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断罪塔の裁きの章  嫌な再会と楽園建国の決意

近くを通りがかった旅人が、騎士達に囲まれた少女を心配そうに見つめていた。


セラ達がたった4人に対して、白薔薇騎士団は30人。

何も知らない人たちからすれば、多勢に無勢としか見えないだろう。

だが実際の戦力差は逆で、リリア1人でも30人程度は素手で全員殴り倒せる。

リィナの場合はミスリルの鎧すら拳で打ち抜いてしまうので、※cmの爆弾と呼んでも差し支えないだろう。


いずれにせよ、女性に怪我を負わせるわけにはいかない。

どうしたものかと考えていると、都の方から1頭の馬が近づいてきた。


「そこの者たち、止まれ~!」


白馬に乗った青年が大きな声で、呼びかけている。

セラ達を包囲していた白薔薇騎士団は、剣を鞘に戻すと一斉に跪拝した。

今回の騒ぎの元凶が自らやってきたのに気付くと、セラ達の怒りは頂点に達しようとしていた。


「そこまでだ。 僕の為に、君達が傷つくのが耐えられない。 だから、思わず単騎で来てしまったよ」


キラーンッ☆


白い歯を見せながら笑顔を振りまくボッチ、騎士団の中には喜びのあまり気を失う者まで居た。

しかしリリアやリィナは氷点下に近い冷めた顔をしており、アイリは何が起きているのか分からず困惑している。


そして、セラの反応はというと……。


チャキッ!


(えっ!?)


ドルルルルル……!


即座にガトリングガンを向けると、威嚇ではなく本当に怒りをぶつけた。


「こっ、公子! おのれ、やはり公子を害するつもりであったか!?」


ミレイユが剣を抜くと、セラは呆れたように答える。


「この程度で、死ぬような奴じゃないわよ。 よく見なさい」


「痛い痛い! 久しぶりの再会なのに、酷いじゃないかセラ」


数百発は喰らっているのに、ボッチは傷1つ負っていなかった。

それを見た騎士団の面々は、唖然としている。


「だいたいね、お仕置きはこれからが本番なんだから」


(えっ!?)


気付くとセラの両脇には、2つの塔がいつの間にかそびえ立っていた。

それを見たボッチは、脱兎の如く逃げ出す!


「セ、セラ。 それはマズイ! マジでマズイって!」


「うるさい! 私の可愛いアイリの記憶をいじくった罰を受けなさい」



ブィイイイイイ!!



