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世界終わりで、西向く士  作者: 白い黒猫
宙を廻る旅
16/19

心の距離

 俺が佐藤宙らと繋がりが出来たことで、俺はなんか吹っ切れた気がした。

 引き篭もりを止め、流れてくるニュースも気にせずに外に出歩く様になった。

 国会図書館などに行き。調べ物が増えたこともある。


 図書館、ミライと会話する為の出勤以外に増えた行き先はMedio(メディオ) Del(デル) Mondo(モンド)

 そこは俺にとって特別な場所だから。


【皆さんの想いは三人には届いています。

 しかしお供え物はここに放置しても三人には届きません。

 ここでボロボロになり散らばってゴミとして処理されてしまうだけです。

 それは悲しいですよね。

 ですので、ここには残さず持ち帰って下さい】


 そういう紙をラミネート加工した紙と、ゴミ袋をもってエレベーターの所に行く。

 雨が降るより前に悲惨な祭壇となっている場所に行き養生テープで見やすい貼り付けてから持ってきたゴミ袋をカバンから取り出しそこを掃除する。

 伊藤明日香さんがここで荒れた現場を見て不快にならないように。

 成れ果てた供物でいっぱいになったゴミ袋はまだ回収前のゴミの収集所に置き一旦離れwindlessで時間を潰す。

 雨が降り出したことで、伊藤さんが店に避難してくるのを確認はするが、この段階ではまだ赤の他人なので無関心を装う。


 雨が止み、伊藤さんがお店を出ていくのを見守ってからゆっくりと立ち上がりMedio(メディオ) Del(デル) Mondo(モンド)に向かった。


 そこでの伊藤さんの動きはそこを掃除する時間は省略されているものの、流れはほぼ同じ。

 彼女は俺が後ろに居ることに気が付き話しかけてくる。

「あっ大丈夫です。缶コーヒーはちゃんと持って帰りますから」

「いえ、気になさらないで……。

 俺も似たようなことでここにきたので。

 逆に俺は手ぶらできて申し訳ないなとか思っていたところです。

 佐藤さんの好きなビールとか」

 伊藤さんは最初の時と同じように目を見開き俺をまっすぐ見つめ尋ねてくる。

「もしかして、 (ヒロシ)さんのお友達?」

「あ、はい! お友達というか弟分です!」

 あの時と違って佐藤宙さんとは毎日のように話をしているので、俺は肯定の言葉を返す。佐藤さんを苦しめた鈴木や高橋の知り合いなんて名乗る気も無い。

「俺の会社のシステムを佐藤さんが作られていた関係で知り合いました。

 その後はプライベートでも色々話すようになって」

 そして最初と似た流れの会話をして、二階の喫茶店に行く。そこで佐藤宙さんの話で盛り上がる。それが俺の最近のブームだった。

「俺にとって佐藤さんは理想の兄なんですよ。憧れなんです!

 実の兄がかなりアレな人なので」

 俺の話す佐藤宙さんの話を楽しそうに聞く伊藤さん。お葬式とかの法事でもそうだけど、死を悼むよりも楽しく思い出を語るもの。その方が悲しみが癒される。

「なんか廻くん、ヒロくんを美化して見すぎ!

 まぁ、ヒロくんは確かに良いお兄ちゃんだったわね」

「それは面倒見が良いという意味ですか?」

 伊藤さんは思い出しているのか、目を細めフフと笑う。

「それもあるけど、弟さんが少しウザがるくらいに連絡して見守っていたから。

 弟さんお母さんとあまりうまくいってなかったみたいで、早く東京に出させるように働きかけてたの」

「そうなんですか……」

 初めて聞く弟の存在。

「弟さんは突っぱねた態度でいたけど、構われている事には嬉しそうな感じだったわ。

 社会人になったお祝いとか『そんなのいいのに』とか言いながらも、ちゃんとやってきて一緒にお酒飲んでたりしたから」

 なんか実の弟とやらに少し嫉妬してしまう。

「なんで、そんな態度をとるのかな~俺だったら嬉しいのに」

「まぁあの年頃の男の子ってそう言うものでは? 照れもあったのでしょうし」

 バカだなと思う。そんな事するより甘えて色んな話をする方が楽しいのに。

 俺の方が可愛い、良い弟になれる。

「大学や社会人になって、そんなガキっぼいことするなんて」

「そこが、まぁ家族として過ごしてきた歴史があるからこそでは? そう言う甘え方も出来る」

 俺の心はモヤモヤする。

「弟さんの気持ち少し分かるのよ。私の妹がそうだったから。何故か私にやたらワガママ言って反抗してくるようになったの。

 最近反抗期がないとか言われるけど、その一部は親に矛先を向かられなかった反抗を、より近い人へ向けてしまうことがあるの」

 俺は自分の事を思い返す。誰にも甘えられず明るく元気で調子の良い子を演じてきた。

 そんな誰かに理不尽な事をした覚えはない。

 散々近くでそれをして、周りを苦しめていた人がいたから。

「そういう意味では俺も反抗期がなかったかも。誰に対しても」

 伊藤さんは俺に微笑む。

「結局反抗期って、未熟な愛情表現なだけだから。

 大切な人の愛し方、距離感が分からなくなってやってしまうことなのよね。

 だから貴方は大丈夫では? なんか素直に人に愛情や優しさを向けられる子だから」

 そう言って小さい子供にするように伊藤さんは俺を撫でてくれた。その手の感触が柔らかくて優しくて心地よかった。

 佐藤宙さんの時もそうだったけど、なんで伊藤さんも短時間で俺の心に入り込んで、心を暖かくしてくれるのだろうか?

 俺はくすったいような、照れるような気持ちではにかむしか無かった。

 全てを無くしたと思っていたこの生活。

 でも俺はこうして欲しかった甘えられる兄や姉のような存在をここで手に入れてしまうというのも不思議な話かもしれない。


 俺は午前中いっぱい二人で無邪気に他愛ない話を楽しんだ。

 そして俺は佐藤宙の弟やらに、謎の優越感を覚える。

 今は俺の方が近いし、心で繋がった良い弟で、楽しく有意義な時間を過ごせている。そのことが少し誇らしい。


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