第39話:さよなら、ライリー・ノルヴァ
時間が経つのは本当に早いもので、昨晩はスパシブの屋敷でひと夜を過ごした。
屋敷の卓もそうだったが、つくづく豪華な作りになっている。
あそこまで豪華なベッドで寝たのは生まれて初めてだ。
ルーブル美術館にでも飾られてそうな細かい装飾が施された幾何学的なベッド。
そんな夢のようなひと時もパッと目覚め、俺は再び目的に殺意の念を灯す。
今日のお供はライリー・ノルヴァ。
正確にはライリー・ティアラ。
一番最初のターゲットは彼女にするのが賢い選択と言うモノだろう。
記憶の改竄能力。
勝治はチキンだったからこそやらなかったが、悪用すれば人の存在の一つや二つ簡単に消せる。
素晴らしきかな、我が能力。
「じゃぁ、解散。」
マヨイのその一言で活動が始まる。
バーミアでの生活。
シュンを倒す為の勝治の冒険。
それを俺が歩む。
心の底から笑いが出そうだ。
こらえろ....こらえろ。
「なぁライリー。遺品に飲み込まれるってどんな気分なんだ?」
「何?それは煽ってるの?」
「いや違うよ、単純な興味さ。やっぱり飲み込まれた時意識は無くなるのかい?」
ライリーは何処か不服そうな顔をしてこちらを見るが、はぁと一つ深い溜息を付き再びこちらを見つめる。
「遺品に飲まれた時ね、実は意識はしっかり保たれてたの。暴走した私は仲間の神々を大量に喰い散らかしたわ、最悪の気分よ」
「スパシブの資料では如何にもシュンの遺品はシュンが残したモノであるかのように書いてあったけど、それは多分間違ってるわ」
「遺品は異能力持ちの人間と同じ、作られた段階かその過程で能力を得た品々の事」
「私は遺品に飲み込まれながらその波動を感じたの」
ライリーの眉間に皺がより、何かに怯えるような表情を見せた。
「辛かったら話さなくてもいいんだぞ?」
「いえ、構わないわ。むしろ誰かに伝えるべきだと思ってたから....」
口角が上がるのを必死に抑える。
伝える相手を大幅に間違えたこの女を前にどうやってこの気持ちを抑えろと言うのだ。
「異能力に含まれる莫大なパワーを利用して復活するつもりなんでしょうね、考えただけでも恐ろしい。だから必死にそのことを伝えようとしてたんだけど自由に自分を動かせなかった」
「暴走した私は狂った。意識を吹っ飛ばして行動したの。その結果があれよ」
「....そうか。災難だったな」
遺品に喰われた際に波動を感じる...という事はこいつは一度バルトと意思疎通しているのだろうか?
だとしたら実に厄介だ、何かがスイッチとなってこいつからバルトの意思が起こされてしまえばすかさず俊介がそこから逆探知する。
俺はなんとラッキーなのだろうか。
目の前にいる女は無防備だ。
まるでライオンの前に差し出された足の折れたシマウマよ。
しかしタイミングは図らないといけない。
幾ら足が折れているからと言って抵抗できない訳ではない。
相手が最もコンディションの悪いタイミング。
狙いはそこだ。
遺品探索としてバーミアの世界をただひたすらに歩いているのだが、これといって進展はない。
ライリーが野生の勘のようなモノで遺品の使用痕跡を探してはいるものの依然ヒットは無い。
岩陰にドスッと腰を落とすライリー。
溜息をついて上をボーッと眺める。
....今だ。
気色の悪い笑みが溢れる。
どうしてこうも思い通りに行くのだろうか。
「ねー。本当にこの地に遺品なんて存在するのかしら」
「あぁ、するんじゃないか?」
【ウッドソード】
俺がそう唱えると、たちまち地面に亀裂が入り、宙に浮いた土の塊はたちまち銃のようなものに変形した。
不意をつかれた表情を見せるライリー。
その大きく見開いた目が俺をグサリと差し込む。
こぼれた笑みを隠すことが出来ない。
「カハッ」
銃をライリーに向かって打ち込むと、弾丸は高速回転と共に彼女の脇腹をえぐった。
着弾した箇所はうねりを加え肉体ごとごっそり持っていく。
能力で作り出した弾丸だ、普通の銃弾じゃない。
「あな...た...は」
「あぁ、俺さ」
ライリーが大きく口を開け吸い込みの姿勢を見せる。
欠かさず足を彼女の口に突っ込む。
「うげっ」
そのまま地面に足を喰い込ませ、顎を外す。
ご生憎様この体だとお前さんのその吸い込みに耐えられないんでな。
「さぁ、止めだ。母親の命令のせいで自分が死ぬとはつくづく運が無いんだな、お前」
銃を彼女の頭につきつける。
サヨナラだ。ライリー・ノルヴァ。
突然頭を鋭く襲う痛み。
首がメシッと嫌な音を立てる。
「....貴様」
空中からボロボロと透明の色素が落ちる。
そこに現れたのは季子だった。
「貴方やっぱり勝治じゃないのね。つけてきて正解だったわ」
このクソアマ。やっぱり気付いてやがった。
尾行とは随分舐められたものだ。
「どうして分かった」
「俊介先生との会話よ、そもそも貴方の能力は人の記憶を見る能力。その能力にかなりの自信を持ってる。そんな貴方が自分の見た記憶に対して『本物ですか?』なんて聞くと思う?」
流石だ、彼の記憶通り妙に頭のキレる奴のようだ。
やってる行動はアホだが。
口角がニヤリと狂気的に上がるのが自分でも分かる。
「残念だったな、そのまま黙っていれば幸せだったのに」
季子は地面に膝を付き頭を抱えた。
「うわ....あああああああああああああ!!!!」




