とあるラノベ作家の理不尽な? 事情
クリスマス前のその日は母親に言い含められて、10歳以上年上の従兄弟の様子を見に行く事になった。
彼は超人気ライトノベル作家であり、コミカライズされた本が深夜番組の『帝国だ!! ランキング』のコミック部門1位常連であったのだが、俺が行った頃はすっかりマスコミ界、出版業界から姿を消してしまっていたのである。
没落する前は、大出版社から何だか派手な賞も貰っていた。
そして俺は興味が無かったので全く観ていなかったのだが、某JHK局でゴールデンタイムでのアニメ化まで成し遂げていた。
だがアニメの第2期の計画はぽしゃった。
彼が何故没落するに至ったか。
それには政治的なこんがらがった背景がある。
「よう、トモ。女子中学生と付き合ってるんだって? この犯罪者」
「中学生と言っても年は2つ3つしか違わないよ。犯罪者呼ばわりはやめてくれよ、にいにさん」
言い忘れていたがトモというのは俺の下の名前である。省略したモノだが。
そして俺は子どもの頃からの習慣で彼の事をにいにと呼んでいた。
我ながら気色は良いものではないが今更変えてもって感じである。
従兄弟の名前は照画義之という。
28歳。
ペンネームは全く使っていない。
仕事も本名でやっていた。
銀縁のメガネをかけていて短い髪はボサボサだ。
デップリと大柄な身体を椅子に腰掛けさせ、数少ない小さいエッセイの仕事をしていた。
思っていたよりも元気そうである。
「にいに、何か欲しいものあるか? コンビニ行ってこようか」
「いや、別に大丈夫だよ。もうすぐ女が来るし」
「……失礼だけど、(仕事の無い)にいににもオンナがいたんだな」
この話で同調してくれる人がいるのか分からないがーー従兄弟は第1期のアニメが終わった頃、ブログで与党、というか、俺は高校生だからよく分からんのだが、マスコミ全般にめっちゃくちゃ嫌われている副総理をいじる日記を書いた。
マスコミは、天下だかなんだか知らんが、まあとにかくコーハクをやってるJHKでアニメ化までした、若者から絶大な支持を誇る人気ライトノベル作家が大っ嫌いな与党を叩いてくれたのだと勘違いをしてしまった。
そして、これまたよく分かんないけど保守と呼ばれる視聴者団体の皆さんからデモを食らって『監視』されているテレビ局が、にいにの別作品をドラマ化しようと動き出した。
だが、にいには、本当は副総理をいじったのはただの気まぐれだったのである。
本当は、彼は与党支持で、野党はどうかな〜という感じだったのである。
そこで彼は、書いてはいけない日記を書いた。
「右の方が好みですよ」
と。
悪い事に、これを見た左翼第1位のA日新聞記者ーーマスコミ業界に来られるようコネを使って就職の世話をしてやった大学時代の同級生が、にいにを後ろから撃つ行動に出た。
にいにのライトノベルやアニメ、エッセイを無視するようプロ市民と呼ばれる人達に働きかけるような記事を書いたのである。
にいにのブログを引用して。
その元の友人はすっかりマスコミのカラーに染まってしまっていたのだ。
某JHKの方はと言えば、これまたモチのロン副総理やタカ派? が大っ嫌いだから、続きなどとんでもないと、まるで見せしめのように、アニメ第2期の計画を立ち消えにさせてしまったのであった。
俺は高校生ながらにいにから学んだ事がある。
名のある人は政治的な話題を出してはいけない。
もしくは、敵を作るんなら全方位にケンカを売った方が「ああ、こういう人なんだナ」で済まされる。
現にそういう作家もいるらしい。知らないけど。
しかしーー夢も希望も無いとはこの事である。
あるのは失望だ。左右は関係ない。でも普通にしてちゃいけないのか?
美由起ーーその頃はケンカ中ーーは俺の事をよく『大人っぽい』と言ってくれたが、それは高校生にして従兄弟であるにいにの現状を見て未来に暗いイメージしか持てずにいたためかもしれない。
美由起は無力さから来る気怠い態度と大人っぽさを履き違えている。
そう思った。
にいには、ブログを閉鎖するにあたりこんな一言を残した。
「世間のこの変な風潮、どうにかなりませんかねー?」
だが、こんな嫌味を書けるのも、いわゆる匿名掲示板の方々がにいにをかばい、またにいにの方でも自分の小説に絶大なる自信があったからであろう、と思う。
俺とにいには他愛の無い話をしていた。
美由起と気まずくなってしまった事などもついつい話してしまった。
にいにと話していると落ち着く。
にいには言う。
「それはトモ、その女からは手を引いた方がいいぜ。兄妹でそういう依存症みたいになってるヤツらはどうしたってイジョウだし。悪くしたら一度関わってしまった『他人』のお前に兄妹でストーカー化するかもしれん。やめておけよなー。若いんだし」
にいにが言うとなるほど、と思った。
しかしそんな事を言われても、俺は黙っているよう心がけていた。
小鳥遊は中学時代からの腐れ縁だし、美由起と別れるなんて事はまず考えられない。
そこで突然チャイムが鳴った。
俺は帰る用意をしようとした。
「もしかしてさっき言ってた彼女さんだよなあ? それなら邪魔だろうし俺そろそろ帰るよ」
「別にいてくれていいよ。オンナって言ってもビミョーな間柄だし、3人の方が楽しい。おーい、鍵開いてるから入れよ」
はあい、と、外から声がする。
何だか聞き覚えのある声である。
「あれえ!? 誰、その子!? ーーあ!! あの時の子じゃなーい!?」
『彼女』は俺を見て笑顔になった。
2つの山のようにそびえ立っている大きな大きなバスト。
まるで服と重力に逆らうかのような。
柔らかそうに、ゆっさりゆっさり、プルリンプルリンと揺れまくる。
「その制服!! ちょっと前に、私にピップエ◯キバンくれた子の相方くんだよね!?」
「おい、そのポーズをやめろ」
にいには嬉しそうな、うるさそうな複雑な表情を見せた。
『彼女』はにいにの肩に猫のポーズでしなだれかかり、その大き過ぎる胸をにいにの頭にたぷんと乗っけていた。
バストに比べると小柄に見えるので余計に猫らしさが際立つ。
その様子を見ながら、俺は冷静にお詫びをした。
「ええとーーその節はすみません、俺の連れが」
水倉メイ……。
にいにの『彼女』は、小鳥遊がナンパした、俺達より学年が上の女子高校生だった。




