廻る世界
佐藤宙とメールアドレスも交換し通じることを確認してから交信を終えた。
俺はノートに聞いた事をまとめ改めて眺める。
今日で、消えてしまうメモ書きだとしても情報を整理する為に俺はノートを見つめ、疑問点には別の色のペンでそれを書き出して更に考えるという作業を繰り返した。
色々謎と疑問点は多い。
先ずループの起こる根本的な原因は不明。
ハッキリとルーパーの核と確定しているのは以下の四人。
二千十七年 ディスティニー・テーラー 航空機設計 宿泊していたホテルが爆発炎上で死亡 当時いたレストランフロアにいた人全員がルーパーとなった。
二千十八年 日廻 永遠 建築家
ディスティニーの設計した飛行中の飛行機ごと行方不明。
ファーストクラスの人もルーパーとなる。
ネットで調べたら半年程前墜落した機体が海中より発見されていた。ファーストクラスの、部分の損傷が特に激しい事からその部分から問題が起き飛行機が壊れ墜落したのだろうという話だった。
二千十九年 佐藤 宙 元プログラマーのサラリーマン 日廻永遠設計のタワーマンションに囲まれた交差点を通行中に竜巻に襲われ死亡。共に竜巻に巻き込まれた二人がルーパー。
二千二十年 土岐野 廻 外食チェーンの会社の企画部所属のサラリーマンこと俺。
俺と佐藤宙の繋いだものは不明。佐藤宙はロジカルシステムという会社のサラリーマンであの場所に何の関係もない。
ディスティニーと永遠のようにクリエイティブな仕事をしている人が対象になるのなら、俺も何故核となるルーパーになったのかが分からない。
俺も佐藤宙同様、単なるサラリーマンだから。
俺がこの状況に陥って、既にかなりの年月が経っている。
という事は俺に続く現象は遠の昔に発生しておりその後も続いていることになる。
しかし何も創り出していない俺からは次の現象は起こりえないのでは? という考えも湧いてくる。
という事は俺は知らずの内にこの現象の連鎖をストップさせていたということなのだろうか? だとしたらそれは不幸中の幸いである。
名前を並べてみると『【運命】【永遠】に 【宙】を【廻】る』と物凄く何者かの意地の悪い意図すら感じた。
その後も佐藤宙との交流は順調に続く。何故かメール交換、Facebookでのメッセージのやり取りという事が佐藤宙とは普通に出来た。
発信日はそれぞれのいる時間がしっかり表示されている所が気持ち悪いが、ラジオを使わなくても日常に簡単なやり取りが出来ることは助かる。
会いたい時は時間を待ち合わせしてラジオアプリを使い顔を合わせて話をする。
この方法を試すと、日廻永遠から佐藤宙への繋がりは、俺の時と同様な形で繋がれたようだ。繋げる媒体により会える形が変化するということのようだ。
そして数回目の佐藤宙とのやり取りで発覚した俺と佐藤宙と繋ぐモノ。
俺がデーターの企画部の中で管理をしていた士システム。それを作っていたのが佐藤宙。プロジェクトリーダをしていたのが佐藤宙で、企画から基本設計を行なっていた。
正に俺があの時タブレットで使っていたモノ。
あと核同士の繋がりは、それだけでなく過去の核が関わっているもの、作り出したものを媒体に繋がれる。ウェブラジオの番組もそれに当たるようだ。
しかし日廻永遠と俺は繋がらない。
そしてモニターを介しての対話だと、佐藤宙はモニターを介して日廻永遠の周りにいる他のルーパーにテレビ電話のような形で話せる。しかしウェブラジオの方法では核同士でしか話せない。
佐藤宙と日廻永遠はウェブラジオでの交信で様々な検証を行ったようだ。あのウェブラジオで作られた空間では、直接顔を合わせているように見えて二人は別々の場所にいる事実は変わらない。
席を離れた瞬間現実世界に戻る。
ならばキャスター付きの椅子で座ったまま近付けば良いのでは? ということで佐藤宙はオフィスチェアーで試してみたが二人の距離は変わる事はなかった。
物を投げれば相手に何か届けられるのでは無いかとやってみたが、投げた物は相手には届かず現実に戻った時に自分の部屋に転がっていただけだった。
