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Chapter 4: Disappeared Memories

「風呂は命の選択だな。」


戦艦グリーンは、別府にて様子を伺っていた。

「数日で防壁が消滅すると、考えるが。」

陵が冷に意見をもとめている。

「私も同じく、そう思います。」

駿が「だとすると、大阪が博多を占領する日は、近いな。」と、芳しくない状況だった。

冷が「そういえば、どうして駿がベリーショートの起動試験をするのですか?」と、言った。

「確かめておきたいだけだよ。」と、駿が返事をした。


隆と駿がベリーショートの前に立つ。

二人は服を脱ぐと、コクピットに入る準備をする。

駿が「俺のワガママに付き合わせて、申し訳ない。」と、隆を見る。

隆は駿とベリーショートに搭乗することによって、何かが起こるような気がした。

陵が「それでは開始してください。」と、起動試験を始めた。


「おまえは誰だ?」

微かに覚えている家族が、離ればなれになる瞬間。

「どうして、離ればなれにならないといけないんですか!!」

隆は聞き覚えのある声に、記憶が鮮やかに蘇る。

「駿。そうだ。俺の兄貴は駿だ。」


「やはり、俺を拒絶するか。」

「本来、あるべきパイロットが現れた。」

「そうだよな。少しの間だったけど、ありがとう。」

「おまえは、レッドスターを早く手に入れるんだ。」

「ご忠告、ありがとう。」


ベリーショートは、全く起動しない。

整合率は0となっていた。

駿は、肺に入る液体に気分が悪くなり、吐きそう素振りをする。

隆が「駿。大丈夫か?」と、気遣う。

駿が「試験は中止。」と、陵に告げる。

コクピットが開放されると、駿がすぐに外に出た。


「変なこと聞いていいか?」


駿はその言葉を待っていたようだった。

「どうぞ。」と、駿が応える。

「おまえって、俺の兄貴なのか?」

「そうだ。」と、駿は躊躇わず応える。

「どうして、すぐに言わなかった。」

「10年前。研究所にいた俺たちは、離ればなれにさせられた。そのとき、俺は何も出来なかった。」

「それは答えなのか?」

「また、一緒に暮らしたいという気持ちと、また、弟たちに何も出来なかった虚構感に襲われるかもしれないという気持ちがあって、自分からは言い出せなかった。」

「なんだ、それ。」

「もしかして、ベリーショートに搭乗できる潤も。」

「おまえの双子の弟だ。」

隆はしばらく考え込むと「分かった。」とだけ言って、その場を去った。


戦艦グリーンの大浴場に、スマと潤がいた。

潤が湯船に浸かっている。

スマも潤の近くに座る。

「学校生活って、楽しかったですか?」

スマが先に口を開いた。

「はい。スポーツして、勉強して、何変わらない日々が楽しかったです。」

「そうなんですか。」

「けど、僕がその平穏な日々を壊してしまった。」

「好きな人を助けるために、魔法炉を壊した。」

「はい。結局、助けることもできず、博多のエネルギー源を絶つことになってしまいました。僕の居場所はなくなってしまった。」

スマは優しい言葉をかけようとしなかった。

駿が脱衣所から浴室に入る。

「風呂はホッとするんだよな。」

潤が「はい。」と応えた。

「イヤなことを忘れられる。」

スマは、イヤなことを思い出す場所でもあると思った。

「学生寮の風呂は、いつも騒がしくて、楽しかったです。」

「さすがに、大人が多いから、ここは静かだよ。」

潤が少し笑った。

スマは「僕は先に失礼します。」と、脱衣所に入っていった。

「こうやって、ボーッとしてる時間は、僕には大切です。」

「何にも考えなくていい時間で、心を穏やかにしてるんだ?」

「はい。」

「俺も、そういう時間、大切にしよう。」

潤の心が、少し和んでいた。


「どうしてだろう。駿が潤と話していると、腹が立った。潤は自分とはかけ離れた世界で暮らしていて、羨ましくもあり、憎たらしくもあった。」


隆が美佳とすれ違うと「そういえば。」と、美佳を呼び止める。

美佳が「そういえば?」と、聞き返す。

「そういえば、美佳は操縦桿、握れるようになったのか?」

美佳がハッとした顔をした。

「いつも握ってるよ。なに、言ってるの。」

隆が首を少し傾けた。

章が「なんか、あったか?」と、二人を見て声をかけた。

隆が「特に。」と、応える。

「こないだの戦艦裁き。隆は、めちゃくちゃ凄い。」

「基本的な操舵方法は、どの戦艦も同じだ。」

「とはいってもさ。間合いとは感覚とか、違うことは多いからさ。」

章に褒められると、満更でもなさそうに隆が喜んでいた。


研究室にいる示度を訪ねる西成。

「また、何用だね。」と、招かざる客を招く示度。

「博多との大戦。第二艦隊を使わせてもらう。」

西成がニヤリと笑った。

「ヒト型兵器外郎の完成を急がした理由が、それか。」

「博多には戦艦グリーンがいる。第一艦隊の出番はない。」

「お主が第一艦隊の隊長ではないか。」

「私が第二艦隊を指揮する。」

「森の宮のことが、気に入らんのかね。」

示度がニヤリと笑い返した。


戦艦グリーンの大浴場に隆と潤がいた。

「いろいろありがとう。」と、潤が礼を言った。

「別に。」

「この戦艦には、長いんですか?」

「つい、こないだ。来たばっかりだ。」

「理由は?」

「軍に裏切られた。」

「僕は博多の人を裏切ったように思われてるのかな?」

隆が潤の胸元を、軽く叩いた。

「あんまり考えすぎるな。」

「隆は優しいから、仲間がたくさんいそうです。」

隆は蒼太のことを思い出していた。

「俺は単独行動が多かったから、そういうのは、あんまりいない。」

「そうなんですか。隆は、正義って言葉が好きなんですよね?」

「どうだか。」

隆が手を上に伸ばすと、潤が隆の脇の下をくすぐった。

「これでどうです?」「やめろ!!」

いつにもなく、騒がしい大浴場になっていた。


章の部屋に美佳がいた。

「私、邪魔かな。」と、章に聞いた。

章が美佳の唇を奪う。

「邪魔じゃない。」

「私。戦艦グリーンにいたい。」

美佳が章の上着を脱がす。

「俺、美佳を守るよ。」

美佳が章の肋骨に沿って、舌を滑らせる。

章は声なき声をあげる。

「美佳、どうしたんだ。」

美佳が章のズボンに手をかけ、地面に下げる。

章の派手な下着を、美佳がゆっくりと触る。

「私のこと、守って。」

「だから、俺が守るから。」

「本当に?」

「俺のこと、信じられるだろ。」

美佳は返事の代わりに、章の唇を塞いだ。

章は美佳をベットに倒すと、じっくりと抱きしめた。


「どうして、こういうことするのかな?」

「こういうことしてる間は、忘れられるだろ?」

「いやなことを?」

「いろいろ全部。」

「私、たまにね。章のが欲しくて、快感が欲しくなる。」

「何、言ってんだ。恥ずかしいだろ。」

「体に走る電気信号みたいなのが、たまらないの。」


章は疲れ切ると、美佳の隣で寝てしまった。

美佳は章の顔を撫でると、章の寝顔をそっと見ていた。


ブリッジにいる冷と陵。

「そういえば、連の手伝いしてたのか?」

冷が「いつの話しですか?」と、すぐに切り返す。

「大阪の時のこと。」

冷が少し宙を見た。

「ええ。手伝ったけど。」

「珍しいこと、するんだな。」

「情報収集の一環。」

「そうなんだ。」

陵は素っ気なく、会話を中断した。

「別に私だけで大丈夫。休んでください。」

冷の言葉に「いや、大丈夫。」と、また、すぐに切り返す。

冷の足下が目に入る陵。

陵が「冷って、オシャレに興味あったんだな。」と、冷めた言葉をかけた。

冷の足にあるトゥーリングを目に入った。

冷が「女性ですから。」と、回答した。

陵が「このまえ、アクセサリーとかは面倒だって、言ってたよな。」と、疑いの目を向ける。

「これぐらいなら、邪魔になりません。」

陵がそういう問題なのかと、疑いを深める。

「そうなんだ。」

スマがブリッジに入ってきた。

「何かありましたか?」

陵が「特に問題ない。」と、応えた。

スマも冷の足下が目に入った。

「可愛いアクセサリー。いつの間に、購入したんですか。」

「大阪の時に。」

「こんな小さくて可愛いアクセサリーあるんですね。」

陵は冷が嘘をついたことを見抜いていた。


「博多に総攻撃をかける。」

西成から第一艦隊に指令が下された。

雷が「質問をさせてください。」と、手をあげる。

西成が許可を出す。

田崎たざき 慎吾しんごの件。放置するんですか?」

雷は納得する答えを、西成に求めた。

蒼太が「よく言ってくれました。」と、小声で喜んでいる。

「その件は、心配はいらない。」

西成の言葉に、雷は理解できなかった。

連が「お言葉ですが。」と、発言しようとする。

発言を止めて「戦艦連は、単独で名古屋に行ってもらう。代わりに、第一艦隊に第二艦隊のヒト型兵器外郎を配備する。」と、西成が応えた。

三人の納得する回答であったが、第二艦隊という言葉にイヤな思いも走った。

連が「それでは、戦艦連は単独で田崎 慎吾の救出を行います。」と、応えた。


戦艦連のブリッジで、作戦をたてる連。

連を訪ねて、蒼太と雷がやってきた。

「これで良かったとは思う。」と、雷が言った。

蒼太が「ですが、第二艦隊の配備。それは問題ではないですか。」と、付け加えた。

連が第二艦隊の情報を、モニターに映し出した。

「すべての情報が開示されているわけではないが、薬物実験による強化兵を艦隊にしたのが、第二艦隊とされている。」

蒼太が「人体実験ですよね?」と、顔を青くした。

「その通り。我々の大阪は、絶対的科学主義を理念に建国されている。魔法の力を利用しない反面、科学の力を補強する必要があった。その施策の一つとして、薬物による兵士の強化があげられ、今日に至っている。」

雷が「趣味が悪い。」と、続いた。

「考えてみたら、その責任者は示度博士でなく、西成隊長となっていたことに、違和感があったことを、覚えています。」

連は蒼太と同じ違和感を覚えていた。


研究室にいる示度。

「私のやることに対抗した西成の玩具たちは、上手く働くかな。」

示度がモニター越しに、第二艦隊を眺めていた。


「ただいま、新都市大阪国から、多数の戦艦が接近しております。今までに見たことのない数です。また、先日とは違う艦隊も配備され、戦力を増強している模様です。」


博多のニュースは、大阪が攻めてくることばかりを取り扱っていた。

兵が足らない現況に、軍隊学校に入った太郎と湊と杏も、すぐに兵として配備された。

キングが「我々には、大召喚獣を創造する魔法炉がない。この現況においては、兵士ひとりひとりが国民の盾となることでしか、この国を守れない。その役目を、皆に担ってもらう。」と、命令を映像で流した。

