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闇夜這い

 いつもすぐに分からなくなる。自分が今寝そべっているのか、立たされているのか。

 固く結ばれた目隠しで視界は奪われ、耳にはきつく耳栓がねじ込まれ、両鼻にも隙間なく奥までぐっと脱脂綿が押し込まれている。

 四肢は十字架に張り付けられるような形で錠を嵌められ、動かそうにも自由は効かない。

ジャラジャラと弱々しい音が鳴るだけだ。


 目を瞑れば世界は閉じる、遮断が出来る。そんなふうに思っていたが、それは大きな間違いだという事を、本当の闇を見る事で私は初めて理解した。

 閉じた先の闇には、また一つの世界がある。別の、おどろおどろしく不気味で救いのない無の世界。助けてと伸ばした自分の腕すら見る事も出来ない世界。


 さわっと、何かが急に私の腿に触れた。

 今夜も始まった。弄ぶように腿を撫でた指先は、そのまま足首につーっと下がったかと思えば、上へと昇りをしばらく繰り返す。やがてその触り方が大胆になり、両掌が私の胸の膨らみをぐむっと掴み揉みしだいた。

 

 ――初めからそうすればいいのに。


 慣れると感覚というものは死んでいく。最初あれだけ恐怖し苦痛を伴った事は遥か遠くの記憶だ。何の感情も感覚もないのに、滑らかに男のモノが身体に入ってくるあたり、女性の身体というものはそういうシステムになっているのだなと、冷たく呆れた笑いがこみ上げてくる。


「……っ……ふ……ん……」


 耳栓でほぼ外音は奪われている。それでも目の前にいる獣の声は僅かな隙間から入り込んでくる。まったく、よく飽きないものだ。


 しばらくして、身体の揺れが収まった。それと同時に身体の中に熱く滑った感触がしっかりと残る。この感覚だけはいつまで経っても慣れなかった。この瞬間だけはどうしても瞬間的などん底の恐怖に押しつぶされそうになる。


 ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。


 途端呼吸が乱れる。闇の世界からも剥がれ落ちそうになるこの瞬間こそ、まさに死なのだろうと思う。

 

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。


 相反する矛盾めいた感情は見事に混ざり同居する。

 何故なら、どちらも嘘ではないからだ。どちらも心底望む願いだからだ。


 ふう…………ふう…………。


 呼吸が穏やかになる。

 私は今日も、どうやら生き延びた。

 しかしだからと言って、救われた気分になどならない。

 今日が終わっただけなのだから。


 ――ドウシテ、ワタシガ、コンナメニ。


 最後に行き着く感情はいつも、肥大していく憎悪だった。

 


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