第33話:食卓-テラ-
ミレイ・ノルヴァが一つため息を付く。
「貴方ノルヴァ家毛嫌いしてなかった?」
「仲直りしたならもういいのよ~私はあくまで【絶対中立】。記録を取る者として公平は命より重いの」
どの口が言うんだと言わんばかりの苦い表情を見せるミレイ・ノルヴァ。
彼女のその冷たい目は確実にその男を凍らせた。
「ほら、そんな怖い目しないの」
「私はスパシブ・グライチェ。【記録を司る神】」
その男はそう言うとこちらに一礼してきた。
それは中世ヨーロッパの貴族の様な立ち振る舞いで、そのピシッと決まった立ち振る舞いに思わず一歩引きそうになった。
「それにしてもアナタがこんな大人数引き連れてやってくるのって珍しいんじゃない?マヨイ」
「えぇ、ちょっと事が大きくなりすぎたからね」
「シュンの事かしら?」
「分かってるなら話は早いわ。資料貰っても?」
マヨイとスパシブがやり取りをしている間、俺と季子はずっと辺りを見渡していた。
さっきまでは気付かなかったがこの部屋の大きさが外と内とで比例していない。
まるで無限のデータベースだとでも言わんばかりに奥が見えず、虚空には無数の本が浮いていた。
「分かったわ。全部探してくるからその間みんなはご飯でも食べてて♡」
そう言ってスパシブが手を二回叩くと、無数の本を足場にこちらに近づいてくる人影があった。
メイド服。フリフリのよく秋葉原とかで見るメイド服。
ピシッとしまったメイドさん....。格好は。
どこをどう見ても骸骨だ。
カタカタ音を鳴らしながら近づいてきたが、骨だけの状態でどうしてそこまでアグレッシブに動けるのか疑問でしかなかった。
「この方たちに料理を振舞ってあげて」
骸骨メイドはコクリと頷くと、部屋を出た。
こちらを手招きし、俺等もそれに付いていった。
階段を下りた食堂に皆を座らせ、骸骨メイドはカランコロンと音を立てながら厨房に向かっていった。
え、待って。あのメイドさんが料理作るの?
チキンの骨の代わりに自分の骨が使われてる....みたいな事にならないといいんだが。
ライリーの表情が明らかに違う。
飢えた獣の様な表情になってしまっている。
さっきヴァレン家で食事済ませて来たって言ってなかったか....?
さすがは【暴食】を司る女神ってだけはある....。
3分もかからぬうちに、どうやって作ったんだと言いたくなる量の料理が机に並べられた。
「まぁ彼が資料を用意し終わるまでにそこそこ時間あるでしょうから、その間は私達でご飯でも頂きながらゆっくりお話でもしてましょう」
「それで?どうして僕等をここまで連れてきたんだ?」
最初に口を開いたのは先生だった。
「貴方達ずっと地球にいたんでしょ?バーミアで何が起こったかなんてのは一切知らないわけじゃない」
「まぁそうだが....待て、今なんて言った?」
「バーミアでも起こってるのよ、【遺体が引き起こした事件】が」
「私も子供達から話は聴いてるんだけど耳だけの情報だとどうも信じられなくてね」
「それでわざわざここまで来たって訳か....」
ムッシャムシャと出されたご飯を貪るライリー。
その表情から至福が見えた。
香ばしい肉汁の香り。
ジワァァと言う音。
冷めると言う言葉を知らないかの様に暖かい白米。
一生に一回体験できるか出来ないかと言うレベルの贅沢だ。
「それで?お前の聞いたバーミアの話ってのは?」
「テラが牛耳って集落を荒らしまわってるの」
マヨイのその発言に、季子のフォークがカチリと音を立てる。
ミレイ・ノルヴァも一瞬手が止まったが、再び口にステーキを運んだ。
「テラは死んだんじゃなかったのか?」
「えぇ、死んだわ。完全に殺された」
「でもその魂は残った」
マヨイ・ヴァレンのその語り口は冷酷で、季子の皿についたフォークがカタカタと音を鳴らす。
「彼女はね、いm」
「やめてください!」
「言わないで....ください」
季子が震えながらそう叫んだ。
季子は理解したのだろう。
テラがどうやって生き返ったのか、いや。どうして動いているのか。
俺だってもうあそこまで言われればどうなったのかぐらいは予想が付く。
テラは今。
【アンデット】にされているんだ。
生前の能力そのままに、死ぬに死にきれない状態で無理やり動かされている。
ゾンビは死刑よりも重い処罰だというのを聞いたことがある。
そうだ。本当にそうだ。
そこに人権なんて存在しない。
死んでるから意思の入る隙間もない。
ただ与えられた事柄に、精神的苦痛のみを感じて。
動き続ける。
「....そう」
「どんな経緯でそうなったのか、シュンの遺体が何処にあるのか。流石に子供達だけじゃ情報が足りなくてね」
「だからこそスパシブの能力が必要なの」
「記録神の能力....本当に信用できるのか?」
「えぇ、彼の能力は本物よ。私が保証するわ」
スパシブの能力....一体どんな能力なのだろうか。
正直サッパリ予想が付かない。
そして何よりテラの現在だ。
もしマヨイ・ヴァレンの話が本当なら、今テラはアンデットとしてバルト....思想的にはシュンに利用されている。
重く苦しい空気で進む食事は、ライリーのおかげで半分を迎えようとしていた。
「いや、ホントよく食べるなお前」
「久しぶりの豪華料理よ?食べなきゃ損じゃない」




