第44話:仲間の有無
ある男の子は決意した。
暗く、何も見えない闇の中。退屈に恐怖した彼は、その世界を滅ぼした。
シュン。
彼の目の奥に確かに光っている恐怖は、精神体となった彼を蝕み続けている。
━…━…━…━…
遺品の再現に失敗し続けていたマヨイ・ヴァレンだったが、先生に再現しようとしていることがバレ大目玉を喰らっていた。
遺品にアクセスすると言う行為はそんなに恐ろしいモノなのだろうか?
まぁ、それによってシュンの意思をダイレクトに起こしてしまったなら元も子も無いが。
正直シュンの恐ろしさがピンと来ない。
俺の記憶世界で、悟りのあの世界でシュンを消滅に追い込めたのはあれが【劣化コピー品】だったからなのだろうが、だとしても手応えが無さ過ぎる。
大したヤツじゃないと言い放ったが、まさにそうだった。
本当に大したヤツじゃなかった。
だとするとそれはおかしい。
先生の怯え方が異常だ。
クソッ....。
先生が俺に頑なに記憶を見せなかった理由。
見せたあの記憶は8割偽物だ。
実際に起こった事ではあるのだろうけど、圧縮され歪まされた記憶だ。
自分の記憶をそこまで歪ませた理由。
見られたくない何かがあったってのは当然として、それ以上に大きかったのは【シュン】の存在だろう。
先生は見抜いていた。
記憶を見せたら悟りの世界に居るシュンがこちらに移ってくる事を。
なのにやった。
結果シュンは歪んだ劣化コピーとしてこちらにやって来た。
それでも季子程の人間を秒で自殺に追い込んだ....。
気付くと歯ぎしりをしていた。
きっととても恐ろしい表情になっていたに違いない。
気を付けよう。不要な殺意は命を縮める。
【ウィルブック】
バリッシュさんがそう唱えると、キッチンのグラスが宙に浮き、水滴を発しながら高速回転した。
ゆっくりと机に着地し、コトッ。と気持ちのいい音が鳴る。
そのグラスはとても綺麗になっていた。
「今のは?」
「あぁ、俺の能力だよ。【ウィルブック】物体や物質、生命なんかに自分の持ってる知識を植え付ける能力さ」
「今のは皿洗いのノウハウを細かく分解して、水の発生、洗剤、研磨までの一通りの工程を全部組み直したものだよ。これがあると色々時間短縮出来るから堪らなく楽でね」
知識を植え付ける....?
口で説明されただけだとよく分からない能力だ。
しかし、今目の前で起こったこの事実から察するに、プログラミングに似た能力なのだろう。
悪用すれば病気の感染から死亡までのプロセスを確立させて、それを植え付けるなんて事も出来そうだ。
これまたなんとも恐ろしい....。
「よくよく考えれば人間で異能力持ってるのってアンタと勝治ぐらいよね」
グリシアが突然問いかけてきた。
「そういえばそうだな。まぁ、魔法も地球人からしたら異能力みたいなモンだろうけど....」
「じゃぁ、仮に何かの形で【殺神試練】を受ける事になったとして、その資格を持つのは貴方達だけってコト.....」
「それ以上はやめときなさい」
ミレイ・ノルヴァがいつにも無く冷たい眼差しでグリシアを睨んだ。
正直彼女が何を言おうとしたのか物凄く興味がある。
しかしミレイ・ノルヴァのリアクションと、マヨイ・ヴァレンのそれに同意する様な仕草を見て、今はまだ触れないほうが良い事実なんだなと理解した。
「んで、俊介。私達が死んだ後の話聞かせてもらっても良い?」
キムナエ先生がそう問いかける。
「やっぱ気になるか....」
「バリッシュさんだったら分かるんじゃないか?世界崩壊のシナリオ」
「いや、俺は自分が死んだことすら気付かなかったよ。お前らどんなパワーで乱闘してたんだ?」
はぁ、と一つ大きな溜息を付き彼の目の色が変わる。
「あの後はもはや悲惨そのものだった」
「みんなを救うために2度過去に戻ったんだ、どちらも失敗だった」
「ミレイ・ノルヴァを殺す【殺神試練】に望む羽目になったのはそれもあってさ」
━…━…━…━…━…━…
ミレイ・ノルヴァをクリスタルに封じて、僕は最後の一撃に全霊を尽くした。
といってもそれは未完成の状態で放たれる事になったんだ。
シュン、ヤツがやって来た。
クリスタルに封じられたミレイ・ノルヴァを【最高のプレゼント】なんて呼んでいたよ。
今思い返すと彼はそれを本心から言っていたんだと思う....当然皮肉でだが。
未完成の拳だったとは言え、殺神試練を突破するには十分なモノだった。
僕は彼女を殺し、ついに【万物神】になったんだ。
なった。なのにシュンと互角だった。
彼は世界を何個も何個も壊して来たんだ。
滅茶苦茶に、今の僕でも全部修復するのは不可能だと思う。
その世界崩壊のシナリオを呼ぶ技。
僕はそれをダイレクトに喰らったんだ。
そんなもの幾ら万物神の肩書きを持っていたって防ぐのが限界でカウンターを取るのは不可能だ。
必死だった。
正直ここまで来ると自分の記憶でさえ曖昧さ。
しかし僕はその技を【消した】、ミレイ・ノルヴァの【ロスト・ブランク】で。
シュンと僕では圧倒的な違いがあったんだよ。
....仲間の有無さ。