杏が「生身の人間が召喚獣を創造するって、本当に大丈夫なの?」と、太郎に問う。

太郎が「誰もやったことないんだ。こんな危険なこと。分からない。」と、応える。

律が「魔法は、人間のエネルギーを具現化したもの。召喚獣を創造するということは、自分のエネルギーを召喚獣に変換するということは、間違いない。」と、杏に応えた。


戦艦グリーンでは、潤が駿に頼み事をしていた。

「僕も博多を守りたい。行かせてください。」

駿が「潤が姿を現したら、余計に状況をややこしくしそうだが。」と、言った。

「それでも、僕がしてしまったことだから、何もしないわけには。」

近くにいた陵が「今の潤には、できることはない。」と、冷たく言った。

「でも、それでも。」と、潤が言葉を詰まらせた。

駿が「じゃあ、俺が警護に・・・」と言葉を発すると、陵が鋭く睨んだ。

「俺が警護する。」

潤が「ありがとうございます。」と、隆の手を取った。

隆は潤に礼を言われて、満更でもない顔をした。

「悪いな、隆。俺が警護したいんだが。確かに、博多に潜入したばかりで、また居なくなったら、クルーに殺されそうだからな。」

駿は納得したような、そうでないような態度だった。

陵が「本当に行かせるんですか?」と、駿に聞く。

「まあ、心の整理をさせないと。」

潤と隆は準備のため、姿を消した。

駿が「それに。」と言うと、陵がすぐに「それに?」と続いた。

「正直、今の潤は、世界の現状とかけ離れた感覚過ぎる。この世界のことを知るのに、良い機会かもしれないだろ?」

「ずいぶんと手荒なことをするんですね。」


戦艦グリーンを出発しようとする潤と隆。

駿が二人を引き留めた。

「時間がないのに、悪い。」

駿の手に、2つのミサンガがあった。

「魔力を込めておいたから、身につけておいてくれ。たぶん、役立つ。」

潤が「ありがとうございます。」と、喜んだ。

隆が「悪いな。」と、顔にはあまり出さずに喜んだ。

駿が、隆の足首を指さした。

「そこに付けてくれると、邪魔にならないと思う。」

「ああ、そうだな。」と、隆が早速、身につけた。

潤も隆を真似て、足首にミサンガを装着した。

「隆がいるから心配はしないが。無事に帰ってこいよ。」

隆が「任せろ!!」と、返事をした。

駿が時間を指さすと「じゃあ、行ってこい!!」と、二人を見送った。


半月も絶たないうちに、博多の街並みは荒れていた。

壊れた魔法炉の残骸が、街に散らばっている。

潤は身を隠しながら、街中に進んでいく。

華道展のお知らせのポスターに、一華がいた。

隆が「こいつ。クラスメイトの。」と、指さす。

潤が「付き合ってください。」と、華道展の会場に急いだ。


華道展の会場には、十名弱の華道家の作品が展示されている。

真ん中にある作品は、クイーンによるものだった。

一華の作品を探す潤。

一華が潤を見つけて、静かに近づいてきた。

「お久しぶりです。松岡くん。」

すごく小さな声だった。

「お久しぶりです。いろいろ、申し訳ない。」

「私は恨んだりしてないから、大丈夫です。」

一華は潤から少し離れた。

近くにいた隆に「お久しぶりです。こちらへどうぞ。」と、普通の声で話しかけた。

「こちらの作品ですが。」

「悪いが、俺は興味が。」

「合わせてくれないと困ります。」

「ああ、そうですね。大変、素晴らしい。」

隆らしくない口調が、とても変だった。

「少しお時間ありましたら、もっと詳しくお話ししたいので、あちらの個室はいかがですか。お連れの方も。」

潤が一華に頷いた。

「では、早速、あちらに。」


潤は一華の気遣いで、個室で話すことができた。

「お待たせしました。松岡くん。無事でよかったです。」

一華が潤の手を軽く握って、喜んだ。

「いろいろ、申し訳ないです。」

「以前に応募していた作品が評価されて、軍隊学校に正式に配属される直前に、華道家になるようにと、国に命じられたの。だから、みんなとは離ればなれです。」

「そうだったんですね。」

「私は以前とあまり変わらない生活だけど、他のみんなは違う生活を強いられています。」

「僕が、魔術炉を崩壊させてしまったから。」

「そのことを、私たちは責めたりはしないです。」

「どうして?」

「やっぱり、誰かの犠牲の上に成り立つ平和って、考えてしまいますから。」

「ありがとう。」

「もうすぐ、大阪が来ます。松岡くん。桧山くん。気をつけてください。」

隆が「悪いな。」と、一華に礼を言った。

「変な転校生だと思ってました。松岡くんを迎えに来たんですか?」

隆が「まあ、そんなところだ。」と、言葉を返した。


華道展を後にして、引き続き街を散策している。

潤の後輩がすれ違い、後輩が足を止めた。

潤は見覚えある後輩の姿に、少し足を止めた。

「松岡先輩。」と、後輩が声を発した。

潤はなぜか振り返ろうとしなかった。

後輩が突進して、潤の被っていたフードを外した。

「やっぱり。どうして、あんなことをしたんですか。」

混雑した街中の町衆が、潤を睨み付ける。

「おまえのせいで。」

「ふざけるな。」

「毎日、安心して夜も寝られない。」

今の生活の怒りをぶつけて、潤に向けて罵声を発する。

しばらくすると、潤に空き缶を投げる者も現れた。

隆が潤の前にたち、魔法で空き缶をはじき返す。

「大丈夫か?」と、隆が声をかける。

「僕は大丈夫です。」

今にも襲いかかってきそうな町衆だった。

「逃げ場が無いな。」と、隆が困っている。

下の方から音がし、潤が下を見た。

「なに、やってるの?」と、マンホールから顔を出す里桜。

潤が「どちら様でしたっけ?」と、不思議そうな顔をする。

隆が「シン東京連合の谷山たにやま 里桜りお。」と、驚く。

「早くしないと、閉まっちゃうよ。」と、

隆と潤が、マンホールから地下道に入る。

マンホールを閉めた瞬間、町衆が潤のいた所をめがけて、押し進んできた。

マンホールが開かないように、里桜が魔法をかけた。

「まあ、これでしばらくは、しのげるでしょう。」

隆が「初めまして。桧山 隆といいます。」と、挨拶した。

「シン東京連合の谷山 里桜です。」

潤が「夜光船の台本に書いてあった、谷山 里桜ですか?」と、聞いた。

「演劇部の時の台本ならその通り。珍しい名前だから、分かっちゃうよね。」

潤が「あのときの映像が、見つからなくて、探したんです。」と、続けた。

里桜が「それは、すべてシン東京連合が回収しているので、博多には無いと思います。」と、告げた。

「どうして、回収したんですか?」

「恥ずかしいからです。」

「恥ずかしい?」

「若気の至りって、あるじゃないですか。分からないか。」

隆が会話に割って入った。

「ところで、シン東京連合が、博多に何用だ?」

「戦艦グリーンが博多に何用だ?なんてね。まあ、成り行きで、こうなってるんです。」

隆も成り行きで戦艦グリーンにいる。

里桜が思い出したように「駿は、元気にしてる?」と、聞いた。

潤が「特に変わりないと思います。」と、応えた。

「駿とは知り合いなのか?」

「なんと、答えていいのか。」

里桜が地下道の奥に進んでいく。

隆と潤は、里桜の後ろをついて歩いていく。

「まあ、ここまでくれば、大丈夫だと思うよ。」

潤が「ありがとうございました。」と、礼を言うと、里桜と別れた。


博多のドーム状の魔法が消失する。

「これより、総攻撃により。博多を落とす。いけ!!」

西成の掛け声で、多数の戦艦が下関から博多に向けて発進した。


博多の上空に多数の戦艦とヒト型兵器が展開される。

ヒト型兵器に立ち向かう博多の多くの兵士。

太郎と奏と杏が、多数の戦艦とヒト型兵器を睨みつける。

ヒト型兵器が博多に侵入しようとすると、兵士たちが召喚獣を創造する。

召喚獣とヒト型兵器がぶつかり合う。

遠くから空を見上げると、光と光がぶつかり合い、衝突し、消えていく。


伊波いば あずと上田 ミンク(うえだ みんく)と枝山えだやま 貴理子きりこが、ヒト型兵器外郎で博多の兵士たちを襲う。

与が「弱い奴は、死んじゃうぞ。」と、笑いながら、光化学ライフルを乱射する。

ミンクが「みんなを守らないと、みんなを守らないと。」と、苦しみながら、光化学ライフルを乱射する。

貴理子が「止めは、私に刺させてね。」と、光化学サーベルで、召喚獣を切り払う。

しばらく、ヒト型兵器外郎が破壊行為を行った。

時間切れなのか、与とミンクと貴理子が苦しそうな顔をする。

「時間切れか。ここは一回退くか。一時、撤退する。」

西成の指揮により、新都市大阪国は博多から下関に後退していく。


太郎は戦闘が終わり、部屋に戻る。

夏休みの思い出の写真を見て、首をかしげる。

「これ、いつのことだ?」

太郎は思い出を思い出せずにいた。


潤は戦闘が終わり、ようやく太郎達と再会を果たした。

太郎が「心配してた。」と、声をかけた。

「ありがとう。あと、お疲れ様です。」

湊が太郎に呼ばれて、顔を出した。

「新田のこと。」と、湊が言葉を詰まらせた。

潤が向日葵の髪飾りを、湊に差し出した。

魔法炉の中で、ただ一つ持ち帰れたものだから。

「どうして、これを?」

潤は湊の言葉に、険しい顔をした。

「これは、紬と湊の大切な思い出の。」

湊は向日葵の髪飾りを思い出せずにいる。

「思い出せない。見覚えがないんだ。」

「こんなに大切なものなのに。」

隆が潤達の会話を聞いて、嫌な予感がした。

隆が「太郎。最近、思い出せないことなかったか?」と、聞いた。

太郎が夏休みの思い出の写真を差し出し、不思議そうにしている。

「俺、海に行ったことが思い出せないんだ。」

湊が太郎に「冗談だろ?」と、睨みつけた。

「冗談じゃないから、困ってるんだろ?」

隆が「召喚獣を創造したりしたか?」と、二人に聞く。

太郎が「もちろんした。」と、答えた。

隆は二人に話すべきか迷い、口を止めた。

「変な事、聞いたな。これ、大阪の情報。また新しい情報が入ったら、呼ぶ。」

隆がUSBメモリーを、湊に渡した。

「ありがとう。」と、素直に湊は受け取った。

潤が空気を読んで「あんまり、長居すると、迷惑かけるから、そろそろ帰ります。」と、二人の前から姿を消した。


隆と潤がベリーショートに乗り込む。

「湊。紬にプレゼントとした向日葵の髪飾りのこと、覚えていませんでした。記憶喪失ということなのでしょうか。」

「記憶喪失ではない。」

「あんなに、紬のこと、好きだったのに、変です。」

「博多の兵士は、召喚獣を創造して、大阪に対抗している。」

「今までは、魔法炉で強大な召喚獣で対抗していました。甚大なエネルギーを創造するために、ヒトを生贄にして。」

「召喚獣には多かれ少なかれ、エネルギーが必要となる。おそらく、そのエネルギーが各々の生命エネルギーなんだろ。」

「生命エネルギー?」

「つまり、今までの生きていた証。思い出をエネルギーに変換して、召喚獣を想像させているんだと、俺は思う。」

「じゃあ、召喚獣を創造し続ければ。」

「今までの記憶は、すべて消滅し、最後は死ぬ。」

潤は隆の説明に、言葉を失った。


僕たちの思い出はなくなってしまう。

魔法炉が存在していた時は、一人の生贄で済んでいた。

それがなくなった今、その犠牲は多くの人で負担を賄おうということなのかもしれない。

結局、魔法炉があっても、なくても、何かしらの犠牲のうえに、博多は成り立っている。

見知らぬ一人の犠牲と、身近の人間の少ない犠牲、いずれかを負担しなければならない。

だとすれば、現実から目を背けることができる、見知らぬ一人の犠牲によって、自分たちの生活を維持したいと、博多の多くの人は考えるのであろう。

博多を維持するためのエネルギーも、生贄となった一人の生命を犠牲にして創造されたもの。一人の生命の生贄を捧げることができない今、どうして、自分の身近な人間が犠牲にならないといけないのかと、不満を漏らすのだろう。


