「それは、ありがとう。」

ヒト型兵器櫻が突進して、ヒト型兵器豆打の剣を受け止める。

「こちらは、谷山 里桜。援護します。」

「魔力は残っていないはずですが。」と、茂之が力を強める。

「余計なお節介だね。科学省大臣。」

里桜が敵を抑えている間に、ヒト型兵器海風が超電磁ネットを短剣で裂く。

「里桜。もう少し、時間を稼いでくれ。」

「後方からの攻撃、くるよ。」

敦子と香奈が接近して、光化学ライフルを打つ。

里桜と学図が、マジックバリアを展開して、攻撃を受け止める。

茂之が笑いながら「さすが、谷山 里桜。1人で何役もこなすってことですか。」と、言いながら、さらに力を強める。

「学図のことを、僕は守るんだ。」

ヒト型兵器櫻の内部から、魔力があふれ出ると、剣を押し返す。

「これだけの力が残っていたのか。」

茂之が恐怖を感じ、機体を退いていた。


莉久が最下層部の隠された部屋にいた。

ヒト型兵器のための白く光る綺麗な盾が飾られている。

「これを利用する時がきました。」

莉久が瞑想を始めると、莉久の魔力が泡になって、部屋を漂った。


ヒト型兵器笹蒲がヒト型兵器護摩を抑えつける。

優子が「まったく、厄介なことばかり。」と、言葉を溢す。

真理が「コンビネーションが効かないのは、厄介です。」と、汗をかいた。

理恵子はヒト型兵器豆打が、戦艦紅に退いたことを確認した。

「魔法省大臣が退いた理由が分からない。」

学図はイヤな予感がしたのか、里桜を差し置いて、莉久の援護に向かう。

「こっちは、大丈夫だから。」と、里桜は不満な顔をしている。

ヒト型兵器とヒト型兵器が、何度もぶつかり合う。

祐右が両機に「回避。」と、声をかける。

戦艦紅と戦艦暁に、大量の魔力が溢れ出て、エネルギー砲を打つ。


戦艦紅から発せられた強大なエネルギーが、ヒト型兵器護摩に向かう。

戦艦暁から発せられた強大なエネルギーが、ヒト型兵器櫻に向かう。


理恵子は強大なエネルギーに恐怖を感じる。

「このような強大なエネルギーを創出できるとは。」

マジックバリアを展開するが、一瞬で破壊される。

「さすがに機体がもちませんね。」

ヒト型兵器海風が、ヒト型兵器護摩の前に飛び出す。

「反則技には、反則技です。」

ファーストシールドを前に押しだし、強大なエネルギーを受け止める。

強大なエネルギーが消失していく。

「その盾は。」と、理恵子が驚く。

「葉鳥様から預かって参りました。」

理恵子が学図に笑って見せた。


里桜に強大なエネルギーが近づく。

「さすがに、どんな防御魔法でも、受け止められないかな。」

里桜が覚悟を決めた。

その時、レッドスターが現れる。

「こちらは、レッドスター。マジックバリアを展開する。協力を頼む。」

「やっぱり、ワイズストーン。いいとこ取りですよ。」

駿と里桜が、マジックバリアを展開すると、分厚い盾となった。

大きな音と振動があたりを襲う。

「けど、普通の魔法で対応できるの?」と、里桜が弱気になる。

「分からない。けど、レッドスターなら。」

「機体を信用しているんだね。」

「昔からの愛機らしいんでね。」と、駿は自信をみせた。

大きな光が周囲に放たれると、強大なエネルギーが消失した。


戦艦紅と暁のいずれからも煙が上がっている。

茂之が「疑似無限魔法炉の搭載。戦艦のダメージをコントロールできてない。」と、戦艦の状況を確認する。

祐右が「魔法の制御が不完全なのと、魔法を受け止める器が不完全ということですかね。」と、戦艦の補修箇所を確認する。

「どちらにしても撤退です。」と、茂之が撤退命令を出す。


「終わったのか。」と、学図がホッとした顔をした。


ヒト型兵器レッドスターの前に立つ駿。

レッドスターが赤く光を放ち、駿を受け入れる。

莉久が「いくのですか。」と、駿に言葉をかけた。

「はい。イヤな予感がします。」

莉久が「将来を予知することができるのですか。」と、駿に疑問を投げる。

「そのような力はありません。俺たちは将来を変えるために、足掻いています。」

「それは、私も同じです。いってらっしゃい。」

莉久が駿に笑って見せた。


