#2 Farewell and Departure
「まさかアンタもだったなんて」
やっとのことでエリーが口を開いた。しかし他の者達はいまだ固まったままである。
次に動いたのはマーリンであった。
「魔力量を考えればもしやとは思ってはいたものの…そうだったのか。」
僕は未だに状況が掴めずキョトンとしていた。
「どうしたのばあちゃん、じいちゃん、それにみんなも」
その言葉を合図として残りの人たちも意識を取り戻した。
「エドくん。君の右手を見てみなさい。」
そう言われて魔法を解いて右手を見るとさっきまでつけていなかった指輪がはめられていた。
最初はみんなが何を驚いているのか理解ができていなかった。しかし、昔マーリンから言われた言葉が思い浮かんだ。そして、自らが賢者であるということを理解した。理解して魔法の才に恵まれていたことを嬉しく思うと同時に自分を恐ろしく感じてしまった。
「そっか...僕って愛し子だったんだ。」
不意に呟いた一言であったが周りが静かでその言葉が聞こえなかった人は誰一人としていなかった。
「アンタ、事の重大さが分かっているのかい。」
すかさずエリーが言った。正直に言えばこの世界での常識はほぼ分かっていなかったので事の重大さはあまり分かっていなかった。
「正直よく分からない。けど、じいちゃんと一緒だったことが嬉しくて」
「エド...」
マーリンが涙を流しながら言った。
「アンタは喜んでいる場合じゃないよ。」
エリーにマーリンが怒られていた。この世界でもやっぱり夫は嫁の尻に敷かれるようである。
「一応わしらが見ている前でよかったが...ところでエドくんは今いくつだい。」
ユーサー=ペンドラゴンが尋ねてきた。ユーサーはマーリンの旧知の友であり僕にも優しくしてくれているおじさんである。昔から僕はおじさんのことが大好きであった。
「えっとね...今は7歳だよ、おじさん。」
「ということは学園へ入れるようになるまであと8年か。それまで頼めるか。」
おじさんが学園という言葉を出すと僕は胸が痛くなった。前世では周りからの妬みが酷く気づけば同学校の友達は数人しかおらず、あまり楽しい思い出がなかった。
しかし、それからというものマーリンの修行はとても厳しくなった。しんどかったのだが魔法は楽しく苦ではなく、すぐに自分で魔法を生み出せるほどになった。それだけでなくエリーのおかげで魔法の付与もおこなうことができるようになった。
また、同じ頃から剣の修行も始めた。剣はマーリンの知り合いのシグムントから教わった。小学校の時に剣道をかじっていたため15歳となった現在ではそこらの剣士では相手にならないとシグムントに言わせるほどになった。
そして15歳の誕生日を迎えた。その日にユーサーから話があると個室によばれた。ユーサーと二人きりで話をするのは初めてなので少し緊張していた。
「エドくん、そこに座りなさい。」
「どうしたのおじさん、そんなにあらたまって。」
僕は笑っていたものの内心はそこまで穏やかではなかった。
「君には王都の学園へ通ってもらいたいと思っている。」
「行きます。」
僕は昔学校にはあまりいい思い出がないって言った。それなのに学園へ行くことを直ぐに許可したのには理由がある。学園へ行って自己の研鑽をはかるためである。というのは表向きで僕はこの山から出たことがないため町という物を見たことがない。だから、この世界の町というものを見てみたいということと今度こそ青春を謳歌したいという邪な理由である。
「随分と即決するな…でも今年は君以外にも何名か面白い子もいるようだしきっと楽しめると思うよ。」
そして僕がこの家を旅立つ日がやってきた。
「まさかアンタがこんなに立派になるとはね。」
「それも全部じいさんとばあさんのおかげです。」
「エド...」
二人揃って涙を堪えていた。それにつられて僕も泣きそうになってしまったが何とか涙を流さなかった。
「それじゃ行ってくるよ。」
「これを持っていきなさい。」
そう言って1振りの剣を渡された。
「これはデュランダル。聖剣とよばれるもののひとつだよ。」
「そんな大切なものを...」
「これからは町で頑張りなさいね。」
泣いて喋ることのできないマーリンに代わってエリーが話した。
「じゃあ、改めて行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
そして僕は振り返らなかった。振り返ってしまったら僕は決意を揺るがせてしまうかもしれなかったからだ。今まで育ててくれたマーリンとエリーに心の中で感謝をし、王都に行くためにユーサーが用意してくれた馬車に乗りこれからの学園生活に思いを馳せた。