Chapter 2: Where the Enemy Lives
「まだ落ちてもらっては困る。戦艦グリーンには。」
示度が無人ヒト型兵器の消滅地を訪れていた。
ヒト型兵器の部品は何一つ残っていない。
大地に大きな穴が開いている。
黒い土に、わずかに赤く光る砂のようなモノが混ざっていた。
「この赤い砂を回収するのだ」
「無人ヒト型兵器の投入。納得ができません。」
冴島に真理子が、詰め寄っていた。
「私も納得はしていない。」
恵利が真理子に同感した。
「人が血を流さなくなる。それでもか?」
「それでもです。」と、奈々が冴島の言葉を否定した。
北島 理恵子と南部 学図と谷山 里桜が、颯爽と現れた。
「シン東京連合より派遣された北島 理恵子です。」
「南部 学図です。」
「谷山 里桜です。」
冴島が、シン東京連合が名古屋にいるのかと、頭を抱えた。
「先日、納品された無人ヒト型兵器のデータを受け取りに参りました。」
理恵子が、冴島に断りなく映像を確認し、骨董品の存在も確認していた。
「暴走ですか。」
「すいません。どうしてシン東京連合さんが。」
我が物顔の理恵子に、真理子がイラっとした。
「無人ヒト型兵器の部品。こちらが準備したモノなので。」
理恵子が真理子に、澄ました顔をしてみせた。
「失礼ながら、動力部は博多から調達したのでしょうか。」
学図が冴島に、お見通しだといわんばかりの顔をした。
五十嵐が姿を現すと、敬意を表し、一礼をした。
「今回はお力添え頂き、感謝している。」
「五十嵐隊長。ご無沙汰しております。」と、学図が睨みをきかせた。
「ここでは穏便に事をすませたい。」
五十嵐は笑ってみせると、学図の顔が引きつった。
「疑似無限魔法炉。どのような代物なのでしょうか。」
理恵子が五十嵐に問う。
「疑似無限魔法炉は、博多の技術。我々は、詳細を知らんよ。」
「そのようですね。」と、理恵子が作業を終えた。
「葉鳥様より、一時的にこちらに手を貸したいと聞いている。」
「どうして!?」と、つい奈々が声を出した。
冴島が奈々を見て、黙らせる。
「骨董品が動き出したとなれば、その方が賢明だな。」
「こちらの目的は、排除でなく、監視となりますが。」
「ああ、構わん。そちらの事情は重々、承知しておる。」
学図は、五十嵐という老人が只者ではないと、再認識した。
「パイロットの補充の件は、そちらの差し金だろ。」
五十嵐が大笑いした。
「どのパイロットの件ですか?」
理恵子はとぼけて見せた。
「病室の天井。見飽きた。」
隆が目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
スマの声がする。
隆は期待していた声ではないと思った自分に、驚いていた。
「大丈夫だったら、こんなところにいないだろ?」
スマは彼らしい返答に、少し笑った。
「そうですね。」
しばらくの間の後に、スマが口を開いた。
「スカイブルーに搭乗すると、気持ちが良くなって、機体に呼び込まれているような感覚になることがある。さきの戦いの時、隆はベリーショートに取り込まれそうになったんじゃないかなって、僕は思った。」
「恐ろしい機体だ。油断すると、こちらの精神の中に入り込んでくる。」
「僕は忘れたい過去を呼び起こされて、駿に共有させられてしまった。」
「あの骨董品には、意志があるのか?」
「分からない。ただ、古の機体と呼ばれる、何かがそこには隠されているんだと、僕は思う。」
「思い出せないことがある。あの機体は、そう思わせる何かがある。」
隆は忘れてはならないモノを忘れている気がしていた。
そして、遙か昔に駿に近しい者に失望したような気がしていた。
連が作戦司令室で、無人ヒト型兵器の件を処理していた。
「10時間以上、作業してますよ。」と、冷が声をかけてきた。
「まだ作業が終わらないので。」
冷が隣の席に入ると、連の作業を手伝い始めた。
「無理はよくないですよ。」
「無人ヒト型兵器。第一艦隊に大きな動揺を与えているからな。」
「あんな代物を大量生産されたら、大阪は終わりますか?」
「はっきり言うな。」と、冷の潔さに、連は心地よさを感じた。
冷は無人ヒト型兵器の動力源に、疑問を抱いていた。
「動力源ですが、駿の話しによると、何者かの記憶が流れ込んできたとか、こないとか。人のエネルギーを利用した代物ということが考えられますが。」
「博多から輸送された何か。ということかな?」
連と冷の意見は一致している。
ただ、博多の情報については、不正確なものが多く、連が結論を導くことは難しかった。
「博多については、大召喚獣の件といい、今回の件といい、謎が多い。」
「私たちのことを外界と呼び、普段はこちらとの関係を絶っている。」
「絶つことができるエネルギーを保有していると言った方が、正確だろ?」
博多の内部は、変わらない穏やかな日常が流れていると、二人は聞かされていた。
その映像は、自分たちとの生活とはかけ離れていて、異世界のように思えてならなかった。
どのような手品をしたら、そのような世界を創造できるのだろうかと、人々は羨ましく思っている。
連は大召喚獣が現れる映像を、冷に見せた。
「これだけのエネルギー体を創造する博多。魔法という名が相応しい。」
「駿達が使っている魔法とは、桁が違う魔力であることは間違いない。」
「このエネルギーを打破するには、科学力では相当の資源を消費して対抗するほかない。」
「そうでしょうね。」
無人ヒト型兵器の情報をかき集めても、それが何かということまでは突き止められなかった。
駿は公園のベンチに座っていた。
名古屋の方向を見ると、悪寒が走った。
「アンラッキーですかね。」と、慎吾が現れる。
「えっと・・・」と、駿は慎吾を思い出せないでいる。
「第一艦隊の田崎 慎吾です。」
「今回は援護、ありがとうございました。」
「いえいえ・・・」と、駿の隣に座った。
今日は青空が広がっている。
雲がゆっくり風に流されていく。
風が熱さを緩ませる。
「第一艦隊のほとんどが、森ノ宮隊長、連に助けられたんです。」
「俺たち、戦艦グリーンは、生きるために集まった家族なんだ。似てるかもな。」
「家族か、いいですね。」
慎吾は今の仲間が家族なのか、血縁なる者が家族なのか、と考えてしまった。
「もともと名古屋出身なんです。大阪との衝突で、街が消滅して、今はここに。」
「自分の意志で、戦っているのか?」
「はい。連に恩返しをしたいので。」
ヒト型兵器西成が、次から次へと街を破壊していく。
隠されていたヒト型兵器が発見され、破壊されていく。
森に火が放たれる。
人の逃げ場が封じられていく。
爆弾が投下され、建物が粉々になる。
姉が僕の手を、しっかり握っている。
爆風を僕と姉を襲う。
「慎吾!!」と、姉の声がした。
僕は猫のぬいぐるみを、ギュッと抱きしめた。
微かな意識の中で、ヒト型兵器が近づいてくることを感じる。
「子どもがいるのか。」
連の若い声がする。
連と誰かが言い合いをしている。
「軍紀違反であっても、見殺しにはできません。回収します。」
少し堅い体の上に乗せられ、大阪に連れて行かれるのだった。
「僕は死んでいた人間なので。」
「大阪を憎んでも、間違えじゃない気がするけどな?」
「幼かった時は、正直、大阪を恨みました。けど、苦しみながら戦っている隊長を見て、そういう気持ちは和らいでいったって、いうか。今が大切だなって思いませんか?」
駿は慎吾の言葉に頷いた。
公園の前に、今話題の野菜ジュースの販売車が止まる。
「ラッキーラッキー。話題の野菜ジュース!!ゲットしてきます。」
慎吾は何を話しているんだろうと思い、話をそらそうと野菜ジュースを購入しに走った。
バイクに野菜ジュースを乗せ、基地に戻る難波。
「おう。これ、今話題の野菜ジュース!!飲めよ!!」
美佳と章に、野菜ジュースを差し出す。
「野菜不足は、お肌の天敵。なんてね。」
美佳が難波に笑って見せた。
「我々に気を遣うことはない。」
章は言葉とは裏腹に、野菜ジュースを勢いよく飲んでいる。
「バイクの件。ありがとな。」
難波が章に、バイクの礼を言った。
「たまたまジャンク屋で、適当に壊れたバイクがあったから、手直ししただけだ。」
「諦め欠けてたんだ。軍からは厳しく、いろいろ言われるしさ。」
難波の運転は、普段から相当に粗いらしい。
「余計なことかと思ったが、美佳が。」
「やっぱり、趣味とかは大切じゃない。分かる。すごく分かる。」
章は美佳に趣味があるのかと、、突っ込みを入れたかったが、面倒なのでやめた。
駿が示度の研究室を訪ねた。
示度の研究室には、ボルトやネジが散乱していた。
