第38話:主人公補正
時が加速し、ヴァレン家、ノルヴァ家の神々は一通り資料に目を通した。
当然我々も目を通した訳だが....。
驚いたものだ。
俺の情報がかなりの精度で漏洩している。
スパシブ・グライチェの能力。本物だ。
一体何処から漏洩したのかと思考を巡らせても、最終的には【結果】としか言い様がない。
世界で起こった【結果】が、彼の....彼女の?その情報に記録されていく。
そしてその断片化されている記録を組み立てるのもまた彼の能力なのだろう。
つくづく驚かされる。
全くもって迷惑な能力だ。
まぁ、俺も俺で相手の懐に潜り込んでいる訳だしアンフェアは好ましくないか。
と、まぁここまで悠長に考え事をしていられるのもここまでだ。
ここまで俺の情報が出ているという事は
「さて、重要な情報はこれであらかた分かった訳だし、次は行動ね」
マヨイ・ヴァレン。やはり貴様だ。
ノルヴァ家の連中は秘密裏に行動するパターンが多いが、それに反してヴァレン家の連中は直接行動を起こすのが好きだ。
そりゃその元締さんは行動を考えるわな。
「まずは遺品集めね。手がかりのての字も無かったからバルトの集めた遺品を横取りするって話だったけど、遺品の正体が分かった今なら話は別よ」
「次にバルトの行方を捜す。彼はバーミアで着々と遺品を集めてる。その証拠にほら」
マヨイ・ヴァレンが見せてきたのはドワーフの集落の死亡者数だった。
「この2日間で死亡者数が劇的に増えてる。そしてその死因は【不明】ドワーフ達では解明出来なかった。ここ周辺で起こってる不可解な破損事件との関連性を考えると」
「バルトが遺品を乱用して大量の捨て駒を作ってるって言った所かしら?」
だろうな。
正直俺はバルトが今何処で何をやっているかなんて知らない。
基本遺品は生まれつき能力を持った状態で産まれてきた【物体】なのだが、彼の有している仮面だけは俺が残したモノなのだ。
初めに被った者を無条件でこちらの目的に従わせる。
俺の【ウッドソード】最期のお仕事だった。
そもそも俺が俊介を倒すことが出来ない事は知っていた。
自分の世界を完全に【消滅】させた理由は他でもない【架空】でしかなかった自分の世界に嫌気が差したからであって。
ちょうど俺の能力を使えば【人が作り上げた】世界にアクセス出来た訳だ。
しかしその世界での主人公は【俊介】であって俺ではない。
だからこそ彼には【主人公補正】がかかっていた。
人が作り上げた世界だからこそ起こることだ。
だから【エンディング】を捻じ曲げてやった。
本来グダグダ進むはずだった物語で。
俺は悪役として。
俊介が活気になる理由を沢山作り上げ、実際俊介はその試練を乗り越えた。
そして俺との戦いになり実際に俺は負けた。
驚く程に計画通りだ。
俊介を成長させた理由は他でもない【世界を作り直させる】為。
人が作り上げた世界だからこそかかっていた俊介への【主人公補正】。
そんな理不尽許してたまるか。
俺は架空の世界から本物の世界に自力で這い上がってきたのだ。
そんな理不尽な力に屈服させられて自由を迫害されたんじゃ意味がない。
俊介は全てを完璧に戻してくれると思っていた。
結果シュンヤは戻せなかったようだが、その他の全てが完璧に戻された。
俺が作り上げた【仮面】も。
そしてそれをテラの兄。【バルト】が回収し、興味本位で被ったのだ。
本当に全てが思い通りに行っている。
俊介の【主人公補正】が俊介自身の手によって消された今。俺は本当の意味で自由だ。
俺は【自由】を手に入れる。
絶対不変な【自由】を。
「さて、じゃぁ早速明日から行動を開始しましょう」
「ライリーと勝治は遺品の調査に行って頂戴」
「ミレイちゃんと俊介はバルトの位置を追って。間違っても戦闘には持ち込まないでね?」
「グリシアとヴィクセンは...」
「ちょっと待て」
俊介だった。
「何故お前が全部指揮しようとしてんだよ。僕は僕のやり方でやらせてもらうぞ」
「そんな事したら貴方一人で全部解決しようとしちゃうでしょう?」
「どうせ最終決戦になったら全員集合するんだから、そこで情報の欠如があるのは本当に痛いの」
「それは貴方なら良く知ってると思うけど?」
あぁ、そうだな。
俊介は一人で突っ走る癖がある。
確かに俺が認める程の男だ。かなり優秀なのだろう。
しかしそのおかげでチーム戦には非常に向かない人材になっている。
俺と戦っていた時もそれがアダとなってがっつりメンバーの足を引っ張っていた。
「....あぁ。分かったよ。今回はチームを組むさ」
おろ、意外と聞き分けいいんだな。
「んで、明日は僕とミレイでバルト探し。それで?」
「グリシアとヴィクセンは私と一緒に遺品の研究」
「遺品の?」
「えぇ、貴方達が回収した遺品の共通点を探すのよ。何かしらの役には立つと思うわ」
遺品の共通点....全部生まれ持っての異能力って事ぐらいだろうがそこから何を導き出すのかが不安だ。
不安の種は出来るだけ摘んでおきたいが、流石にこれは無理だ。
「季子ちゃんと奈恵ちゃんは....とりあえず補佐に回ってもらえる?」
んな雑な。
思わずツッコミそうになるのをグッと抑え、不服そうな彼女等の顔を見る。
まぁ兎にも角にもまずは明日....か。




