フラーレンの実力は...
9時55分、ギルドに着くとルビーとサファイアはすでに到着していた。サファイアは今日のクエストがAランクだからやたらテンションが高い。
全員集まったので俺が代表としてユリさんにクエストをもらいに行く。
「お疲れ様ですユリさん。今日のクエストなんですがフラーレンの実力を確認したいのでAランクのものを貰えますか?」
「あーちょっと待って、今かなりまずいことになってるの。AランクとSランク2つやってくれない?人数も増えたし問題ないでしょ?」
「まぁできなくはないですが...ちょっと相談してきます」
俺たちの今の戦力なら2つの依頼をこなすは問題ない。しかし俺の独断だけで決められるものではない。ダイヤモンドに相談しに戻った。
戻るとサファイアがウキウキして聞いてきた。
「ゲンマさん、今日はなんの依頼を受けたんですか?」
「あぁその件でダイヤモンドに相談しにきた。なんか今ギルドが忙しいらしくて、SランクとAランク2つ受けてくれないかって...どうする?」
「そうですね。分けるとしたら私とルビー、それで保険としてサファイアでSランククエストですかね」
「そうだよな。ダイヤモンドにもフラーレンの実力は把握しておいて欲しかったけど...今回は仕方ないか。じゃあダイヤモンドSランククエストの方任せていいか?」
「わかりました。ではすぐ向かいますね」
ダイヤモンドはすぐにユリさんからSランクのクエスト用紙を受け取り、ルビーとサファイアを連れてクエストに出発した。
サファイアは久しぶりにAランククエストができると喜んでいただけに明らかにがっかりしていた。
「さて俺たちもクエストに向かうか」
サファイアのガッカリした顔を堪能してからユリさんにAランクのクエスト用紙をもらいに行きすぐに出発した。
ギルドを出てクエストに向かいながらフラーレンにクエストの内容を軽く説明する。
「今回のクエストはヒドラの討伐だ。俺はサポートのみでフラーレンに倒してもらう。本当にキツそうだったら助けに入るがその場合でも俺は防御に徹する。ヒドラを1人で倒せたら次のクエストからフラーレンも戦力として組み込んでいく。それでいいか?」
「要は1人で倒せたらパーティメンバーとして認めてくれるってことっすよね?」
「そういうことだ。大丈夫そうか?」
「はい、全力で倒してパーティメンバーとして認めてもらうっす!」
フラーレンがやる気を出したようなのでヒドラの弱点について話しておくことにした。
「フラーレンはヒドラの弱点を知っているか?」
「ヒドラに弱点なんかあるんすか?」
「あぁ、あまり知られていないがあることにはある。一応教えるから後で試してみてくれ。ヒドラは反射神経がよく頭が複数あるから相手の動きを捉えるのに特化している。これ自体は厄介なんだが実は動き回る相手を全ての頭が捉えようとするため足元が疎かになるんだ」
「へぇーそんな弱点があるんすね。足元に罠を張って引っかかってそっちに気を取られた瞬間に攻撃すればかなり楽に倒せそうっすね。それにしても普通あの頭に気を取られて足元が弱点なんて気付かないっすよね。ゲンマさんよく気付きましたね」
「その弱点を発見したのは俺じゃなくて俺の姉貴なんだけどな。俺が9歳の時だったかなサラマンダーラビットの討伐だと騙されてヒドラの討伐に連れてかれたんだ。その時に教えてもらった」
サラマンダーラビットは駆け出し冒険者にゴブリンと並んで大人気の討伐対象である。見た目は普通のウサギより少し大きく、ツノが生えている。そして口から火球を出して攻撃してくる。しかし慣れれば素手でも討伐でき、火球で攻撃してくると言ってもテニスボール程度で威力も弱い。防具をしていればちょっと熱いくらいで怪我はしない。それの討伐と騙してAランクのヒドラの討伐に連れて行く姉の言葉はそれ以降信頼できなくなっていた。しかしそこで弱点を教わったため感謝半分恨み半分といった感じだ。
「9歳でヒドラ討伐って...ゲンマさんのお姉さんなかなか鬼畜っすね」
俺の話を聞いてフラーレンの頬は少し引きつっていた。
「姉貴はそれが通常運転だったからな。でもまぁこうやって今役に立ってるからいい経験だったと割り切ればいい思い出になるだろうよ」
そんな話をしている間にクエスト用紙に書かれているヒドラの出現場所に到着した。しかし周りは静かでヒドラが出現する気配がみじんもない。なので俺は魔力感知を使いヒドラの居場所を確認した。するとちょうど今俺たちの立っている地面から大きな魔力の反応があった。
「フラーレンは魔力感知は使えるのか?」
「使えるっすよ。今試したんすけどこれって...」
「あぁちょうど俺たちの足元だな」
「待ち伏せっすか?」
「いや、たぶん寝てるんだと思う。ヒドラは寝るとき土に潜るからな」
「ならまだ私たちがいることに気づいていないっすね?そしたら先制攻撃でデバフかけちゃっていいっすか?」
「あぁここからは自由にやってくれ。最低限のフォローはするから」
俺の言葉を聞いて待ってましたとばかりにフラーレンはヒドラにデバフをかけた。すると自分の体の違和感に気づいたのかヒドラが動き始めた。俺たちは少し離れヒドラが地中から出てくるのを待った。フラーレンは自分にバフをかけて戦闘準備を完了させていた。
しばらくすると俺たちの立っていた場所の地面からヒドラが勢いよく飛び出してきた。そのヒドラは通常よりも少し大きかったがそれにひるまずフラーレンはすぐにヒドラとの戦闘を開始した。
デバフの効果からか若干ヒドラの動きが悪い。これならいい戦いになるかなと思って見ているとさっき説明した弱点をフラーレンが確認してることが分かったので声をかけた。
「さっき言った弱点は間違ってなかっただろ?」
戦闘中なので返事を帰ってくるとは思わなかったがフラーレンは思ったよりも余裕なのか返事を返してきた。
「そうっすね!言われて確認すると確かに明確な弱点っす。ちなみにもう倒しちゃってもいいんすか?」
今のはかなり手加減して戦っていたらしい。これなら次からクエストに組み込んでも全く問題ないだろう。
「おう倒せるなら倒していいぞ!」
そう俺が声をかけるとフラーレンから膨大な魔力を感じた。そして次の瞬間フラーレンの頭上に大きな火球が複数発生し、その球がまるで弾丸のようにヒドラのほうへ放たれた。そして断末魔とともにヒドラはフラーレンの放った火球で消滅した。
「ふう、久々にこんな思いっきり魔法使ったっす。それで試験は合格っすか?」
フラーレンが涼しげな顔をしながら聞いてきた。あれだけの実力なら下手したらサファイアよりも強いかもしれない。なのでもう結果は決まっている。
「あぁこれだけ戦えれば文句はない。次からはフラーレンも作戦組み込んでいくよ。これからもよろしくな」
「はい、よろしくっす!」
こうして俺たちのパーティに1人強力な仲間が加わった。