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記憶改竄的現世界物語  作者: さも
第5章:アドバイスを、君に。
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第42話:もう一つの可能性

季子の遺体は教会の近くに埋葬した。

直接遺体を欲する遺族がいないのだから問題ないだろうと言う先生の判断だ。


季子の墓に手を合わせる。

不覚を取ったとは言え、その取り方が取り方だ。

とても飲み込めるものじゃない。


我慢していた涙がボロボロと崩れる。


肩をポンと叩いてくれる季子。

しかしそれは悟りの中だけ。

その領域から出てくることは出来ない。


「そうそう。さっきはシュンが邪魔して言えなかったんだけど」


季子がグシャグシャに泣きじゃくる俺の耳元で囁く。


「わたしの目的。両親殺しの復讐なんだけどね、犯人がやっと分かったの」


「バルトの仮面。あの仮面を被ったのは彼が最初じゃないわ」


「結果的にはシュンが犯人って事になるのかしら?」


一瞬理解が遅れた。

悟りの世界の中でも、彼女のその突飛した頭脳は健在のようだ。


「あの仮面を最初にかぶった人物。それがシュンの思惑を思い通りに遂行してる」


「どうやら貴方の主導権を奪ったシュンより、本物のシュンは策士みたいね」


季子は何処か遠くを見つめながらそう言う。

その目にはやりきれない感情とは違う、尊敬の念さえ感じる光があった。


吹っ切れた、と表現すべきなのだろうか?

自分では到達できなかったなぁと悲しそうに眺めるその目に、胸をえぐられる。


「俺はシュンの復活を阻止する。遺品は全て破壊するし、遺品に取り憑かれた人達は皆俺の能力で無効化してみせる。それが君に対する弔いだと思ってる」


「そうね、楽しみにしてる」


悟りは記憶を頼りに作られる精度の高いシミュレーター。

相手があまりにも強大で、底の無い人物でない限り100%の精度で再現できる。


季子、テラ。俺の記憶に彼女等はどちらも焼き付いている。

短い期間だったとは言え、その人物像を掴むには十分すぎる時間だった。


だからこそ悔しいのだ。

あのタイミングで主導権を取り返すことが精一杯だった自分が。

先生の記憶に居た劣化に劣化を重ねたシュンに一杯食わされた事が。


悔しい、何て口では簡単に言えるが、この内心を表現するのに【悔しい】は役不足過ぎる。


「バルト兄様が死ぬ可能性がある....それは同時に兄様を【救える】可能性もあるって事なの」


気付くと季子の服を握りながらこっちに語りかけてくるテラがいた。


「兄様が最初に仮面を被った人間じゃないことはすぐ分かった。じゃないと時系列が合わないもの」


「最初に被った人物は、何らかしらの理由で自害して、その仮面を兄様に被せた」


「ちょっと待て、何らかしらの理由ってなんだ?仮面レベルで強い能力があるのに自害する必要なんてあるのか?」


テラはこちらをジッと見つめて、ゴクリと一つ唾を飲んだ。


「....存在を【消すため】だとしたら?」


!!!


「犯人の情報がどこにも残らず、事件そのものが無かったことにされた理由」


「記憶の改竄が出来る能力者がいるのだと思っていたけど、そうじゃなくて」


「【存在を消す】遺品の持ち主が居るのだとしたら....」


そこまで言ってテラはスッと消えてしまった。

考えるだけで恐ろしくなってしまったのだろう。


「季子、お前はどう思ってるんだ?」


「テラの推測が正しいでしょうね、仮に貴方と同じ能力者が居たとして私に記憶を残しておく必要が無いもの」


「それに私の能力は【ハイド】。常に周りからの侵略から隠れて生きてきた」


「学校で再開した時貴方私に『コミュ力が無い』なんて言ってたけど、それは日頃自分の周囲を隠して生きてきたから慣れてなかったのよ、あの状況に」


「そんな生き方をしてたのだから遺品の対象から外れたっておかしくは無い。私以外誰もその事件を知らないのはそういうことなんでしょうね」


コトを隠す能力、【ハイド】。遺品にすら見つからない程完璧な潜伏を見せる....。


クソっ!ダメだ。どうしても歯がゆさが拭えない。

受け入れろ。俺は再び【殺人】を犯したんだ....。


幾ら自身の操作権を奪われていたとは言え、彼女を殺したのは俺の能力だ。

シュンの動きを鈍らせられなかったのは単に自分の不覚だ。


俺が....俺が。


美和子に引き続き....テラも、季子も。


季子がスッと何処かに消える。

どうやら悟りの維持には本人の精神状態が大きく関係してくるようだ。


堪えきれない感情が一気に押し上げて来て、ただ泣いた。

声を大にして、大声で泣いた。


「うあああああああああああああああああ」


教会の壁が声をこだまさせる。


カラスがバサバサと音を立てて散乱する。

決意して尚、泣いた。


感情を堪えきれなかった。


2度目の殺人は、以前よりずっと....直接的だった。


感覚も何もないくせに記憶だけはしっかりと残っている。

シュンに操作されていた時の記憶が....しっかりと。


声が出なくなるまで泣いた。


ポツポツと雨が降り出し、トボトボと寂しげに教会に入る。

教会に入ると、マヨイが懐中時計の様なものを弄っていた。


「さぁ、勝治。気は済んだかしら?」


マヨイは泣いてグッシャグシャになった顔を見るや鼻でフッと笑い、「いい顔になったわね」と一言残す。


「ヴィクセン」


「はい」


何処から現れたのか、マヨイの横にヴィクセンが現れる。

ヴィクセンが手を広げると、そこに【命】の文字が現れた。


「遺品の再現....成功ね」

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