机の上には、大型コンピュータとその横に薬品が置いてあった。
「私の研究室に出向くとは、何かあったのかな?」
示度が不気味に笑う。
「手厚い支援については、御礼を申し上げる。」
「そうであろう。」
「無人ヒト型兵器。博士は関与しているんでしょうか?」
「何のことかね。」
「あえて、スカイブルーとベリーショートで応戦させた。」
しばしの間のあとに、薬品が小さく爆発する音がした。
「正解。」と、示度が応えた。
駿は示度という人物が何を考えているのか、まったく理解できないでいた。
「ベリーショートに搭乗させた理由は?」
「おまえが考えている通りじゃよ。」
示度が宝石のような赤い石のレプリカを見せた。
「ワイズストーンのレプリカ。この石には、何の力も無い。ワイズストーンの使い手である、三田 駿であればマジックストーンの象徴たるベリーショートを操れることは想像できた。スカイブルーに異物として其方が搭乗しても、起動したという情報は手に入れておったからな。」
「ワイズストーンの力を、博士は知っているんですか?」
「遙か昔の記憶が戻らぬお主には、解らないであろう。ワイズストーンは、人を楽園につれていく、そんな力があるのだ。」
「楽園?」
「地獄かもしれんがな。」と、示度が大笑いした。
「ビショップ、マジックは象徴する機体は、本来あるべき艦に戻った。今は、それで良いのじゃ。」
「無人ヒト型兵器は、ワイズストーンの力によって創造されたモノなのでは?」
「それはない。そろそろ、出払って頂く。実験が残っておるのでな。」
駿は研究室から出ると、示度の言葉を理解できたようで、理解できなかった。
冴島が櫻木 光太を迎えに、空港に出向いていた。
空港にはキララの化粧品の販促ポスターが貼られていた。
飛行機から降りると、灰色の髪のか細い青年が姿を見せた。
「櫻木 光太。ホワイトスターの試験パイロットです。」
冴島に軽く会釈をする。
「どこかでお会いした気がするのですが?」
「気のせいでしょう。」
冴島が光太を基地に招き、副隊長自ら基地を案内する。
里桜と光太がエスカレーターですれ違う。
「役割が異なる存在。」
「君は僕と同じだね。」
「シン東京連合です。驚きましたか?」
「いえ。」と、あっさりと光太が応えた。
ホワイトスターに搭乗した光太は、関ヶ原で待機をしていた。
冴島達も成田の指示を待っている。
「今回は、こちらも援護します。」
理恵子が、冴島達の後方に構えていた。
木曽川から押し返し、関ヶ原、四日市あたりまで、新都市大阪国を後退させることに成功した。
示度が関ヶ原に出向くように、第一艦隊に告げた。
戦艦グリーンは後方で待機するように、命じられた。
隆は、戦艦西成に配属され、ヒト型兵器連に搭乗した。
「こちらの戦力は、逆戻りです。」
冷が戦力不足に嘆いた。
魔法を使用することを考えると、大阪のヒト型兵器より名古屋のヒト型兵器の方が使い勝手がよく、駿はヒト型兵器きしめんに再び、搭乗するのだった。
「仕方ないだろ。」と、駿が冷に応える。
「今回は後方支援です。問題はないかと。」
スマが気休めの言葉をかけると、冷がため息をついた。
冷と美佳と章は、ブリッジでそれぞれの任に就いた。
ヒト型兵器護摩、海風、櫻が、高みの見物をしている。
「ホワイトスター。ここで導入とは。」
理恵子はイヤな予感しかしなかった。
「この機体。すっごい敏感だね。」
里桜が新型機にワクワクしている。
「模擬戦ではないが、模擬戦のようなものだな。」
学図は機体の性能を試したそうにしている。
「タイミングが合えば、彼らと遭遇できるでしょう。」
戦艦西成の主砲が発射され、戦闘が開始された。
多くのヒト型兵器が衝突し、双方ともに撃破されていく。
ヒト型兵器松風庵とヒト型兵器きしめんが衝突する。
「さっさと落ちてくれ!!」
難波が光化学ライフルで、中距離から攻撃を仕掛ける。
ヒト型兵器きしめんは、光化学シールドで攻撃を受け止め、一歩一歩、近づいていく。
難波が光化学ライフルを捨て、光化学サーベルに持ち帰ると、突進する。
「これなら!!」
真理子が「単純な動き!!回避可能。」と、左に旋回し、相手にしない。
「逃げてばかりでは!!」
恵利が「攻撃はこちらからでした。」と、中距離ライフルで狙い撃つ。
ヒト型兵器松風庵に被弾し、機体のスピードが急激に落ちていく。
「被弾したか。だが、まだいける!!」
ヒト型兵器堂島が援護に入り、恵利のきしめんに攻撃を仕掛ける。
「この距離ならば。」と、蒼太が落ち着いて、攻撃を仕掛ける。
「間合いがあれば、被害は最小限にできる、はずです。」
恵利が攻撃を受け止める覚悟をし、最小限の被弾に努めた。
難波が勢いよく、恵利のヒト型兵器きしめんにぶつかる。
「体当たりだ!!」
「そんな攻撃オプションないはず!?」
恵利が驚いて、対応できない。
体当たりの結果、ヒト型兵器松風庵にもダメージがある。
「ゼロ距離ならば。」と、光化学サーベルをヒト型兵器きしめんに狙って、振り下ろす。
「もう!!間に合わないかと思った!!」と、奈々が光化学サーベルを光化学サーベルで受け止める。
双方のエネルギーがぶつかり、はじき合う。
「ヒロインは最後に登場ってね。」
ブラックナゴヤが姿を現すと、ヒト型兵器松風庵に向けて、黒い球を投げつけた。
「どっちも使えるんだっけ?」と、魔法を使うことを、難波は再確認する。
難波は回避しきれず、直撃を受ける。
黒い爆発が、装甲を剥がし、残りのライフルを破壊した。
「大丈夫か?」と、隆がブラックナゴヤに対抗する。
「前に出すぎた、バチが当たったかな。後退する。」
難波が後退していくと、代わりに隆が前に出た。
「けっこう、苦戦しているみたいですが・・・」
駿が戦況を占っていた。
「後退にいる部隊が気になります。」
冷は彼らの心配より、新手の存在が気になっている。
「ここからでは正確ではありませんが、機体情報が得られないので、新型機かと。」
「またも新型機か・・・」
美佳が後方部隊を注視している。
「接近してみるか?」と、章が声をかける。
「冷、詮索するか?」と、陵が声をかける。
「こちらは準備できています。」
スマの声色を確認して、冷は「艦を先行させる。」と、告げた。
ヒト型兵器が戦艦グリーンにライフルを放つ。
戦艦グリーンの装甲に弾かれる光たち。
「こちらはシン東京連合。攻撃を開始する。」
理恵子が戦艦グリーンに警告を発する。
「東京が、名古屋に手を貸した。」
スカイブルーを後方に配置し、ヒト型兵器きしめんが先行する。
「装備を変えて、特攻型にしておいた。」
章が駿に得意げに言った。
「武装が吉と出るか、凶と出るか。」
ヒト型兵器櫻が駿を待ち構える。
「そこは、外れです。」
雷魔法の網が、ヒト型兵器きしめんに絡まり、電気が走る。
「網なら切れば良い。」
電磁的ナイフを装備し、網を切る。
ヒト型兵器海風が、ブルーウェーブを唱え、駿を狙う。
しかし、スカイブルーがブルーウェーブを放つと、それぞれの波がかき消し合う。
「さすが、元祖というところかな。」と、学図が余裕の笑みを見せる。
必死に網を切り放すが、駿は抜け出せずにいる。
後方から、ヒト型兵器護摩が光魔法を詠唱する。
「人々の希望、夢、未来。輝かしいモノ達よ。光となりわが力となれ。ライトニングアロー!!」
理恵子が光の矢を放つと、ヒト型兵器きしめんに向かって走って行く。
スカイブルーがヒト型兵器きしめんの前に立ち、マジックバリアを展開する。
光の矢が魔法の盾に刺さり、押し通そうとする。
「守護の神よ。私を愛する者を守り給え。マジックオーラ。」
駿がスカイブルーを思い、魔法を唱えた。
スカイブルーの周辺に、シャボン玉のような魔法の玉が現れ、七色に光る。
スカイブルーに魔法が充填され、マジックバリアの厚みが増す。
「これなら、耐えられます。」
光の矢が盾を貫けず、消滅していく。
光の矢が塵となり、空に魔力が散っていった。
ヒト型兵器きしめんが網から解放され、ヒト型兵器櫻に飛びつく。
「やられっぱなしじゃ、面白くないんでね。」
ヒト型兵器櫻の胸部に、ナイフを突き刺す。
「負けず嫌いは、相変わらずですね。」
里桜が胸部のナイフを抜き、ファイアを詠唱する。
「機体の性能差が大きすぎる。」と、ヒト型兵器きしめんを恨む。
ヒト型兵器櫻の特攻に対応できないでいる駿に、右足に炎のナイフが突き刺さる。
「魔法と物理攻撃を融合させてくるとは。」
「残念でした。」と、里桜が容赦なく、攻撃を仕掛ける。
スカイブルーは、ヒト型兵器護摩と海風の応戦で、援護できないでいる。
「機体の性能差が大きすぎるなら、切り札か。」
駿は仕方なく、攻撃の準備を始める。同時に待避の準備もしている。
