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世界終わりで、西向く士  作者: 白い黒猫
宙を廻る旅
12/19

宙の声

『佐藤宙さん初めまして!

 いつも楽しくラジオを聞いています。

 あなたは何者ですか?』


 俺が送った内容は考えた末、こんなシンプルなものだった。

 レターを送ってから、俺はドキドキしながらウェブラジオアプリを見つめながらその一日を過ごした。しかし何の変化もなく七月十一日(この日)は終わる。


 七月十一日(次の日)いつものように起きて、クーラーをつけてミネラルウィオーターを飲んで、シャワーを浴びる。

 シリアルで簡単な朝食を食べてから、落ち着かない気分で毎回佐藤宙がラジオを発信している時間をじっと待つ。


 七時半を過ぎるがまだ番組は公開されていない、俺は息を詰めながらスマホの画面を見つめる。八時を超えても番組が始まらない。こんなことはなかったので俺は少し焦ってくる。余計なことをしたのか?


 八時十一分超えたところで番組の表示が出てきて俺はホッとしそれをクリックし再生を押す。


『こんにちは 佐藤宙です。

 今日(昨日)メッセージをくれた方、ありがとうございます。

 どのように解答すべきか悩んだのですが、君への連絡手段はこの番組しかないので、先ずコチラから発信してという形でさせていただきます』


 ラジオ放送でありながら俺にだけ向けて発信されている発信に俺の心臓はドキドキしてくる。

 いわゆるラジオで投稿が読まれた時とは異なる意味でのドキドキ。

 就職の面接の時の緊張にどちらかというと似ていた。

 自分の未来をこのやりとりが決定つけるのでは? という緊迫感。


「君の質問の何者か?

 という回答だけど、俺の名前を正しい漢字で書いてきたと言う事は、君はある程度俺のことを知って送ってきてくれたと判断して良いのかな?

 俺の名前は少し漢字が特殊だから。

 君が思っている通り、佐藤(ヒロシ)で名前の漢字は宇宙の(チュウ)

