1/1
ジョセフの起源、その1
「ジョセフの起源、その1」
彼(名をジョセフと言う)は一人舗装すらされていない道を歩いていた。 財布には小銭一つ入ってなく、その疲弊した身体は杖を頼りにようやく足を進める。 見たところ30代といったところか。 その午後彼がようやく辿り着いたのは西の山の中に位置する小さな教会だった。
聖母マリアの像が印象的なその教会の中では数人の人々が声を揃え聖歌を合唱している。 小さな子供達から老人まで様々だった。 神父は髭の特徴的な白髪の老人だ。 彼はジョセフの頭に触れると、静まり返った教会中に響き渡る大声で手に取った聖書から抜粋された一文を唱えだした。 ジョセフは目を閉じると、その額に神の加護を感じ取った。 まるで宇宙そのものを把握したかの様な安心感が身を包む。 神父は優しく笑い、こう言った。
「世の中は奇跡で満ち溢れている。貴方がここへ来た事、それもまた奇跡だ。」