第31話:禁じられた過去
恐ろしい赤子の話。
産まれて愛され、普通を堪能するはずだった赤子の話。
産まれた赤子は自身を知らなかった。
自身に課せられた【特殊】を知らなかった。
感情を表現するために泣くように、ただ生理的欲望を満たすために手足をジタバタさせるように。
彼、【赤松勝治】は。人の記憶を弄った。
両親、親戚。友人。沢山の人から祝福され、彼とその母親のお見舞いには沢山の人がやってきた。
普通の祝福。
【家族】ならば何の特異点も無い普通の祝福――――
翌日、見舞いに来た全員が死んだ。
全員が自殺と言う特種過ぎる状況に、皆頭を抱えた。
病院内の誰も親子に挨拶しない。
白い目。
修道士の様な格好をした男が病室に見舞いに来た。
「やぁ、勝治くん。元気そうだね」
その男は笑顔でそう語りかける。
オギャア、オギャアと泣く赤子に、男はただ笑顔で語りかけた。
「この子は呪われているんです。どうか...どうか」
親の泣き顔。集団自殺は勝治の呪いと噂は広まった。
親戚は皆母親を責め、挙句は母親さえも気味悪がってしまう。
産まれてわずか数日。
勝治は赤子ながらに孤独を感じた。
温かさは無い、修道士の男。
「自分の子供が呪われているなんて言ってはいけませんよ。悲しんでしまいます」
笑顔で母親にそう語りかける男。
しかし心の中にその笑顔は存在しない。
この男は【仕事】で来ている。
勝治は赤子ながらに、それを理解した。
修道士の男は何かしらの儀式を終わらせると、会釈し部屋を後にした。
そしてその修道士も、死んだ。
数日もしないうちに、勝治は大学病院に連れて行かれた。
母親は居ない。
何の感情も抱かず、涙一つ見せず勝治を引き渡した。
圧倒的な恐怖。
薄暗い部屋。
人権なんて存在しない悪質な目。
頭が潰れそうなほどに重い機械を取り付けられ、泣きたくても泣けない地獄の日々。
圧倒的な恐怖。
くらい こわい ひどい こわい
こわい こわい こわい こわい
知らない情報がダラダラと頭に流れてくる感覚。
パネルに表示される理解不能な文字列、イメージ。
1週間ほど経った頃、両親が面会に来た。
泣きじゃくりながら「ごめんね、ごめんね」とすすり泣く親を前にして、勝治は両親の記憶に入り込む。
人の記憶世界に入ったのはこれが初めてだった。
親戚一同から心無い言葉を飛ばされる日々。
母親の精神はとっくに壊れていた。
それは父親も同じ。
記憶世界はその記憶がダイレクトに表現される。
それは感情さえも....。
こわい こわい ひとが
こわい こわい
恐ろしさは限界を超え、その赤子はキレた。
ただ泣きじゃくりながら、暴れまくった。
手足は動かない、感覚も鈍い。
しかし一つ、突飛して働いた能力があった。
【記憶改竄能力】
彼のそれはとても強力に働き、全てに【忘れろ、消えろ】の感情をただひたすらに流し込んだ。
研究所にいた人間はその【消えろ】の感情に感化され記録をすべて削除した。
アーガイブされるはずだったデータも全て削除され、研究員の記憶からも【赤松勝治】と言う人間は綺麗に消えた。
能力使用後、勝治は気絶した。
全てをやりきったと言わんばかりの満足感、恐怖。
その2つの感情に板挟みにされ、気絶した。
真っ白な視界、世界の中。
「ごめんなさい、わたしが....」
母親の声じゃない誰かの声が、俺にそう囁いた気がした。
━…━…━…━…━…━…
今なら分かる。ミレイ・ノルヴァだ。
その時囁き聞こえたその声はミレイ・ノルヴァだ。
俺にこんな記憶があった事に驚きを隠せない。
あの出来事の後、その感情のせいで自分自身もその記憶を【忘れて】いた。
そして何より驚いたのがその後だ。
俺は自分の親に自分の能力の一部を【付与】している。
心無い言葉を飛ばしていた親戚に母親が出会うと、その親戚からも【勝治の呪い】に関する記憶が綺麗に消えたのだ。
クソ....これが怠惰。本当の意味の怠惰。
中途半端なんだよ。
自分の能力が、暴走したのは分かった。
じゃぁなんでその全てを消してしまうんだ!
俺がこの能力に気付いたのは小学生の頃だ。
それまではそう能力を使うこともなかったし、異能力だと気付きもしなかった。
でもそのもっと前にこんな事があったなんて....。
全て自分の都合のいいように改竄されてる。
ぎこちなく現実を歪めた。
俺のこの能力が!能力のせいで!
これが....怠惰。
【怠惰の女神】ミレイ・ノルヴァが払拭したくてしたくてしょうがなかった。
怠惰。