「さあ、覚悟。」と、里桜がライフを頭部に突き刺す。
頭部にナイフが突き刺さる0.5秒前に、駿は機体を捨てて、離脱する。
「うっそ。そんなのありですか?」
ヒト型兵器きしめんが、すべてのエネルギーを爆発させ、ヒト型兵器櫻の装甲に、次から次へと傷を入れていく。
「手段は選ばないって、彼らしいのかもね。」
里桜は失敗したと思い、少し後悔していた。
「私たちの役割は果たしたでしょう。退きます。」
里桜が「了解。」と応えると、ヒト型兵器は後退していった。
「深追いはしません。」と、冷が防御に徹するように指示を変える。
「失礼する。スマイル・シンプル。」
スマに学図が一言残し、姿を消した。
一安心かと思っていると、ホワイトスターが姿を現した。
「こちらは、名古屋共和国所属、櫻木 光太。」
「こちらは、戦艦グリーン、スマイル・シンプル。」
ホワイトスターから魔力があふれ出し、白色に輝き始める。
スカイブルーは水色に輝き始め、二機が共鳴し始める。
「スカイブルー。第二の機体。自らの魂を封印して、制御されているのか。」
「僕に反応しない。」
スカイブルーの制御が、光太に取られていく。
「初めまして。君の精神に直接、介入している。」
「櫻木 光太。」
「聞き覚えのある音だと思わないか?」
「優しい匂いがする。」
「匂い、か。」
「少しでも僕を感じてくれたなら、嬉しいよ。」
ホワイトスターがスカイブルーから離れていく。
攻撃する意志はなさそうだった。
隆が前に出ると、慎吾のヒト型兵器松風庵も、同時に前に出る。
隆がブラックナゴヤを押さえ込む。
慎吾は奈々のヒト型兵器きしめんを押さえ込む。
「ラッキー。押さえ込めそうじゃん。」
「そう簡単にはいかないんだって。」と、奈々が勝利を確認した。
真理子と恵利が、左右から光化学サーベルで狙い刺す。
左腕と右腿あたりを突き刺すと、完全に機体が停止した。
「慎吾!!」と、蒼太の悲鳴が聞こえる。
連から「ここは後退しろ。」と、指示が出る。
「慎吾!!」と、隆が声なき声を発す。
「とにかく退け!!」と、連が命令を繰り返す。
やむを得ず、隆と蒼太が戦域から退いた。
ヒト型兵器松風庵の操縦席が開くと、頭から血を流す慎吾がいた。
猫のぬいぐるみが、震動で外に飛び出る。
奈々が猫のぬいぐるみを見て、言葉を失した。
「まさか。そんなこと!?」
奈々がヒト型兵器から飛び降りると、猫のぬいぐるみを拾った。
「これ・・・弟の。」
慎吾を見て、面影がない弟の姿に戸惑っていた。
「どうして、大阪に。」
しばらく、何も考えられない奈々がいる。
「お願い。弟を助けて!!」と、奈々が助けをもとめる。
冴島は「運命というのは、残酷なものだ。」と、つぶやいていた。
関ヶ原の戦線は、名古屋共和国の優勢で硬直する。
新都市大阪国は立て直しを図るために、大津まで後退していた。
隊長である西成が姿を現し、連を睨み付けた。
「私の留守に、失態をしてくれたな。」
「申し訳ありません。」
駿達が、彼らを横目で見ている。
「これより、私が指揮を執る。副隊長はヒト型兵器連で、出撃を願う。」
「分かりました。桧山の機体は、どのように?」
「戦艦グリーンに戻せば良い。戦艦グリーンも失態で、ヒト型兵器を失ったようだからな。」
駿は聞いていないふりをした。
奈々が慎吾を病院に運び、生還を祈る。
冴島が奈々の様子を伺い、次の戦闘に参加不能だと判断した。
「冴島さん。今更、再会するなんて。」
恵利が言葉に詰まっていた。
真理子は「肉親と再会できることは、幸せなこと。」と、心から思っていた。
ただ、奈々の姿を見ると、幸せとはかけ離れているようにも思えた。
「事の成り行きを見守るしか、ないだろ。」
冴島は慎吾の今後について、最善が何かと考えていた。
里桜が光太を訪ねてきた。
「こうして話すのは、初めてですね。」
里桜が軽く会釈した。
「そうだね。」
光太も軽く会釈した。
里桜が「もう彼にはあった?」と、聞いた。
「いいや。ただ、懐かしい顔を見たよ。」
自分たちの運命を知る二人は、自然に気が合った。
駿と隆は、琵琶湖を眺められるコテージにいた。
コテージは軍が借り上げ、休憩用として使われている。
隆は慎吾の無事を願っていた。
駿はヒト型兵器を消失した責任を感じていた。
「今回の作戦は失敗だったな。」
駿が反省の言葉を吐き出すと、隆はなんとなく頷いた。
「どうしたらよかったか。ということは分からない。ただ、力が無ければ負けるということだ。知ってはいるが、堪える。」
「戦いが始まれば、自分のことが一番だ。隆は悪くないよ。」
「弱いということが、悪だ。」
力だけが正義なのか、駿は隆とは違う意見ではあった。
ただ、自分を責めて、納得したい気持ちは、駿には理解できた。
陵は遠くから二人を見守ると「大丈夫だといいんだが・・・」と、言葉を漏らしてしまった。
スマが琵琶湖を歩いていると、不思議な青年がこちらに近づいてきた。
スマは匂いで、ホワイトスターのパイロットだと感じた。
敵意がない青年を、スマは受け入れていた。
「ホワイトスターのパイロット。」
「君はスカイブルーのパイロット。」
二人はゆっくりと歩き始める。
「僕は君を知っているような気持ちになる。」
「それは間違えでないし、正しくもない。」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。」
光太がスマに微笑みかける。
水が押したり引いたりするのを、二人は見つけている。
「僕を攻撃しなかった理由は?」
「攻撃しないといけない理由があるのかい?」
「僕は敵ですよ?」
「敵と定めたのは国、軍。」
「君は軍人ではないの?」
「名古屋共和国の櫻木 光太です。」
「君は軍人で、僕らを攻撃しろと命じられている。だから、君の敵は。」
「光太でいいよ。僕は、スマと呼ばせてもらう。」
「光太の敵は、僕だ。」
「人間は、どうしてすぐに敵を創造したがるんだい?」
光太が水に足をつけ「水の色が真っ白なのか。」と、呟いた。
「自分を攻撃するものは、敵です。」
「じゃあ、敵であったら、スマと僕は、こうやって話すことも許されないのかな?」
「分かりません。」
スマは光太になぜか、安らぎを覚えていた。
「青年が、スマに近づいた。」
学図が理恵子に報告をしている。
「異変があったら、すぐに連絡するように。」
理恵子は学図の報告を聞き、やはり接近するのかと思っていた。
里桜が散歩をしていると、真理子とすれ違った。
「シン東京連合の谷山 里桜。」
「第一艦隊の須那さん。」
「真理子さんって、呼んで頂けますか?」
「真理子さん。少し付き合いませんか?」
「ちょうど、飲みたいと思っていたから、行きましょう。」
後のことを考えず、居酒屋に入る。
「へいよ。軍人さんかな。旨い酒おいてあるよ。」
真理子が「伝説の日本酒、関ヶ原。ため息が出るぐらい高いはず。」と、目を輝かせる。
里桜がラベルなどをじっくり見て「本物です。」と、太鼓判を押した。
「今日は、やけ酒です。」と、お高い日本酒を注文する。
「さすが、軍人さんは格好いいね。」
お猪口が二つ差し出される。
透き通って、すごい丸みのある酒だった。
「これは、おまけだ。」と、スルメイカを出した。
二人は「乾杯!」と、お猪口を軽く合わせた。
「やってられませんよ。」と、先に酒が回ったのは里桜だった。
「どうしたの?」
「いつもいつも、理恵子と学図と行動が一緒で、僕がお邪魔みたいじゃないですか。」
「お邪魔だと思われてるんですか。可哀想に。」
「ああ、お邪魔とか、あり得ない。」
里桜が頭をかいて、心のモヤモヤを表現する。
「一緒にいられることが幸せなのか。思っているだけが幸せなのか。人間って、本当に我が儘な生き物。」
「会えない人でもいるの?」
「奈々の事よ。」と、真理子が日本酒を口に多く含んだ。
「会えた方が幸せだと思います。お互いを確認できるから。」
里桜は、自分の運命を呪っていた。
慎吾の病室で泊まり込みの看病をした奈々が、朝日で目を覚ます。
「いつの間に、寝ちゃったんだろう。」
慎吾の様態は安定したものの、意識は戻らないでいた。
「やっと再会できても、話すことができないなんて。」
花を持った冴島が、奈々を訪ねた。
「ありがとうございます。」と、冴島に礼を言う。
「彼が目を覚ました場合、捕虜として・・・」
冴島の言葉をかき消すように「分かっています。」と、奈々が声を上げた。
「ずいぶん前に、死に別れたと思っていたんです。」
「君の故郷のことは、私も知っている。」
「そうですよね。それから、冴島さんに会うまで、いろいろあったんです。」
「それも知ってる。」
