アリス不合格!?
ギルドに向かう途中俺はアリスが今日家を出てから一言も話していないことに気がついた。そしてしばらく様子を観察しているといつもよりソワソワしているようであった。
「なぁアリス、もしかしてお前緊張してる?」
「なっ...何のことかしら。そもそも緊張なんて実力不足の奴が力を発揮できない可能性があるからするものであって、私みたいに完璧な人間は力を発揮できないなんてことはないから緊張なんて絶対しないのよ!!」
いきなり饒舌になった。やっぱこいつはわかりやすくてチョロイやつだな。しかしこんなことで緊張していては冒険者になんてなれない。そんなことを考えているとサーヤが俺の袖を引っ張ってきた。どうやら何か内緒で話したいことがあるらしい。膝を折りサーヤが話しやすいように体勢を低くする。すると耳元でサーヤが他の人に聞こえないように小声で話してきた。
「アリスはね、人見知りだから知らない人いっぱいいる所は怖いんだと思うよ」
なるほど仕事ができるかどうかの緊張ではなくただの人見知りからくる緊張か。それならこっちで対策できる。とりあえずユリさんに大事な話があるといって個室に通してもらってから話せばアリスの緊張もほぐれるだろう。試験の時も極力人がいない試験会場を用意してもらえれば問題ないだろう。教えてくれたサーヤの頭を撫でながらお礼を言い、アリスにもう一度話しかけた。
「おい、アリス今日は受付の人と試験官の人以外とは関わることはないと思うが、その人たちにはしっかりあいさつと自己紹介をするんだぞ」
遠回しに今日はあまり知らない人とは会わないということを伝えるとアリスは安心した様子で頷いた。
ギルドにつくと早速俺のもとにユリさんがやってきた。
「ねぇゲンマ、私冒険者が足りないから一生懸命働けって言ったわよね?なのに今更ギルドにきて、どういうつもり?百歩譲ってダイヤモンドさんたちは今日ランクアップ試験の付き添いをやっているから依頼は受けられないにしてもあんたは暇でしょ?じゃ働きなさいよ」
とても怒ってらっしゃる。とりあえず弁解を...
「いや今日はこの子たちの仕事探しを手伝っているんですよ」
そう言ってサーヤとアリスを前に出した。
「仕事探し?てかリコちゃんに続いてまた幼女?あんたロリコンだったの?」
いちいち俺のメンタルを削ってくる。だが言いたいことは我慢して本題を話す。
「まぁその仕事探しでこっちの子が冒険者やりたいっていうからユリさんに紹介しに来たんだ。ほらアリスあいさつ!」
これ以上無駄話をしても俺の立場がよくなることはないのでユリさんの興味をアリスに逸らす。
「アリスです。魔法系の攻撃が得意です。よろしくお願いします」
アリスが珍しくまともにあいさつした。これはもしかして本能的にユリさんには勝てないと悟ったか?...昔の俺と同じ道をたどっているがまぁ面白いので口を挟まないでおこう。
「それでだ。ゆっくり話したいから個室に通してもらいたいんだけどいいかな?ここだと他の人たちが多くてアリスが緊張しそうだし」
「それはいいけど今VIPルームしか空いてないわよ?」
「ぐっ...いいですよ。俺の個人口座から引き出しておいてください」
VIPルームは普段使われない。なぜなら特別な人が来たときまたは大量にお金を支払ったときのみ使える部屋だからだ。俺たちは特別な人ではないのでお金を支払わなければならない。
「やった!あの部屋のイスの座り心地最高なのよね。使うの久しぶりだわ」
ユリさんは普段使えない豪華な部屋で話ができることを喜んでいた。それ俺のおかげだからね?もっと感謝してもいいんだよ?そんな目線を送るがユリさんは俺なんか眼中ない。
「アリスちゃんこれからいろいろ質問するけど正直に答えてね。あっ答えたくないことは答えなくていいから嘘だけはつかないで!」
「わかりました」