 千九百九十四年十一月十一日生まれ。独身……。ってこんな事どうでもいいか。

 何処にでもいるような普通のサラリーマンだった。

 でもある日の事故をきっかけに、もう何年も二千十九年七月十一日を繰り返して過ごしている」

 驚きよりも、やはりという納得の気持ちが強かった。ある日の事故とは言わずもがなあの竜巻の災害事故のことだろう。

「君が連絡してきた日時が二千二十年七月十一日だということは、もしかして君も同じ現象に巻き込まれているのではないかな?」

『そうです! 俺もずっと七月十一日から抜け出せていません』

俺は思わず番組の途中でもレターを送ってしまった。

 こんな現象になって誰にも言えないというか、言っても仕方がない状況だった。

 それだけに理解してもらえそうな相手が現れた事が嬉しかったから。

「良かった今の俺の声も届いているんだね……。

 やはり君は一年後のルーパーなんだね。

 まずこのラジオがどの様な形で君に届いているのか教えてくれないかな?」

 生放送の時間なので投稿文章に即反応して貰えるようだ。

 しかし佐藤宙と俺の間には一年という時間のズレがある。そこが不思議。


 気がつくと周囲の景色がゆっくりと溶けていくような感覚をうける。

「このラジオは通常発信してから二週間で消えるようになっているんだ。サーバーへの負担の問題だろうね。

 それなのになぜか一年後の君に俺の放送が届いている」

 周囲の状況よりも佐藤宙の話が気になったし、もしかして脱出の兆しかとも期待してしまう。

『あなたがアップした時間でコチラでも番組が表示されます。

 ご存じのとおり、今の状況新しい番組が更新されることはありません。

 それなのに貴方の放送は毎回異なる内容でアップされていたので、どうしてなのか気になってレターで連絡を入れさせてもらいました』

「成程。

 本当にこの現象の通話はよく分からない繋がりを見せるよな。

 俺の放送って君以外にも聞くことが出来るのか……

 あれ? 君と繋がった?」

 独り言のような言葉が返ってくる。気がつくと俺は真っ白な空間にいる。

 ソファーだけはあり俺はスマホを手にそこに座っていた。

 ふと前を向くと黒いオフィスチェアの様なものに座った男がいる。柔らかそうな素材のパンツにラフなTシャツを着ていて手にはタブレットを持っている。

 Tシャツの胸の所には彗星の写真に【Around the air】という文字が書かれている。

 肘掛けがあり、セパレートに分かれた背もたれのある椅子の為かSFチックな雰囲気がより出ていた。

 写真でしか見たことないが、相手の男性が

佐藤宙だと察する。

「一体、今の状況って何なのですか?」

 足元には床っぽい感触がするから立てそうな気もするがそれ以外の所に踏み出せばよく分からない所に落ちる可能性もあるので動けない。

「君と俺の世界が繋がったようだ」

 俺は更によく分からない状況に混乱するが、相手は冷静に周囲の様子見渡している。タブレットに何か入力している。

「ど、どうしたらよいのですか? コレって」

 色々聞きたいことがあり、ひどく曖昧な質問となってしまった。

「今までの経験上、ソファーから立ち上がれば元の状態に戻るとは思う。足元に床の感覚はあるだろ? そこに立ち上がるだけ。

 でもモニタではなくこんな形で話せるのは想定外だ……。

 俺が佐藤宙だ。改めて宜しく。すぐに会えるなんて思ってなかったから、こんな部屋着で申し訳ない」

 相手が冷静なこともあり少し落ち着いてくる。俺の方がパジャマがわりのスェットパンツに会社のイベントで昔使った赤地に黒の文字で【Samurai!】と書かれたスタッフTシャツでもっと恥ずかしい格好だろう。頭もボサボサだし。

「お、俺も一人で部屋にいたもので……。

 初めまして土岐野廻と申します。土に岐阜県の岐と、野原の野で土岐野と読みます。廻は輪廻の【ね】の漢字で廻です。

 貴方は何か知ってますよね? 同じ日をひたすら繰り返してぬけだせません。

 お願いします助けてください! この状況から」

 俺は必死に救いを求めた。しかし返ってきたのは溜息だった。

「申し訳ない。俺も同じ状況に陥った被害者なだけなんだ。

 そして、まだこの現象から抜け出す手段は見つけられてない」

 何だかの答えを貰える事を期待していただけに、落胆も大きかった。

「しかし俺たちは色々検証を続けている。皆で脱出する手立てを探している」

 俯いていた俺は顔を上げる。

「良かったら君も一緒に、一緒に解決への道を見つけてみないか? 君にも手伝って欲しいんだ」

 この現象に陥ってから、ずっと一人だった。それだけにこの言葉は俺にとって堪らなく魅力的なものだった。

『俺たちって? 他にも仲間がいるんですか!』

「ああ、そして皆も君を歓迎しているよ」

 佐藤宙はタブレットを掲げて俺にそう答える。タブレットで仲間に連絡をしていたようだ。

 砂漠の中でオアシスを見つけた旅人のように俺の心は佐藤宙の言葉に心が引き寄せられて行く。

「俺も一緒に頑張ります! だから仲間に入れて下さい!」

 もう一人ではない事何よりも嬉しかった。

「嬉しいよ。

 先ず君の事を教えてくれないか?

 君の話を聞きたい」

 佐藤宙は穏やかな口調出聞いてきた。

「俺の名前は土岐野廻。ってさっきも言いましたね。

 年令は二十八。サムライ株式会社の社員でした。

 ジャックスマイルという商業施設でイベント準備作業中に落雷して壊れた建物の部品によって死亡して、それ以降同じ日を抜け出す繰り返しています」

 俺は自分に起こった事を語ることにした。

 

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