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丸メガネの委員長

 


  俺達の通っている高校は当然、共学だ。

  女を口説く事に命をかける小鳥遊たかなしが男子校などを進学先に選ぶ訳がない。


  とは言え、中学時代からヤツと一緒だった俺が小鳥遊と同じ学校に進学したのは単なる偶然だったのではあるが。


  俺以外の小鳥遊の取り巻き2号・3号も中学時代からの腐れ縁だが、こちらも別に小鳥遊を追っかけて進学した訳ではない。

 

  4人とも共学の学校を狙いつつ偏差値と相談してこの学校を選んだに過ぎない。


  だが、小鳥遊も含めて、俺達は決して勉強の出来が良くないから、同じくこの学校に通う女子達も頭の出来は知れているといったものだ。

  だが、顔の可愛い女の子は沢山いる。俺達には関係ない存在だが。



  「オイ、小鳥遊よ。そう言えばお前、クラスの女の子をセクハラ……いや、口説いた事は無いよな」


  昼休み。取り巻き2号が何気なく質問した。

  小鳥遊は笑う。


  「ああ、そうだったかな。でもな、僕には最近このクラスで気になる女子ができたんだ」


  「そうなのか? 誰?」


  小鳥遊は自信有り気にとある女子生徒を指差した。指を指すな指を。感じ悪いだろ。

  だがその女子は小鳥遊の指差しに気付く事なく自分の席で静かに読書をしていた。


  「え? 委員長?」


  俺達は意外に思った。

  空町そらまち朝子あさこ

  メガネをかけ、今時長い髪を三つ編みにしている典型的と言ってよい地味な女の子。

  クラスの委員長としてホームルームを仕切る時以外は、いつも1人で静かに本を読んでいる。

  こんな学校にしては珍しく勉強が出来るようだが、それ以外に長所という長所は見当たらなかった。


  「へえ、委員長ねえ。でもさ、委員長に選抜されたのも単にテストの成績が良いからってだけだし、別に口説いて得になる事なんか無くね? 地味過ぎるしさ」


  取り巻き3号の疑問に小鳥遊は柔らかく反論した。


  「いや、得にならないなんてそんな事は無いね。彼女の成績の良さは分かるだろ? 廊下に張り出された成績表を見れば。彼女は常に学年1位だが、必ず全評価満点で、2位との差は歴然としている。それに、よく見れば整った顔立ちをしているよ」


  小鳥遊は続けた。


  「空町朝子……。彼女は本来なら、こんな学校にいてはいけない存在なのさ」


  そう言うと、小鳥遊は席を立ち、空町委員長の所に近づいていった。

  いつもの事だが行動力がパネエ。

  俺達も何気ないふうを装って委員長の席に近付き、事の成り行きを見守る事にした。



  「空町さんは、将来なりたいものとかはあるのかい?」


  小鳥遊が委員長に早速話しかけた。相変わらず質問の内容が唐突過ぎるし。


  だが空町委員長は小鳥遊の質問に答える事なく、読書を続けていた。

  無視している訳ではなく、本当に気付いていないらしかった。


  「『星の王子さま』か。随分可愛らしい本を読んでいるね」


  小鳥遊が再度話しかけると、委員長はやっとヤツの存在に気付き、驚いた表情をしていた。


  「あら、ごめんなさい……、本に夢中で。いつから話しかけてくれていたの?」


  「ついさっきからさ」


  「貴方は、ええと、小鳥遊……勇一くんだったわよね」


  さすが委員長なだけあって、クラスメートの顔と名前は頭の中に入っているらしい。

  小鳥遊ですら。


  「僕の名前を覚えていてくれてるなんて、光栄だな。最初の質問を繰り返させてもらうけど、空町さんは、将来なりたい職業とかはあるのかい?」


  空町委員長はハッとした目をしてうつむき、それから顔を上げた。


  「どうしてそんな事を聞くの?」


  「別に。君が勉強家で、いつも本を読んでいるから、そんな人が将来何を目指しているのか知りたくなっただけさ」


  委員長は『星の王子さま』をパタンと閉じて、まともに小鳥遊と向かい合った。

  こんなに最初の段階から手応えのあるナンパは初めてだったので、外野の俺達もワクワクしてきた。


  「宇宙飛行士……に、なりたいって言ったらどうする?」


  彼女の口から突いて出たのは意外なものだった。

  これが、小鳥遊にとって空町朝子が忘れられない存在の女性になったきっかけであった。


  「宇宙飛行士? NASAとかの、アレかい?」


  「そう。でも……。なーんてね。嘘よ。今読んでいる本に引き摺られて、そんな返事をしてみただけ。子どもっぽいなんて思わないでくれると嬉しいんだけど。小学生の頃から好きな作品なのよ。私が将来なりたいのは、本当はね……」


  キーンコーンカーコーン。授業開始のチャイムが鳴った。

  時間切れだ。


  「後で、さっきの答え合わせをさせてもらっていいかい」


  小鳥遊は自分の席に戻る前に委員長との約束を取り付けようとした。


  「ええ。でもつまらないわよ。期待しないでちょうだいね」


  席に戻る前に、小鳥遊が俺の耳に囁いた。


  「おい。あの三つ編みの彼女は思っていたより手強いみたいだぞ。今までみたいにはいかない」


  今までみたいにはいかないも何も、お前折角ナンパが成功しても好いてくれた女の子をすっかり忘れて足蹴にするようなヤツじゃないか。


  次の授業が開始した時、俺は焼きそばパンの食い過ぎでついつい眠くなり、前の席にいる小鳥遊が委員長攻略の為にカンペを作っていた事など気付きもしなかった。


 


 

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