隆と潤は戦艦グリーンに、一度、帰還した。


戦艦グリーンの大浴場に、駿と潤がいた。

「お疲れ様。」と、駿が潤に声をかけた。

潤が駿に目で挨拶をした。

潤は力が抜けて、ため息をついた。

「戦闘って、結構、大変なんですね。」

「そうだな。」

「博多で、後輩が僕のことを責めた時は辛かったです。」

「責められないのも辛いけど、責められるのも辛いよな。」

「それは、自分を責めてもらうことで、罪を受けて、自分を許すってことですか。」

「傷を背負うことで、自分を許すってことなのかもな。」

潤が体を小さく丸め、涙を流した。

駿が潤の後ろに座り、そっと抱きしめた。

「無理してただろう?」

「やっぱり、辛いです。けど、前に進みます。」

潤が駿の手をぎゅっと握った。

潤が「少しだけ、このままでいてください。」と、苦しさを誤魔化した。


冷がブリッジに隆を呼んでいた。

隆が博多での出来事を説明する。

冷が「シン東京連合の谷山 里桜が、助けてくれた。」と、考え込む。

「目的は分からなかった。そして、もともと博多にいたことが分かった。」

「そういえば、大阪に追われた時も、私たちを助けてくれたけど、あれは博多に侵入するためと思っていたけど、他にも理由があるのかもしれない。」

「そうだな。回りくどいことをするタイプではなさそうだ。」

冷が「考えてみたら、ずいぶんと、潤には優しいのね。」と、話を変えた。

「冷は、どこまで知っているんだ。」と、隆が冷に聞く。

「私と陵は、駿の兄弟だってことは、情報共有しています。」

陵がブリッジに入ってくると「お疲れ様。」と、挨拶をした。

隆は「そうか。」とだけ、言った。

冷が隆に「ありがとう。」と伝えると、隆はブリッジを出ていった。


「お疲れ様。」

スマが隆を見つけると、声をかけた。

「お疲れ様。」と、隆が挨拶をした。

「無邪気に付き合わされて、疲れたりしないんですか?」

隆が「無邪気?」と、何を言っているか分からなかった。

「僕は苦手なんです、平和慣れしてる潤が。」

「俺たちとは住む世界が違ったから、仕方ないだろ。」

「そういう世界にいられたことを、僻んでるのかもしれません。」

隆はスマがどんな過去を背負っているのかと、不思議に思った。

「過去は過去。今は今だ。」

「過去のことを掘り返しても、傷つくだけですからね。それは同感です。」

「スマが潤を気に入らないのは分かった。」

「そういうことではないです。」

「ただ、今は見守ってやってくれ。」

「正直、びっくりしました。隆は他人に興味ないと思ってたから。」

「俺もびっくりしてる。」

今度は、スマが不思議そうな顔をして見せた。


湊が部屋で、潤から受け取った向日葵の髪飾りを見ている。

紬といた図書室。

紬の読んでいた本たち。

「あいつのこと、忘れたりしない。」

紬と湊の写真を見ると、向日葵の髪飾りがあった。

「潤の言うとおり、紬がこの髪飾りを身につけてる。」

湊は自分の記憶に自信がなくなりそうだった。


杏が太郎の部屋に、たこ焼きを差し入れる。

「お疲れ様!!久しぶりにたこ焼き焼いたから、持ってきた!!」

太郎が杏を部屋に招き入れる。

「初めての実戦は、緊張したよな?」

「本当だよ。こんなことになるなんて、夢にも思ってなかった。」

太郎が杏のたこ焼きを口に入れる。

太郎が「杏って、たこ焼き、上手に焼けるんだな。」と、杏を褒める。

それに反して、杏は怒った。

「どうしたの。一緒に、文化祭でたこ焼き、作ったでしょ!!」

「俺、文化祭、やったっけ?」

杏が「私の手伝いをさせて、あげたでしょ!!」と、語尾を強めた。

「そうだったっけ。」

太郎が不思議そうな顔をすると、杏がさらに苛立った。

「私のこと、馬鹿にしてるでしょ!!」

「そんなことは無い。」

杏が「もういい!!」と言うと、たこ焼きを置いて、部屋を出て行った。


「戦艦グリーン、発進します。」

冷が下関の方角に、艦を進めた。

美佳が「もう、次の攻撃がくるの?」と、合間のない攻撃に戸惑っていた。

潤がベリーショートに乗り込む。

駿はプロトスターに搭乗し、発進準備をする。

章が定位置に座ると、美佳を見る。

隆が「今回は、操舵に回ろうか?」と、陵に聞く。

「こちらに問題は無い。潤のことを頼む。」と、隆は陵に言われ、ベリーショートに急いだ。


「お久しぶりです。キング、そして、クイーン。」

里桜が、二人に頭を下げた。

「こんな時に来客があるとは、思いもよらなかったぞ。」

キングが笑いながら、里桜を歓迎した。

「私たちは、あと少ししたら、ここを離れます。」

クイーンが宝石を大事に足下に抱え込み、その時を待っているようだった。

「無人ヒト型兵器のことなんだけど。」

里桜の言葉を聞いて、クイーンが大笑いした。

「貴方の考えている通りなのよ。」

「無人ヒト型兵器の動力源は、我々が生産した疑似無限魔法炉であるが。」

クイーンが「無限っていうのは、本当は違うのよ」と、付け加えた。

「無限魔法炉は、この宝石によって魔法を創造し、無人ヒト型兵器を動かすシステムであるが、その宝石に込められているのが、ヒトの魂なのだ。」

里桜が「やはり、ヒトの魂を犠牲にして、創造していたのか。」と言うと、汗が出た。

「大召喚獣となったものの魂を、魔法石に封じ込め、莫大な生命エネルギーを補完する。当然、この宝石が壊れれば、そのモノの魂も消失する。新たな生命体に転生することもないであろう。」

クイーンが「シン東京連合の二の舞には、ならないってことよ。」と、言った。

「お二人はこの国を捨てるということですか?」

里桜の問にキングが笑った。

「この国の役目は終わりつつある、偽りの平和。そのようなものは、長くは続かんよ。」

「これだけの宝石があれば、無人ヒト型兵器で気に入らない国を攻めることもできるわ。」

キングが里桜に銃口を向ける。

「さて、君には退場願おうかな。」

里桜がキングの攻撃に構える。

そして、銃声がする。

里桜は足下にファイアーボムを投げ、床を落とした。

「後始末だけはしてから、東京に戻ろうかな。」

ヒト型兵器櫻に搭乗すると、里桜は自分の出番を待っていた。


戦艦グリーンの前に、戦艦西成が現れる。

「忌まわしい戦艦グリーン。またも現れるか。」

西成がヒト型兵器外郎を出撃させる。

「こちらも出撃。お願いします。」と、冷が指揮を執る。

「了解。プロトスター、発進します。」

「スカイブルー、発進します。」

「ベリーショート、発進します。」

それぞれが、ヒト型兵器外郎を迎撃に向かった。


「まったく、また新型機って、どんだけ、お金あるんだよ。」

駿がヒト型兵器外郎を目視する。

「さあ、今回も死んでもらいますよ。」

与がヒト型兵器プロトスターを目視すると、大型光化学ライフルで狙い撃つ。

「出力が段違いだな。」と、攻撃を避ける。

与は薬の効果が出始めたのか、息が荒くなる。

「さあ、さあ、どんどん、撃たせて、撃たせてくださいよ!!」

ヒト型兵器外郎が無差別に大型光化学ライフルを乱射する。

「どこを狙ってるのか、検討がつかないな。」

駿は無差別攻撃に、一度、機体を後退させた。

「この間合いなら、魔法で攻撃できる。遙か昔から存在する光の神よ。闇夜に落ちる心を救うため、何時の力を借りたい。ライトニングアタック!!」

ヒト型兵器プロトスターから、光の弾が発せられ、ヒト型兵器外郎に走る。

無差別攻撃に魔法が当たりながらも、その威力は衰えずに進む。

「避けられないなら。受け止めれば良い。」

ヒト型兵器外郎が大型シールドで、攻撃を受け止める。

大型シールドの四分の一が破損し、亀裂が走った。

「まだまだ、攻撃されても大丈夫。」

与が攻撃を受け止めると、士気をあげて、攻撃を強めた。

「それなりに防御にも強いってことか。」

さらに後退して、駿は策を練るのだった。


「戦ってはダメです。」

博多の兵士達を目の当たりにして、潤がつい言葉を発した。

「それでも戦うしかない。生き残るために、彼らは戦うしかないんだ。」

隆が潤の言葉を打ち消した。

「分かっています。けど、このまま戦い続けたら、博多の兵士の思い出は、全部、消えていってしまう。生き残った家族や仲間が、思い出を知らない彼らと触れたら、悲しみます。」

