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転生~旅立ちの章~ そして大賢者は転生した……。

(う~む、自分自身の葬式を見るのって中々斬新だな)


 瀬良 瑞樹(享年43歳)は自身の葬儀を見ながら感傷に浸っていた、事の発端は3日前の帰宅途中での出来事である。

 生まれてこの方彼女という存在を得た事も無く、両親からも半ば諦められている瑞樹はこの日も日課の理想の嫁の姿を妄想しながら家に向かっていた。


(はぁ~藍色の髪で髪型はポニーテール、瞳の色も髪と同じで胸は手に収まる位、背は160cm前後の嫁が目の前に現れてくれないかな……)


 空を見上げながら妄想に耽る、周囲から何やら悲鳴に近い声も聞こえるが瑞樹には日課の妄想の方が大事だった。


「危ないぞ、避けろ!!」


 耳元で聞こえた大声で我に返った瑞樹が正面を向くと、すぐ目の前に1台のワンボックスカーが迫っていた……。


ドカッ! グォオオオオー!!

 減速する事も無く瑞樹を撥ねてそのまま逃走する車、口の中に血の味が広がる。


「おい、大丈夫か! 返事をしろ……お…


 不思議と痛みも無く、ただ瞼が重くなってきた。

 応急処置を行おうとする男の声が徐々に遠ざかりながら意識が途絶え、瑞樹は43年という生涯を終えたのだった……。




 そして魂となった現在、特にやる事も無かったので自身の葬儀を瑞樹は見学している。

 弔問客の中には男性の同僚達の姿は有ったが女性陣は皆無で、女性との交友が無かった事を改めて痛感させられた。


(次は女の子に生まれ変わって、可愛い子達と仲良くなりたいな)


 瑞樹は彼女が居なかった事への反動で、自身が女の子になりたい願望を何故か抱いてしまった。


『その君の願い、この私が叶えてあげようか?』


 背後から声を掛けられた瑞樹が思わず振り返ると、そこには1人の青年が立っていた。

 中世ローマ時代の様な白い布で身体を覆っているので、怪しい事この上ない。


「あんた一体何者だ?」


『ああ、これは失礼。 私の名はボッチ、こことは違う別の世界を治めている神の1人だ。 こちらの世界で私とよく似た魂の存在を感じてね、こうして会いに来たという訳だ』


「俺があんたと似ている?」


 瑞樹にはボッチと名乗る神の言っている事がよく理解出来ない、するとボッチが瑞樹に驚くべき事実を告げた。


『私は神として誕生してから4億年以上生きてきているのだが、これまで彼女神ハニーという存在を得た事が無くてね。 周りの神達からは、大賢神と呼ばれ馬鹿にされてきた。 私だって彼女神ハニーは欲しい、だけど私のどこが悪いのか分からないまま声を掛ける事も出来ず今に至っている……』


 その時、ボッチの肩を瑞樹は掴んだ。

 目には涙さえ浮かんでいる。


「分かる、分かるぞその気持ち! 俺だって彼女を作ってデートくらいしてみたかったよ、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう~!!」


 お互いを慰める様に、2人は声を押し殺しながら男泣きをする。

 どれくらいの時間が過ぎたのだろう?

 ようやく2人が落ち着くと、近くの公園へ場所を移して話を再開した。




『まあ、そんな訳で君の願いに私の願いも託そうと思うんだ。 君を私の世界に望む形で転生させる。 そして私の代わりに様々な女の子達と仲良くなって、この心の渇きを癒してくれないか?』