駿がレッドスターのコクピットに入り、目を閉じた。

「おまえは、どうして、ここにいる。」

駿が「守りたい場所があるから。」と、レッドスターに答える。

「おまえの力は、人々に魅力的だ。また、利用されることになる。そして、傷つくことになる。それでも、私と共にありたいと思うのか。」

駿が頷きながら「俺が傷つくことはかまわない。」と、答えた。

駿はレッドスターのみなぎる力が、体の奥に浸透していくのを感じた。


「ありがとうございます。」と、理恵子が学図に礼を言った。

「当然のことです。」

学図と理恵子は目を合わせ、互いの安否を確認する。

里桜は2人を遠くから見ていた。

スマが「そういうのって、イヤですね。」と、里桜に言葉をかけた。

「そうだね。」と、里桜はスマに言葉を返した。


戦艦グリーンの大浴場にいる隆と駿。

隆が湯船に口を入れて、ブクブクと泡を立てる。

「何してるんだ?」

駿に声をかけられ、隆は恥ずかしくなり、顔をあげた。

「いや、別に。」

駿が隆の頭に、手をのせる。

「いつも、イヤな思いさせて、悪いな。」

隆が「イヤな思いはしてない。」と、答えた。

「戦艦グリーンが、隆の居場所になればと思ってたけど、結局、潤のことを頼んだり、甘えてばかりだったな。」

隆が首を横に振った。

「俺は創られた人間。兄弟というのも、設定でしかないのかもしれないと思うと、悲しくなったりするんだ。」

隆が「今までの歩みが、設定を超越して、事実へと変化させたと、俺は思う。」と答えた。

「隆は、たまに難しいことを言うよな。」と、駿が笑った。

「俺たちは、今、選んでここにいる。それは事実だ。」

「力が足らない兄貴だけど、許してくれ。」

隆は何も言わずに、駿に頷いて見せるのだった。


隆がスマの部屋を訪ねる。

「珍しい来客ですね。」と、スマが隆を招き入れる。

「急に申し訳ない。」

スマが紅茶を入れて、隆をもてなす。

隆が紅茶をすすると、力が抜けていくように見えた。

「それで、どうかしましたか?」

「スマが言っていた意味が、少し分かった気がした。」

「どういう意味ですか?」

「潤といると辛くなるって意味。」

「僕たちは平和でない世界を生きるために、汚いこともいとわずにやってきた。ただ、潤は違うってことですか。」

「純粋で誰からも好かれる潤が、少し妬ましく思えた。」

スマが隆に頷いた。

スマが「だから、僕は苦手だし、潤を知ると自分が嫌いになりそうで怖いんだと思う。」と、言葉を加えた。


大阪の外れにある研究施設。

連と蒼太と雷が、第二艦隊を訪問していた。

西成が研究員に指示を出している。

「噂では聞いていましたが。」

研究室には、無数の薬物が格納されている。

そこには子供から大人まで隔離されていた。

「犯罪者を収容して、薬物実験を行っている。」

連が西成から開示された情報を、2人にも提供した。

雷が「非人道的だな。」と、息を呑んだ。

「危険薬物については、犯罪者に投与し、その効果などを測定する。平均余命は5年程度だそうだ。」

蒼太が被検体から顔を背けた。

「こんなことをしてまで、戦争をしようというんですか。」

「第二艦隊は、遺伝子操作で生まれた人間。精子と卵子から、人間が想像した人造人間だということだ。」

「しかし、ヒトであることには変わりありません。」

「その通りだと、私は思っている。」

研究棟の奥に進むと、第二艦隊の与とミンクと貴理子が寝ていた。

特殊な装置の中で、安眠している。

「彼らは、あの装置によって命を長らくことができるそうだ。」

雷が「モルモットのような扱いだな。」と、怒りをあらわにした。


駿がスマと隆と潤を呼び出し、話しを始めた。

「シン東京連合の試験棟でのこと。スマから聞いた。」

3人が下を向いて、言葉を発しようとしない。

「俺は、おそらく示度に創造された人造人間だ。そして、3人も俺と同じなんだ。俺たちは、ワイズストーン、ビショップストーン、マジックストーンの力を使うために創造されたヒトなんだ。レッドスター、スカイブルー、ベリーショートに搭乗できるのも、そのためなんだ。」