ヒト型兵器外郎が、ベリーショートの前に接近してきた。

「ぐちゃぐちゃ、屁理屈ばかり並べてると、死ぬわよ。」

貴理子が大型光化学サーベルで、ベリーショートを突き刺そうとする。

隆が「遅い。どこを狙っているんだ。」と、攻撃を避けた。

「破壊力だけなら、僕にも対応できます。」と、潤もベリーショートに意志を送る。

貴理子に薬が効き始めると、目が血走って、攻撃し始める。

大型光化学ライフルを乱射すると、周辺が火の海と化す。

「博多も火の海にしてあげたいのよ!!」

博多の兵士達が、召喚獣を創造し、ヒト型兵器外郎に衝突させる。

「こんなに攻撃されたら、さすがに辛いけどね。」

召喚獣の破壊力は凄まじく、ヒト型兵器外郎の装甲を次から次に殺いでいく。

「けど、まだやられないからね。」

博多の兵士達がいる方向に、大型光化学ライフルを最大限に充填した。

「大型光化学ライフル、最大出力。すべてを焼き切って頂戴。」

貴理子が大型光化学ライフルを撃つと、一直線に爆発が起き、兵士達が地面に急降下していった。兵士達が灰となり、息を引き取っていった。

「だから、止めた方がよいのに。」

潤が惨い光景を目の当たりにして、錯乱する。

「どうして、そんなことができるんですか。」

ベリーショートをヒト型兵器外郎に接近させる。

隆が「やれるのか?」と聞くと「許せないです。」と潤が応えた。

潤がファイアーウェーブを詠唱し、炎の波でヒト型兵器外郎に攻撃する。

隆は光化学サーベルを片手に、ヒト型兵器外郎に切り込んでいく。

「同時攻撃!!やるじゃない!!」

貴理子が二つの攻撃に対応できず、光化学サーベルが直撃する。

ヒト型兵器外郎の左肩が傷つき、相当のダメージが加わる。

「やっぱり、骨董品は嫌い!!」

貴理子は損傷を確認すると、ベリーショートを睨み付けた。


太郎が召喚獣を創造して、戦艦を打ち落としていく。

「俺たちの博多を守る。」

杏が「私だって、やれるんだから!!」と、召喚獣を創造する。

杏の創造した召喚獣が、ヒト型兵器を破壊していく。

湊が召喚獣を創造すると、博多の街が破壊されないように、盾となった。

「これ以上、先には行かせない!!」


ヒト型兵器櫻が姿を現すと、プロトスターに加勢する。

「こちらに加勢してくれるのか?」

里桜が「もっと、ちゃんと戦ってよ!!」と、駿の悪口を言う。

ヒト型兵器外郎が、ノッソリと近づいてくる。

「春に舞う桜のごとく、今、儚く散りたまえ。ピンクスモーク!!」

里桜が魔法を詠唱すると、ピンク色の魔法の花びらが、ヒト型兵器外郎を囲った。

「エネルギー数値が減少していく。何だ、これは何なんだ!!」

里桜が「今のうちに。」と、駿に攻撃を促す。

プロトスターがヒト型兵器外郎に接近して、魔法を使い炎の剣を創造した。

「ありがとう。里桜。これで切り払える。」

プロトスターがヒト型兵器外郎に襲いかかる。

ヒト型兵器外郎は大型シールドを前に押しだし、防御に徹している。

「守り切るしか無いのか。どうなってるんだ。」

与が動作の鈍い機体に動揺している。

「完全には止まらないのか。」と、里桜はヒト型兵器外郎を睨み付けた。

ピンク色の魔法の花びらが消失すると、ヒト型兵器外郎の機動性が上がり、一斉に攻撃をしかけてきた。

「よくもやってくれたな。」

さきほどまで我慢していた分を取り返すように、与が大型光化学ライフルを乱射する。

ヒト型兵器櫻が前に出ると、マジックバリアを展開して、プロトスターを守る。

「これだけの魔力を使えば、耐えられます。」

「ありがとう。里桜。」

「御礼はいらないから、しっかり狙い撃ちしてください。」

「ああ、申し訳ない。」

駿が里桜に怒られていた。


「補給が必要だ。ここは、一度、後退する。」

戦艦西成が後退すると、ヒト型兵器外郎も撤退していく。


戦艦グリーンは、戦艦西成が戦域を離脱するのを確認して、地面に着陸した。

冷が外に出ると、焼け野原となった一面を目視した。

美佳が「何もなくなってしまった。」と、言葉を漏らす。

章が「ここまで、やらなくてもいいじゃねぇか。」と、怒り声をあげた。

陵は、何もなくなった風景をただ見ていた。


戦艦グリーンに帰還するパイロット達。

駿がプロトスターから降りると、肩を回した。

「まったく、骨が折れる相手だ。」

次に、スマがスカイブルーから降りてきた。

「桁外れのエネルギーを操るあのパイロットが気になります。」

ベリーショートから、隆が降りて仁王立ちする。

「俺は、あいつらを倒す。」

最後に潤が機体から降りた。

「お疲れ様でした。」

駿が隆に声をかけようとすると、それを遮るスマがいた。

「すいません。駿、確認したいことがあります。」

「悪い。風呂に入ってからでいいか。液体の感覚が、どうもな。」

「じゃあ、僕も行きます。」

駿とスマは大浴場に消えていった。

「僕が戦っても、結局、どんどん破壊されていく。」

隆が「何もしなければ、すべて破壊されていた。意味があることだ。」と、励ました。

「そうですよね。」

「どんな結末が待っていても、それは自分が勝ち取った結果だ。意味があることだ。」

「この結末は、僕が望んだ結末ではなかった。最後に、紬に気持ちを伝えられたことだけが、意味がある結果になりました。それって、僕のエゴですよね?」

「それでも意味はある。」

「僕はみんなの思い出を奪ってしまった。こんな状況にしてしまったから。」

「誰も、潤を責めたりしていないだろ?」

隆の言葉に、潤は黙ってしまった。


「すいません。頼もう。」

戦艦グリーンに、里桜が現れた。

陵が里桜に気がつき「シン東京連合の谷山 里桜。」を、確認した。

冷が「先ほどは、ご協力ありがとうございました。」と、礼を述べた。

「博多で確認したかったことは終わったので、そちらに協力したいんだけど、中に入れてもらえないかな?」

ヒト型兵器櫻を格納してほしいとの申出だった。

陵が駿に確認を取ろうとするが、風呂にいるため、確認するのを止めた。

冷が陵の目を見て「特に問題ないと思います。」と、言う。

陵も頷いて「こちらにヒト型兵器の格納をお願いします。」と、指示を出した。

里桜が礼を言うと、戦艦グリーンに搭乗した。


「ところで、確認したいことって、どうした?」

駿が湯船に浸かりながら、スマに聞いた。

「レッドスターの回収を急がない理由を知りたいです。」

スマにとっては、興味の無い質問だった。

「その件は、レッドスターがどこにあるかが、確認できていないのが一番の理由かな。それに、スカイブルーとベリーショートを回収し、そのパイロットを確保するということには、成功しているわけだから、そちらを優先したと考えてもらいたい。」

