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世界終わりで、西向く士  作者: 白い黒猫
世界の終わり方
6/19

廻る世界

 次の日、目覚まし時計で目を覚ました。

 時間は五時半。休みなのにウッカリ目覚まし機能を止めるのを忘れていたようだ。


 俺は伸びをして冷蔵庫の所に行きミネラルウォーターを取り出し飲みながらテレビを付ける。

 昨日の事故の報道がどのように変化しているか気になったから。

 しかし画面は呑気な天気予報の話題をやっている。チャンネルを変えると、やっと【ニシムクサムライ零】の話題に行きあたる。


『今話題沸騰のニシムクサムライ零! 今日から新しいサービスが展開されるようですよ』

 明るい調子の女子アナの言葉に違和感を覚える。

『本日その内容の発表があるという事で、私も楽しみで!』

 このテレビは何を言っているのだろうか?? 

 業務スマホに何が新しい連絡が来ていないか確認をして首を傾げる。

 昨日会社から労災手続きについての詳細が書かれたメールが消えていた。


 そしてまだ能天気にニシムクサムライ零の話をしているテレビ画面の隅を見て唖然とする。そこに7/11という文字があったから。

 明日ではなく最悪な事件の起こる昨日にまた戻っている?


 その事実に動揺する。


 俺はどうすれば良い? 混乱しながら激しく悩む。そして悩みながら俺のとった行動は、変わらず仕事には行くというもの。

 そして俺自身はもちろん、あの装飾の落下地点の下になるべく人が行かないように促した。

 タブレットのチェック作業はガラスの下だと空が明るくて画面が見づらいからとスペースの端のソファーで作業をすることにした。

 そしてガラスの展示部分で清掃作業していたバイトくんは、仕事の順番を替え、倉庫出備品チェックをさせた。

 バーゾーンでグラスを磨いていたバーテンダーを失礼だが呼びつけてお酒のメニューに関しての質問をぶつけて足止めした。

 バーテンダーと話していたからだろうか? ミライは俺の方を見て小さく頭を下げてから控え室の方に向かってイベント広場から消えた。


 空が禍々し雰囲気で暗くなり大粒で叩きつけるような雨。轟く雷。

 そして迎えるあの瞬間。

 辺りが轟音と共に真っ白に染まる。

 雨と雷の音が凄まじい筈なのに、静寂の中にいるように感じる。

 視界が戻り、景色は色と音を取り戻す。

 動揺から零れたざわめく声が大きくなっていく。

 床に散らばったガラスが未だに鳴っている雷の光を反射してキラキラと輝いている。


 オレはあの時自分がいた方向を見つめる

 元々は植物の葉であったそれは、大きく細長い刀のような破片。俺は三度目という事で、冷静にソレを眺めていた。

 ガラスで怪我してパニックになっている人の叫び声が聞こえる。

 オレはその人達に無意味な罪悪感を覚える。

 その人達がまだそこにいた事を気が付けず怪我を負わせてしまったのは俺のせいだ。


 雷が落ちたのは西棟の建物。

 その他にも長い葉の部分だけではなく、花弁部分とかも落下してガラフ天井部分を破壊していた。

 破損した壁面装飾は西棟のものだけなので、イベント広場の被害も西部分のみであることが分かった。

 天井のガラスの破損も西部分に集中していた。そこさえ避ければ怪我をすることは無かったとも言える。

 そういう事もチェックしながら、関連箇所への連絡といった作業に勤しみ、アパートにもどってきたのは十時前だった。

 

 シャワーを浴びてネットニュースでジャックスマイルでの事故について読みまくる。

 昨日同様に夕方に記者会見を開きコメントを出した事でサムライの方は非難を浴びるような事にはなっていない。そこには安堵する。

 部屋で一人になると考えてしまうのが、俺が今日とった行動が正解であるのか? 

 これがルールのあるゲームの世界だと次のステージに行く条件を満たしてないから戻ってしまうという話になるが、これは現実の話。

 なぜ俺は二回も次の日に行けなかったのかが分からない。


 更に気になるには、明日はきてくれるのか? 

 そんな事が怖くて眠れないなんて日がくるなんて思いもしなかった。

 俺はソファーに座ったまま悶々と悩んでいるうちに時間は零時へと向かっていく。

 そして零時になったと感じた瞬間に視界は暗転し目覚まし時計の音が聞こえた。

 目を開けると俺の部屋で、いつの間にかベッドで寝ている。

 しかし自分が眠ったという意識はない。寧ろソファーからベッドに瞬間移動したかのような感覚。

 さっきまでソファーにあった筈のスマホがベッドサイドにあった。

 予測はしていたから驚くまではしなかったがそこに表示されている日付に落胆する。


 2020/07/11 05:30 


 こんな状況下で俺はどうすれば良いというのだろうか?


 俺がやったことは、愚鈍なまでにニシクムサムライ零へと通いそこでの行動の最適解を模索する。

 十二回目にして、あれ程の事故でありながら奇跡的と言われる程、人的被害ゼロに抑えられる動きを導き出せた。


 しかし七月十二日に行く術は見つからない。

 ただ知っている人が傷つくと分かっているのに、それを放置は出来ないという義務感だけで同じ行動を八十回程続けて心が折れて仕事に行くのを止めた。


 サボったとしても事故が事故だけに、ちょっと手を伸ばせばその状況は入ってくる。

 自分が動かない事で大きくなっている事態に耐えきれず動き、そしてそ虚しさに疲弊して離れ気儘に動くという事を繰り返し、結果引き篭もりとなった。

 下手に外に出て、事故の事が耳に入り罪悪感に苛まれるよりも、情報を完全に遮断して部屋に篭る方が良い。

 それが一番心穏やかに過ごせる方法だったから。そして俺は忌々しい現実に背を向けて、世界を無視することにした。

 

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