「本当に俺の望む形で転生させてくれるのか?」


『ああ、まずは私の世界について何か聞いておきたい事は有るかい?』


「そうだな。 俺がよく読むライトノベルだと異世界ってモンスターなどが住む剣と魔法の世界のイメージが強いんだけど、ボッチの世界はどうなんだ?」


 瑞樹の問いに、ボッチはポカーンとした顔になった。


『よく分かったね! その通りだよ、私の世界は様々な人種やモンスターが住む世界でねスキルという名の技を使って生活しているんだ』


「スキル?」


『ああ、剣や槍に斧を使うにしても武技という名の各種スキルが必要となる。 それと同様に魔法にも色々な名のスキルが存在しているのさ、だけどそのスキルを持っている者は少ない。 なので強いスキルを持つ者は、必然的に国家の貴重な戦力として大切に扱われる』


(スキルか、強いスキルを最初に貰ってしまうと折角女の子と知り合う機会が有っても怖がらせてしまうかもしれない。 だけど自活出来るだけの強さは残しておかないといけないから慎重に選ばないとね、しかし……スキルって一体どんなのが有るんだろう?)


 瑞樹が悩んでいると、ボッチが1冊の本を差し出す。


『これがスキルブックという現在存在するスキルの一覧表だ、もしこの中に無ければ教えてくれれば可能な物ならこの場で作っても良いよ。 あ、それから持つ事が出来るスキルは3つまでだからね』


「それは凄く有難い」


 スキルブックを受け取ると、瑞樹はさっそく役に立ちそうなスキルを探し始めた。


(どれどれ? ほう、異世界物の定番アイテムボックスが有るのか! これは確定だな、あとは1人でも旅が出来る様に、小さい頃から訓練出来たり休める場所でも在れば良いのだけど……)


 そんな都合の良い物が有る筈も無く、瑞樹はボッチに聞いてみた。




「なあボッチ、そっちの世界で転生したらいずれ1人で生きていかないとならない。 だけどその為には誰にも気付かれない様に訓練をしたり、いざという時に逃げ込める場所が欲しい。 そんなスキルを作れないかな?」


『う~ん、作れない事は無いけどその場所に入れるのは君1人だけで良いの?』


「どういう事?」


『例えばさ、仲良くなった女の子と旅をしていて賊に襲われたとする。 君1人だけ逃げ込んだらその女の子は取り残されてしまうよね? どうせなら、君が認めた女の子も一緒に入れる空間を作れるスキルを作ってあげるよ』


 瑞樹はボッチの手を強く握り締めた。


「それで頼む! 女の子を残して逃げるなんて真似は出来ない、よく気付いてくれた」


『じゃあ、5~6人で生活しても狭く感じないだけの居住スペースと仮想訓練場をセットにした位相空間を作り出せるスキルを生み出そう。 名前は何にしようかな、そうだ【私だけの秘密基地】と名付けよう! 無論、君だけの為のスキルだから他の者が同じスキルを持つ事は無い様にしておくよ』


「じゃあさオマケでその位相空間側から外の状況が見える様にして欲しいのと、出る際の場所も変えられる様に出来ないかな?」


『それくらい簡単だけど、どうしてだい?』


「ほら、出てくるのを待ち伏せされたら困るしね。 出たところを一斉攻撃させて即死なんて、目も当てられないからさ」


 ボッチは瑞樹の答えに納得すると、その機能もオマケで加えた。


『よし、これで【私だけの秘密基地】が完成だ。 スキルに目覚めるのはおおよそ10歳位だから、訓練場の使用方法などはその時が来たら夢の中にでも現れて説明させてもらうよ』


「楽しみにしているよ。 そういえばさ、そっちの世界の言葉や文字は改めて覚え直さないと駄目?」


 言葉や文字を覚え直すのを面倒臭く思った瑞樹は試しに聞いてみた、するとボッチは急に自身有り気な顔で笑い始めた。


『フフフ、多分そういう心配をすると思ったよ。 だから既に私達の世界の言語や文字を日本語をベースとした物に変えておいた! 君と話をしながら生物やモンスター達の記憶だけでなく、文献やメモ書きに至るまで全てを書き換えるのには苦労したよ』


(それは流石にやりすぎだろ!)