「僕たちを確保したかった、ということですか?」

「そう考えてもらって、構わない。」

スマはどう受け止めて良いのか、考えていた。

「道具のように扱われたと、思ったか?」

「よく分からないけど、少しイヤな感じしました。けど、嬉しいような気持ちにもなりました。僕を探すことを優先してくれたと、考えたら嬉しいです。」

「俺は、別にスマのこと、道具とは思ってないよ。」

「それは、分かってます。今までの持ち主とは、雰囲気とか話し方とか違いますから。」

「持ち主?」

「だって、そうじゃないですか。僕は誰かに買われたり、売られたりしていたんですから。」

「俺は、持ち主なんて、思ったことは無いよ。」

駿がスマの手をギュッと握った。

「スマはスマで、誰のモノでもない。自分の生きたいように生きれば良いんだ。」と、駿がスマの目を見た。

スマは「生きたいように生きるって、難しいです。」と答えて、目をそらした。

駿はスマの言葉を聞いて、自分も生きたいように生きていないと、感じてしまった。

「そういえば、背中流してやるよ。」と、駿が話しを変える。

スマが「いいです。もう、体、洗いましたから。」と言うが、鏡の前に座る。

駿が柔らかいタオルにボディーソープを付けて、スマの背中を優しく擦る。

スマが「ありがとうございます。」と、少し照れながら、駿に甘えていた。


里桜が格納庫のスカイブルーとベリーショートを見ていた。

「さすが、伝説の機体だけある。パワーがみなぎっている。」

里桜がスカイブルーに手を乗せ、目を閉じた。

里桜の魔力が回復し、疲れが取れていく。

「やっぱり、凄い機体だ。」

陵が「あちらこちら、行かないで頂きたい。」と、里桜を見つける。

「ああ、ごめんごめん。ところで、駿はまだなの?」

駿がタオルを肩にのせて、里桜の前に姿を現した。

「悪い。ゆっくりさせてもらった。」と、陵に声をかける。

駿が前を見て「ええ!!どうして、谷山 里桜が!!」と、腰を抜かしそうになった。

「そこまで驚くことはないと思いますけど。」

里桜が駿に軽く会釈した。

「これは、どうも。」と、駿も会釈する。

「博多の真実を知りたくない?」

陵が「どういう意味ですか?」と、何を知っているのかと思う。

「情報があるなら、教えて欲しい。」

得意げな里桜が「じゃあ、どこかの部屋に全員、集めて欲しい。そしたら、この映像、見せてあげる。」と、言った。


食堂にクルーを集める駿。

「それじゃあ、映像を御覧ください。」

里桜が映像を提供する。


クイーンが多数の宝石を抱えている映像。

大召喚獣が宝石に転換されていく。

ヒトの魂が宝石に込められていく。

たくさんの思い出が収集されていく。


潤の手が震えた。

「これは、何なんですか。」

冷が「疑似無限魔法炉の正体ですか?」と、里桜に聞いた。

駿が「無人ヒト型兵器の動力源が、これってことか?」と、疑問を投げかけた。

里桜が「その通り。」と、答えた。

章が「惨いな。」と、言葉を漏らす。

美佳は気分が悪くなり、席を外した。


「ちょっと、刺激が強かったかな?」

「情報を欲しかったのは、こちらだ。ありがとう。」

駿が里桜に御礼を言った。

「そういえば、隆以外は、駿との関係を知らないみたいだね。」

「俺の素性を知っているのか?」

「それは勿論。あと一つ、教えてあげないといけないことが。」

「今度は良いニュースですか、悪いニュースですか?」

「レッドスターのことです。東京に幽閉されています。」

里桜が駿にレッドスターの映像を手渡す。

「罠じゃないよな?」

「罠を仕掛ける理由がないです。」

「博多はもうすぐ落ちる。そしたら、東京に来てください。」

里桜は駿を見て、にっこり笑った。


博多に居るクイーンに会うため、冴島が姿を現す。

「先日は、ご協力ありがとうございました。」

冴島に、クイーンが頭を下げる。

「そちらの無人ヒト型兵器の起動実験。お受けします。」

「その代わり、仙台に移送する件、承諾した。」

恵利が輸送機に乗り、出発を待っている。

「大阪が攻撃を仕掛けてきたら、お願いします。」

「そちらの件、了解した。」


潤がやり切れない気持ちになり、博多の郊外にいた。

何をやっているんだろうと思いながら、潤は街を歩く。

湊が潤の姿を見つけて、声をかけた。

「なに、ウロウロしてるんですか?」

本を片手に持つ湊が、潤の前にいた。

「ああ、危ないですよね。」

湊が自分の部屋に招き入れる。

「申し訳ない。また、迷惑をかけました。」

「気にする必要はないです。」

潤は学生生活のことを思い出して、話しかけた。

「そういえば、湊が紬のこと、どう思ってるのか聞かれた時、怖かったです。」

「何の話しですか?」

「僕が紬のことを好きかどうかって話をして、湊は最初から好きだって言って、びっくりしたってこと。」

「そんなことあったっけ?」

潤は、湊の思い出が消されてしまったことに、気がついた。

「どうでもいいことですよね。」と、潤の目が潤んだ。

「最近、新田とのこと、あんまり思い出せないんだ。」

「湊と紬は、凄く仲が良かった。」

湊が「そうだったよな。」と、言った。


みんなとの思い出が、どんどん消えていく。

僕の思い出と、みんなの記憶がかけ離れていく。

時間が経てば、思い出は色あせていくから、当たり前のことなのかもしれない。

だけど、大切なことが消えていって、僕は寂しくてたまらなかった。


太郎が思い出の写真を燃やして、出撃の準備をする。


湊が向日葵の髪飾りを捨てて、出撃の準備をする。


「これより、最終攻撃に入る。博多を落とす。」

戦艦西成が下関から博多に向けて、今一度、発進した。


太郎がヒト型兵器外郎の前に立ち、召喚獣を創造する。

潤と紬のステージを見た太郎の記憶が召喚獣に変わっていく。

すぐに、次の召喚獣を詠唱する。

次は卒業式の写真撮影の記憶が召喚獣に変わっていく。

兄貴との思い出が召喚獣に変わっていく。

「俺、もう限界かも。」

記憶を使い果たすと、廃人になり、その場に倒れ込んだ。


湊も太郎と同じように召喚獣を創造する。

図書館での思い出が、召喚獣に変わっていく。

紬とショッピングした思い出が、召喚獣に変わっていく。

「何してるんだ。」

記憶を使い果たし、湊が倒れ込んだ。

杏も近くで、記憶を使い果たし、倒れ込む。


潤が太郎に近づく。

太郎が倒れ込んでいるのを見て、潤は言葉を飲む。

「太郎。僕が、僕のせいで。ごめん。」

潤は後悔していた。

紬を助けるために、魔法炉に入ったことを。

太郎が「気持ち悪い。」とだけ、言った。

ベリーショートが魔法で移送されると、隆が怒っていた。

