表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

新生

 ぎぃいぃぃ。


 丁度彼女が語り終えた時、お堂の入口の戸が開かれた。誰だ? 驚いて私は振り返る。 

 男がそこにいた。

 

「昼間にここに来たのは、この村に来て初めてだな」


 醜悪な空気。自らの欲を全く抑える事なく全身から溢れ出している。女を弄ぶことになれた空気を直感的に感じる。

 

 いや、違う。感じているのではない。

 知っているからだ。

 でも、そんなはずは、ない。

 そんな、はず。


「あんたの母親からここに来いって言われたら、まさかこんな面白い場面に出くわすとはな、神様」


 神様。言葉に反してその口調になんの神への信仰も尊厳もない。それどころかひどく気安く馴れ馴れしい。

 男の言葉の意味を考える。あんたの母親。すなわち佳奈恵の母親。


『私の母と会って、同封した二通目の手紙を渡しなさい』


 佳奈恵から彼女の母親に指定された手紙。そこに書かれていたものを想像する。


『清美からこの手紙をもらったら、彼に連絡を入れて、すぐにお堂に来るように伝えてください』


 他にも書かれていた事はあっただろうが、指示としてはそんな所だろうか。母親を使ってまで、ここまでの事をする佳奈恵。改めて、佳奈恵の私への恨みの深さを理解する。


「ちゃんと調べなきゃダメよ。人が死ぬって事は、簡単な事じゃないわよ」


 ずっと予感していたのに。

 ずっと分かっていたのに。

 何故人は、後悔を、絶望を確信してまで、堕ちる道を選んでしまうのだろう。


「久しぶりだな、清美」


 父親の振るった拳が私の側頭部を強烈に打った。地に立っていた足は一瞬で崩れ、全身が床に叩きつけられる。それと共に意識が薄れていく。言葉は出ない。もう脳の指令は身体に行き届かない。


「やっぱりお前が一番いいよ、清美」


 鬼畜の声が頭に響く。

 また、戻るのか。あの頃に。


「好きにしていいんだよな、佳奈恵」

「ええ、いくらでも」


 神を佳奈恵と呼ぶ父。先程の馴れ馴れしさに違和感を覚えたが、ひょっとするとこの二人、そういう仲なのか? 神と鬼畜が、混ざり合ってしまったのか?

 だとすれば、狂っている。どちらも、狂い過ぎている。


 ――佳奈恵……あなたはもう、本当に人じゃないのね。


 神というシステムは、佳奈恵を人でなくしてしまった。ならば神となり得たのか。

 彼女を神という言葉で、くくってしまっていいのだろうか。


「彼女が次の神ですもの」


 ずるずると身体が引きずられていく。どこに連れていかれるのか。消えていく意識の中で、一つはっきりしている事はある。


 終わった。そして、始まる。

 

 “新生”


 そこに込められた意味。

 新たな命を生みだし続ける。だが神になる道を控えた私には、それだけには思えない。

 人としての生が終わり、神としての命が始まる。

 それが一体いつまで続くのかは、分からないが。


「さよなら、清美」


 狂ったように彼女は笑った。長年の悲願を遂げた狂乱の笑い声は、意識が闇に溶け込むまで鳴り止まなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