あのアリスが敬語を使うほど引いている。確かに俺もちょっと気持ち悪いと思うぐらいにはテンションが高いユリさんであった。
部屋に移動しユリさんが満足するまでゆったりとし、(実際には10分ぐらい)満足したところでユリさんの雰囲気が変わった。完全に仕事モードに入った。最初からまじめにやって欲しかったなぁこの部屋10分借りるだけで1週間外食できるくらい金かかるから...できるだけ早く話を終わらせてほしい。
「じゃそろそろ始めるわね」
ユリさんはそう言ってアリスの情報を集め始めた。結局必要な情報を全て聞くのに30分ほどかかった。そしてそれが終わると休憩するとか言って20分ゆったりしやがった。普段からお世話になっているから文句は言わないが今日だけでかなりの出費である。きっかり1時間で部屋を退出し、試験会場に向かった時は安堵のため息が出た。
「今日はいつもの試験官がサファイア君のランクアップの試験で不在だから特別試験官を用意しました」
「よろしく」
ユリさんが臨時試験官として連れてきたのはティアだった。よりによってこいつか...最悪アリスが泣くことになるだろう。ティアはパーティが休止中のため休んでいるはずだったが暇すぎてギルドの臨時職員をやっているとユリさんが説明してくれた。俺の幼馴染は俺と違って真面目なのである。そんな風に脳内でティアの情報をまとめているとユリさんがアリスの合格条件を発表した。合格条件はその時のギルド職員の気分で決まるため、さっきVIPルームでゆったりさせたから緩い条件になるだろうと予想していたが...
「じゃあ合格条件はティアさんになんでもいいから一発入れることでーす」
終わった...
アリス、無職決定!!
それくらいきつい試験だった。なんたってティアは勇者パーティの一員なので戦闘力でいえばルビー並である。この前の鬼ごっこから見るにアリスはトロい。どんなに頑張っても一発入れるのはきついだろう。頼みの綱は魔法だがこちらもティア相手には相性が悪い。ティアは魔法反射のスキルを持っている。スキルの希少性はないがそれでもティアレベルになると少なくともAランク以上の魔法攻撃でないと話にならない。アリスのレベルがどの程度なのか知らないので何とも言えないがかなり厳しいだろう。
「すいませんユリさん..ちょっと試験内容が厳しいんじゃないんですかね?冒険者に初期登録する試験の内容がSランク冒険者に一発入れろってかなり無理難題だと思うのですが..」
「えーだって基本的に一番最初に受付した人がその冒険者の担当につかなきゃいけない決まりなんだけど、それだと私の担当がまた一人増えるからめんどくさいじゃない。ティアさんに一発入れるくらいの強さがあれば私が面倒みてもいいけどそれ以外はちょっと断りたいのよ」
さすがユリさんである。私情の持ち込み方が半端じゃない。優秀な職員なのに...そういうとこだぞ?そんな風にジト目で見ているとアリスが俺に話しかけてきた。
「別にその条件でいいわよ。それくらいの実力を見せないと私も満足できないし」
すごい強気だ。しかしいつもみたいな強がっている様子でもなく、むしろ集中力が限界まで高まっている。アリスの言動に困っているとルビーが俺に声をかける。
「アリスちゃんもあれだけ集中していることですしやらせてみてはどうでしょうか?冒険者の試験は何回でも受けられますし、今回だめでも少し力をつけて、次回受かればいいぐらいの感じで」
確かにルビーの言っていることも一理ある。アリスもやる気のようだしダメだったら戦闘訓練で俺たちのクエストに連れていけばいいだろう。
「アリス、いけそうか?」
「やってみないとわからないけどやる前から諦めるのは嫌よ」
「そうか、なら全力で頑張れ」
いつもと違う雰囲気を感じ取った俺はアリスにかけてみることにした。
そして試験はユリさんの開始の合図とともに始まった。