「早く、乗るんだ!!」

潤は「けど・・・」と、何も考えられずにいた。

隆が「けど、じゃない。」と、怒る。

潤が服を脱ぎ、ベリーショートに乗り込む。

「どうして、無理をした。」

「ごめんなさい。僕、邪魔ですよね。」

「そんなこと、言ってないだろ。」


プロトスターとヒト型兵器櫻が、ヒト型兵器外郎の行く手を塞ぐ。

ミンクが「さあ、遊ばせてくださいね。」と、薬を投与して、凶暴になる。

大型光化学ライフルを乱射して、街を破壊する。

「これ以上、やめろ!!」と、駿がマジックバリアを展開し、攻撃を受け止める。

破壊行為が次から次へと行われて、街が灰になっていく。

「あんまり無理しないでよ。」と、里桜のマジックバリアに力を貸す。

見覚えのある黒い機体が、マジックバリアに切り込む。

「ブラックナゴヤ!!」と、里桜が驚く。

「私情を挟むのは、よろしくないが。ここで博多は落ちてもらう。」

大型光化学ライフルによるダメージに加えて、光化学サーベルによる攻撃で、マジックバリアが崩れ落ちていく。

「ファイアーウェーブ!!」と、里桜が魔法でブラックナゴヤを押し返す。

冴島が「そう簡単には、やられはしないか。」と、機体を退かせる。


恵利の操縦する輸送機が発進する。

「博多の役割は、これで終わりだ。」

「この宝石があれば、私たちは安泰。」

輸送機を追うヒト型兵器はいない。

輸送機は博多の戦域から、早々と離脱していった。


博多の地下から無人ヒト型兵器が投入される。

スマが無人ヒト型兵器を確認すると、混乱する。

無人ヒト型兵器が作動すると、周辺を破壊し始める。

「あれは、博多のヒト型兵器ではないということですか?」

冷が所属を確認すると「所属は不明。」と、告げた。

無人ヒト型兵器を押さえ込むために、ブルーウェーブで対抗する。

しかし、無人ヒト型兵器は攻撃にもひるまず、ただただ攻撃を続けている。

「ただただ攻撃するマシーンということなんですか?」

陵が「無人ヒト型兵器の内部に高エネルギー反応あり。危険です。」と、伝える。

里桜が「今すぐ、撤退してください。」と言い、戦艦グリーンに帰還する。

駿も里桜の後について、戦艦グリーンに帰還する。


「博多を見捨てろって、言うんですか?」

「以前のように無人ヒト型兵器が爆発を起こす。今は撤退すべきだ。」

「博多を守るために、みんな、犠牲になっていったのに。」

「それでも、今は退くんだ。」

潤は湊が倒れている姿を、もう一度、見る。

「あのまま、生きてても辛いだけだ。」と、隆が言う。

「そんな、冷たいことできません。」

「じゃあ、潤も死ぬことを、あいつらが望んでいると思うか!!」

「そんなことは。」

「なら、今、生きられる命を、精一杯、生きるんだ。それが、おまえの正義だ。」

潤が目を閉じて、ベリーショートに魔法バリアを展開する。

ベリーショートがその場から離れようとした瞬間。

無人ヒト型兵器が暴発し、大きな爆発が起きる。

炎が博多を覆い尽くす。

倒れ込む湊が焼かれていく。

静止する太郎が焼かれていく。

空を見る杏が焼かれていく。

炎にのまれて、潤の仲間の姿は焼失していった。

「みんな、ごめんなさい。」


博多から半径30kmは、完全に焼失。

博多魔術国は機能を完全に失い、消滅することとなった。


戦艦グリーンの大浴場にいる隆と潤。

鏡の前に座る潤は、体を洗っている。

隆も隣に座り、体を洗っている。

「ヒトが死ぬのを見るのって、慣れませんね。」

潤がお湯で体を洗い流す。

「慣れるわけじゃない。感じなくなるだけだ。」

隆がお湯で体を洗い流す。

二人は湯船に浸かり、ボケーッとする。

「結局、博多魔術国はキングとクイーンの目的のためにあった、それだけのことだ。」

「思い出を強力なエネルギーにする。だから、平和な日々を送らせて、楽しい思い出を創らせ、最後は回収した。そういうことですか?」

「そういうことだと、俺は思う。」

水滴の音がする。

「まるで、家畜されているみたいで、気持ち悪いです。」

「そうだな。」


「どんなことがあっても、ここからは前に進んでね。どんなに辛いことがあっても、自分の幸せとか居場所を見つけてね。」


潤は紬の言葉を思い出していた。

「自分の居場所って、どうやって見つけるんですかね。」

「自分がそう思った場所が、居場所だろ?」

「それはそうですね。」

「結局、自分自身がどう考えるか、だけだろ?」

「隆の居場所は、戦艦グリーンですか?」

「今は、そうだ。」

「どうして?」

「潤がいるだろ?」

「僕がいるから、ですか?」

「まあ、そうだな。」

隆は少し照れていた。


里桜がブリッジで、激しく怒っていた。

「さすがに、無人ヒト型兵器の実験場に、博多を使うなんて。何考えてるんだ。名古屋共和国は!!」

スマが「無人ヒト型兵器が投入された時は、どういうことかと思いました。」と、言う。

「そうだよね。さすがに、その展開はよめてなかった。大阪だけマークしてれば、大丈夫だと思ってたから。」

冷が「シン東京連合の情報量でも、分からないことがあるんですか。」と、聞く。

里桜が「それはあるでしょ!!僕には、情報の全部が開示されてないし。」と、いじけた。

駿が里桜をなだめている。

「とりあえず、一度、鹿児島まで南下して、そこから東京に向かおう。」

陵が「東京ですか?」と、驚く。

「そこに、レッドスターが幽閉されている。」

冷と陵は、里桜からいつの間に情報を入手したのかと、思っていた。


示度の研究室に現れる西成。

「作戦は無事に終わったようじゃな。」

西成が「すべて焼失という形で、幕引きとなった。」と、告げた。

「キングとクイーンは、名古屋の奴らが仙台に移送したようだな。」

「示度博士。博多の視察は行うのか?」

「あそこは、30年は封鎖する。今は、行かない方が良い。」


シン東京連合では、代表の葉鳥はとり 莉久りくが状況を確認している。

「葉鳥様。博多が焼失とのことです。」と、理恵子が映像を流す。

「ヒト型兵器櫻の姿があるが、どういうことですか?」

「彼は単独行動をしており、戦艦グリーンと合流したとの情報が。」と、学図が答える。

「まあ、よいでしょう。だとすれば、戦艦グリーンが東京に来るということは、ほぼ確実です。」

「幽閉されているレッドスターを回収し来るということですか?」と、学図が聞いた。

「ええ。その通りです。」

「レッドスター、スカイブルー、ベリーショートの三機が、本来のパイロットの手に戻れば、この東京の惨事が、今一度、生じかねません。阻止すべきです。」と、理恵子が莉久に提案をする。しかし、莉久はその提案を聞いていないようだった。