潤が「僕には、よく分かりませんが、それでも僕は僕です。」と、笑って答えた。

スマが「僕たちは成功作ということなのでしょうか。」と、聞いた。

「おそらく、失敗作だと思われて破棄され、バラバラとなった。ただ、時の経過とともに、その力が解放されていった。だから、今は成功作だと思われているのかもしれない。」

隆が「シン東京連合は目的を果たせなかった。示度は魂の創造には成功したが、目的は完全に達成できなかったということか?」と、言った。

スマが「おそらく、そうだったのでしょう。今更になって、後悔しても遅いと思います。」と、少し怒っている。

潤が「失敗作なんて、失礼です。本当に。」と、スマに同調した。

「そういう問題なのか。」

隆はまじめに考えていた自分が、バカのように思えた。

「あんまり1人で抱え込むなってことだろ?」と、隆が駿に笑って見せた。

駿は隆の言葉に笑ってしまった。


光太の帰還を待つ冴島。

冴島がホワイトスターの格納庫にいる。

ホワイトスターが格納されると、光太がコクピットから飛び降りる。

「わざわざ、出迎えて頂けるとは思っていませんでした。」

ホワイトスターの持ち帰ったファーストソードに、冴島が興味を抱いている。

「この剣は?」と、冴島が光太に問う。

「ファーストソード。さきの戦いでレッドスターを封印した剣。そして、本来は、この世界に生まれることがない品物。」

冴島が小さく笑うと「名古屋共和国の希望となるモノだな。」と、言った。

光太が「希望ですか。」と、冴島に答えた。


示度が冴島にコンタクトを取っていた。

「この映像は?」

示度が提供した映像に、冴島が戸惑っていた。

「薬漬けの人体兵器というべきかな。」

「非人道的すぎる仕打ちだな。」

「その通りだ。」

冴島は示度が映像を提供する理由が何か、戸惑っていた。

「どうして、新都市大阪国に不利になる映像を手渡すんだ。」

示度が「これは私の計画にはなかったものでね。邪魔なモノなのだよ。」と、答えた。

冴島が「信じていいんだな。」と聞くと、示度が「無論だ。」と答えた。

冴島が映像を受け取ると、示度との交信を切った。

冴島は、成田と五十嵐に映像をすぐに送信した。


成田が映像を確認すると、キララに連絡を取った。

奈々がキララを連れて、成田の部屋を訪ねた。

「夜分にすまない。」と、成田が礼を言う。

「いえ。」と、奈々が敬礼をした。

「急を要する内容だと思って、参りました。」

キララが早速、本題を聞きたいようだ。

成田が「これを見てほしい。」と言うと、新都市大阪国のヒトへの薬物実験の映像が流れる。

あまりの内容に、キララは映像から目をそらした。

「ヒトをヒトとも思わない大阪の仕打ちに、私は我慢の限界に達した。」

「このようなことをするのが、同じ人間なのでしょうか。」

キララは戸惑い、苦しんでいるように見える。

「私も同じ思いだ。この事実を全世界に示さなければならないと思うのだが、協力をして頂けないだろうか。」

成田は戦いの大義を見つけたと思っていた。

「私でよろしければ、協力をさせてください。」

キララは成田に、新たな決意を誓うのであった。


キララの映像が全世界に流される。

「私は、菊川 キララです。本日は、新都市大阪国が行っている非人道的な行為について、お伝えしなければなりません。」

新都市大阪国の薬物実験の映像が流される。

「新都市大阪国は、人体実験を繰り返し、ヒトを兵器のように扱っています。私はこのような事実を受け入れることができません。子供に薬物を投与し、苦しみながら死んでいく姿を、黙認していいのでしょうか。たしかに、私たちの世界から、戦いがなくなることはありませんでした。だからといって、最強の兵士を創るために、ヒトをヒトとして扱わない彼らを許すことができるのでしょうか。」

映像が切り替わり、成田が映される。

「このような非道を我々は許すことはできない。ここに宣言する。新都市大阪国に対し、一斉攻撃を仕掛けることを。そして、わが国ではなくとも、このような非道を許さないとするものがいれば、ともに力を合わせ、戦おう。」

