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世界終わりで、西向く士  作者: 白い黒猫
宙を廻る旅
17/19

生贄たちの遊戯

 伊藤明日香さんからもらった缶コーヒー。それを家でしっかり冷やして夜ウェブラジオで佐藤宙と話すときにのむ。

 佐藤宙にも同じ缶コーヒーを用意してもらっている。その銘柄の缶コーヒーを伊藤さんから佐藤宙へと受け取ったからウェブラジオの空間で一緒に飲もうと誘っているので。

 佐藤宙は伊藤さんの話を嬉しそうに聞いている。俺は出来た弟として伊藤さんには佐藤宙に対する楽しい話を提供し、佐藤宙には伊藤さんが一年経っていても元気でそして佐藤宙さんを強くまっすぐ愛していることを伝える。

 まあ、佐藤宙さんの世界にも伊藤さんはいるので時々二人はデートを楽しんでいるらしい。その時の惚気を聞くのも俺の楽しみの一つ。

 俺の家ではなかったことだか両親の惚気なんかは聞きたいとも思わないが、大好きな兄と姉のような存在の惚気は聞いててほのぼのした気持ちになって嬉しいもの。


「そういえば、フランツが君宛でメール送ってきているんだけど、どうするこのまま送る? それとも俺が訳してから送った方がいい? 彼はどちらでも良いと言っていた」

 俺は首を傾げる。フランツって確か二年前のルーパーで外交官をしていたフランス人だと聞いている。そんな彼が何を?

「君へのお礼だとか。

 若い少年の君には、こういうネタは好きで楽しめるのでは? 小説を楽しむノリで受け取ってもらえたらと言っていた。

 日本人は幼く見えるみたいで、なんか彼は君を大学生くらいに感じているのかな?」

 俺は日本人の間でも若く見られる傾向があるために苦笑する。

「それって俺の語学力でも大丈夫な感じですか?」

 佐藤宙はタブレットを見つめ少し考えている様子。

「そんなに長い手紙では無いから大丈夫だと思うけど、若干特殊な専門用語が入っているかな?

 でも彼らしい調査報告書的な内容なので、そう言う用語にも注釈を入れてくれているし、画像もいくつかついているから」

 調査報告書なんて読める自信はない。佐藤さんは長いこと過去のルーパーと会話やメールで接してきたことで英語能力かなり高くなっているらしいが、俺は転送されてきたのを自動翻訳の力を借りて読んで、それを日本語で返して佐藤さんに英訳してもらって過去のルーパーに送ってもらっているのでそこまで英語力はついていない。

「あの、俺に送っていただき、それ見ながら佐藤さんに読んでいただくと言うのはダメですか?」

 それに佐藤さんと一緒に手紙を読んだ方が楽しそうである。

 そして送られてきたのはナタン・エヴェイユ神父についての調査結果。


「フランツは、

 『君がエンターテイメントな仕事をしているので、将来的に何か小説とか書くような時にネタとして自由に使ってくれ。

 自分はこういった非化学的で荒唐無稽な世界は興味はないし、それを使って飯の種にする能力もないから』と前置きしている」

「はぁ」

 フランツさんは俺の仕事に関して誤解があるようだ。ネットで俺に関しての記事を送って読んでくれていたようではあるが、あの大袈裟に俺を飾り立てた記事をそのまま解釈しているために俺が食の世界とエンターテーメントを融合させたアイデアマンと勘違いしている。

 佐藤宙さん時代での俺のネットで読める情報も、俺が持て囃されたピーク。ソレを送られているからそうもなるのかもしれない。


「ナタン・エヴェイユ神父のことは、古き時代の人物であることと、ヨーロッパの片田舎の地方の人物であることで、実際の彼の情報は殆どないのが現状。

 今見えている出来上がっているナタン・エヴェイユ神父は、過去にカルトな猟奇的な犯罪を行なった人物がいたという話。それに彼のいた地方の伝承。あとは後世の人が勝手に彼をネタとして様々な物語を作り上げた際に付け加えた演出的な要素。それらが合わさったもの。

 いわゆるイマジネーションのフランケンシュタインでしかない。

 本当の彼は、おそらくは単なるカルト的な思想を持った医師で、教会から異端者として処刑される前に自ら自殺した男」

 俺はおそらくは小説の挿絵であるであろう神父の画像を眺めながら聞く。画像の神父はわかりやすく邪悪な感じでファンタジー小説のラスボスという雰囲気を持っている。

 それと魔方陣の画像と何か書かれた古い羊皮紙の写真。

「一方イマジネーションのフランケンシュタインとなった神父は、医術・天文学・宗教学に精通しておりその為に教会の禁書にも接する機会があり、それによって禁断の魔術と接する機会があり、それを実行に移した事になっている。