「事の成り行きによっては、新たな世界が創造される。」

「どのような意味でしょうか?」と、学図が莉久に疑問を投げる。

「そのままの意味ですよ。」


戦艦連は、名古屋共和国に向けて発進していた。

蒼太が「情報によると、冴島は別任務で不在とのこと。」と、情報を提供する。

雷が「それなら、さくさく、攻め込んじゃおう!!」と、軽く言う。


「今回は僕が指揮を執らせて頂きます。」

奈々が「どうして、新入りが!?」と、ひっくり返る。

真理子が「模擬戦で隊長に勝たれたからですか?」と、睨み付ける。

「そんなに敵対視されては困ります。」

光太が二人に微笑んだ。

真理子はその笑顔がイヤだった。


病室に泊まり込む奈々。

「やっぱり、今日も、目を覚まさないか。」

病院の機械音がする。

「おはよう。慎吾。」

慎吾からの返事はなかった。

「行ってくるね!!」


関ヶ原に、戦艦連とヒト型兵器が展開する。

ホワイトスターとヒト型兵器きしめんが、新都市大阪国の迎撃に備えている。


「さあ、始めるとしよう。」


光太のかけ声で、戦闘が始まった。

ホワイトスターは、ヒト型兵器をかきわけて、ヒト型兵器連を見つけ出す。

「森ノもりのみや れん。」

光太がライトニングボムで、攻撃をしかける。

「機動性なら、負けてはいません。」と、連が攻撃を避ける。

「どうして、迷いがあるのに、君は戦うんだい?」

光太が連に問う。

「迷いなど、無い。」

ヒト型兵器連が光化学サーベルを構えると、ホワイトスターに突進した。

「心の迷いは、攻撃に反映する。濁りがある攻撃は、当たらない。」

連が「ふざけるな!!」と、何度も突進するが、すべて避けられた。

「戦艦グリーンの件、納得していないのだろ?」

「私は軍人だ。やむを得ない。」

「冷と戦うことになっても、迷わず銃口を向けられるのかい?」

ホワイトスターが、ヒト型兵器連の背後から両手で押さえつける。

「攻撃をしないのか?」と、連は背後から抑えられ、身動きが取れない。

ホワイトスターから、七色の光が放たれる。

精神攻撃の魔法が、連を襲う。


「君は、冷と一緒に居て楽しかったのかい。」

「ああ、楽しかったさ。」

「だから、戦艦グリーンを逃がした。」

「西成以外は、彼らに攻撃する意志はなかった。」

「しかし、今は敵。」

「そうだ。」


連が冷を見つけている。

「一緒に仕事が出来たこと、楽しかった。」

冷がそう告げると「私を撃って!!」と、言う。

連の手が震える。

銃口に手をかけるが、撃つことができない。


「どうして、撃つことができないんだい?」

「久しぶりに、心が楽になった。彼女は、私の仕事を理解してくれていたから。」

「仲間がいるのに、ずっと独りだったということかい?」

「孤独を感じていた。」

「今も孤独なのかい?」

「分からない。ただ、彼らに秘密にしたい感情がある。」

「冷には、なかった。」

「彼女にはすべてを打ち明けても良かった。」


ホワイトスターがヒト型兵器連のエネルギーを吸い上げていく。

難波が「隊長!!」と、ヒト型兵器松風庵を激しく動かす。

奈々のヒト型兵器きしめんが、難波に対抗する。

「私のこと、忘れてない?」

難波が「雑魚は、どいてろ!!」と言うと、光化学ライフルを打ち込む。

「うっそ。直撃!!離脱します。」

射撃の苦手な難波が一撃で、ヒト型兵器きしめんを仕留める。

難波が「おっしゃ。俺、才能ある!!」と、喜んだ。

ヒト型兵器きしめんが爆発し、鉄くずとなった。

真理子が重装な盾を前にして、攻撃を受け止める。

蒼太は「集中攻撃すれば、やれます。」と、難波に指示を出す。

難波が「人使いが荒い!!まず、左、撃つぞ!!」と、光化学ライフルを撃つ。

蒼太が合わせて「では、右、いきます。」と、光化学ライフルを撃つ。

ヒト型兵器きしめんが攻撃を受け、後ろに押される。

難波が飛び出し「ゼロ距離ならば、直撃だろ!!」と、光化学サーベルで詰め寄る。

ヒト型兵器松風庵が地面から飛び上がると、ヒト型兵器きしめんの頭を串刺しにした。

真理子が「さすがに分が悪かったです。脱出します。」と言って、ヒト型兵器から逃げた。

ヒト型兵器きしめんが爆発し、再起不能となった。

「あとは、副隊長を助けに行かないとです。」と、蒼太が連の心配をする。


ホワイトスターの前に、ヒト型兵器堂島とヒト型兵器松風庵が現れる。

ヒト型兵器連は、起動を停止している。

難波が「負けたってことか!?」と、連を怒る。

光太が「勝敗はついてはいません。」と、困った顔をする。

蒼太が「貴方の仲間は撃沈しました。三対一です。退いてください。」と、言う。

ホワイトスターがヒト型兵器連を開放し、二機の前に立つ。


「蒼太。気をつけろ。こいつは。」

連の指示は届かなかった。

ホワイトスターが、ヒト型兵器堂島に飛びかかる。

「まるで生き物のようです。」

蒼太が必死に、ホワイトスターを受け止めようとする。

ホワイトスターがまた、七色の光を放つ。


「ここは、どこですか?」

「ここは、君の、蒼太の心の中。」

「僕の心の中。」


軍隊の初出勤の日。

僕は緊張して、言葉が出なかった。

上官に「もっと、声を出せ!!」と、注意をされた。

ほとんどの兵士が、僕よりも年上だった。

だから、訓練が終わった後も緊張して、何も出来なかった。

「お疲れ様!!」と、隆が声をかけてくれた。

正直、助かったって思ったんだ。

「あの、僕、桜宮 蒼太っていいます。君は、桧山 隆隊員ですよね?」

「隆って、呼べ。」と言われ「蒼太って、呼んでください。」と、僕は返した。

隆は、僕よりも優秀で、先輩達を飛び越えて昇級していった。

僕がヒト型兵器の操縦に手こずると、時間を空けて、訓練に付き合ってくれた。

「隆と同じ艦隊に配属になりました。」

僕は凄く嬉しかった。

初めて親友と呼べる人ができた気がした。

隆は強い。

先輩から文句を言われても、聞かないふりをしていた。


「どうして、隆と戦わないとならない?」

「それは敵だから。」

「親友と呼べる隆を傷つけてまで、戦う意義。僕には分からない。」

「それは僕にも分からない。ただ、僕の居場所は、ここしかないんだ。」


ヒト型兵器堂島が光化学サーベルで、ホワイトスターを切り払う。


「精神力の強さ。それが、君の強さか。」


光太がホワイトスターをヒト型兵器堂島から退かせる。

蒼太は大汗をかきながら、光化学ライフルを構える。


「ここは退いてください。ヒト型兵器きしめんが2機落ちています。そちらは退くべきです。直ちに退いてください。追撃はしません。」


蒼太の賢明な判断に、光太は頷いた。


「仕方ありません。そちらが追撃をしないのであれば、今回はこちらの負けということで、退かせて頂きます。」


両者の機体が戦域を離脱していく。

ただ、精神的ダメージを負った連は、誰とも話しができる状態ではなかった。


潤がベリーショートのコクピットに入る。

「どうして、ここにいると落ち着くんだろう。」

潤が目を閉じると、暗闇に浮かんでいるような感覚になる。


スマが隆を見つけると、話しかけた。

「お疲れ様。」

「ああ。」と、隆はスマを避けるような仕草をした。

スマが隆の手を取って「待ってください。」と、引き留める。

「どうした?」

「聞きたいことがあります。」

「いつも大人しいスマが、珍しいな。」

隆がスマから目を背ける。

「隆は、潤に優しすぎると思う。」

「別にそんなことないだろ?」

「隆は基本的に、他人には興味がないくせに。」

「なんだ、それ。」と、隆が下を向いた。

陵が「ベリーショートのパイロット同士、仲良くするように私が言った。」と、話に割って入ってきた。

隆は、陵を一度見て、下を向いた。

「そうなんですか。」と、スマが面白くなさそうにしている。