 万能言語や自動翻訳とか有るだろうが!と内心でツッコミを入れそうになったが、それを得ようとすると数少ないスキルの枠を使用してしまうかもしれない。

 ようやく瑞樹はボッチの気配りに気付く事が出来た。


(俺の為にそこまで……絶対にお前にも誰もが羨む理想の彼女を見せてやるからな!)


 女の子に生まれ変わる筈なのに、友達ではなく彼女を作ろうと考えている瑞樹。

 転生した後の行動が気がかりである……。




「今のところ貰うスキルは【アイテムボックス】と【私だけの秘密基地】で決まっているけど、最後の1つが中々決まらないなぁ」


『まあ、これからの新しい人生を左右する大事な物だからね仕方ないよ。 でも大半の者はそのスキルを1つも持たずに生活をしているんだ、私のしている事が破格の対応だと分かってもらえるかい?』


「ああ、だから安易に選ぶのは逆に失礼だ。 もう少しだけスキルブックを読ませてくれ」


『ならば探すのは少しだけ後にして、先に転生後のステータスでも決めておくとしよう』


「ステータス?」


『そうだ、力・魔力・体力・素早さの4つの項目が有りHP(生命力)は体力、SPスキルポイントは魔力に依存している。 スキルを使うにはそのスキルに応じたSPが必要になるからね、君には【私だけの秘密基地】が与えられるから魔力を少しだけ多めにしておいた』


 瑞樹はステータスの説明を、もう少し詳しく聞いてみる事にした。


「すまん、ボッチ。 ちなみにステータスの上限はどれくらいなんだ?」


『そうだね、上限は最高で999だけど999に到達して試練にクリアすれば更なる上限として9999が与えられる。 でも999に到達出来る者はほとんど居ないよ?』


「ちなみに俺が何も変えなかった場合のステータスを教えてくれないか?」


『君の場合、生まれた直後のステータスと上限はそれぞれ以下の様になるね』



力=10(上限50)


魔力=20(上限100)


体力=15(上限65)


素早さ=15(上限50)



「……これって弱くね?」


『仕方ないだろ、君は女性に生まれ変わるのだから。 だが今ならまだステータスと上限にボーナスを加える事が出来る、特別に999の数値をあげるから好きな項目に振り分けると良いよ』


「じゃあ、魔力のステータスを120にして魔力の上限を999に変更してくれ」


『えっ!? 全部を魔力に振ってしまって良いの?』


「どちらにせよ、スキルを使うにはスキルポイントとやらが必要となる。 そして【私だけの秘密基地】はそのスキルポイントを多く使うんだろ? ならば、全部を魔力に振っても問題無い筈だ」


 あっさりと魔力のステータスと上限に全てを振り分ける事を決めてしまう瑞樹、ボッチは言われた通りに変更したのだがこれが原因で後に他の神々からお叱りを受ける事となった。



力=10(上限50)


魔力=120(上限999)


体力=15(上限65)


素早さ=15(上限50)



『魔力のステータスと上限を言われた通りに変更したよ、それじゃあ最後のスキルを決めようか』


 再びスキルブックを見始めた瑞樹は、あるスキルが目に入るとボッチに尋ねた。


「ボッチ、ちょっと良いかな? この【怪物創造】って一体どんなスキルなんだ?」


『【怪物創造】? ああ、モンスタークリエイトの事ね。 それは自分だけのオリジナルモンスターを創る事が出来るスキルだよ』


「自分だけのオリジナルモンスターを創る事が出来るスキル!?」


『でもそこまで驚く様なスキルじゃないよ。 実際に見た事の有る動物等や、実際に倒した事の有るモンスターをベースに何か特徴を1つ加えられる程度だし。 精々、鳥を見張り役にする程度の活用法しかないよ』


