第40話:季子の猛抗
「どうした?俺が勝治の能力を使えないとでも思ったか?」
自身に特殊な能力を持つからか、能力者と言うものはつくづく愚かだ。
傲慢と言うと語弊があるのだろうが、立派な傲慢だ。
その能力に自信がなくても、それで何とかできると思ってしまう。
「うぅ....あぁ....」
季子。コイツにはトラウマがある。
勝治の記憶にしっかりと残っていたぞ、両親殺しの。
勝手にトラウマを捏造してやっても良かったんだが、せっかくこのレベルの恐ろしいトラウマを持ってるんだ、弄り返してやるのが至高と言うものだろう。
自分の両親が殺された記憶。足も出せずクッキリと記憶に焼き付けられる地獄の時間。
さぁ、何倍にも濃くされたトラウマのフラッシュバックの味はいかがかな?
「うぅ....クッ.....はぁ....はぁ....」
「私が....ただ無防備に出てきたわけじゃないコトぐらい....わかるでしょう」
「貴方は...私が貴方の正体に気が付いていることに....気がついていた」
強度を間違えたか、常人ならそのまま失神してもおかしくないレベルでトラウマを掘り返してやったはずだが。
「貴方は勝治の能力を....使った....私が....使わせた」
季子の妙に決意めいたその目に、何処か苛立ちを覚える。
足を振り上げ頭に踵落としを入れる。
....?
狙いがブレたか。
季子の頭上に落としたそれは彼女の真横に落ちた。
「それは....つまり....【怠惰】さえも....」
季子の口角がニヤリと笑う。
してやったと言わんばかりの顔。
....まさか!
「この....クソアマァ!」
マズイ、このままでは。
「イヤアアァァァァ」
耳に響く高い悲鳴。
トラウマの強度を更に上げる。
銃を季子の足元に投げつける。
それと同時に後ろに跳ねる。
季子が息を切らしながら銃を拾い上げる。
ガクガクと震える右手を必死に左手で抑える。
引き金を....
「待て!季子!」
パァン!と激しい音が鳴り、季子の体から頭が消えた。
その銃の能力故に血すら上がらない。
首を【消去】させられたかのような弾け方。
「俺は....俺は....」
季子のおかげで自我を保つことに成功した。
俺のこの能力の使用には必ず怠惰の呪いがまとわりつく。
散らばった怠惰のエネルギーを集めて能力を使用してるんじゃないかと言うぐらいに....。
能力を使ったシュンはその効果から自我を失った。
引き換えに俺が自我を奪った。
なのに....なのに!
あぁ、怠惰はどうしてこうも残酷なことを無慈悲に行えるんだ。
どうして!どうして!
俺は間に合わなかった。
何故。
季子が作ってくれた唯一のチャンス....それを。
「勝治....なのね。今の貴方は」
!?
地面を這い血のラインを引きながら近づいてくるライリー。
「ちょっと手を出して」
言われるままに手を差し出すと、ライリーは俺の手首に爪で傷を入れた。
「痛ッ....」
「そのまま!」
ライリーが手首に口を当て、俺の血を吸った。
500mlぐらい吸われたあたりでライリーは口を外す。
気付くと傷口が治っている。
それはライリーも同じようで、腹にガッポリと空いていた穴がみるみるうちに修復されていった。
「朝ごはんを抜いてきて本当に良かった....空腹時はちょっとのエネルギーで回復できるのよ。体がエネルギーを欲するからなんでしょうね」
ゴトッと音が立つ。
音の方向には季子の首無し遺体。
「....テラに続き、ね」
「なんとか....出来ないんですか?」
「瀕死ならともかく、即死は無理よ」
ライリーのその冷たすぎる一言に、身が震えた。
現実を受け入れられていない。
一瞬の出来事だった。
気付いたら死んでいた。なんて無責任すぎてとても人には言えないが、感覚的にはまさにそうだった。
自我をやっとの思いで取り戻したその....瞬間に。
「とりあえず貴方が自我を取り戻してくれたのはラッキーだったわ、何故主導権を奪われてたの?」
「....?」
「完全に混乱しちゃってるわね、俊介を呼びましょう」
そう言ってライリーが胸ポケットが取り出したのは石のようなものだった。
手から魔法陣のようなものが出現し、石からコツ....コツ....と何か反響するような音が聞こえて来る。
サーッと波のようなノイズ音が聞こえ、石から声が聞こえた。
「....した?何かあったのか?」
俊介先生の声だ。
その石はどうやら電話のようなものらしい。
どうやって繋いだのかは一切不明だが、その石を通じて確かに通信が成立している。
「ちょっとマズイ事になったみたい。来れる?」
「分かった。すぐ行く」
コツッと何かが切れるような音が鳴り、石は謎の光を失った。
数秒もしないうちに竜巻のような物が巻き上がり、中から先生が出てきた。
俊介先生は数秒辺りを見渡し、静かにため息をついた。
「まぁ、起こってしまったことは仕方がないさ。勝治に記憶を見せた僕の責任だ」
俊介先生は何処か深刻そうな顔で、何処か悲しそうな顔でそう言った。




