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断罪塔の裁きの章  思惑

「セラ様、次の目的地は隣国のトリタリス公国にしませんか?」


朝食を食べている最中、皆の前でアイリは提案した。


「トリタリス公国には何があるの?」


問いかけるセラに、アイリはこう答えた。


「トリタリス公国は、北の大国テルメキアの王ゴドスの実弟リアジュウが婿入りした国です」


(リアジュウ?)


セラは、懐かしい名前を聞いた気がした。

しかし偶然名前が一緒なのだろうと、この時は気にしなかった。


「そのリアジュウ大公の子息のボッチ公子が若い女性を優遇した政策や地位の向上を図っておりまして、近隣諸国からも移り住もうとする娘が出ている次第です。 セラ様がお気に召す娘達がきっと大勢居る筈ですよ」


言い終えると、セラ・リリア・リィナの3人が何故か頭を抱えていた。


「どっ、どうされたのですか。 3人とも!?」


「リアジュウにボッチ……。 何を考えていやがる、あの2人は?」


急に前世の男口調に戻ったセラを見て、アイリは驚いた。

何も教えないのは不公平なので、セラ達はアイリにこれまでの経緯を話す。

最後まで聞いたアイリは半ば呆れながらも、納得してくれたようだ。


「前世で彼女が出来なかったから、可愛い女の子に生まれ変わって仲良くしたい。

……多分、そんな事思いつくのセラ様だけですよ?」


うんうんと頷く、リリアとリィナ。

でも実際にこうして彼女を3人作れたのだから、セラは満足している。


「とりあえず次の目的地はトリタリス公国にしましょう。 意図を確かめないと」


行き先が決まった4人は、街道に出るとトリタリス公国に向け歩き始めた。




トリタリス公国に近づくにつれ、セラ達はうんざりし始めていた。

公国に向かおうとしている若い女性達が皆、こぞってボッチのお嫁さんになりたいと言っているのだ。


「ボッチ様の心を射止められた女性は、きっと幸せでしょうね」


「当然よ、だって女性をこよなく愛しておられる方なのですから」


「妾でも構わないから、ボッチ様の目に留まる方法ってないかしら?」


試練の日から会っていない間に、何が起きたのだろうか?

セラは、例えようの無い胸騒ぎを覚えた。


そして翌日、国境の関に到着すると若い娘達の長蛇の列が出来ていた。

鼻腔をくすぐる娘達の香りを嗅いで、セラの口からは思わずヨダレが。


「セラ、口からヨダレ」


「これは失敬」


「この並んでいる女性全てが移住者だとすると、トリタリス公国の優遇策は既に異状な域に達してます。 まともな施政者のする所業ではありません」


アイリの言うことはもっともだ、簡単に生まれ故郷を捨てさせるほどの優遇策。

それが非常識なものなのは間違いない、その時気を利かせたリィナが前に並んでいた娘に声を掛けた。


「先日近くの村でこのトリタリス公国では若い女性を優遇していると聞いたのですが、どんな事をしているのか知っていたら教えて頂けませんか?」


「あら、何も知らないで来ちゃったの?」


「はぁ、実はそうなんです。 私達、故郷を出たばかりでまだ右も左も分からなくて……」


無知な少女を演じるリィナ、それを見て気を良くしたのか娘は話し始めた。


「5年前にリアジュウ様が婿に入られたの、そして翌年ボッチ公子が誕生して公王にリアジュウ様はなられた」


「そして去年、ボッチ公子の16才の成人の儀の折に公子が宣言されたのよ『16~25歳までの女性全員の税ならびに医療費を無償にする』って」


4年前に誕生して、去年16才の成人の儀?

あきらかに計算がおかしいのに、目の前の娘はそれに気付いていない。

どうやらリアジュウとボッチが、この世界の住人の記憶を操作したらしい。

セラ達3人に影響は無かったが、アイリだけはこの記憶操作を受けていた。


「アイリの記憶まで変えているなんて許せないわ、懲らしめてあげないと」


どんなお仕置きにしようか考えていると、いつの間にかセラ達の順番がやってきた。




「トリタリス公国へは、どのようなご用件で?」


「ええと私達はなったばかりですが冒険者でして、こちらで何か良い仕事でもないか探しに来ました」


「失礼ですが、お名前を聞かせてくださいますか? リーダーの方のみで結構です」


普通は全員の名前を確認するものだ、前の組も調べられていた。

首を傾げながら、セラは担当の兵士に答えた。


「セラ、セラ・ミズキです」


「セラ・ミズキ……。 よろしい、どうぞお通りください」


「えっ!?」


驚いたのはセラだけではない、後ろで順番を待っていた者や担当兵士の補佐まで仰天していた。


「本当に良いの?」


「はい、問題ありません。 どうぞ良い旅を」


「はっ、はぁ……」


いまいち納得出来なかったが、公国に無事に入れたので気にするのを止めにした。

セラ達の姿が見えなくなるのを待って、担当兵士が補佐に指示を与える。


『急いで白薔薇宮に居られる姫に知らせに行くのだ、決して見つからぬように』


それから3日後、都を目指していたセラ達は突如現れた白い騎士の集団に囲まれた。

ミスリル製の白い甲冑の至る所には薔薇の装飾が施されており、その見た目の派手さは豊富な資金力を裏付けるものとなっていた。


「私達に、何か用かしら?」


セラは集団に向かい問いかけた、すぐにガトリンクガンで攻撃しなかったのは騎士達が全て若い娘だったからに他ならない。


「あなたが、セラ・ミズキですね?」


集団の中から、白馬に乗った女騎士が歩み出た。

美しく澄んだ蒼い瞳をしているが、セラの視線はその髪型に釘付けとなっていた。

金色に光り輝く金髪だが、正面から見るとドリル状に左右でぶら下がっている。

俗にいう縦ロールと呼ばれる髪型だが、初めて見たセラは興奮を抑えきれない。


「はいはい! 私がセラ・ミズキです」


「……そうですか」


ため息を吐きながら、女騎士は静かに剣を抜いた。

対するセラの方は、この女騎士をターゲット(彼女候補)にロックオンしていた。


「我が名は白薔薇騎士団団長、ミレイユ・エヴァンス。 ボッチ公子を惑わす魔性の女セラ・ミズキ、妹君ナヴィア姫の命により、成敗致します!」


公子を誑かした悪女と言いがかりをつけられたたセラ達は、お仕置きの中身を一段階上げる事を決めた。

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