「ぶべっ!?」


2つの断罪の塔が、一斉に火を噴いた。

ボッチは一瞬で数十m飛ばされ、更には砲火で出来た大穴へと落ちてゆく。

1分ほどの掃射で深さ20mほどまで掘られた穴から、やっとボッチが這い出てくると彼の顔はボコボコになっていた……。


「ほっ、本当に死ぬかと思った」


「あら残念。 次はリアジュウの番だけど、この様子なら1000発くらい当てる数を増やしても大丈夫そうね」


セラがさらっと答えた内容に、騎士団の面々はゾッとした。

間違いなく彼女ならやりかねないと。


「あ、あの! リアジュウ様はお城の中に居りますので……」


騎士団の1人が、やんわりと止めるように伝えてみたものの


「それが何か? 城の1つや2つ全壊させたって、あいつならすぐに直せるわよ」


最早、あいつ呼ばわりである。

息も絶え絶えのボッチの胸倉を掴むと、セラはニッコリと微笑みながらこめかみにガトリンクガンを当てた。


「さてボッチ、今すぐリアジュウの所まで案内しなさい。 拒否したら、このあなたからのプレゼントで頭がケチャップになっちゃうわよ」


即座に首を縦に振る、ボッチ。

満足したセラはボッチだけにしか聞こえない声で、耳打ちした。


『それから……あのミレイユって娘、あとで私の部屋に呼んでもいいかしら?』




トリタリス公国の首都トリス、大勢の若い女性達が来た事で多くの商人もその流れを察知して訪れている。

衣料品やデザートを扱う店が特に人気となっており、長蛇の列が出来ていた。

そんなトリスの中央に在るのが、トリタリス公王リアジュウが住むモテモテハーレム城であった。


「ねえ、名前がむかつくから全壊させても良いわよね?」


城門前でファランクスの設置を始めようとするセラを、ボッチと白薔薇騎士団の面々が全力で止めた。


「頼むセラ! 怒りを抑えてくれ」


「お願いします、城の中には無関係なメイド達がおりますので」


「メイド!?」


メイドという単語を聞いて、セラは急にそわそわしだした。


「メ、メイドさん達に囲まれてお茶でも飲ませてくれるなら、お城を壊すのは止めておこうかな~?」


それを聞いたリリアとリィナは、その後仕立屋ゴブリンにメイド服の製作をこっそり依頼する事となる……。


その後謁見の間に通されたセラ達だったが、公王との謁見は一食触発の極度の緊張感に包まれていた。


「な、なあセラ。 それをこちらに向けるのは止めないか?」


「それはあなたの回答次第ね、リアジュウ」


断罪の塔と呼ばれ始めているロシア製ファランクス2門が、玉座に座るリアジュウに狙いを定めていた。

白薔薇騎士団の面々も念の為護衛として列席しているが、その威力を間近で見ているのでうかつに手が出せない。

普通では考えられない状況に困惑している大臣達とは対照的に、セラ達は威風堂々としておりどちらがこの場を主なのか正直分からなかった。


そしてセラは事もあろうに、リアジュウの隣に座る2人の女性の品定め中だ。


リアジュウのすぐ隣に座るのが恐らく王妃のナリス、さらにその隣でこちらを睨んでいるのがボッチの妹になっているナヴィアとかいう姫なのだろう。


ナリスはお金持ちのマダムという印象で食指が伸びないが、ナヴィアの方は勝気そうな目がセラの中にほんのわずかだが加虐心を芽生えさせている。


「そろそろ我々だけで話すか、こう観衆が多いと落ち着けん」


リアジュウが指をパチンと鳴らすと、周囲の時間が停止した。




「さてとそれじゃあ、お前達2人が何故公王や公子なんてふざけた真似をしているのか説明してもらおうか?」


殺気を込めながら問いかけると、リアジュウはあっけらかんとしながら物凄く単純な回答を教えてくれた。


「えっ? ボッチにも選り取り見取りのウハウハハーレムって奴を味わわせたかっただけだが……」


お仕置きは最後に取っておこうとセラは誓う、そして次の質問をする。


「それじゃあ、本来公王だった人はどうなっているんだ?」


それに対する答えも酷かった。


「今は農民として、畑を耕しているんじゃないかな? まあ元々この国もテルメキアに攻め込まれて滅亡する運命だったから、命拾いしたともいえるね」


(滅亡? それじゃあ、このナリスや姫のナヴィアはどうなっていたんだ?)


「おいリアジュウ。 もしお前らが介入していなかったら、隣に居る王妃や姫は今頃どうなっていたんだ?」


その答えも残酷なものだ。


「それは当然、王家に連なる者は全員処刑されているだろうな。 国を完全併呑するのに前の王家の者が生き残っていては困るから」


怒りも湧くが心の一部では安堵していた。

こいつらの悪ふざけが無ければ、今頃この2人の女性はこの世に居ない事になる。

王妃は仕方ないにせよ、ナヴィアの方は愛妾にするなり生かす事だって出来た筈だ。

そうなると次に問題となるのは……。


「お前ら、いずれは神の世界に帰ると思うが、そうなればこの国はこの後どんな未来になるんだ?」


「そうだな。 公王と公子が謎の失踪を遂げた事で、テルメキアは2人が暗殺されたのだと一方的に公表して弟暗殺の責を問うと宣戦布告。 その後はやはり王妃と姫を首謀者として処刑、そして完全併呑の流れとなるな」


それじゃあこの2人は、結局死ぬ未来しかないというのか!?

リアジュウへの怒りも忘れて、2人の女性を救う道を考えるセラ。

すると単純明快な解決方法が有るのに気が付いた。


「そうだ、この手が有ったんだ!」


「一体、どんな手を思いついたのか聞かせてもらってよいか?」


リアジュウが恐る恐る聞いてみた。


「お前らが帰ったら、今この都に来ている女の子達も巻き添えを食らってしまう。 それならこの都だけ、小国家として独立させちゃえば良いんだ」


『小国家として独立!?』


急にとんでもない事を言い出したので、リアジュウとボッチは同時に叫んだ。




「幸いボッチが下地を作ってくれたお陰で、女の子が自分達からここに集まってきているわ。 だったらこの都を女の子が一杯のハーレムにして、わたしが治めるの。 そうすれば、王妃や姫は死なずに済む」


「いや、たしかにそうかもしれないが。 そうなると、いつテルメキアが軍を率いて攻めてくるか分からないぞ?」


リアジュウの問いに、セラはファランクスを指差して答える。

それを見て何が言いたいのか分かったので、それ以上言うのを止めた。


「たしかにそれさえ有れば、神群でもない限り手出しは出来ないだろう。 だが本気でこの地を、お前の理想郷へと変えるのか?」

リアジュウの最終確認に、セラは元気良く答えた。


「もちろん! そしてこの都に住む女の子達を、全員わたしの彼女に迎え入れるの。 考えるだけでワクワクするわ」


パチンッ!

リアジュウが指を鳴らすと、周囲の時間が再び動き始めた。

何故か急に呆れた顔をしている夫に驚く王妃ナリスに、セラは話しかけた。


「あのナリス王妃、急な申し出となりますが……一生かけて絶対に幸せにします。 だからナヴィア姫を、わたしの彼女としてください!」



『はぁっ!?』



ナヴィア本人はもちろん、謁見の間に居た公国関係者が一斉に驚きの声をあげる。

それをボッチとリアジュウは、ただ呆然と見ているだけだった……。

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