「冴島さんには、感謝しても仕切れない。けど、慎吾のことも諦められない。」
冴島が奈々の背中に手を置いた。
「それで問題ない。」
奈々が涙を一滴に流した。
「けど、私は軍人です。」
「それ以上、言葉を発するな。」
冴島の胸に奈々は飛び込み、涙を流すのだった。
その様子を恵利が遠くから見て、その場所を離れるのだった。
理恵子の気配を感じ、光太が振り返る。
「さすが、北島 理恵子。」
理恵子が光太の前に姿を現す。
「ずいぶん前から、気がついていたのかしら?」
「ええ。南部 学図をよこしていたことも、わかっている。」
「さすが、光太ということなのかしら。」
理恵子は光太の能力に諦めを覚えた。
光太が待っていたのは、谷山 里桜だった。
「里桜。そういうことなのね。」
「改めて、初めまして。櫻木 光太です。」
「僕は谷山 里桜です。」
「二日酔いですか?」と、光太が里桜を気遣う。
「二日酔いです。」
理恵子が呆れた顔で、里桜を見た。
理恵子が一瞬、目をそらすと、二人は霧のごとく消失していた。
「レッドスターは、未だ封印された状況。」
「東京の地下に幽閉してあります。」
「駿はレッドスターを感じているようだが。」
「レッドスターはファーストソードにより、完全に封印されています。」
里桜が見た映像が、光太に共有された。
「ファーストソード。世界の始まりのとき、創造された魔力封じの代物。」
光太は見覚えない形状の剣に、不思議な顔をした。
「僕たちの運命は、仕組まれたモノです。時が来るまで、幸福を得たいと思います。」
里桜が光太に笑って見せた。
「君にとっての幸福は、他人に認められること、なのかな?」
「そうかもしれません。また、お話ししましょう。」
「ありがとう。」と、優しい声で里桜を包み込んだ。
連と冷が、情報整理を行っていた。
「今回の作戦は、私のミスだったと思う。」
連が作戦の失敗点をまとめている。
「失敗だったかは、結果論です。」
冷が駿の行動を責めないのは、結果的に失敗に終わったに過ぎないからだった。
「信用しているんですね、彼を。」
「ええ・・・」
連は嫉妬心を抑えていた。
「戦艦グリーンが先行して、主砲を発射します。」
「ありがとう。今回は、西成隊長が自ら指揮をとる。」
「そうでしたね。」
冷は何も言わず、戦艦グリーンの作戦を考えている。
「戦艦グリーンと軍人の違いは、こういうときに出るんだな。」
「どちらが良い成果を出すかは、これも結果論です。」
「他人に責められて成長する場合もあれば、他人に思われて成長することもあるのかもしれない。」
冷は連の言葉にしなかった『羨ましい』という言葉が聞こえた気がした。
難波が他の兵士ともめ事を起こしている。
バイクをロックされ、利用不能にされていることに腹を立てているようだ。
「あんまり、騒ぐなよ。」と、章が難波を引き留める。
「今すぐ、慎吾を助けに行く。」
「それは、命令違反です。」と、兵士が声を張り上げた。
「ああ、細かいことは考えたくないんだよ。俺は。」
美佳が「子どもじゃないんだから!!」と、難波をなだめる。
それでも難波は、バイクを奪おうと試みている。
美佳が「ごめん!!」というと、雷の頬を平手打ちした。
「痛い。」と、章が言葉を漏らした。
「何するんだ!!」
「慎吾を助けたいなら、まずは状況をしっかり受け止めなさい。」
難波が我に返ると、コテージに戻ろうとした。
章と美佳も、難波が気にかかり、コテージに入る。
「後退したものの、撤退せずにいる。すぐに次の作戦となる。」
章が冷静に雷に説明を始める。
「悪い。頭では理解してた。けど、我慢できなかった。」
「ただ、突っ込めば良いってわけじゃない。」
美佳が「私なんて、何も考えず突っ込んだら、階段を踏み外して落ちちゃってね。」と、大笑いして見せた。
「俺らは、雷が慎吾のような事態になってほしくないと思っていることは、分かってくれ。」
「ありがとう。落ち着いた。」
難波が章と握手した。
ベリーショートの前に立つ光太がいた。
駿がベリーショートに謝っているように見えた。
「初めまして。櫻木 光太です。」
駿が光太に銃を向けた。
しかし、発砲することはできない気がした。
「私は、三田 駿。ホワイトスターのパイロットがどうやって、ここに。」
光太が服を脱ぐと、ベリーショートに乗り込んだ。
「何をするつもりだ。」
「駿。君に付き合って欲しい。」
駿はなぜか、光太の言われるまま、ベリーショートに乗り込んでいた。
「君は誰だ?」
「僕は光太。光太と呼んで欲しい。」
「光太。遙か昔に、共に戦った名前。」
「僕は君で。君は僕だ。」
「何を言っているんだ。」
冷と蒼太が、ベリーショートが起動したことに気がつく。
「隆の所在は?」と、蒼太が兵に確認を促すと、別の場所であることが分かる。
「整合率60%。どういうこと?」
「ベリーショートとの整合率60。それは僕と君が同じ存在だから。」
「何を言っているんだ。」
「終わらないワルツのように、時が繰り返されるのか。」
スマが光太と台場にいる。
ホテルで時間をともに過ごしている。
兄との距離感に戸惑い悩みを打ち明ける。
「自分だけの存在が欲しい。そう思ってしまったんだ。」
スマの気持ちに、兄は他の親族との関係を考え距離を置く。
スマの居場所がなくなり、スマは兄と同じ匂いがする光太をもとめた。
「これが遙か昔の物語。気がついていたんだろう。」
「スマイル・シンプル。俺の弟だ。」
「同じ過程を経て、創造されたモノ。僕らと同じく。」
「これは、ベリーショートの記憶なのか?」
光太がベリーショートを降りると、何事もなかったかのように機体が静止した。
先ほどまでの物々しい音はなくなり、物音ひとつしていない。
兵士がベリーショートに近づき、話し声が聞こえる。
「光太。君は・・・」
「時が来れば、会えるさ。」
BLTサンドを頬張る理恵子。
「朝飯には、BLTサンドと相場が決まっているのよ。」
「決まっていないと思いますよ。」
里桜がいつもの光景に、何も反応しない。
「里桜も食べる?」
「毎日、毎日、見てるから、大丈夫。」
学図は「BLTサンドが好きなんじゃなくて。BLが好きなんだろ?」と、突っ込む。
理恵子が「YES」と返事を返した。
「あの頃は、子供のようだった。」
学図が人工知能とパソコンで、何かの計算をしている。
「博多が動く可能性、高いな。」
学図が状況を正確に理恵子に伝えている。
「そうね。このデータが本当であれば、博多が動く可能性は高い。」
「キングとクイーンを抑えれば、博多は問題ない。」
BLTサンドを片手に、理恵子は仕事を熟す。
「理恵子。あの・・・」
「里桜。後にして・・・」
里桜に何度もかけられたセリフだった。
「あの青年と僕は同じだ。僕も独りで行動してもいいはずだ。」
冴島が整備状況を確認し、戦艦天守閣を発進させた。
冴島の手配で、慎吾は艦の医療室で治療を継続することとなった。
「人質とかではありませんよね?」
恵利があり得ないと思いながらも、念のために、冴島に質問した。
「恵利さん。」
「失礼しました。」と、恵利が間を置かずに謝った。
真理子が出撃の準備を始める。
「真理子さん。まだ早い。」
「どういうことですか?」
「ヒト型兵器の出番は、少し待ってもらう。」
新都市大阪国に近づく戦艦天守閣。
設置された砲台を破壊しながら、前進を続ける。
「大津が射程に入ったら、主砲を打つ。」
戦艦天守閣とその他の戦艦を確認した戦艦西成が、接近を始める。
「目標、ヒト型兵器を展開。」
「こちらは艦の後方に配置。」
真理子と奈々と恵利も、ヒト型兵器で位置に着いた。
「出撃できる状態なの?」と、恵利が奈々を見る。
「何もしてないと、余計な事ばかり考えてしまうから、戦っていた方が楽。」
その言葉を聞いて、更に不安を抱く真理子と恵利だった。
戦艦西成が目標地点に到着すると、勢いよく主砲が発射される。
主砲が発射されると、数秒もしないうちに楯を現れ、エネルギーを弾き飛ばそうと大きな軋む音がする。
「こちらの作戦は予定の内ということか。」
冴島がブラックナゴヤに向かう。
西成の予想が的中し、用意していた楯が役に立つ。
戦艦西成が主砲を構えると、同じ道を走るように、攻撃を仕掛けた。
「主砲、撃て!!」
一直線に光が走ると、その行き先にホワイトスターが現れ、マジックシールドを展開した。
科学と魔法の力が競い合う。
「戦艦天守閣。退場させてはならない存在。守るしかない。」
「可能な限り、主砲にエネルギーを集中させろ。良いな。」
艦内の電灯がついたり消えたりを繰り返す。
マジックシールドに大きなヒビが入ると、崩れ落ちた。
