神社
いまだにこの村の事を私はちゃんと理解していない。その一つに、村の所々に祭られている祠の存在があった。
『全部同じ神が祭られているんだって』
記憶を辿ると佳奈恵のそんな言葉が思い出された。あまり神仏についての知識はなかったが、そんな私でも佳奈恵の言葉に疑問を覚えた。
祠というものにはもちろん何らかの神が存在している。でもそれは、一つの祠に一つの神が宿っているという認識だった。しかしそれが点在しているという事は同じ神が複数存在している事になる。そんな事が成立するのだろうか。当時の私もこの疑問を口にしていた。
『同じ神だけど、いわば分身に近い存在。だから大元の神様程の力はないんだって。でも皆がすぐに神様に祈れるようにって、等間隔で設置されたんだってさ』
神が許した事なのか、それとも村人の自分勝手の解釈がなせる業だったのか。そこまでは分からないが、佳奈恵の言い方からなんとなく後者の説が有力かなと思った。
何の神が祭られているのか、それはもう自分が知らなかったのか忘れてしまったのかも分からない。ただいずれにしても、自分にとって縁のあるものではなかったし、当時訪れた事もない場所だった。故に不思議でならなかった。
何故この場所を指定されたのか。そして、本当にこの先に進んでいいのか。
新生神社。
これが、おそらく大元だ。
神社の名前を見て、あーそんな名前だけは聞いた事があったなと微かに思い出した。
赤い鳥居をくぐった先にあるものは、立派なお堂だった。山の奥に存在していたせいか、これだけの建造物なのに私は一度もこの存在を目視した事がなかった。そして、こんな山奥にあるからこそ、村人が祈りを捧げるのに神を分散し点在させた事に少し納得がいった。
しかし、本当に入るのか。
佳奈恵の手紙では、このお堂の中に入れと書かれているのだ。
どんな神がいるのか知らないが、神聖な場に踏み込むという行為は本能的に抵抗感がある。神に触れる行為というのは、人間である私にとってはそれだけで禁忌に思える。答えを得る為に、まさか神に近付かねばならないとは思っていなかった。この先に進めば、もう戻って来られる気がしない。そんなほぼ確信にも近い予感は強まる一方だった。
――佳奈恵。ここにいるの?
ふいによぎった考えに、自分自身まさかという感情にぞっとする。
佳奈恵は本当に死んでいるのか。もうこの世にはいないのか。それとも、私の想像し得ない場所で生きているのか。
例えば、この先に。
――行こう。
答えを諦めて戻る。その方がいい。絶対にその方がいい。どくどくと血流は早まり、心臓が脈打つ。分かっている。分かっているのだ私は。
なのに。進むしかない。目の前に答えがある。親友が残した答え。それを無視する事に私は抗えない。
私はお堂の中に足を踏み入れた。
お堂の中はだだっ広く、それでいて質素なものだった。剣道や空手の道場のような広い空間の中に、彼女は座っていた。私の方に背を向けた形の彼女は、神を象ったであろう像の方に向かってぴしっと正座をしている。
どうして、こんな所に。何故。彼女は、本当に。
「久しぶりね」
恐ろしいまでに透き通った声がお堂の中に響いた。
大人びた気品のある色気を孕んだ声音。そして、それは間違いなく――。
「佳奈恵、なの……?」
すっと彼女は立ち上がった。仰々しい巫女のような袴を纏った姿は立ち上がるとより神秘に妖しく映った。彼女がゆっくりとこちらを振り返る。
佳奈恵だ。間違いなく佳奈恵だ。
「清美、来てくれてありがとう。本当に」
十年ぶりの再会。しかしそこにあるのは懐古に温もりを覚えるものではなく、ただひたすらに不穏だった。