 この人物が設定があまりにも派手に荒唐無稽な為に、逆に魅力的なヴィランとなっていて意外と一部の人には人気な悪役でもある。

 この時代からは早過ぎる医療知識と天文知識を持ち、この人物が語り出すと皆彼に心酔してしまうカリスマを持ち穏やかな笑顔を浮かべながら、多くの村人を実験材料として酷い形で殺していく。それが小説の中でのナタン神父。

 よくあるエピソードでは信徒に、特別な名前を与えるというものがある。

 それが名前というより意味のある単語そのままという感じの名前。

 信者の名前は【ルート《ROUTE》導き】【ドミナシオン《DOMINATION》 支配】【ブラソン《BLASON》紋章】【エヴェイユ《EVEIL》覚醒】【グロワール《GLOIRE》栄光】【ギャージュ《GAGE》誓う】【プロエール《PRIERE》祈り】【オテル《AUTEL》祭壇】【サクリフェス《SACRIFICE》生贄】【レーグル《REGLE》掟】【ソール《SORL》呪文】。

 恩寵を授けるというより、なんだかの役割を与えているかのようなネーミング。面白いと思わないか?」


 そしてフランツは、俺が核となった人の名前をつなげると嫌な感じの文章になるということを言っていた事を思い出したという。

 添付している画像は、全く関係ないカルト教団の聖典と、文字も書かれた魔法円(西洋では魔法陣ではなく魔法円というらしい)。その中に信徒の名前や俺たちの名前がそういうものに使われがちな言葉であるという。

 意味があったとしてもストレートに1つの意味だけを持つ西洋の名前より、東洋の名前はより多くの意味を持たせられてこういう設定の物語を作る際に作りやすいのではないか? と締めくくられていた。

 つまりはファンタジー小説の設定企画提案だった。コレを俺に書けというのだろうか?


 俺は戸惑いながら、メールを読んでいた佐藤宙の顔を見つめ返してしまう。


 フランツ曰く、実際にルーパーから情報が得られた事故以外でのループ発生源となる現象であるという認定は難しい。

 それ以外のものは同現象である可能性が高いとだけしか言いようがない。それだったら、調査も調べるだけではつまらないので、それぞれの事故の背景を膨らませて物語として楽しむしかないと言う。

 俺が飛行機のメンバーが新しい映画や小説のデーターを欲っしていたので送ったいたのだが、それがSFやミステリーが多かったこともある。

 フランツは俺がこういう事が楽しめるのでは? とお返しに送ってきてくれただけのようだ。

 俺にコレで作品を書けと催促しているわけではないようで、そこは安心した。


 確かにネタとしては楽しかった。飛行機はともかく俺や佐藤宙さんが現象に巻き込まれた場所は少し魔法円っぽいし、人の名前をつなぐと少し何かの呪文っぽくもなる。

 しかし楽しいと思うのは、自分が巻き込まれたものではなければの話ではあるが……。


 これが真実となると俺たちは何だかの魔術を行うための生贄として使われた事となる。


 しかしフランツは妄想的で荒唐無稽な話とはいうが、そもそも今俺たちの置かれた状況が既に荒唐無稽。

 あながち見当違いな事でもないのでは? なんて事もチラリと考えてしまったりする。

 となると完全にシステムの一部として組む込まれてしまったら、それから抜け出すなんて到底難しい気もする。

 この現象を作り上げた人はもう遥か過去に亡くなっている。万が一それを行なった人物の術式が単語が揃い完成したらどうなるのか? 解放されるものなのか? それともその時こそ死ねるのか? 


 俺はフランツの送ってくれたナタン・エヴェイユ神父のイラストから目をはなし、顔を横に振った。

 このメールも画像も零時を越えれば消える事だし、こんな馬鹿馬鹿しい話を考えるのは止めよう。


 フランツには頑張って英語でお礼のメールを出しておいた。佐藤宙経由でしか送らない事もありそこで添削はしてもらってのことだが。


 その後フランツとは、どうでも良いことをメールで語り合う関係となった。

 最初のメールもナタン神父について話したいからではなく、フランツがフランス人であったから、フランスの小説では結構ネタとなっている彼の話題をコチラに話しかけてくるネタとして使っただけのようだ。


 こう言うことを繰り返していく事で俺の英語の能力も上がっていったのはこの現象において良かった点の一つかもしれない。

 佐藤宙も英語だけではなくフランツや日廻永遠からフランス語も学んで楽しんでいるようだ。

 交流を単なる原因解明のためだけに使わず、交流そのものを楽しみ娯楽にしているのは俺だけではなかったようだ。

 だから俺も全く解明について役に立ってない事で罪悪感を覚えるのはやめた。


読んで頂きありがとうございます。

次話でいよいよ完結です。

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