仙台シン魔術国の人々は、戸惑いながらも、賛同する者もいた。

新都市大阪国は、知らされていなかった事実に戸惑う者と名古屋共和国に対する戦意をあげるものがいた。

名古屋共和国は、キララの勇気ある行動に賞賛する者ばかりであった。


シン東京連合では、キララの映像を見て、民意をあおる成田に学図はあきれていた。

「矛先がこちらから、新都市大阪国に移ったことはよいことではあります。」

莉久は、仙台シン魔術国との戦闘のせいか、少し弱気ともとれる言葉を発した。

理恵子が「名古屋共和国は、新都市大阪国を仕留めにかかるのでしょうか。」と、キララの発言の真意を測りきれずにいた。

学図は「我々からファーストソードを回収した今、シン東京連合は用済みということなのかもしれません。」と、標的を変えたことについて考えを述べた。

「ただ、示度が簡単にやられるとは思えません。」と、莉久が示度を恐れているようにも見えた。


西成がキララの映像を見て、怒り狂っている。

「どうして、あんな映像を名古屋が手に入れられる。」

示度が「これは困りましたな。」と、言葉とは反対の思いでいた。

「いずれにしても、新都市大阪国の内政がズタズタです。」

連の言葉に、西成がさらにイライラしてみせた。

「極秘事項を、どうやって手に入れたんだ。」

示度が「過ぎたことは仕方ない。今度の対応をどうするかだな。」と、西成に言った。

連が街中の映像を見せる。

「今回の件で、我々に対して、疑問を持つモノも現れ、抗議を始めました。このままでは、名古屋共和国の思う壺です。」

示度が「力による制圧しかあるまい。」と、兵に指示を出す。

西成が「示度博士のいう通りだ。反抗する者は、連行して、殺せばよい。」と、言い放った。

連は西成の言葉に、眉間にしわを寄せた。

示度が連の目を見て、何かもの言いたげそうであった。


抗議活動をする一般人を確保する兵士たち。

雷は「こんなことしても、解決できないだろ。」と、怒っていた。

蒼太が兵士の前に立ち「やめてください。」と、一般人をかばう。

兵士が「桜宮様のお願いでも、上の命令には歯向かえません。」と、一般人を捕まえていく。

蒼太と兵士がぶつかり合うが、たくさんの兵士の前には無力であった。

雷が蒼太の背後から、体を抑えると「抵抗させてください。」と、頼む。

「俺たちだけじゃ、数が足らない。連を困らせるだけだ。」

雷が蒼太にあきらめるように諭した。

蒼太が「そうですね。すいません。」と、雷の言葉を聞き入れた。


冷が新都市大阪国の映像を確認していた。

「大阪のことが気になるのか?」と、陵が冷に言葉をかける。

「いつから、そこにいたんですか?」

陵が「気が付かなかったのか?」と、驚いた。

「かなり前からいたってことですか?」

陵が冷に頷いて見せた。

コーヒーとケーキを、陵が冷に差し出した。

「休憩をしたほうがいい。」と、陵が優しく接した。

陵が冷の手を握りしめた。

冷は陵の手を払おうとはしなかった。

冷の姿を見つけた駿が「冷・・・」と声をかけようとしたが、二人を見て自分の部屋に戻っていった。


戦艦グリーンにいる里桜を見つけたスマが話しかける。

「東京に戻っても、こっちにいるんですね。」

里桜が「それは嫌味ですか?」と、睨みつける。

「いえ。そういう意味ではないですけど。」

里桜が「どうせ。僕は邪魔者なんですからね。」と、拗ねる。

スマが「僕たちは似たもの同士だなって思っただけです。」と、里桜に笑いかけた。

里桜はスマの言葉を素直に受け入れることができた。

「たしかに、似た者同士かもしれないですね。自分の居場所があるようでない。ないようである。そういうところが、似てるね。」

スマが「そうです。そうです。」と、小さく笑ってしまった。

「けど、学生生活は経験したから、スマには嫌われちゃうかもね。」と、里桜がスマを茶化した。

スマは、里桜の言葉を聞いて「そうかもしれないですね。」と、笑いをこらえた。


祐介がキングとクイーンを呼び寄せた。

「戦艦の主砲の火力として利用したようだが、制御しきれなかったようだな。」

クイーンが祐介に宝石を投げ渡した。

「耐久力をあげて、持ちこたえられるように改良しないとね。」

