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真白の泡に、薄紅のちを  作者: メル。
人間の子の生
2/3

私は、泳ぐのだ!

「もう止めて!お願い、止めてよお!」


「イヤぁ離して!私は泳ぐ!」



 齢にして14の少女、玉河内子梅は、何故だか焦っていた。

 小学校低学年用の浅いプールを前に、160はある子梅は、何故だか焦っていた。



 子梅本人としても、焦りたくて焦っているわけではない。決して友人皆50mは泳げるのに自分だけ水深30cmのプールですら1mも泳げず溺れてしまうことが悔しくて焦っているわけでは、決してない。そう、決して。そもそも子梅はどうしようもないカナヅチであり、子梅本人も、自身がどうしようもないカナヅチであることを受け入れていた。


 なのに何故か彼女は突如として小学生のスイミングスクールに現れ、


「私に泳ぎを教えてください!」


と荒ぶった。嘸かし小学生たちはドン引き、かつ恥ずかしく思ったであろう。


 しかも泳がせてみれば1mも経たずに溺れてしまったのだ。慌てた大人たちに救助され、ようやっと復活したと思えば、


「こんなどうしようもない私は、…泳げるようになれる、かな」


あろうことか自分より遥かに年下の小学二年生の少年に問うた。あまりの滑稽さ、そしてアホさには、最早誰一人として、笑わなくなってしまった。





「いや、あんた本物の馬鹿、いや、アホね」


 終いには親友の海平風華にも馬鹿、いやアホ扱いされる始末。風華以前にもありとあらゆる人々に馬鹿だのアホだの言われ続けた子梅のメンタルは崩壊寸前である。自業自得だが。


「うぅー。なによなによ、みんなして酷いよ。泳げないから、泳げるようになりたくて、頑張ってんのに、馬鹿馬鹿アホアホ言って…」


「いやそこじゃないの。子梅が頑張ってるのはみんな分かってるわ。ただ、頑張り方が可笑しいの…。

というか今まではさ、泳げなくても足があるから自分が人間であるうちは云々言ってたじゃない。どんな風の吹き回し?」


 うぐ、と、子梅の喉から息が詰まる音が鳴る。カナヅチな子梅が、泳げなくても平気と言っていた子梅が、泳ごうと努力を始めようとした不思議な風。その正体は勿論、


「……秘密」


「えー」


 言えるわけがなかった。恥じらいと恥じらい、それから恥じらいと、…主に、恥じらいのせいで。

 子梅の中で渦を巻く暖かい感情は、本来人間の子として人間の子に対して抱かなければならない感情。それを、別の子に抱いてしまったからだ。

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