隆が去ると、陵はスマの言動に、困っていた。


「ここにいると、みんな優しくしてくれます。」

「自分の居場所は、潤が見つけるものだよ。」

「戦艦グリーンにいてもいいのかな?」

「自分の居場所は、自分で創るものだよ。」

「僕が幸せになってもいいのか?」

「みんな、潤の幸せを願っていたって信じられない?」

「僕だけ、幸せになっていいのかな?」


僕は紬に抱きしめられているような感覚になった。


駿がベリーショートのコクピットに搭乗する。

ベリーショートとは整合しないことは、駿は分かっていた。


「潤は幸せになっていいんだよ。」

「僕は戦艦グリーンに居て、いいんですか?」

「ああ、潤の居場所はここにあるよ。」

「自分のことを許すには、まだ時間が必要だけど、ありがとう。」


潤は駿に抱きしめられているような感覚になった。

そして、どうして人は自分の思いを上手に伝えられないのだろうかと、駿は思っていた。


仙台に輸送機が到着する。

キングとクイーンを降ろすと、恵利が名古屋共和国に向けて出発した。

仙台シン魔術国の高橋たかはし 祐右ゆうすけが、二人を出迎える。

「わざわざ、ありがとう。高橋魔法大臣。」と、クイーンが礼を言う。

「こちらこそ、例の品物を届けて頂いて、ありがとうございます。」

クイーンが宝石を、祐右に投げ渡した。


章がスマを心配して、部屋を訪ねた。

「最近、イライラしてるけど、大丈夫か?」

スマが「イライラはしてません。」と、感情を出した。

「ほら、イライラしてるだろ?」

章がスマを見て、笑った。

「確かに。そうかもしれません。」と、スマも笑った。

スマが「美佳が、他の人と話してて、イライラしたりしますか?」と、聞いた。

章が「嫉妬することはあるかな。」と、素直に答える。

「嫉妬ですか?」

「好きだと、独占したくなるだろ。他の人が知らない一面を知りたくなったりする。逆に、自分の知らない一面があると、面白くなかったりするよな。」

「それを嫉妬と、言うんですか?」

「まあ、そうだろうな。誰かに嫉妬してるのか?」

スマは自分の感情を否定して「勘違いだと思います。」と、答えた。

「まあ、いいや。あんまり、無理しないようにな。」と言うと、章が部屋を出ていった。


大浴場をスマと里桜が利用している。

里桜がお湯に浸かっていると、スマが浴槽に入ってきた。

しばらくの沈黙。

「潤を見ていると、傷つく?」と、里桜がスマに聞く。

「どうしてですか?」

「自分と正反対だから、傷つく?」

「潤はピュアだと思います。」

「本当はスマも純粋なのに、それが許されなかったら、傷つく?」

スマが里桜を鋭い目で見る。

「僕の何を知っているんですか?」

「駿に拾われるまでのことは、僕は知ってます。」

「じゃあ、この手もこの体も汚らわしいことも。」

里桜は何も言わない。

スマが「別に好きでそうなったわけじゃないです。」と、言った。

「奇麗な事だけが、良いこととも限らないし、真っ新だったら、人間臭くないよ。」

「奇麗ごとだけじゃ、生きていけませんから。」と、里桜の言葉にスマが同意した。


博多から帰還する冴島が、真理子と奈々から報告を受けていた。

「ヒト型兵器を焼失させたとは。」

奈々が「申し訳ありません。」と、頭を下げる。

冴島が「ホワイトスターの活躍だけが、目立ったか。」と、呟いた。

「冴島さん。あの青年の正体は、何なんですか?」

真理子は、光太が只者ではないことを察していた。

「過去の経歴は、抹消済み。」と、冴島が言った。


スナック真理子に顔を出す冴島。

「今日は、来てくれると思っていました。だから、貸し切りです。」

カウンターに冴島を座らせると、酒を出した。

「心理魔法を使えるあの青年。」

「ベリーショートに干渉して、制御していたのではないかとのデータもありました。」

「ベリーショートに干渉することができる人間。そんな手品は、創造された子供しかできないな。創造された子供の生き残りは4人しかいないはず。」

「どういうことなんでしょうか。」

真理子の問いに、冴島は答えることができなかった。

「あの模擬戦の意味は何だったんでしょうか?」と、冴島に別の問題を投げる。

「ブラックナゴヤに探りを入れたかったようだ。」

「何が目的なんでしょうね?」と言うと、真理子が酒を飲んだ。

冴島は少し酒を飲むと「最近、負け戦が多くて辛い。」と、真理子に弱音を吐いた。

真理子は冴島の弱音を受け止めて、冴島の唇を塞いだ。

冴島が真理子を激しく愛し始める。

我慢していた欲情を開放するかのように、冴島が真理子を抱きしめたのだった。


深夜の戦艦グリーン。

眠れないスマが、駿の部屋の前にいた。

「どうした?」と、駿が寝るために部屋に戻ってきた。

スマは何も言わない。

「眠れないのか?」

スマが駿に近づき、駿の唇を奪う。

駿は驚いて、後ろに引く。

「おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

駿は何が起きたのか、驚いていた。


「我慢できない欲情が、僕を狂わす。」



***



読み終わった後に聞いて欲しい曲




『桜流し』宇多田ヒカル



***


作者からのお願い


「面白かった!!」


「続きが気になる!!」


「作品を応援したい!!」



ぜひ、ブックマークに追加をお願いします。

このキャラのこんなところが「好き」「嫌い」というのも、ぜひ感想をお願いします。

作品にポイントを入れて頂けると、出筆の励みになります。


皆様の応援で、この小説は成り立っております。

よろしくお願いします。


***


【作者インタビュー】

――松岡 潤を中心としたストーリー展開が苦しかったのですが、どういう気持ちで出筆したのでしょうか。


 第3章は楽しい学生生活を描いていたのに、第4章は学生生活の思い出を忘れていくという、切ない物語展開だったと思うのですが、潤の気持ちを考えると「しんどい」という気持ちしかなかったです。

 スマと隆の対局にあるのが潤だということを表現したくて、このような展開になったんだと思います。


――冴島と愛人たちの出番が多いような気がしますが。


 冴島のキャラクターは、いろいろな女性に愛されている憎い人物像だと思います。彼女らを幸せにできるのか、不幸にするのか、という意味ではキーマンだとは思います。

 名古屋共和国の出番が多いと、自然と登場回数が増える「冴島さん」には、今後も目が離せませんね。


――早々と博多魔術国が消滅した理由は?


 博多魔術国は、他の地域からすれば、夢の国のようなものです。

 その夢の国を維持するために、矛盾も抱えていて、何かが崩れると脆く壊れていく。夢は儚いものであるかのように表現しました。



――出筆で苦戦したことは?


 第5章のファイルを消去してしまい、書き直しが士気を下げて、大変でした。

 仕事の原稿も溜まっていて、ずっとWordと睨めっこしているので、文章を打つのが怖いです。イメージがわくと、スラスラと書けるのは小説も他のことも同じみたいです。お酒を飲むと、集中できるかなって思ったんですが、爆睡してました。


――アクセス数は気になりますか?


 なかなか苦戦しているので、ぜひ、ブックマークとか、お願いします。

 2週間以上、更新しなかったのが悪いんですけどね・・・


令和4年9月3日


***


◎公開予定日◎

第5章 2022年9月2日午後18時

第6章 2022年9月9日午後18時

第7章 2022年9月16日午後18時

第8章 2022年9月23日午後18時

第9章 2022年9月30日午後18時

第10章 2022年10月7日午後18時


***

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