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楽園建国の章 白銀の巨龍の群れ

「なあセラ、あそこに並んでいるゴブリン達は一体何かな?」


 城壁の上から見下ろした先には、数万のゴブリンが整列していた。


「国内に既に入っている間諜を相手にするには、自警団の方々だと荷が重いと思ったから代わりに町や村の警護に回そうと思ってね」


セラが手を上げると、ゴブリン達が一斉に敬礼する。


「ギャギャギャッ!」(私達の存在は、これからもセラ様と共にあります)


 よく見ると、ゴブリン達全員がセラが身に付けているガトリンクバックラーを装備していた!


「ちょっと待て! あれを量産したのか!? あんな物を投入したら、これまでの戦争が子供の遊びになってしまうぞ」


 ゴブリンが横一列に並んでガトリンクガンを斉射しながら進む光景、考えると胃が痛くなりそうだ。

 だが1発で胃に穴が空く行為を、実は既にセラはやらかしていた。


「でもセラ様、最初に作ったあの大きな奴はどこに配置したのですか?」


 人差し指を口に当てるセラを見て、リィナは失言に気付く。

 だが時既に遅く、ボッチに勘付かれてしまった。


「なあセラ、その大きな方って一体何の事かな?」


「え、ええと……。 多分、リィナの見間違えじゃないかなぁ?」


「嘘だよね、その言い方は間違いなく嘘だ」


「ほら、試練を受けた時に倒した奴居るでしょ。 あの時から実は作れる様になってたから、少しだけ改造しちゃった」


 舌を出すセラの胸倉を、思わずボチは掴む!


「お願いだ、教えてくれ。 一体何を作り出したんだ!?」


 作り出したものの正体を聞いたボッチは、その場で気絶した……。




【トリタリス公国の簒奪を企み新公王を意のままに操る、セラ・ミズキを討伐する軍を派遣する運びとなった。 近隣諸国にも今回の遠征に協力した頂きたい、勝利の暁にはトリタリスよりこの恩に報いる為に領土などが分与されるであろう】


 テルメキアが周辺各国に送った書面には、このような事が書かれていた。

 要は皆で攻め落として、領土を奪い取ってしまおうという意味である。

 大国と組んで楽に領土の拡大が出来ると多くの国が参戦する中、参戦を断った国が1つだけあった。

 それは、セラ達の生まれ故郷の国である。

 成人前から色々とやらかしているのを知っているので、手を出せばどうなるかなどすぐに予想が付いたのだろう。


 そしてその予想はズバリ的中する。

 テルメキアが周辺の国と示し合わせた開戦日前日、異変は起きた。

 トリタリスの国境に向かっていた、全ての国の軍勢が壊滅したのである。

 地面にはおびただしい数の穴が空き、攻撃の苛烈さを物語っていた。

 しかしトリタリスに1日で他国の軍を滅ぼせる力は存在しない、と決め付けていた軍の上層部は対応に数歩出遅れてしまう。


 その力はトリタリスの国境を3kmおきに、点々と配置されていた。


「……ねえセラ、これが3kmおきに立っているの?」


「ええ、そうよ。 彼らが居る限り、この国に攻め込める人は居ないわ」


「創った本人以外はね……」


 リリアの目の前に立っているもの、それは体長が30mにも及ぶ白銀のドラゴンであった!

 神々の試練の際に、速攻で倒してしまったクリムゾンドラゴン。

 セラはその時から、ドラゴンも創造出来るようになっていた。

 だがセラはそのドラゴンに、恐るべき力を与えていたのだ。


 ただでさえ硬い龍の鱗をミスリルでコーティングすることで、対魔法攻撃に対する防御力を強化。

 そして世界に知れ渡った時、人々を驚愕させたのがドラゴンの両肩にそびえる2つの円筒形の存在。

 その頂点には、断罪塔と呼ばれているファランクスが付いていた……。




「ねえセラ君、一体このドラゴンを何体作ったのかな?」


「一杯」


 セラの返事とボッチがセラの首を絞めたのは、ほぼ同時だった。


「明らかにやりすぎだろうが!? 確かにこの国には誰も手出し出来なくなったが、後でどう落とし前を付ける気だ? このドラゴンを使って、世界でも征服する気か!?」


「征服なんて興味無いわよ。 だけど今回テルメキアの要請に応じた、お馬鹿さんな国々の軍事力は徹底的に削がせてもらうけどね」


 セラはそう言いながら、新たなモンスターの創造を始める。


「さてとファランクスドラゴンがこれだけ居れば抑止力としては十分だから、今度はこちらから攻める力を作ることにしますか」


「おい! 今度は何を創るつもりだ!?」


「ガトリンクドラゴン、ファランクスドラゴンをコンパクトにして両肩の装備を変更するだけよ。 空から各国の軍事施設を全て破壊させる」


 流石にこれ以上は看過出来ないと、ボッチは口を挟んだ。


「セラ、いい加減にするんだ。 お前がこれ以上この世界のバランスを崩すならば、我々は持っている力の全てを取り上げなければならなくなる。 付け加えて言えば、闇に閉ざされた牢獄に封印する可能性だってあるんだ」


「ボッチ、今回の戦いは今後この世界で無駄な争いを起こさせない為のものでもあるのよ。 変な言いがかりを付けて、他国に攻め入るような愚かな連中を生み出さない為にもね。 だから力を見せ付けるの、この戦いが終わったらドラゴン達は世界中を監視する役目に就くのだから……」


 ボッチにはセラの考えていることが、まだ理解出来なかった。

 だがこれ以上関係無い人を、この争いに巻き込く訳にもいかない。


「施設を破壊するにしても、この戦いと無関係な一般人だけでも逃がすんだセラ。 そうでなければ、一方的な蹂躙・虐殺行為になってしまうぞ!」


「あらボッチ、施設に居る人間で無関係じゃない人が果たして居るのかしら? 働く人だったとしても、トリタリスに侵略しようとしていること位は知っている筈よ。 それなのに見てみぬふりをするのは、戦争に協力するのと同じ意味だと思わない?」


 セラの顔から一瞬感情が消えた、それは思わずゾッとするような冷徹な美だった。


「自分は何もしていないから、無関係な一般人だなんて虫が良すぎるわよ。 男も女も関係ない、のうのうと生きられると思っている人にはお灸を据えないとね。 それが例え、死ぬ結果になったとしても……」


 今日のセラは何かがおかしい、生き急いでいるようにも見える。

 何がセラをそうさせるのか、ボッチはこの時に聞いておくべきだった。


 そうすれば、あんな結末は迎えずに済んだ筈なのに……。

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