第43話:賑やかな仲間
ヴィクセンがマヨイの持つ時計に【命】の文字を投げつける。
すると時計は激しい光と共に宙に浮き、パキッと言う音を立てて割れた。
バァン!と激しい音が鳴り、地面にボロボロと灰となって落ちてゆく。
「....あらら、今度こそは行けると思ったんだけどなぁ」
「ライリーの証言がその通りなら、遺品には何か繋がりがある。それに【アクセス】出来たなら....」
季子の一件があった後、ライリーはずっと部屋で寝込んでいる。
というのも、俺の血だけでは全快とは行かなかったらしく、補充できるエネルギーも無いからじわじわ回復するのを待つしか無いらしい。
ここまで行けばただの被害妄想だが、ここでさえ力不足を感じる。
俺では足りなかった。力不足。
この表現にトラウマを覚えそうだ。
俺は記憶を改竄する能力の持ち主じゃなかったのか....。
どうしてシュンに主導権を握られる前に消せなかったんだ!
可能だった。しかしあの時の俺には不可能だったと断言できる。
例えバタフライ効果で何万何億と分岐が枝分かれしてたとしても、シュンに主導権を握られていない分岐は存在していないと思う。
「またダメだったのね」
コツ....コツと足音が鳴り、奥からミレイ・ノルヴァが歩いてきた。
はぁ....と一つ大きな溜息をつくマヨイ・ヴァレン。
「ナエラと連絡が付いたわ、昔のみんなで合流しましょうって。貴方も来る?」
「あ、ちょっと待って、ヴィクセン。グリシアに繋いでもらえる?」
「....貴方相変わらずの畜生ね」
━…━…━…━…
バリッシュさんの店で集合することになった。
バーミアに住む先生の過去の戦友。
そんな人達に会えるのも当然嬉しいが、それ以上に仲間が居ると言う【安心感】にとても言葉で表すことのできない感情を感じる。
カランコロン....と至福の鐘の音がなる。
「おじゃまs」
「奈~恵ぇぇ!!!」
突然キムナエ先生に飛びついた....キムナエ先生?
奈恵先生にそっくりな女性が奈恵先生に飛びついていた。
....なる程、ナエラさんか。
馬場さんとバリッシュさんでも思ったが、ドッペルゲンガーって言われるだけあって本当に似てる。
遠目で見ると理解するのに数秒かかるレベルだ。
ポンポン、と頭を撫でる奈恵先生を尻目に、バリッシュさんが妙にこちらに構えている。
その睨み目の先はグリシアに向けられていた。
「ほら、そう構えないで。今のグリシアは無害だから」
そう言ってポンのグリシアの背中を押すマヨイ。
「あの時は....その、悪かったよ。アタイも命令を遂行するので必死だったんだ....」
「その謝罪の相手は俺じゃねぇな....」
バリッシュさんはため息を付きながらそう一言漏らす。
どうやらもう過去のトラウマを精算したらしい。
受け入れるのが早いというか時間が解決したというか....。
精神も相当熟練されているようだ。
コルクの匂いが漂うこの雰囲気のいいお店。
奥でコーヒーをすする姿が一人。
先生の記憶で見たことがある。
【トウ】さんだ。
確か冬弥さんのドッペルゲンガーだったか。
「どうも初めまして」
「あ、どうも初めまして」
コーヒーをコツンと机に置き、満点の笑みでそう返してくれた。
根暗だが優しそうな人だ。
俊介先生が席に着くと、バリッシュさんがすぐさま近づいて行った。
「お前、マジでシュンを倒したのか?」
「たまたま....ラッキーだっただけさ」
はい、と言いながら地面に置かれた黄金色のドリンク。
魔女の鼻水だろうか?
先生がグイッと飲み干すその様を見て、何処か嬉しそうな様子を見せるバリッシュさん。
「記憶が蘇ったって事は、また何か起こったんだろ?ナエラ達が遺品だなんだと騒いでいたよ」
「あぁ、シュンが復活した」
先生の食い気味のレスポンスに、一瞬フリーズするバリッシュさん。
「どうやら俺も耳が遠くなっちまったみたいだ。なんて?」
「シュンが復活した」
「....そうか」
バリッシュさんが数秒何かを考える動作をしてニカッと笑う。
「まぁ、知ってたんだけどな」
「全部ナエラから聞いていたさ。俺だってお前等地球人で言うところの【異能力者】。今度こそ協力させてもらうぞ」
「あぁ、もうここまで来ると止めても無駄なんだろうな」
「よく分かってんじゃねぇか」
俊介先生は頭を抱え溜息をつく。
「んで、ナエラ。遺品の事なんだがな....」
俊介先生がナエラにそう言うと、彼女は一枚の紙をポケットから取り出し満足気に振り出した。
「そのリスト必要無くなったんだわ」
ショックがダイレクトに現れた表情を見せるナエラ。
紙がハラハラと地面に落ちる。
「ごめんなさい、連絡石で連絡すれば良かったんだけど色々あって....」
奈恵先生が申し訳無さそうな顔でナエラに会釈する。
その光景を見てフフッと笑いをこぼすマヨイを尻目に、ミレイ・ノルヴァはコーヒーを口に運ぶ。
ここからの旅は、どうも賑やかなものになりそうだ。
テラと季子の弔いの為にも、俺は。
俺は、何としてでもシュンの復活を阻止しなくてはならない。




