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大審問官・1

 


  本当の小鳥遊たかなしは、「陰キャで大人しくて、ナンパだなんて考えられないようなヤツ。女の子へのカッコいいセリフも思いつかない、ただただダサいヤツ」。



  これは小鳥遊に振られた、風上かぜかみ麻里沙まりさに説明した真の小鳥遊の姿だ。



  そんな小鳥遊の本性は、今でもヤツの中に眠っていると思う。

  そしてその本性を理解し包み込める女の子が現れてこそ、小鳥遊は本当に『モテた』と言えるだろう。


  カッコつけてる小鳥遊ではなく、冴えない小鳥遊を。



 

  俺は巨乳の天使、水倉メイの一計に乗って、小鳥遊がそれまでナンパしてきた女の子達を集めた。


  風上麻里沙を始めとして、小鳥遊のスマホに送られてきたメールの女の子も一部呼んだ。


  麻里沙は言う。


  「ーー本当に、小鳥遊くんに対して今までの気持ちをぶつけていいのね?」


  「ああ。なるべく強い言葉で言ってやってほしい。そうすれば、もしかしたら突然のショックで本当の小鳥遊が目覚めるかもしれない」


  俺の横には、俺の彼女兼小鳥遊の妹である美由起も控えていた。

  いつもの明るい彼女ではなく、かなり緊張して強張った顔付きをしていた。





  「やあ、雪村。君が急に呼び出すなんて珍しいね、しかも可愛い女の子ばかり大勢連れているじゃないか」



  12月25日。

  クリスマス本番。

  枯葉舞い散る小鳥遊家近くのいつもの公園。


  麻里沙が、小鳥遊に白いパンツとブラジャーをプレゼントした場所。


  ここで神の救いが行われようとしていた。


  10数人の美少女・大人の美女に囲まれた小鳥遊は臆する事なく悠然と構えていた。


  口火を切ったのは巨乳の水倉メイだった。



  「小鳥遊くん、今日は肩凝り用の薬をくれないの? 見ての通り私の胸ってこんなだから、今でも肩が痛いのよ」


  そう言って、メイは小鳥遊の手を取り、自身の胸を触らせた。

 

  ショック療法というヤツだ。

  小鳥遊はナンパには慣れていても性行為には慣れていない。


  メイの思惑の通り、小鳥遊の悠然とした顔が凍りつき、まるで貼り付けたような笑顔になった。


 

  「私の……パ、パンツとブラジャー、大切に飾ってくれてる?」



  今度は麻里沙の番だ。

  普通に考えて女物の下着を『飾る』訳が無いのだが、麻里沙は意に介しない。

  これもショック療法だ。


  「あ、ああ。君はあの時の……。下着は部屋の目立たない所に保管してあるよ、誰にも見つかってないから大丈夫ーー」


  「か、隠してちゃダメでしょ! ちゃ、ちゃんと飾って、鑑賞して、クンカクンカペロペロしてくれなきゃ!!」


  「……ええ〜〜……」


  麻里沙はそれでも顔面赤面症らしく頬っぺたも真っ赤にして抗議したが、さすがの小鳥遊もその剣幕に押され気味であった。



  「ねえ、私の寂しさをもっと癒してよ」


 

  そう言って小鳥遊にしなだれかかったのは噴水の君、男避けの指輪を外した古戸派ことのは彩葉あやは氏だ。


  「えーと……。貴女は誰でしょうか?」


  小鳥遊は古戸派さんの事は覚えていない。

  古戸派さんもその事を承知している。


  「そうよね、貴方ってひどい男。気を持たすだけ持たして、女を忘れるんだから。でも許してあげる、早くあの時のように私を癒して?」



  「ちょっと待ちなってば。アンタもしかして私の事も忘れてる訳? 有り得ないんですけど」



  腕組みをして小鳥遊を睨みつけたのは、ヤンキー少女くまちゃんこと熊谷くまがい結架利ゆかりだった。


  「えーと……。君は?」


  戸惑う小鳥遊にくまちゃんは言葉のマシンガンを浴びせかける。


  「はーあ!? アンタ私に制服着崩すの止めろとかアイドルになれとかうるさく言ってたじゃん! それで私、わざわざ黒髪にしてスカートも膝までにしたんだよ!? 忘れるってどーゆー事!?」


  「そ、そうか……。覚えてないけど、黒髪は似合ってるよ……。もういいかい?」



  「神よ、よもや私の事はお忘れになっておりませんよね?」



  来た。

  小鳥遊の事を神と崇め、パンツとストッキングを見せ付けた渡辺わたなべ淑子しゅくこだ。


  「君の事は忘れてないよ……。何しろ君の取った行為は衝撃的だったからね……」


  おまけに淑子嬢は人工呼吸という名目で小鳥遊のファーストキスを奪った。


  「神よ、私めをお忘れでない事に感謝を致します。また私に、御教示をお願い致します!」



  「その前に、私を侮辱した事を謝ってほしいわ」



  イギリスから来た飛び級少女のベル・アボットさんだった。

  相変わらず綺麗な青い瞳だ。


  彼女は小鳥遊に、ドイツ語で「金持ち国の馬鹿な男を漁りに来たんだろう」と侮辱された事を忘れていない。


  「貴女の事も覚えてないな……。侮辱したのならごめん、謝るよ」


  「その一言で謝った内に入ると思っているの? 日本の文化には『土下座』というのがあるらしいわね、それをやってちょうだい」


  「ーーよく分からないけど、そうするよーー。君、凄い剣幕だし」



  「そんな事より、私の鼻をもっと褒めて、あの時みたいに」



  そう言ったのは、小鳥遊のスマホにメールをして今回初めて呼び出した尾長まどかという少女だ。


  確かに彼女の鼻はスーッと綺麗な線を描き、高すぎる事もなく顔の中心に美しくそびえ立っていた。




  「もっと褒めて、私を」


  「もっと癒して、私を」


  「もっと相談にのって、私の」


  「私の良い所を引き出して」


  「早く救って、私を」


  「早く褒めて、私を」


  「『あの時』みたいに!!」




  一斉に降り注ぐ女の子達の小鳥遊への要求。すると。










  「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



  小鳥遊が絶叫した。

  今までの事を思い出した、羞恥の叫びであり、神からのレーザービームであった。



  「兄さん!!!」



  美由起も喜びの叫びをあげた。


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