更に三人での対話を試す為にウェブ会議で使われるZoomとかでも試したが、俺の作ったルームでは二人とも入れない。
佐藤宙が作ったルームだと一年後の核である俺しか招けない。
日廻永遠の作ったルームには日廻永遠の時代にいるルーパーと佐藤宙しか招けない。
佐藤宙がウェブ電話をスピーカー状態にして俺とウェブラジオで会っても俺には二年前のルーパーの声は聞こえない。
よく分からないシステムである。
ネットで七月十一日について俺なりに調べて見る。まず簡単にウェキペディアから。
天文学者が初めて彗星を見つけた、真珠の養殖に成功 少年ジャンボが創刊した日などは無関係だろう
金拍車の戦い、南北戦争: スティーブンス砦の戦いなどの戦争もなんかここ数回のループ現象が発生した事案とは異なる気がする。
オーストラリアの原住民が殺されたというのもちょっと違う気もする。
それにしても七月十一日は過去に地震一回、水害が三回、飛行機事故関係に至っては気球で北極飛行にチャレンジした探検家が消息を絶ったのを入れると合わせると五回起こっている。
それプラス、日本坂トンネル火災事故、スペインのキャンプ場で火災事故……。
悲惨な出来事が多い気もするが、長い時間を見れば普通なのか?
そう思い、一日前の十日を調べると、人が亡くなるような事故は災害合わせて五件。
十二日は空襲を除くと四件。単なるウェキペディアでの紹介だけを比べると多い気もするが、どの日もそこににはない事故や事件がいっぱいあるだろう。
俺が遭遇した事故なんてここに載る様なこともないだろうから。
その中で、言葉的に気になったのは千九百九十一年の悪魔の詩という本の訳者が殺された事件と、千九百一年のカルト教団の神父の焼死事件。
悪魔の詩は未解決事件ではあるものの反イスラムな小説を翻訳しようとした教授が過激派イスラム教徒に制裁の為殺されたというもので、本の内容や事件の雰囲気から関係はないように思えた。
もう一つはフランスの宗教家であるナタン・エヴェイユ神父が永遠の命を得る儀式のために十一人の信者と共に焼身自殺。
事件をネットで調べて見ると、ナタン神父は宗教家と言うより医者でマッドサイエンティストだったようだ。
患者の治療をしているうちに不老不死への憧れを強く持つ様になり、同志とともに実験研究を重ねていく。
古い時代の人間な事と、黒魔術や錬金術などオカルト的要素がその後オカルト系の様々な小説などのネタとされていることもあり、何処までが真実か分からないことが多い。
また昔の人なこともありナタン・エヴェイユ神父の誕生日も不明。そもそもコレが本名なのかも分からない。
【覚醒を彼は与えられた】という仰々しい意味になる名前から偽名な可能性も高い。
永遠の命。今の状況はある意味不老不死とも言える。
しかしこんな形の不死を求めるものなのか? 失敗し結果が今のこの状況?
あらゆる事が全て関係あるように見えてくるが、全てを関連付けるという事が物事をただ複雑に解りづらくしているだけのようにも感じる。
調べれば調べるほど、怪しい方向に思考が行き本質を見失いそうになる。
そして俺なりに調べた事を佐藤宙に報告してみたが、やはり以前から調査していただけに既に把握はしてはいた。
無関係とは言えないが関連性もまだ見いだせず調査中という話だった。
共に解決の糸口を探ると言ってみたものの、凡人の俺にできる事なんて何もなかった。
日廻永遠の所は外国人が多く、複数言語を操つられる人もいる。
俺のようにウェキペディア等で軽く浅くしか調べられないような調査なんて幼稚な行動でしかないだろう。
俺が佐藤宙らと繋がりが出来たことで、ウェブラジオという新しい接続方法を生み出したという点だけは役に立ったのかもしれない。
とはいえ俺にとってはこの繋がりの意味は大きい。佐藤宙との交流は俺の生活に活力を与えてくれた。
俺が直接対話できるのは佐藤宙だけ。そのことも不思議と不満にも感じなかった。
俺が語学に自信がないこともあるが、俺にとって佐藤宙はとても接しやすく親しみのもてる存在だったから。
今まで付き合った彼女よりもマメに連絡を取り合う関係になっていった。




