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大審問官・3

 


  その時、エッチな風が吹いた。

  まるで小鳥遊たかなしの背中を押すようにして。



  「きゃあ!!」


  「ちょっと……!!」


  「イヤァ〜〜!!!」



  美少女達は皆ひらひらのスカートをはいていた為、各々下半身を抑えたが何人かはパンツが丸見えになった。



  「ッイヤ!! ウソ!!!」



  俺の横にいた美由起のスカートもめくれ上がった。

  俺は咄嗟に目を逸らそうとしたが時既に遅し、白いパンツがチラリと見えてしまった。


  「……雪村さん、見えました……?」


  顔を赤くして、恥ずかしそうに目を潤ませる美由起に俺は「見テナイヨ」とひと言返答するのがやっとであった。



  いや、そんな事より小鳥遊だ。


  美少女達は口々に小鳥遊に迫る。


 

  「ちょっとアンタ!! 今絶対見たでしょ!?」


  「このスケベ!!」


  「もう、最低!!」



  しかし、小鳥遊は両脚に置いた拳を震わせながら美少女達に言い放った。



 

  「フン、パンツくらい何だってんだよ……? お前らはおれともっと凄い事やってたじゃないか」


  「何ですって……?」


  ベル・アボット嬢が、訳が分からないという風に聞き返した。

  小鳥遊はベル・アボット嬢から目を逸らしながら震えた声で言う。



  「おい、外人さん。お前はおれとベロチューした時、『ア、アハァン……』なんていやらしい吐息を漏らしていたじゃねーか」


  「……What?」


  思わず母国語で返すベル・アボット嬢。



  「それだけじゃねえ、俺のサムライを見て『やっぱり日本人は硬質だわ……白人のとは違うわ……。サムライ……』とか言ってたじゃねえか!?」


  それを聞いた他の美少女達は、一斉にうろんな視線をベル・アボット嬢に向けた。


  「……貴女、この化け物とそんな事してたの?」


  「NO!! NO NO NO!!! そんな事する訳ないじゃない、貴女達騙されてるわ!! ちょっとタカナシ、いい加減なデマを言わないで!!」



  「おい、それに俺を神様とか言ってた女」


  渡辺淑子の事だ。


  「貴方はもう私の神ではありません。何のお言葉も下さらない人なんて神じゃないわ」



  「よく言うぜ。お前は、『神よ……、おお、神よ……』とか悩ましげに漏らしながら俺の手の指の隅々までチュパ……チュパ……と指と指の股まで舐め回していたじゃねーか、おれの手がお前の唾液まみれになるまでな」


  「はあ!? 貴方なんて事言うの!? 嘘です、皆さん、この悪魔の言う事を信じないで!?」


  渡辺淑子はその場で卒倒しそうになりながら叫んだ。


  ざわつく美少女達。

  美由起は聞いていられない、というふうに両耳を手で塞いだ。



  「おい、それから噴水のおばさん」


  「……私?」



  その場にいたのは噴水の君こと古戸派ことのは彩葉あやは氏以外は全員10代だから、敢えて『おばさん』に該当させるとしたら20代である彼女しかいない。



  「アンタ、酷い事してくれたな。嫌がるおれを無理矢理引っ張って、アンタん家の風呂場に……。おれの服を脱がせて……。おれは未成年だ、アンタのやった事は犯罪なんじゃないのか!?」



  「バ、バッッッカじゃないの!? 何で私が好き好んでアンタとお風呂に入るっていうのよ!? みんな、騙されないで!! コイツは嘘をついているわ! 観たエロ動画から適当にシチュエーションを作ってるのよ!!!」



  小鳥遊の猛勢は続いた。

  かつて愛した彼女達とは目を合わせず、下を向いたままで。




  「それから、そこの女……!!」




  俺はピンと来た。

  小鳥遊は、『不死鳥フェニックス』でいる間、知らず知らずの内に本来の内気な自分をも成長させていたのだ。


  女の子にとって、「おれあの子とチョメチョメしちゃったんだよね〜」等とモテない男がよくつく嘘は彼女達の価値を貶める。


  不死鳥でいる間の小鳥遊は、そう言った事も熟知していたのに違いない。



  「お前は、おれに後ろから抱きつかれて『ヒャア……ン!』なんてあえいでいたな……!!」



  小鳥遊は容赦なく嘘をつき続けた。

 

  だが、先程の狂宴に混じらなかった、一番いじりやすそうな超巨乳の水倉メイと、ツンツンした風上かぜかみ麻里沙まりさの事は侮辱しなかった。



  「そこの鼻の高い女! お前はベッドに下着姿で寝そべっておれと『マッサージ屋さんごっこ』をしたな。アレは、アレは、エ、エロくて楽しかったぜ……」


  もう、止めてくれ。


  「ふざけないで!! ちょっとメールを送ったからって彼氏ヅラしないでよ!? 何よマッサージ屋さんごっこって、嫌らしい!! 下品!!」


  「小鳥遊、もう止めろ」


  俺は小鳥遊の震える肩に手を置いた。


  小鳥遊は、泣いていた。


  泣きながら、かつて愛した美少女達を侮辱していた。



  「……フン、泣いてやんの」


  「行こ行こ!」


  「童貞でいるにはそうであるなりの理由があるのよ、私達はもっとそいつを取り巻いた同性達を信じ合いましょ!」



  散々侮辱されて小鳥遊に負けず真っ赤になりながら美少女達は散開していった。


 


  「……お前、よくやったよ。ツラかっただろ」


  俺は小鳥遊を労った。

  美由起も泣いていた。



  他人を褒めてあげるだけで生きていけたら、どんなに楽だろう。

  どんなに気分が良いだろう。


  でも、そうはいかない。

  大した理由も無く中傷してくる『他人』がいるから。

  自分のプライドは自分で守るのが男ってもんだ。



  風上麻里沙はその場に居残り、「ちょっとやり過ぎだったわね。でも、仕方ないわね」と、一応励ましの言葉をかけていた。


  超巨乳の水倉メイは無表情で小鳥遊を監視している。



  「帰ろうぜ、小鳥遊。美由起とよく行くさ、すげー美味いパフェの店が……」







  「ウ、ウワーーーーーーーーー!!!!!」



  「小鳥遊!?」


  「兄さん!?」




  小鳥遊は跳ね上がるようにベンチから立ち上がり、明後日の方向にダッシュして行った。



  無理もない、あんな事があった後だーー言いたくもない性行為に関する中傷をーー。






  「全力で追って。彼、死ぬ気よ」



  水倉メイが俺に耳打ちした。

  大きな大きなやわやわの胸が俺の腕に当たる。

  そんな事はいい。




  ーー『自殺』だって?


  何が起こっているのか分からずにオロオロしている美由起と、キョトン顔の風上麻里沙。




  ーーでも。



  アイツが死んだら俺のせいだ。

  何故ならーー明確な理由がある。



  本日生まれし神様よ。



  俺は小鳥遊を追って、これ以上ないくらい全力疾走した。


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