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世界終わりで、西向く士  作者: 白い黒猫
世界の終わりに響くラジオ
2/19

求めるものは完結した物語

 朝五時半目覚ましが喧しく鳴り、俺をこのクソツマラナイ世界に呼び戻す。

 八時半に始まる会社に間に合うように、かつての俺はこの時間に起きてメシ食って身支度して家を出ていた。

 そしてうっとおしく混んだ電車に乗って通勤。今となってはその日が懐かしい。

 この目覚ましが示す時間も俺の古き日常の名残り。

 寝ていたいが、暑さのせいで乾ききった体が水分を欲していたので、起きてクーラーを激サブに設定して、冷蔵庫に行きキンキンに冷えたミネラルウォーターを飲む。

 世界が終わっていても、ネットも繋がって、電気、水道などのライフラインは問題ないことは居ることはありがたい。

 俺は汗でベトベトになった身体をシャワーで流し、裸のまま部屋に戻りクローゼットから適当な服を取り出して着て、窓の外の変わらぬ猫の様子にチラリと目を向けてから雨戸を閉じて部屋に戻った。

 賞味期限切れのシリアルで簡単すぎる朝食をすまし、溜息をつく。


 さて、今日という日をどうやって潰すのか? 


 テレビの電源をいれて、すぐに配信動画画面に切り替える。

 久しぶりに映画でも見るかと、聞いた事も無いタイトルのゾンビ映画を観ることにした。

 駄作とまでは言えないが、傑作とは言い難い内容。ゾンビあるある満載で暇つぶしにはなった。

 俺の心にやけに残ったのは、ずっと物語の中で響くラジオの音。そしてラスト軍隊に守られた生存者が安全に過ごせる楽天地で家族と再会して抱き合う主人公の姿。

 アホくさ!

 エンドクレジットがまだ始まったばかりという段階でモニターの電源を落した。

 

 部屋を再び虚しい空気が支配する。

 昔からの癖。手持ち無沙汰だと、つい弄ってしまうスマホ。現在人の悲しき悪習。

 新しい内容の連絡などある筈もない。


 スマホのウェブラジオのアプリをクリックした。何故か「111111世界の真ん中から」という番組をまた選択。

 そして今日読む漫画をタブレットで選ぶ。この生活を始めて読む漫画や観るドラマ。

 ジャンルはなんでも良いが、条件が一つだけある。それは完結していること。

 今のこの状況だと新作なんて望めないから、どんな人気がある作品でも連載中のものは読まない。虚しくなるだけだから。

 今日読む漫画も決まり、ウェブラジオの再生ボタンを押し、冷蔵庫に炭酸水を取りにいく。

「今日二千十九年七月十一日。この日は皆さんにとってはどんな日だったのだろうか? 昨日の続きで来ただけのなんて事ない日の人が大半だろう。

 俺にとってはとてつもなく()()忌々しくも愛しいそんな特別な日。

 そんな俺の今日がどんな日だったのか語()()()()と思うーーー」

 同じフレーズが聞こえてくる。

「ーーー今日、俺は会社に行ってきた」

 俺は思わずテーブルの上のスマホに視線を向ける。驚くことに異なる言葉がそこから聞こえていた。

  更新日を確認しても2019.07.11と昨日聞いた時と変わらない。それなのに発信される内容は変わっていた。

「もっと自由に過ごしても良い筈なのに、笑顔を作り良識的な態度で会社の人と接して、一応仕事も真面目にこなす。社会人としては当たり前の事なのだろうけど虚しくも感じる。

 でも気になっていた後輩の状況を調べたかったから、今日は懐かしいこのノリを楽しむ事にした」

 俺は用意していた漫画を読む事もせず、ただ呆然とラジオ放送を聴き続けた。

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