ホワイトスターが衝撃に備えると、主砲が機体に直撃する。
「損傷は軽微。これが今の科学の力ということか。」
蒼太がヒト型兵器堂島で、ホワイトスターを迎え撃つ。
ヒト型兵器連が、小型のマシーンを展開し、ホワイトスターに攻撃を仕掛ける。
「ホワイトスター。ここは退いてもらおう。」
ヒト型兵器連が、両手に光化学サーベルを構えると、ホワイトスターに詰め寄る。
ホワイトスターは華麗に空を舞い、サーベルを避ける。
しかし、小型のマシーンから熱線が発せられ、ホワイトスターを傷つける。
「損傷は軽微。作戦続行に問題はない。」
「機動性が段違いということは、理解はしていたが。」
ホワイトスターの攻撃に備え、楯を構える。
ヒト型兵器松風庵が、光化学サーベルで攻撃する。
「ナイス。副隊長!!これならイケる!!」
難波が光太の隙を突き、ホワイトスターの左足首あたりに、光化学サーベルを当てる。
「油断できませんね。風よ巻き上がれ、ウィンドボム!!」
ヒト型兵器松風庵を後退させ、態勢を整える。
「雷の特攻でも、捉え切れないのか。」
戦艦グリーンが機関砲を打ち、ホワイトスターを引き付ける。
「ここは僕に任せてください。」
スマが連に指示を出す。
「了解した。申し訳ない。」
連と隆と蒼太と難波は、後方の戦艦天守閣に向かう。
ホワイトスターは、彼らを無視している。
ベリーショートがホワイトスターの前に立つ。
「おまえは、ただ戦況を混乱させているだけだ。」
隆が光太の戦に対する態度に怒りを覚えた。
「ブルーウェーブ!!」
スマが容赦なく、ホワイトスターに攻撃を仕掛ける。
「君の癖は、よく理解しているよ。」
「光太。僕は君と戦いたくない。」
公太が首を横に振り、ライトニングボムで応戦する。
スマがマジックシールドを展開し、魔法を弾き返す。
「スマ。君が言った通り、僕は軍人。定められた敵を、命じられたとおり仕留めるモノ。まるで機械のようだ。」
ベリーショートがホワイトスターに接近すると、ベリーショートが白く光を放つ。
「これは何だ?」
光太が隆に「本来、ベリーショートは君ともう一人の君のために用意された機体。その魂が、ワイズストーンを受け入れている間は、僕の存在も受け入れることになる。」と、応えた。
「迷い事を!!」
ベリーショートを動かそうと、隆が動き回る。
しかし、隆の思いは通じず、ベリーショートが停止していく。
「隆。光太の干渉を受けている間は、起動しない。」
駿が目を瞑り、ベリーショートの制御を奪おうとするが、その素手を知らない。
「整合率は30を超えています。」と、美佳がベリーショートの状態を確認する。
章が機関砲をホワイトスターに標準を合わせ「落ちはしないが。」と、攻撃をする。
スカイブルーが、ホワイトスターを捉えると「ファイアーアロー!!」を唱え、襲い掛かる。
ホワイトスターに直撃し、炎が機体を包み込んだ。
光太が「アイスボム!!」を唱えると、炎を打ち消す。
「スマ。定められたモノと戦う仕組みを、君はどう思っているんだい?」
「スマ!!」と、駿が声を上げる。
僕の運命。
たくさんのヒトに玩具にされた。
大人に定められたコトを行った。
何度も嫌になって、逃げたいと思った。
けど、そういうことにも慣れた。
目を瞑ってしまえば、身体の感覚だけが襲ってくる。
撫でられることで、身体が気持ちよさを覚えた。
最初は、その快楽に身を委ねた。
けど、次第に憎悪が強くなった。
「定められたモノを受け入れる仕組みは、罪だ。」
君の運命。
遥か昔、君と僕は出会っていた。
そして、君は僕のもとを去り、存在を消滅させた。
「君は、僕と同じだ。」
「君は僕を受け入れてくれないんだね。」
光太が悲しい目をして、目線を重ねる。
「僕はまだ、運命にあらがう。」
ホワイトスターの光が弱くなっていく。
「分かった。僕も運命に逆らってみるよ。」
ブラックナゴヤとヒト型兵器連が交戦をしている。
ヒト型兵器きしめんとヒト型兵器松風庵が激しく衝突している。
難波が「慎吾を還せ!!」と叫ぶ。
奈々は「弟は私が守る!!」と、超電磁ナイフを装う。
光化学サーベルと超電磁ナイフがぶつかり、弾き遭う。
「俺たちの仲間を還せ!!」
難波が武器の射程の長さを生かし、ヒト型兵器きしめんの肩を切り込む。
モノがすれる嫌な音がする。
奈々は超電磁ナイフを、ヒト型兵器松風庵の胸部に差し込む。
装甲が固く、浅くしか刺さらない。
「弟はわたさない!!」
難波が「弟!?」という単語に驚き、後退する。
連が「何をしている。」と、難波に攻撃のチャンスだと伝える。
「あいつ。身内がいたのか。」
難波が手を止めると、奈々が光化学ライフルで狙い撃ちにする。
「今なら、当てられる。」
「攻撃により、機体が中破。作戦継続可能だが。」
連が「一度、退いてくれ。」と、難波に後退を命じられる。
「面倒だ。西成の本当の力、見るがよい。ハイメガ光化学砲、発射!!」
戦艦西成から周囲を焼き切るエネルギーが発射されると、爆音が鳴り、爆風が襲った。
「部隊の三割が消失させられた。残存部隊は戦域を撤退する。以上だ。」
大津から守山までの直線が、固定物が蒸発してなくなっている。
隆と蒼太が、湖畔を歩く。
灰色となった土を、蒼太が拾い上げる。
「ガレージも消失、か。」
蒼太が戦いの後の虚しさを感じる。
「俺たちが通り過ぎた後は、何もなくなるな。」
「何もは、間違えかと。」
隆が「守ったモノもあるか。」と、言葉を付け加えた。
守られたモノと守られなかったモノに行く末の違いを、二人は実感していた。
名古屋に帰還する戦艦天守閣を待つ理恵子。
冴島が艦から降りると、理恵子が直ぐに近づいた。
「私たちは、東京に帰還させて頂きます。」
「上には伝えておく。」
理恵子は、冴島の疲れた顔を見て「お疲れのようですね。」と、気を使ってみせた。
「お気になさらずに。」
冴島の言葉を聞いて、恵利は彼が相当、疲れていることを察した。
恵利がエナジードリンクを片手に、冴島に差し出す。
「冴島さん。どうぞ。」
恵利は入れ違うように、理恵子は姿を消した。
「ありがとう。」と、冴島が素直に缶を受け取る。
冴島が缶を開けて、エナジードリンクをごくごく飲みほした。
「多くの犠牲を出してしまった。」
「そうですね。」
「最善の策ではあったが。」
「山岳部に囲まれた地形でしたから、道は限られていました。それは先方の方が熟知していたはずです。やむを得ないことです。」
恵利が冴島の背中を摩る。
「責任を感じる必要はありません。」
「ありがとう。」
奈々が慎吾の病室にいる。
名古屋に到着すると、慎吾は軍専用病棟で特別待遇を受ける。
一滴、一滴、ゆっくりと落ちる雫が、時間の流れを遅く感じさせる。
「失礼します。」と、人気がない病室に入る。
奈々は何も言わずに、里桜を受け入れた。
「慎吾のこと。私、あきらめていたんだ。けど、こうやった時間を共に過ごすと、子供のころの思い出が湧き上がってくる。」
「楽しかった時の思い出は、特別だよね。」
「正直、慎吾は覚えてないと思う。目を覚ましたら、私のことを敵だと思って、攻撃してくるかもしれない。それで私が死んでも、慎吾には生きてほしい。」
病室の機械音が響く。
「里桜は思い出とかある?」
里桜は学生時代の演劇部で過した青春の日々を思い出した。
「演劇部の時の思い出は、ずっと大切です。けど、その思い出で胸が苦しいこともあります。」
「それって、恋の話?」
「そういう話だったら、嬉しかったです。」
奈々は里桜に何かを伝えようと、言葉を探していた。
「後悔はしないで。私みたいに。」
里桜は病室を後にすると、ヒト型兵器桜に乗り込み、何処かに旅立っていった。
奈々が抑えられない気持ちになり、冴島を訪ねた。
「冴島さん。迷惑をかけて、すいません。」
「気にすることない。」
冴島が部屋に入るように促す。
奈々が冷蔵庫にあるアイスコーヒーを出して、ゆっくりと飲み始めた。
「大阪に、慎吾の仲間がいて、彼らと戦っているのが私で。」
「与えられた敵を倒すのが、戦争だからな。」
奈々が声をからしながら「慎吾に恨まれることも怖い。けど、戦わないことも怖い。」と、涙を流した。冴島は奈々の頭を撫でる。
「軍人をやめることが怖いのか?」
「冴島さんに出会うまで、ずっと一人だった。戦うことが絆なんです。」
「絆?」
「戦うことで、みんなと繋がっていられる。もし、戦わなかったら、一人に逆戻りになる。だから、怖いんです。」
奈々は、自分の存在価値が軍人として自分であると、確証していた。
冴島も、奈々の戦闘能力の高さは評価していた。
「弱いところがあっても、私は好きだ。」
奈々が冴島の胸の中に飛び込む。
生きているということを、人の温もりで確認している。