祐介が「しかし、こんな強大なエネルギーを創造できるとは、予想以上でした。」と、複雑な顔をして見せた。


理恵子と学図が、ファーストシールドを眺めていた。

「気高く白い盾。」と、理恵子が盾に見とれている。

ファーストシールドには、傷一つなかった。

「どうして、使用を認めてくださったのか。」と、学図が莉久の言動を不思議に思っていた。

「キングとクイーンが、仙台シン魔術国に逃走したからでしょう。」

学図は理恵子が毅然にふるまうことに、無理をしているように思っていた。

「仙台シン魔術国の攻撃は、疑似無限魔法炉を利用したようにも思えたが。」

「あのエネルギー量は、その可能性が高いと思われます。」

「理恵子はいつも冷静だな。」と、学図が余計なことを口にした。

「私も恐怖心はありました。」と、理恵子の手が微かにふるえていた。

学図が理恵子の震える手を見て、優しく手で包み込んだ。

「意地悪な質問だったな。」


駿の部屋の前を、何回か通り過ぎる隆がいた。

駿が部屋を開けて、隆が通り過ぎるのを待つ。

隆がドアの前を通り過ぎようとしたのを見て「隆、ちょっといいか。」と、駿が声をかけた。

隆が駿の部屋に入る。

「眠れないのか?」と、駿が隆に聞く。

隆が「いや、そういうわけでは。」と、小さい声で答える。

隆の片手には、クマのぬいぐるみがあった。

「そいつは、お友達か?」

隆は駿の目線の先に、クマのぬいぐるみがあることに気が付き、顔を赤くする。

「いや、なんでもない。」

「別にいいんじゃないか。落ち着くなら。」

駿が隆を自分の前に座らせて、後ろから抱きしめる。

「何にも言わないから、無理させてたよな。」

「別に、当たり前のことだろ?」

「当たり前のことでも、今は当たり前のことじゃない。」

「なんだよ。それ。」

駿が隆を強く抱きしめた。

隆が「痛い。」と言うと、「悪い。」と、駿が力を緩めた。

「多くの犠牲のうえに、自分が創造されたと思うと、少し怖くなるな。」

隆が駿の手を握りしめた。

「今、ここにいる駿が、すべてだ。」

「ありがとう。」

しばらく、隆は駿の手を握っていた。

「今日は、一緒に寝ていくか。」

隆が「子ども扱いするな。」と、照れてみせた。

駿が布団に横になると、隆に来るように、手で仰ぐ。

隆は戸惑いながら、駿の布団の中に入る。

「誰もいない部屋が当たり前だった。誰かがいると、変な感じがする。」

隆は違和感を覚えながら、親子という錯覚を覚えた。

「俺も、父親も母親もいなかったから、いつも一人だった。当たり前だと、案外、寂しくないんだよな。」

「けど、一度、人の温もりを知ってしまったら、寂しさを覚えてしまう。」

「ああ。そうだな。仲間がいると強くもなるが、弱くもなるな。」

「そうだな。」

「蒼太のことを考えてたな。」

「最後の最後まで、俺のことを助けてくれた。だから、次は俺が蒼太を助けたい。」

「友情だな。」

駿が隆の頭を優しく撫でた。

クマのぬいぐるみが、二人を見守っていた。


戦艦天守閣に搭乗するキララ。

キララをブリッジまで案内をする奈々。

真理子と恵利が、キララの登場を待っている。

冴島が戦艦の指揮を執っている。

「私は反対です。」と、奈々がキララに自分の思いを伝えていた。

キララが「私のことは、気にしないでください。」と、奈々に答えた。

「しかし、キララ姫を戦闘に巻き込むなんて、できません。」

キララが「私は知りたいと思いました。皆様の仕事を。」と、奈々の手を握った。

「ですが。」と、奈々は引こうとはしない。

「ありがとうございます。ですが、私のことを奈々さんが守ってくださるのでしょう。信じていますから、大丈夫です。」

キララが奈々に笑顔を見せる。

奈々が「すいませんでした。」と、キララの笑顔に答えた。

キララがブリッジに到着すると、冴島が軽く頭を下げた。

「軍人でもない貴方様を、このような場所に引っ張ってしまったことは許してほしい。」

キララが「いえ。私にも覚悟が必要なのです。」と、強い言葉で答えた。



***



読み終わった後に聞いて欲しい曲




『新時代』Ado



***


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