#4 Can not Understand
「受験番号340番、前へ。」
「はい!」
自信あり気な少年が威勢よく返事をする。僕達第4グループは受験番号301からで現在まで40人近く終わったのだが正直に言うと暇である。魔法に何の面白みもなく、ひたすらイタい呪文詠唱を聞かされているだけで、見ているこちらが恥ずかしくなってくる。しかし、この少年の魔力量は少しばかりは期待ができそうである。そう思い注意をそちらへと向けた。
「始め。」
試験監督が合図をする。すると少年の手のひらへと魔力が集中する。今までの人と比べるとそれは桁違いで周りもざわついてる。
「火の精霊よ、我の矛となり的を穿て。」
そういうと試験用の的はいとも容易く燃え尽きた。他のどの受験生も的を破壊することができなかったことを考えると技量は中々のものだと思うのだが呪文を詠唱していることがなんとも言えない。
「次だ。受験番号341番、前へ。」
再び受験生達の間でどよめきが広がった。だが、僕もそのことに気づいた時に、動揺を隠すことはできなかった。なんとその受験生の右手にはガーベラを模した指輪が存在していた。それは紛い物などではなく確実に本物であった。ガーベラの花言葉は「希望」である。ということは光系統の魔法であると推測されるがこの世界において光がどのようなものであるのかは未だに解明されておらず、魔法として使うことは難しいと考えられる。中性的な美しい顔立ちのその受験生は指輪のある右手を静かに上げ、それを振り下ろした。
すると、光が的を射抜いていた。予想通りの光系統の魔法ではあったが仕組みが理解できなかった。愛し子の支配力がなせる技なのだろうとその時は納得をするしかなかった。
「さすがは賢者の指輪を持つ者と言ったところか…次、受験番号342番。」
次は僕の番である。前のどよめきが収まらないままどぁるどころか、それはさらに大きなどよめきへと変わった。
「賢者がこの場に2人もいるわけないだろ。どうせ大賢者様に憧れてつけてるだけのパチモンだ。」
不意に誰かが野次を飛ばした。誰がそんな馬鹿なことをするかとは思ったが、学園では目立ちたくないためあえて無視をすることにした。もう既に目立っているという事実には気づいていなかった。
僕も指輪をつけた右手を上げ、右手の親指と中指をくっつけた。そして、その2本の指を擦り合わせながら手を振り下ろした。要は指パッチンである。すると的は一瞬のうちに消滅した。
他の愛し子と呼ばれる人達と比べても異常な支配力と魔力を得たかわりに精霊を使役するための干渉力と魔力の放出力に制限があるらしいというのがマーリンとの修行で判明したことである。愛し子であるがゆえに魔力は必要ないはずなのだがその代償も支払うことになるあたり魔法は万能ではないと言える。放出力に制限があると言っても精霊たちを使役すれば大魔法を放つことはできるが他の人よりも時間がかかるから他の愛し子のように振る舞うことはできない。魔力を熱など他のエネルギーへと変換するには放出力がだいぶ必要なのであまり変換をしたくはない。そこで考えたのが既存のエネルギーの増幅である。例えば既に走っている自転車を加速させるなどである。これは魔力の変換を必要としないため同量の魔力での魔法では威力が上がる。そのことを考えて作った魔法がこの「指パッチン」である。音とは空気の振動である。そのことを利用して指パッチンで生み出した音を魔力を使って威力をあげることによって的を破壊したのである。手を振り下ろすことによって指を鳴らす場所に変化が生じる。それによって複数の振動が生まれ、それら全てを増幅し重ね合わせることによって先程のように消滅したように見せているのである。音の速度は人が認識できるような速度ではないため実戦でも使えるのではないかと密かに温めていた魔法だったりのする。
しかし、音の性質すら知られていないようなこの世界では、そのようなことが行われているとわかる訳もなくただ呆然としていた。
「次だ。受験番号343番。これで最後だな。」
待機場所へと戻ろうとするときにすれ違った「受験番号343番」は他の受験生とは違っていた。魔力量がとてつもなく大きいなどではないがなぜか違っていると感じた。そしてその勘は間違っていなかったとすぐに証明された。
「すみません。僕は遠距離となると魔法の性質上何かモノが必要なのですがそこら辺の小石とか使っても大丈夫ですか。」
「かまわない。存分にやれ。」
「わかりました。」
そういうと「受験番号343番」はおもむろに足元の小石を拾い上げ、そのまま手をさし伸ばした。すると、急に小石だけが飛ばされて、的を貫通していた。その動作があまりにも静かで何をしたのかが理解できなかった。