慎吾にも同じ温もりが残っていた。
冴島と同じで生きているんだと、冴島を感じることが確認した。
冴島の優しい手が、奈々の冷たい心を温めていった。
手を握り合う。
目を合わせる。
身体を重ねる。
冴島と一つになることで、慎吾と少し距離がとれるような感覚があった。
「私、ずるいですよね。」
「自分を維持するために、必要なことだろ?」
冴島が激しく唇を奪う。
その激しさで、奈々は安堵を覚え、わずかな休息の時間を過ごしたのだった。
恵利は慎吾の病室に花を束ねに来た。
「そういうところが、私は嫌い。」
恵利は、奈々が冴島に逃げ込んだと思って、嫌な気持ちになった。
「男に逃げるなんて・・・」
スナック真理子が数日ぶりに開店する。
兵士たちが花をもって、真理子を訪ねている。
常連客がいつも以上に酒に飲まれている。
真理子が心配になって、常連客に近づく。
「たくさん飲んでくれて、ありがとう。」
真理子がほほ笑むと、常連客はホッとした顔をした。
「飲んで忘れているんだ。」
「何を?」
「子供が、今回の件で怪我をして。」
「命は?」
「命に別状はなかった。けど、片足を無くして、本人がショックで立ち直れるのか。」
「大変な時に、ありがとう。」
真理子が一杯のビールを次いで、常連客にごちそうした。
「私の身近にも、意識が戻らない親族がいて、なんて声をかけていいか分からなくなることがあるのよ。だらしないでしょ?」
「普段の空間が、そういうことから解放してくれる。だから、気にかけすぎてはだめだよ。」
奈々に声をかける兵が減っていたような気がした。
気を使っていることが、かえって、奈々を追い込んでしまうこともあるのかと、真理子は奈々に対する態度を改めようと思った。
光太と真理子が、基地のエレベーターを共にする。
しばらくの沈黙のあと、真理子がたまらなくなり、職業病なのか、声をかけた。
「先の戦いでは」
「須那 真理子。冴島 唐次郎の愛人の一人。スナック真理子を経営する。」
真理子の言葉を遮って、光太が話し始めた。
「副隊長を独占しようともしない。それがこの時代では愛というのか。」
「余計なお節介。」
「副隊長の心が、今は田崎 奈々(たざき なな)にあること。何も感じないのかい?」
真理子は言葉に詰まった。
「僕の知っている愛は、素直さゆえに、他人を傷つけるモノだったが。」
「他人を傷つけてまで、私は愛される資格がない。」
「この時代では、愛に資格が必要なのかい?」
エレベーターを止めると、真理子が降りた。
「嫉妬しない女はいないわ。」
エレベーターのドアが閉まった。
次にドアが開くと、冴島のいる副隊長の部屋の前だった。
光太がドアを叩く。
「どうぞ。」と、冴島が光太を部屋に招く。
冴島がいつもの手順で、珈琲を入れた。
ソファーに座るように、光太を導くと、床に落ちた女性の髪を拾った。
「女性を連れ込んでいることに、幻滅したかな?」
光太は冴島がさみしい人だと思い、笑った。
「いえ。」
「ホワイトスターのパイロット。どのように選抜されたのか、過去の経歴、すべて抹消されている。君は何者なのかな?」
「ブラックナゴヤとホワイトスターは、同じ機体の後継機。そのことを知る副隊長であれば、私の正体も想像がつくのでは?」
「それもそうか。」
光太は残りの珈琲を、ゆっくりと啜っていた。
冴島が光太は、最後は多くの人から愛される存在ではないか、と思えた。
「既に、スマイル・シンプルと接触し、里桜と接触し、ずいぶんと計画より早いのでは?」
「全ては流れのままに。」
光太は冴島が『計画』という言葉を発したことに、警戒をした。
「一つ、頼まれごとをしてもらえないだろうか。」
「ええ。私も同じことを考えていました。ブラックナゴヤとの模擬戦をお願いしたい。」
模擬演習場には、多くの兵が集まっていた。
ゲストとして菊川キララの姿があった。
「皆さん。平和のためにありがとうございます。本日の模擬戦。私も観覧させて頂きたいと思います。我が国の力。この目で確認しましょう。そして、私たちの平穏な毎日への不安を拭いましょう。」
兵士たちが歓声をあげる。
映像が流され、目をキラキラして、模擬戦を楽しみにする子供たちの姿がある。
真理子と恵利は会場入りしていた。
「こんなこと。今は力を蓄えるべきです。」
恵利が今からでも模擬戦をやめるようにと、言わんばかりだった。
「あの青年とは、どうも馬が合わなさそうでな。」
真理子が頷きながら「同感です。」と、言った。
「冴島さんらしくないです。私情を入れるなんて。」
恵利が呆れていた。
「これは、どうも。」と、光太が挨拶をした。
冴島と真理子が鋭い目で、光太を見る。
「今日はよろしくお願いします。」
ブラックナゴヤの前で、冴島が話しかける。
「おまえの力は、こんなものじゃないはずだ。」
戻る言葉はない。
機械に話しかけているのだから、当然の結果だった。
「私としたことが。バカだな。」
ナレーターが「さあ、始まります。本日のメインイベント。ブラックナゴヤとホワイトスターの戦い。」と、実況を入れる。
演習場に、先にブラックナゴヤが姿を現した。
人々の歓声が上がる。
次いで現れたのは、ホワイトスターだった。
見慣れない機体に、人々は困惑していた。
戦いとはいきなり始まるモノだった。
ナレーターが「レディ・ゴー!!」と、掛け声をかけると、真剣勝負が始まった。
ホワイトスターが後退して、攻撃に備えている。
「ブラックナゴヤからは、スカイブルーのようなものが感じられない。」
光太が考え込んでいる。
「時間をかける必要もない。」と、ブラックナゴヤを突撃する。
冴島が黒魔法を銅剣に宿すと、黒光りした剣が創造された。
「これでおしまいだ。」
光太が自らの魔力を爆発させ、光魔法で壁を創造する。
「押し切れないのか。」
「ブラックナゴヤには、反応しないのか。」
強引にホワイトスターが、ブラックナゴヤの両手を押す。
手と手が重なると「遊んでいるのか!?」と、冴島が怒鳴った。
光太が心理魔法を詠唱すると、冴島の心に接触しようとする。
「多くの女性を率いるのは、死んだ妻が原因ということ。やはり、ヒトは過去にとらわれて生きていく生命体なのか。」
「勝手に人の心を覗くな!!」
激しい戦闘を期待していた民衆は、静止した戦いに何が起きているのか、戸惑っていた。
冴島が激しく体を動かし、抵抗していると、内ポケットの懐中時計が落ちていく。
冴島が懐中時計を見て、本気になったのか、ホワイトスターを突き飛ばす。
「人を導くモノの力か・・・」
ホワイトスターが銅剣を構えると、光魔法を宿した。
「決闘とは、この時代にはふさわしくなかったかもしれないな。」
冴島が魔力を今一度、銅剣に宿した。
剣と剣が幾度とぶつかり、はじかれる。
そのたびに、民衆は歓喜の声をあげる。
「そういうことか。」と、光太が納得すると、ホワイトスターが剣を大きく振るった。
「魔力が落ちない。まさか・・・」
ホワイトスターがブラックナゴヤの剣を弾き飛ばした。
ナレーターが「勝負あり」と、終わりを告げる。
民衆は冴島が負けた事実を受け入れられず、映像をただ見ていた。
戦艦グリーンが大阪に帰還すると、基地は慌ただしく動いていた。
駿は戻るとすぐに、示度に呼ばれ、姿を消した。
連が作戦司令室にいると、冷が隣に座った。
二人が作業するのは、もはや定番となっていた。
「被害の程度は、甚大。復興費用が計り知れません。」
「無人ヒト型兵器の爆心地、十津川村周辺の処理はどうするのですか?」
「そっちは20年、封鎖らしい。」
冷がどちらの映像も、再確認している。
「示度博士。どうして、現場を確認したかったのか。何かあったんですか?」
「私には、博士の行動はよく分からないな。」
連が軍服の胸ポケットから、トゥーリングを取り出した。
「いつも手伝って頂いている御礼。これなら目立たなくて良いかなと。」
冷が連からトゥーリングを受け取ると「小さくて、カワイイ。」と言葉を漏らした。
連は冷の少し笑った顔を見て、うれしかった。
冷が「ありがとう。」と、御礼を告げる。
そのとき、大きな音がすると、連と冷がコンピュータのアクセスを絶たれた。
「自分のアクセス権限を絶てるのは、西成隊長と示度博士しかいない。」
「だとすれば、西成隊長と考えるのが妥当だと思います。」
連は「とりあえず、戦艦グリーンに戻ろう。」と、冷を連れて、戦艦グリーンに向かった。
示度の研究室に、駿が現れた。
「ご苦労であった。だが、ずいぶんと嫌われたモノだな。」
西成がスマと光太が接近している静止画を証拠として、問題とする。
「要人としてかくまって頂いたことは、感謝しております。」