 何か特徴を1つ加えられる程度、瑞樹はこのスキルにはボッチが考えている以上の力が秘められている事に気が付いた。


「ボッチ、最後のスキルが決まったよ。 この【怪物創造】にする」


『本当にこんなスキルで良いの!?』


「ふふふ、多分後でボッチはきっとこのスキルの本当の凄さにビックリすると思うぞ」


『?』




 スキルとステータスも決まり、いよいよ転生する時がやってきた。

 静かにその時を待つ瑞樹に、ボッチは白い卵を2つ手渡した。


「これは?」


『それは最後に私から君への贈り物【ギフト】だ、10歳の誕生日を迎えスキルに目覚めた時にその卵も割れる様に細工をしておいた。 割る際に君が思い描いた通りの姿をした物へと変わる、剣でも鎧でも好きな物にすると良いよ』


 この2つの【ギフト】こそボッチ最大の失敗であり、神々の試練さえも鼻で嘲笑う結末を引き起こす事になろうとは誰もこの時は予想が付かなかった。


『それから君が16歳になった頃の姿を先に見せてあげよう、望み通りであれば良いのだが……』


 目の前に鏡を現れたので覗き込んで見ると、転生後の姿に瑞樹は驚愕する。


(藍色のポニーテールと瞳、それとやや低めの身長と控えめな胸。 整った顔立ちと凛とした眼差し、これは俺が何度も夢見てきた理想の嫁の姿そのものじゃないか!?)


『気に入ってもらえたかな? 君が望む姿に将来なれる様にしてみた、準備が出来たなら私の居る世界で君と私の望みを叶えておくれ。 そして新しい人生を存分に楽しむと良い、大賢者 瀬良 瑞樹よ!』


 瑞樹の魂が白く輝き始めると、あっという間に天に向かい上昇していく。

 地上で手を振りながら見送るボッチに、瑞樹は反射的に叫んだ。


「俺は女の子に生まれ変わって可愛い子達と仲良くなりたいとは望んだが、理想の嫁の姿に俺自身がなりたいとは一言も言ってないぞ。 それと俺の事を絶対に大賢者と呼ぶんじゃねえ~!!」


 声が地上まで届かないのが分かっていても、叫ばずにはいられない。

 そして頭上に見えた恒星の様に熱く燃える存在に飛び込むと、瑞樹の魂はボッチの居る世界へと旅立つのだった……。





 ……オギャア、オギャア!

 とある小さな村で1つの命が誕生した。


「おめでとうございます、奥様。 元気な女の赤ん坊ですよ」


「そう、この子が私の娘なのね」


 愛おしい様に赤ん坊の手に指を添える女性、女性の指を掴むとすぐに泣き止んで寝息を立て始める赤ん坊。

 すると力強い足音と共に、横になっている部屋の扉が勢い良く開かれた。


「ヒルダ、無事に俺達の子が産まれたか!!」


 大きな声に驚いたのか、赤ん坊が再び泣き始めた。


「あなた、安心して寝ている所を起こしては駄目ですよ。 ほら見て、元気な女の子ですよ」


 ヒルダと呼ばれた女性が身を起こしながら、赤子を夫に静かに手渡した。

 ようやく産まれた我が子を抱きかかえながら、男は涙を浮かべる。


「よしよし、俺がお前の父さんだぞ。 これからよろしくな」


 妻の手に産まれたばかりの子供を返すと、夫は妻ヒルダに優しく話しかけた。


「男の子だったら俺、女の子の時はヒルダお前が名前を付ける。 それが子供を授かった時に2人で決めた約束だ。 約束通り、この子の名前を付けてくれ」


「名前は既に決めてありますよ、ヨハン。 この子の名前はセラ、セラにしましょう」


「セラ……セラ・ミズキ。 よし、今日からお前の名前はセラ・ミズキだ!」


 こうして大賢者(?)瀬良 瑞樹は父ヨハン、母ヒルダの娘セラ・ミズキとして生まれ変わったのだった。

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