第26話:ニルア・バルト
グッ....と言葉を詰まらせる季子。
俊介先生の推察通り、自分の身を犠牲にして救出するつもりだったのだろう。
空気が凍る。
「いいじゃない、別に」
一瞬世界から色が消える。
再び世界が色付くと、ミレイ・ノルヴァがどこからともなく現れた。
「僕はこの件でこれ以上の犠牲を出したくない。干渉はもうコリゴリなんだよ」
「否定するのは彼女の見解を聞いてからにしなさい俊介。協力するって言った以上尚更よ」
「....すまない、冷静さを欠いていたよ、教えてくれ季子。君は一体何をしようと思っているんだ?」
季子は何処かオドオドしながらも、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
「テラは多分遺品を見つけたんだと思います....」
その場にいる全員の表情が曇る。
「テラは極度の負けず嫌い。自分の兄が殺人集団のリーダーをやってたなんて汚点、テラが飲み込めるはずがない」
「だからこそ彼女は自分の兄に抵抗できるだけの力を手に入れようとするはず....そう考えるとさっきの狂いっぷりも理解できるんです」
「角度的に死角になってたのでよく見えませんでしたが、彼女の足。ブーツ。」
季子は必死に記憶をたどる。
「彼女はあんなブーツを持っていないんです」
「仮にそれが遺品だとしたら、2つのパターンが考えられます」
「一つはテラが自らそのブーツを見つけた可能性....」
「もう一つは.....」
季子が言葉に詰まる。
数秒の沈黙の後、ゆっくりとその口が開く。
「テラの兄....【ニルア・バルト】が遺品を渡した可能性....」
季子の表情が曇る。
口に出すことで、自分の中で意見がまとまったようだが、正直理解が追いつかない。
テラが遺品を探していたという事までは辛うじて飲み込めるが、その遺品をテラの兄....ニルア・バルトが渡したと言うのがどうしても飲み込めない。
何故彼は自分を淘汰しようとしている人間に遺品なんて渡すのだろうか?
ミレイ・ノルヴァは腕を組み静かに目をつむっている。
俊介は何かを考えるような仕草をとっていたが、彼の目に焦りが見えた。
「ほぉら、こんな所で時間潰してる暇無いんじゃないの?」
ミレイ・ノルヴァがボソッと小言を漏らす。
【ウッドソード】
俊介先生がそう唱えると同時に、病室のドア周辺の空気が歪んだ。
ドアを開けると、そこはさっき鏡で見た密室に繋がっていた。
「奈恵、この建物のマッピングを頼んだ」
「えぇ」
「勝治、もし敵の様な奴がいたら迷いなく記憶を改竄して行動不能にしろ」
「季子は僕について来い、時間が無い。急ぐぞ」
「え、私は?」
ミレイ・ノルヴァがキョトンとする。
「任せるよ」
「あぁ、そう」
その瞬間、世界から色が消え、ミレイ・ノルヴァはパッと消えた。
「はい俊介」
奈恵先生がメモ用紙に書かれた見取り図の様なモノを渡した。
魔法って便利だな~と思いつつ、急いで走る俊介先生に必死でついて行く。
廊下は意外と広く、白く清潔だった。
ここは研究室....なのだろうか?
「勝治!」
向こうから数人走って来る。
背丈の高い男とそうでない女。そして犬も居る。
これまた随分用意がいいんだな、と思いつつ記憶を改竄していく。
銃を取り出した彼らの記憶に命令を埋め込むのだ。
【銃で仲間を足と手を撃つ。そして自分の肩を壊さなくては】
俺のこの能力。こう実戦で使えてしまうと一気に恐ろしく感じる。
バァン!バァン!と銃声が鳴り響き、こちらに向かってきた追っ手は全員倒れた。
間髪入れずに走り続ける。
しばらく走っていると、一つの厚い扉で閉ざされた部屋が出てきた。
【ウッドソード】
ベキッメシッと少なくとも金属からなっていい音じゃないエゲツない音で扉が壊れた。
中にはバイオ液が入ったタンクと、近未来的な機械に磔にされているテラがいた。
「テラ!」
季子の推察は正しく、彼女はブーツを履いていた。
バルトの仮面がニヤリと笑う。
「実はねぇ、俺はもう遺品の3分の一を集めてしまっているんだ」
仮面を外すバルト。
テラに似たその顔。
鷲鼻とまではいかないが、クッキリハッキリした顔のパーツ。
そしてその瞳に光は無く、そこに静かな殺意を秘めていた。
「この仮面は俺が最初に見つけた遺品。運がいいのか悪いのか....ゲームの資料作りに近所の森に行っていた時にたまたま見つけてね」
「一ついいことを教えてやるよ俊介ェ!お前が心の底から恐怖しているシュンの復活条件はなぁ....」
バァンと破裂音が聞こえる。
バルトがゆっくりと後ろを振り向くと、季子がテラを抱えていた。
「テラ!しっかりして!....テラ!」
頬をペシペシと叩き喝を入れようとしているが目覚める気配がない。
「無駄だよ、彼女はもう死んでいる」
季子がキッとした表情でバルトを睨む。
「実の妹を手にかけて何がしたいの?」
「妹....?俺に妹なんかいないさ、少なくとも今の俺にはね」
瞬間、バルトが消えた。
えも言わせぬ速度で季子に拳を入れようとするバルト。
俊介先生が季子に振りかざされようとしていたその拳をキャッチする。
その反動波がこちらまで届いた。
「これだから干渉は嫌いだ。バルト。君の愚行は僕の許容範囲を超えている」
「ブーツの効果はなんだ!」
胸ぐらを掴まれて宙に浮かされるバルト。
「【狂気】だよ....常人なら死んでしまう。シュンの狂気さァ!」
「そうか」
【ウッドソード】
バルトの体にメシ...ミシ....とヒビが入っていき、彼は一瞬で塵になった。
後に残ったのは重く苦しい空気と、静かな静寂。
そして、季子のすすり泣く声のみだった。




