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翼が腐るその前に  作者: ぺり
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エピローグ

 個人的な理由で大変申し訳ないのだが、私が今住んでいるT市はとても生きづらい。なんといっても、風が強すぎるのである。なぜか〇〇市には、一年中台風並みの強い風が吹き荒れる。


毎朝、整髪剤によって綺麗に整えられた私の髪は、天然のドライヤーによって怒髪天へとその姿を変えられる。また、強風のせいで洗濯物を外に干すことができないため、部屋干しを強いられる私の服はいつも生乾きである。これが、思いのほか私を苦しめる。朝一番に少し湿ったシャツに袖を通すことが、今日という日という日を台無しにする。これまで洗濯などしたことのなかった私だが、T市に住み始めたことで朝のニュースでよく耳にしていた「お洗濯日和」のありがたみを知ることとなった。すでにTシャツ3枚が強風の餌食となり、地球の彼方へと消えていった。あぁ、ストレスがたまる。


 雨の日はさらにひどい一日になる。それが小雨であっても吹き荒れる強い風と融合することで暴風雨となり、横殴りの雨が傘をすり抜け人々の体を濡らしていく。そのため今現在雨の日は、傘という剣を捨て、合羽という防具に身を包み通学している。


 いい加減、この環境に適応できないものかと思うのだが、なかなかうまくいかない。やはり、これまで十七年間も快適に過ごしてきた故郷の存在が大きいのだろう。故郷はよかったと、思わずにいられない毎日である。これは、靴を新調したら思いのほか靴擦れがひどく、これまで愛用してきた靴の履き心地の良さを名残惜しく思うのに近い。よくわからない?よくわからない人は、ABDマートのお姉さんに自分の足に合った靴を見繕ってもらおう。


 そのほか、T市には飲食店や娯楽施設が少ないことが、個人的にはtとても残念であり、生きづらいと感じる要因の一つとなっている。人口○○万人と比較的人口の多い町であるのにもかかわらず、遊べるところはほとんどなく、大通りにはパチンコ屋ばかりが立ち並んでいる。映画鑑賞が唯一の趣味である私にとっては、市の中心に映画館が一つあるのが唯一の救いである。まったく、〇〇市に住む若者たちはどこで遊んでいるのだろうか。


 そんなT市に四年間も住み続けたせいか、私は休日の楽しみ方というものを忘れてしまった。最近では、休日に外出することはほとんどなく、家で動画鑑賞や読書に時間を費やしている。アウトドアに興じてみようと海釣りに挑戦したこともあったが、海岸沿いは市中よりも風が強く、貧弱な私は立っているのがやっとであり、すぐにリタイアしてしまった。やはり、ストレスがたまる。またしても、T市に吹く風が私を苦しめる。


 風はときに追い風となり人々の背中を押すというがが、私にとって○○市に吹く風は、常に自分を閉じ込める檻でしかない。この身は自由であるはずなのに、不自由さを感じずには生きていけない。もし、この背中に翼があれば、こんな環境のなかでも少しはましな日常を送れるのだろうか。あぁ、翼が欲しい。日本人なら皆一度は小学校で歌ったであろう、あの曲が頭のなかで流れはじめる。そんな自分の行動力の低さを環境のせいにする身勝手な妄言を頭に浮かべながら、いつもどおり大学までの道を歩いていた3月11日、私はその白い翼をもつ少女と出会った。



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