第23話:再開
刺激的だったさ、俊介と出会って知らない記憶が植えつけられて....。
しかしその刺激は余りにも残酷で非道すぎた。
ミレイ・ノルヴァを筆頭にした【ノルヴァ家】と、マヨイ・ヴァレン率いる【ヴァレン家】の抗争。
俊介は見事に巻き込まれてたよ。
憑依現象の原因はミレイ・ノルヴァにあったらしくてな、彼女はその責任を負おうと俊介にあれやこれや教えてたんだが、それをヴァレン家は良く思わなかったみたいでな。こっちに刺客を何人も送ってきたんだ。
ミレイ・ノルヴァが引き起こしたその憑依現象ってのは、バーミアと地球の両方に住む【ドッペルゲンガー】みたいなヤツ同士で起こる現象らしくてな。
昔エルフが神の領域?みたいなのに踏み込もうとした時に、それを防衛する為に両方の世界に【架空の】ドッペルゲンガーを置いたらしいんだが、どうやらエルフの方が一枚上手だったらしく俺等は【架空の存在】から【本物】へと変化しちまったんだ。
一度作ってしまったものを取り消すことは出来なくてな、憑依現象が起こった。
それを知った俺等はバーミアの世界で憑依について調べる事にしたんだ。その道中だよ、【アイツ】に出会ったのは。
黒い霧を纏った....恐ろしいパワーを持ったやつだった。
手も足も出ないどころか、存在すらハッキリと認識できなかった。
しかし霧からチラリと見えたあの顔は忘れねぇ。
シュン....そう名乗ったアイツの顔はどこをどう見ても【俊介】だった。
驚愕したね。幽霊を見たとか、UFOを見たとかが下らなくなるレベルのビックショックだったさ。
シュンは俊介を見るや否や、捨て台詞だけ吐いて風と共にスッと消えていった。
勝治、お前はバリッシュを知ってるか?
....知ってるって顔してんな。て事はもうバーミアには行ったのか....。
アイツが俺の【憑依先】なんだよ。もっとも最後の最後まで憑依が起こる事は無かったがな。
バーミアの世界に行って、バリッシュと生で対面して。
お互いの姿をお互いの記憶を通して見る光景は本当に刺激的で奇妙だった。
そんな体験をしながらの憑依の調査だったんだが、俺は途中でリタイアする羽目になったんだよ。
ヴァレン家の追っ手さ。
俺は奴に殺された。
確か【グリシア・ヴァレン】だったかな。
見た目小学生と大差ないって言うのに、恐ろしい力を持った奴だった。
天井を物凄い速度で落とされたんだ。
頭に当たったモノを感じる余裕なく即死だったよ。
岩の隙間から見えたグリシアのニヤケ顔がビッシリ脳裏にこびりついてやがる。
その後の記憶は無いんだ。
こうして昔の記憶がよみがえった今、バリッシュに関する新しい記憶が入ってこない所を見ると憑依現象はもう解決したみたいだが、正直俊介がシュンを倒したって言うのがイマイチピンと来ない。
アイツが漠然としすぎた存在だってのもあるんだろうが....。
いや、それは俺がしゅ....。
━…━…━…━…━…━
「買いかぶり過ぎだよ、馬場さん」
ガシャンと皿の割れる音がした。
「僕はシュンを確かに倒した。でもそれってたまたま力を手に入れるギャンブルに勝てたってだけで、実際僕の根本に何か変化が起きたわけじゃない」
「だからこそ馬場さんは僕がシュンを倒したって気がしないんだ」
俊介先生だった。
彼の立ち姿は何処か神々しく、とてもパワフルに思えた。
ミレイ・ノルヴァに似たピリピリとした感覚が肌に伝わってくる。
「俊介.....」
「ただいまって言うべきか....いや、おかえりって言うべきかな」
先生はスッと消え、俺の目の前0距離まで近づいて来た。
「お前、奈恵の記憶いじっただろ?」
微妙な表情を見せる先生。
どうやらこうなる事は想定していなかった様だ。
「....やっぱりそうか。僕とした事が本当に詰めが甘い」
「マズかったですか?」
「いや、過ぎたことを責めてもしかたない。何れは来る運命だったろうさ」
先生は依然苦い顔をしている。
俺はとんでも無いことをやらかしたのかもしれない。
「いや、最悪の事態に陥ってないだけまだマシさ....」
「こんなタイミングで奈恵が」
カランコロンと鐘の音が鳴り、店内に一人の女性が入ってきた。
頭を抱える俊介先生。
店に入ってきたのはあの新任教師だった。
何処か脱力した顔。涙腺まで緩んだのか、奈恵先生の顔には涙が流れていた。
「俊介....」
「完全に思い出したみたいだな」
俊介先生が俺を睨む。
ホントウニスイマセン、ハイ。
自分のやったことの重大さをイマイチ理解できていないのだが、ただ事が物凄い速さで大きくなってきている事は分かる。
「私は....私は....」
奈恵先生は目を泳がせ、言葉を必死に探しているような仕草を取った。
彼女の目には相変わらず涙が浮かんでおり、落ち着きは完全に消えていた。
ボフッと奈恵先生を抱擁する俊介先生。
「僕だって悩んださ。ニーナに頼めばお前に僕を思い出してもらう事も出来るってね」
「だけど僕はそれを選ばなかった。君が感じていた心の距離感を僕も感じていたからさ」
奈恵先生が俊介の胸に顔をうずめる。
「そして奈恵には奈恵の生活が生まれた。教師なんてすごいじゃないか」
「僕はもう人間じゃない。お前なら分かるだろ?昔からの幼馴染だった【斎藤俊介】と、今目の前にいる【俊介】がもはや別人だって」
「....ない」
「....そんなことない!」
奈恵先生が俊介の抱擁をパッと払う。
「私は貴方に純也が憑いていた時にひと目でそれを見抜いた女よ?貴方の雰囲気がいくら変わってもその本質に俊介がちゃんと居ることぐらい分かるわ」
服で涙をぬぐい俊介先生の胸元にグーを入れる奈恵先生。
この二人の間にどんな物語があったのかは俺には分からない。
でも今ここに居る二人の幸せそうな笑顔は、その物語がどれほど辛く、そして【美しかったのか】を。
十分に表していると思う。