駿が頭を下げる。
「私の計画では、今しばらく、滞在させる予定であったのが、致し方ない。」
示度が研究室の奥に進む。
「新たな力を授ける。プロトスターだ。」
駿が「こんなものを頂くわけには。」と、言葉を返す。
「西成が牙を抜くのには、時間がかからない。さっさと、奪い取って行きなさい。」
示度が大笑いした。
確かに、強奪されたとなれば、示度の責任は軽くなる。
余裕がない駿は断ることができず、その行為を受けるしかなかった。
「博多に行くと良い。」
「博多に?」
「行けば分かる。」
駿がプロトスターに乗り込むと、示度の研究室の天井を抜き落とした。
「示度博士の研究室が、破壊された?」
美佳が驚いて、体が静止した。
「戦艦グリーンにメリットがない。つまり、仕組まれたことだ。」
難波が冷静に状況を分析する。
「やっと帰還できたと思ったのに。」
「西成隊長の動きが怪しかった。戦艦グリーンを敵視していた。」
「それなら、こんなことしたら、雷が危ない。」
バイクの速度が上がる。
目の前には、下級兵が道を塞ぐ準備をしているように見えた。
「明日は敵になるかもしれないが、今は、そうじゃない。戦った仲だろ?」
「私たち、お互いに知りすぎてしまったのかもしれない。出会えたことは嬉しかった。けど、戦わないといけないとすれば、私は辛い。」
「俺も辛いさ。」
後ろから銃声がする。
「あと少しの辛抱だ。」
美佳は「ごめんなさい。」と、難波に言葉をかけた。
連がバイクを見つけると、難波に手を振った。
「連も気がついたのか。」
難波が冷の側に、バイクを止めた。
「ここからは私たちだけで、もうすぐ陵が到着します。」
冷が難波に頭を下げた。
「連。大丈夫なのか。昇級にひびくぞ。」
「私は、昇級には興味は無い。」
「エリート軍人かと思ってたぞ。俺は。」
美佳は二人を見て笑った。冷もそれにつられて笑った。
「給料上がったら、手伝いの御礼に、美味しいモノをご馳走になります。」
「大阪で美味しいモノ、あんまり食べられなかったな。」
美佳は食い物の恨みを溢した。
陵が軍用車で、二人を迎えに来る。
「今まで、ありがとうございました。」
冷が連に礼を言うと「また、どこかで」と、返事をした。
隆の部屋の前に、複数の兵士が物騒な装備をしている。
一名の兵士がドアを叩くと、反応がない。
「入るぞ!!」
ドアを蹴飛ばして、兵士達が部屋に入り込む。
「捕まえるのだ!!」
隆の部屋の映像を、隆は蒼太の部屋で見ていた。
「当たって欲しくないことは、よく当たる。」
「悪い。」
「隆は悪くない。ここも時間の問題だ。」
「悪い。」
「謝ることはない。隆は何もしていない。」
「俺に力があれば。」
「ベリーショートという力が、今の不幸を呼んでいる。」
「それ以上の力が・・・」
蒼太が隆をジッと見た。
「自分の居場所。次はきちんと見つけろよ。」
「ありがとう。」
「敵になっても、心配してるから。」
「なんだよ、それ。」
隆が蒼太の部屋を走り去り、戦艦グリーンに向かった。
戦艦西成が発信準備を始めている。
「第一艦隊が不在であっても、私だけで十分対応できる。ヒト型兵器の出撃準備を。量産機でかまわん。」
西成が達の助けを求めず、戦艦グリーンに挑もうとする。
「ヒト型兵器アキンドを発進させました。」
「示度博士の研究室から、ヒト型兵器が発進。研究室は大破との報告。」
西成が茶番劇であると笑って、さらにヒト型兵器を発進させる。
戦艦グリーンでは、陵が冷達を軍用車で回収し、帰還していた。
「章が戻るまで、時間稼ぎ。お願い。」
スマは既にスカイブルーに乗り込んでいる。
「僕は準備できています。」
「発進、お願いします。」
冷が作戦指揮をとる。
ヒト型兵器アキンドが、戦艦グリーンを囲むように配置されていく。
無数の銃口が戦艦グリーンに向けられる。
「お待たせ!!」と、駿のヒト型兵器プロトスターが降ってきた。
スカイブルーは、前方の進路を開けるためブルーウェーブを詠唱する。
大きな波が、ヒト型兵器アキンドを押し流していく。
「駿。遅いです。」
「新しいヒト型兵器の操作に、手間取ってしまって。」
「章がまだ、戻ってきていません。」
「あんまり時間がかかると、彼らも参戦せざるを得なくなる。」
「どこまで、知っているんですか?」
「まあ、なんとなく。冷と美佳、大阪の奴らと仲良かっただろ?」
「作戦だったんですか?」
「作戦ではないけど。その辺は自由でいいかなってさ。」
ヒト型兵器アキンドの特攻を、ヒト型兵器プロトスターが避ける。
「風の神よ。わが力になり、敵を引き離したまえ。ウィンドボム!!」
ヒト型兵器プロトスターが、戦艦グリーンの四方八方に強風を創り、ヒト型兵器アキンドを押し戻していく。
その強風を上手く乗りこなし、大阪の上空から周辺を一望する。
章がいくつかの花火を空にあげて、居場所を教える。
「昼間に花火か。分かりにくい。」
スカイブルーが、上空に追いつくと「あと少しなら、耐えられます。」と言う。
駿は「相変わらず、無理させて悪いな。」と、スマに戦艦グリーンを任せる。
プロトスターが章まで急降下した。
「お待たせ。」と、ヒト型兵器プロトスターが手を差し出す。
「駿!?」と、新しいヒト型兵器に戸惑う章。
「さっさと行かないと、まずい。」
章がプロトスターの手に乗ると、章は落ちないようにしがみ付く。
後方にウィンドボムを撃つと、後ろから前に突風が走り、戦艦グリーンまで飛ばされる。
「これ、どんな罰ゲーム。」
「時間がないんだ。我慢しろ。」
「せめて、コクピットに入れてほしい。」
「スカイブルーと同型機だから、無理だな。」
章の髪がボサボサになっている。
顔面が青くなり、気分が悪そうな章が、戦艦グリーンの中に戻っていく。
「戦艦グリーン、発進します。」
隆が戦艦グリーンに飛び乗り、ベリーショートに走る。
「隆の居場所は、ここではない。」
陵が隆に銃口を向ける。
「ベリーショートのパイロットは、この俺だ。」
「そうか。」と、陵が銃を下げる。
「それより、大丈夫なのか?」
陵と隆は、ブリッジに走る。
レーダーに捕捉される敵は多数だった。
「これだけの敵を、どう掻い潜る。」
隆がブリッジの席に着く。
「その席、俺の席なんだが。」と、章が恨めしい声を出す。
「美佳のサポートをしろ。」
隆は席を譲る気はなかった。
隆が地形を確認すると、主砲を撃つ方向を指示する。
「これなら、だいぶ、敵は退くはずだ。」
冷が「主砲、一斉発射。」と、攻撃態勢に入る。
美佳が「主砲発射準備。」と言うが、手が震えている。
章が操縦桿を握ると「準備、完了。」と、告げる。
「エネルギー充填完了。最大エネルギーで出力可能です。」
陵が冷静に、艦の管理をしている。
「これより、前方に妨げるヒト型兵器をなぎ倒す。撃て!!」
戦艦グリーンから一線のエネルギーを発射されると、線上に爆発が起きる。
戦艦西成が姿を現す。
「こちらは、戦艦西成。西成である。」
「こちらは、戦艦グリーン。鷹田 冷です。」
「名古屋共和国との密談により、わが国の存続を危ぶむ行為を行った罪により、これより撃沈する。」
「戦艦グリーンは中立艦であります。そちらが心配することは行ってはいない。ここで墜ちる理由もありません。我々は、大阪を離脱します。道を空けてください。」
戦艦西成が主砲を、戦艦グリーンに向ける。
「回避行動。魔法壁を展開。衝撃に備えろ。」
陵が戦艦西成の攻撃に備える。
戦艦西成の主砲が発射されると、スカイブルーがウォーターボムを撃つ。
「落とさせはしない。」
スマが主砲に的中させると、戦艦西成の攻撃が大きく反れた。
「やはり、厄介な奴らなのか。」
蒼太が連のいる作戦司令室に現れると、口論が始まっていた。
「さすがに、さっきまで味方だった奴らを撃てってな!!」
難波がふざけた態度を、わざとしている。
「名古屋共和国と密談していたという映像ですが、これだけでは確証にはなりません。」
連が結果ありきの軍の行動に、感情を出して抗議している。
「少し落ち着いてください。私たちが不在にもかかわらず、戦艦西成が発進したという事実は、どのように受け止めれば良いのでしょうか。」
示度が姿を現すと、蒼太の言葉を聞いて大笑いした。
「おまえらがいなくても勝てると、そういうことなのじゃろ。」
示度は勝利がないと確信しているようだった。
「ただ、おまえらの力がなければ、決定打は打てないことが分かれば、西成も頭を冷やして、戻ってくるんじゃないか。」
難波は余計、馬鹿馬鹿しくなっていた。
自分たちと戦艦グリーンと戦うことになるが、戦艦グリーンは時間を稼げることになる。一度、戦艦西成を戻すことが得策なのかと、考え始めた。
隆が「戦艦西成を後退させることだけに集中しろ!」と、指示を出す。
冷が「押し返すことだけなら。」と、画面を展開する。
「スカイブルーのブルーウェーブを展開後、波の速度を上げるため、プロトスターがウィンドボムの風の力で、更に加速させる。」
冷の作戦に「成功確率が高めの作戦だな。」と、駿が準備を始める。
章が「これなら、10kmぐらいは押し返せるな。」と、効果測定をする。
美佳が「側面を狙えると、更に高い効果を狙えそう。」と、付け加えた。
スマはスカイブルーの機動性を生かし、上空に飛び上がる。
そして、ブルーウェーブを唱えると、戦艦西成に向けて放った。
続いて、駿がウィンドボムを唱え、ブルーウェーブを補助した。
「合成魔法!!押し流せ!!」
「衝撃に備えるのだ。」と、西成が指揮を執る。
攻撃範囲が広く、避けることができないと判断し、戦艦西成は防御に徹した。
魔法の攻撃力はなく、戦艦西成は波に乗り、流されていく。
「攻撃ではないのか。」
衝撃は少なく、ただただ遠くに流され、その勢いから逃げようとしても、抜け出せずにいた。
「これで、しばらく時間が稼げるか。一時、帰還する。」
駿とスマが、戦艦グリーンに帰還した。
示度が西成の失態を見て、大笑いする。
「戦艦西成は、波乗りをして遊んでいるとみた。」
だいぶ遠くまで流されて、戦艦グリーンを射程に入れるには、相当の時間がかかる。
「戦艦グリーンは、高速艦。このような展開も予想できんとはな。」
「戦艦グリーンのクルーを要人としたことが、失敗の始まりだったのでは?」
西成が示度に切り返した。
「第一艦隊を十分に使いこなせないようじゃが。」と、示度が西成を睨みつける。
西成が何も言えずに、口ごもる。
「そこでじゃ。森ノ宮隊員に、ヒト型兵器連専用戦艦連を預けることにしたい。」
「なにを勝手なことを!!」
「第一艦隊の戦力の補充にもなるが、問題あるまい。」
「何が目的だ!!」と、西成が怒鳴る。
示度が今一度、大笑いする。
「第一艦隊の戦力増強に役立てて頂きたいだけじゃ。」
連が示度に「取り計らい。ありがとうございます。」と、告げる。
難波と蒼太が、戦艦連にヒト型兵器を急いで配備する。
戦艦連に搭乗すると「時間がない。武装はそれなりで。」と、発進を急ぐ。
「示度博士。このタイミングで、これを引き渡すか。」
西成の指揮命令下から、連達を解き放つ秘策なのだろうと、連は思った。
「本当に戦うんですか?」と、蒼太は士気が低い。
「大砲に花火でも、積んでおけ!」
難波が戦艦グリーンの門出を祝ってやろうと、花火を装った。
「さて、僕の出番ですね。」
戦艦西成と戦艦連が、神戸から岡山方面に発進する。
ヒト型兵器西成が、戦艦グリーンを仕留めようと、出撃準備をする。
戦艦西成と戦艦連が、ようやく戦艦グリーンに追いつく。
「戦艦グリーン。レーダーに捕捉。」と、兵士に告げられる。
戦艦グリーンは、既にスカイブルーとベリーショートが出撃している。
戦艦グリーンの降板に配備されており、攻撃のタイミングを狙っている。
「西成。おまえの正義は何だ!?」
西成が「勝利こそ、正義だ。そう思っているのだろ。隆。」と、大笑いした。
「よって、私が正義だ。」と、付け加えた。
戦艦西成からヒト型兵器西成が発進すると「新たな機体を補足。」と、冷が新手を告げる。
「敵だとすれば、最悪です。」
スマが応戦の準備をするが、事態は芳しくない。
駿が「隆。頼む。」と言うと、隆が「魔法の使い方って、わからねぇ。けど、やるしかないな。マジックシールド展開!!」と、叫んだ。
戦艦グリーンと戦艦西成の間に、魔法の楯が現れ、攻撃を防ぐ。
「おっと。戦艦グリーンには、落ちてもらったら困るんで。」
ヒト型兵器櫻が姿を見せると、戦艦西成を睨みつける。
「そっちの戦艦は、大丈夫そう。」
「シン東京連合。どうして?」と、駿が問う。
「だから、まだ落ちてもらったら困るわけ。」
里桜が呪文を唱え始めると、今まで聞いたことがない言葉が羅列される。
「春に舞う桜のごとく、今、儚く散りたまえ。ピンクスモーク!!」
ヒト型兵器櫻から、ピンク色の魔法の花びらが戦艦西成に放たれる。
戦艦西成が静止し、地面に着地する。
「どういうことだ。」
「動力が動きません。」
「科学と魔力の双方のエネルギーを吸収してしまう花びら。これで、しばらくは身動きがとれなくなるよね。こちらの攻撃のエネルギーも吸収しちゃうから、いいんだか悪いんだかって魔法だけど、今回は良いと見た。」
ヒト型兵器堂嶋と松風庵が、空に大砲を打つ。
夕暮れに、きれいな花火が打ちあがった。
蒼太が「隆!!頑張ってきてください!!」と、戦艦グリーンに手を振った。
「ありがとう。恩に着る。」と、隆は蒼太に感謝の気持ちがあふれ出た。
難波が「次会うときは、フェアプレイでな!!」と、章と美佳を激励した。
ヒト型兵器櫻は、戦艦グリーンが無事に戦域を離脱したことを確認すると、姿を消した。
博多魔法国に潜入するために、戦艦グリーンを別府に隠す。
博多周辺は魔法がドーム状に展開されていて、外界を遮断している。
東が北九州、南が久留米、西は糸島あたりに、魔法が展開されている。
魔法のドームを自由に出入りできる人間は、キングとクイーンのみであった。
しかし、示度がプロトスターを手渡す際に、駿と隆とスマは、博多に入ることができることを告げられていた。その言葉を信じるかという問題もあったが、それ以外に手がないこともあり、示度の言葉を信じ、駿と隆が博多に向かうのだった。
戦艦グリーンの他のクルーは、戦艦の警備にあたることになった。
陵が「冷って、オシャレに興味あったんだな。」と、冷めた言葉をかけた。
冷の足にあるトゥーリングを目に入った。
冷が「女性ですから。」と、回答した。
そして、数週間後、ヒト型兵器櫻が姿を現す。
博多に大召喚獣フェニックスが現れ、下関に向かって飛び立つ。
ヒト型兵器連と堂島と松風庵が、下関の沿岸で応戦しているが、歯が立たない。
「谷山 里桜。発進します。」
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読み終わった後に聞いて欲しい曲
『ひらりと桜』Snow Man
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後書きについては、順次追加する予定です。
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『作者インタビュー』
――3日間連続の公開は大変でしたか?
お盆休み前までに、ある程度の分量を公開して、楽しんでほしかったので、3日連続公開に踏み切りました。書くのは早い方ですが、公開直前の土日に失敗したなって、正直、思いました。
――第2章の見どころは?
本作品では「スマ」が記憶を取り戻していないばかりか、「隆」の記憶も曖昧な中で、物語が展開していっています。その状況の中で、「光太」が現れ、かき混ぜていく展開が、自分でも不思議でした。
正直、プロットを書き直した場面は、最後の花火のシーンです。当初は、連と隆が戦うシーンを予定していたんですが、書いていくうちになんか違うと思って、修正しました。なので、花火でお見送りは、作者としては、特別なシーンになりました。
――戦艦グリーンのクルーの見どころは?
女性クルーの恋愛シーンが増加してあると思います。冷が恋愛らしき感じになっていたのは、作者としては、戸惑いながらも楽しみながら、書いていました。
美佳と章の恋の結末も気になるところではあるのですが、どうするかは未定です。
――シン東京連合はどんなポジションなんですか?
第2章から登場したシン東京連合ですが、何となく悪キャラっぽい感じもしますね。
そして、いきなり仲間割れみたいな感じもありました。あまり活躍していないのに、びっくりです。
そして、最後のセリフは、里桜で閉じられています。
ということは、今後、すごく重要なポジションにあるのかもしれません。演劇部という設定も謎だったかもしれないです。
――読者の方に一言、お願いします。
なんとか、3日連続公開の目途が立ちました。ありがとうございます。分量が相当程度あるので、ゆっくり読んでいただけるとありがたいです。あと、解き明かされていない謎も多くあると思います。第3章までに明かされる謎は少ないので、何が伏線か当てて頂くと面白いかもしれないです。
明日も公開されますので、引き続きよろしくお願いいたします。
2022年8月9日
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